2016年09月18日

『真田十勇士』堤幸彦監督は脚本家を選ぶべきだ

 お客様から、『レッドタートル』の試写券と共に同封して送ってただいた
 『真田十勇士』の試写券を握りしめ、
 9月13日の夕方、ニッショーホールに出向きました。

 とぼけた作風が持ち味で、TV・映画『トリック』シリーズを代表作とする
 堤幸彦はとても好きな監督の一人で、、
 昨年公開の『イニシエーション・ラブ』も、
 稀代の傑作ミステリーである原作をその通り映画化するという難題を見事なしとげ、
 サスガ! と唸ったものです。

 しかし、昨年公開の『天空の蜂』と、これに続く大作風味の本作を見ると、
 堤幸彦監督は脚本家を選んで仕事をした方がよいと思います。

 『天空の蜂』は、巨大ヘリが乗っ取られ、
 原子力発電所上空に滞空飛行させ、8時間後に墜落するまでの、
 犯人と巨大ヘリ設計者の頭脳戦を描いた東野圭吾原作のミステリーですが、
 アクション映画とも、社会派映画とも、ミステリー映画ともつかぬ
 中途半端な脚本と、見るに堪えない演技力の主演陣のおかげで、
 堤幸彦監督は持ち味を全くだせないままに、
 討死したような映画になってしまいました。

 『真田十勇士』は、真田幸村を支える豪傑集団としてよく知られ、
 映画、TV(水も滴る沢村征四郎の黎明期のTVドラマが懐かしい)
 で何度も映像化されてきました。

 今回の堤幸彦版も、十勇士が集結するところから描き、
 大坂夏の陣で、真田幸村が討死し、豊臣家が滅びるところまでを、
 金がかかっているように見える合戦シーンが結構リアルで、
 歴史時代劇風に再現し、それなりに滅びの美学のような趣が
 前面にでています。

 が、実は、十勇士によるスパイ大作戦ばりの大救出作戦が進行して、
 同時代の歴史にトリックを咬ませるという、
 堤幸彦監督ならではの軽妙なヒネリを絡ませており、
 そこが、大きな見どころで、
 『天空の蜂』よりは楽しめる仕上がりになっています。

 9月22日よりロードショーとのことなので、
 おっかなびっくりしたい方にはお奨めです。

 試写券の紙面を引用しますので、雰囲気を感じてみて下さい。
IMG_0001.jpg

 でもね、脚本はもっとしっかり練り上げるべきだろうと思うのです。

 前宣伝では、
 真田幸村が実は「腰抜け」だったという意外性を強調しています。

 これは、真田幸村が高潔な知将であることがよく知られていることあって
 の意外性なのであって、
 真田幸村がそもそもどのような武将なのかを知らず、
 NHKのドラマも見ていない観客には、どう意外なのかが全くわかりません。

 また、劇中でも、
 真田幸村が伝説的な知将であると巷で知れわたっていることを
 幸村自身に説明させ、
 その幸村自身が「実は俺は腰抜け」だと解説してしまっているので、
 その時代状況のリアリティが全く伝わってこないのです。

 そして、幸村は、そのような状況で既に功成り名遂げているため、
 そこから十勇士が、幸村の男を上げるといっても、
 残りは大阪冬夏の陣しかなく、幸村自身の伸び代が小さく、
 そこは観客もよく知ってるよという話で、
 大阪冬夏の陣の中継放送に付き合わされているだけで、
 幸村の吹っ切れ状態に乗ってわくわくするという高揚感がないのです。

 これは、完全に脚本の構成の問題のように思います。

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 本来は、幸村を中心とした表の歴史エピソードと、
 十勇士による大救出作戦の裏の歴史エピソードを密接に絡めて、
 映画全体を歴史ミステリーに転換させることをしなければならないところ、
 『天空の蜂』もそうでしたが、前篇と後編のように分離して構成しているため、
 全く勿体ないことになってしまっています。

 真田十勇士自体が、半ば架空の存在で、
 講談等でよく知られているといっても、
 実際にその中味を知っている観客などそう多くはないはずなので、
 いっそ、表のエピソードだけに焦点を当て、『七人の侍』のように、
 十勇士が集結するまでのエピソード、
 架空の存在が幸村の下にはせ参じ虚実が融合するまでのエピソード、
 大坂夏の陣で散っていくまでのエピソードを、
 オーソドックスに丁寧に描き、
 それこそ大作仕立てにしてもよかったのではないでしょうか。
 
 あるいは、十勇士による大救出作戦に焦点を絞って、
 大坂夏の陣が始まるあたりから物語を開始して、
 スパイ大作戦並の緻密な戦略実行そのものを見せ、
 歴史の裏エピソードを構築してもよかったのかもしれません。

 本作も主演陣が軽量級で、脚本の腕力が試されるところですので、
 『天空の蜂』や本作の脚本家のようなTV、演劇を畑とする人には、
 荷が重いように思います。

 堤幸彦監督が、優れた脚本を得て、
 本領を発揮する映画を観てみたいと切に祈っています。
タグ:堤幸彦
posted by Dausuke SHIBA at 17:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画

2016年09月10日

『レッドタートル ある島の物語』無常観漂うフランスアニメ

 今回もお客様から試写券を郵送いただき、
 郵送された翌朝の土曜日の9時に試写会場の一ツ橋ホールに駆け付けました。

 いつもありがとうございます。

 『シン・ゴジラ』『後妻業の女』と、俗物まみれの映画が続き、
 自宅でも俗物極まる『DoctorX』を楽しみにしている中、
 穢れた心を見つめ直す静かな時間をいただいた気がしました。

 『レッドタートル ある島の物語』は、
 9月17日からロードショーとのことなので、
 ご覧になることをお奨めします。

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 大嵐の海の中に投げ出された人のよさそうな男が、
 絶海の孤島に漂着し、この島から脱出を試みるも、
 彼に惚れた赤い大ウミガメに阻まれ、さらに、
 この大ウミガメの求愛を受け入れて結ばれた末、、
 大ウミガメとの愛の生活を続けてこの孤島で生涯を終える、
 という無常観漂うフルアニメーション・ドラマです。

 試写券の紙面を引用しますので、雰囲気を感じてみて下さい。
レッドタートル.jpg

 男の容姿も、ウミガメを含めた自然描写もリアルで美しく、
 最初は、これは俳優による実写でもよいのに、
 何故アニメーションにしたのか不思議に思っていました。

 この映画は、男の島での行動を淡々と描くことに徹しでおり、
 前半はこの男が一人で、後半はウミガメと間にできた息子と共に、
 美しく荒々しい自然に逆らうことなく、
 3者の間の愛情だけを絆にして生活する様子を、、
 台詞を一切排して映像と音楽だけで淡々と描写していきます。

 アメリカ映画であれば、主人公が、絶海の孤島で工夫しだして、
 小屋を建てたり、火をおこしたり、記録を残したり、
 息子とバスケットボールを始めたり、
 といった知的創作活動を始めるものです。

 男は、最初に島を脱出するために筏を作る以外は、
 一切の知的創作活動をせず、文字も書かず、
 大ウミガメと息子との言葉によるコミュニケーションもいたしません。

 そしてセックスの要素は暗示はされますが、結局は排されてしまいます。

 俳優が演じると、ドラマから、
 ここまで知性とセックスの要素を排除することができないので、
 アニメーションにした意味があったのです。

 描写が淡々とし過ぎて、前半でうとうとしてしまうのですが、
 その静かな描写を受け入れて共に過ごすことが、
 この映画の素直な見方なのかもしれません。

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 この映画は、オランダ出身のアニメ作家である
 マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督が、、
 スタジオジブリの制作と全面的なバックアップの下で、
 8年をかけて完成させたそうです。

 主人公に、知性とセックスと言葉を排して、
 自然と愛だけで人生を送らせるなど、
 いかにもフランス映画らしい無常観ですが、
 今どき、こんな浮世離れしたアニメーションを
 8年もかけて完成できるなんて、羨ましい限りであり、
 1時間20分のこの贅沢につきあうことができるというのも
 世知辛い日本にあって贅沢なことといえるでしょう。

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 土曜日早朝の試写ということもあり、
 いつもほどの入りではありませんでしたが、
 比較的若い人が多かったように思います。

 試写が終わり、前の席からはるか後方の出口まで歩く間、
 4組ほどの連れの方々から
 「いったい何を言いたいのかよくわからなかった」
 という同じ趣旨のつぶやきが聞こえてきました。

 フランス映画には、「去年マリエンバードで」の昔から、
 アメリカ映画にはありえない瞑想的な傾向がありますから、
 たまには見た後「???」体験もよいと思います。

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 俗物代表の一人としては以下のように考えました。

 大ウミガメも、男に知性が全くなければ相手にしてはおらず、
 絶海の孤島で、黙々と筏を作り、
 邪魔しても邪魔しても孤島からの脱出にトライする
 男の知性と勇気に惚れたのではないかと思います。

 この男も大ウミガメのとりこにはなったものの、
 大ウミガメと生活して結構ストレスが溜まったのではないでしょうか。

 あの世に行く前に、日本人であれば、
 「『DoctorX』の最新作を見たかった・・・」
 と心の中で無念たらたらつぶやいたのかもしれませんね。

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 最後に不満点。
 こんなフランス映画らしいフランス映画のタイトルを、
 何故『レッドタートル』などという無粋なカタカナ英語にするのかなあ・・・

 原題『La Tortue rouge』を活かして
 『ルージュの海亀』くらいの方が、この映画の趣がでたのではないでしょうか。
タグ:ジブリ
posted by Dausuke SHIBA at 16:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画