2016年10月08日

『グッドモーニングショー』中井貴一の狂気が光る疑似TVドラマ

 お客様からいただいた試写招待で、先日、
 『グッドモーニングショー』を観にニッショーホールに出向きました
 (本作は、本日(10/8)からロードショー公開されています)。

 昨年に事務所を開設して以来、週日と土日のメリハリが消滅し、
 映画館に行く気力が萎えているのですが、
 自分の嗜好とは関係なく無差別に観ることになる試写会には、
 何故か自然に足が向くというのは不思議な感覚です。

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 実直な報道局アナウンサーだったのに、
 不本意にもバラエティMCに異動になって、
 無能の烙印を押されたあげく降板の危機にある、
 TV局のサラリーマンアナウンサー役を、
 中井貴一が、鬼気迫って演じています。

 映画は、その彼が、朝3時に起きて、
 クタクタになって夕方帰宅するまでを描いています。

 彼は、バラエティ番組「グッドモーニングショー」のスタジオ現場に
 いつものように出勤して前打合せをして本番に臨みますが、
 妻(吉田羊)と息子(大東駿介)の問題、
 わけありの共演者(長澤まさみ)の問題、
 プロデューサー(時任三郎)に降板を告げられての心の動揺、
 と見ていて気の毒になる状況の中、気力で乗り切ろうとします。

 しかし、そこに朝一番で、
 人質をとってのレストラン立て籠もり事件が発生し、
 犯人から彼が指名されて、直接の取引をする羽目になります。

 真面目だけが取り柄のTV局サラリーマンアナウンサーが、
 犯人との交渉を経て次第に狂気を帯びた行動をとりだし、
 全てが終わって、我に返って帰宅すると、
 決して暖かくは迎えてくれない妻に、それでも安息を感じる
 という、一応「澄田慎吾」という名前なるも、名前にほとんど意味のない、
 匿名とも思える人物を、中井貴一が見事に演じ切っています。

 この映画は、中井貴一の演技を楽しむことが正しい見方かもしれません。

 試写券の紙面を引用しますので、雰囲気を感じてみて下さい。
IMG_0001.jpg

 TV局を舞台に、そこで蠢く変人たちを描いたTV局物ドラマは、
 日本ではあまりつくられなくなっているように思いますが、古くは、
 シドニー・ルメット監督の映画『ネットワーク』(1976)が懐かしく、
 私は、なんといっても、
 3人の隠し子が発覚するスターキャスターを田村正和が演じ、
 その愛人でもあるサブキャスターを浅野温子が演じる
 TVドラマ『パパはニュースキャスター』(1982)が大好きで、
 さらに最近では、
 バラエティ番組の学者コメンテーターとして出演した上田先生(阿部寛)の目の前で
 殺人事件が発生する、
 TVドラマ『トリック(新作スペシャル)』(2005)も印象に残るお馬鹿ぶりでした。

 TV局物ドラマは、TVドラマで描くと、当然のことながら、
 TV局の場面が自然であまりに日常に溶け込んだいるため、そこに
 ドラマの創作キャラクター(映画畑の役者が演ずることが多い)が入り込むことで、
 ギクシャクした場違いの面白さが、TVのテンポの中で増幅する、
 という仕掛になっているように思います。

 ところが、TV局物ドラマを映画が取り扱うと、
 役者の演技とセットによってTV局現場を再現することになるため、
 不自然さを直感してしまうことと、
 映画の横長のワイドなフレームが、TVの狭いフレームに比べて、
 間がありすぎて、画面が締まらなくなる感じがしてしまいます。

 その代わり、映画では、
 TV局という狭い空間に蠢く変人たちの集団による群像劇を展開させて、
 映画の枠組みに着地させて観客を引き込むことが多いように思います。

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 本作も、最近のスタジオ現場はそうなのか、と少し驚いたのですが、
 スタジオ内に、バラエティ部門と報道部門が同居して、
 各部門がその場で情報交換して、
 その時々でお馬鹿ネタと報道ニュースの編成を随時行い、
 1つのモニター装置を交代で各部門が占拠しあうという様子を描いています。

 そこには、各部門の上級管理職、プロデューサー、技術・演出スタッフ、
 番組キャスター等、番組成立に関わる多様な変人たちが交錯しており、
 従来のように、中井貴一を中心にした群像劇にしてもよかったように思いますが、
 本作は、どうもそこに興味はなかったようで、
 スタジオ現場の描写よりも、スタジオ現場から引きずり出されて、
 事件現場で右往左往する実直なサラリーマンキャスターのこっけいさを描きたかったようです。

 しかし、そうしてしまうと、
 スタジオ現場の再現が不十分で(役者が演じているようにみえてしまう)、
 画面の締まらなさが事件現場の緊迫感を阻害する、
 といった映画がTV局物を取り扱うときの欠点が目立つことになります。

 そのような意味で、本作の君塚良一の脚本と演出については、
 脚本の練り込みが弱く、、
 映画とTVの構造の違いをあまり真剣に考えていないような気がします。

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 本作は、脚本・演出の脆弱を、中井貴一の演技が相当に救っていると思います。

 実際、中井貴一以外の役者は上手とはとても思えない、というよりは、
 中井貴一の演技が圧倒的に格違いで、他の役者が霞んでしまっています。

 家庭、スタジオ、事件現場の描写が迫力がなくしっくりとしない中で、
 中井貴一だけは、創作されたキャラクターとして、
 家庭、スタジオ、事件現場の全てから浮き上がった場違いの面白さを感じさせる
 強烈なエネルギーを発散しており、
 これは、脚本と演出が予定していなかったのではないかと思います。

 実際、中井貴一が、しだいに狂気を帯びていく過程での、
 他の役者のリアクションが全くついていっておらず、
 事件現場で犯人として中井貴一と渡り合う芸達者の濱田岳との掛け合いすら、
 事件現場がやけに綺麗に清潔感があって違和感があったりします。

 これは、共演の役者や美術スタッフの問題ではなく、
 脆弱な脚本・演出の下での指示の問題であろうと思います。

 ということで、本作は、
 中井貴一の演技に一見の価値があるので、観賞されることをお奨めします。

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 本作中で描かれる「グッドモーニングショー」という番組は、
 本当に面白くなさそうな番組で、TV局の現場がこうであれば、
 それもかくありなんという感じだけはよく伝わりました。

 本作を制作するフジテレビが絶不調であることは話題になっています。

 まさかとは思いますが、本作が、
 自己検証ドラマとして制作され、本作をフジテレビで放映するとなれば、
 ブラックユーモアというしかなく、
 その線を君塚良一監督が狙っているのだとすれば、どうなることか、
 ちょっと楽しみといえます。
タグ:中井貴一
posted by Dausuke SHIBA at 12:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画