2017年02月25日

『著作権実務者養成講座(上級)』受講報告

 たまには、本業のことでも書こうと思い立ち、
 2017年1月21日から1週間おきに、 
 3回にわたり、土曜日の午後の3時間半を費やした、
 著作権の研修について受講報告をまとめてみました。

 なお、私がちゃんと受講した証拠を以下に掲げます。
受講終了証(修正).jpg

 本研修は、今年度から新たに始まった、
 弁理士会関東支部主催の『著作権実務者養成講座(上級)』です。

 もともと、『著作権実務者養成講座』(ここでは「初級講座」といっておきます)
 は、5年以上前から、年2回行われていたのですが、
 著作権に興味をもつ弁理士がほぼ受講し尽くしたようで、
 受講者数が減って来たので、初級講座は年1回にして、
 他の1回を、上級講座に衣替えしたとのことだそうです。

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 弁理士は、資格試験の1次試験に著作権法が課せられており、
 60問のマークシート方式の設問のうち、著作権法に
 5問以上充てられていて、結構難しいため、鼻から捨ててしまい、
 特許・商標・意匠の主要科目だけで点を稼いで合格する弁理士も
 結構多いという状況がありました
 (昨年度くらいから、足切り点が科目毎に設定され、
 著作権法が半分解けないと不合格になったようですが)。

 私は、著作権法は結構面白く勉強したのですが、
 試験は難しく半分くらいしか解けなかったと記憶しています。

 弁理士にとっては、
 主戦場が特許・意匠・商標の特許庁への出願・権利化業務で、
 私も特許弁理士として事務所務めをしていた間は、
 著作権絡みの仕事はしたことがありません。

 しかし、一昨年(2015年)に事務所を開設した最初の仕事の1つが、
 商標に著作権が絡む事案で、このとき、
 しみじみと初級講座を受けておいてよかったと思ったものです。

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 著作権法は、知財法の中では条文数が多く、さらに、
 判例法的に裁判での判断が蓄積しつつ、次々に新しい条項が加わるので、
 特許法等の産業財産法とはまた別の意味で学ぶべき情報量は膨大です。

 初級講座は、この膨大な著作権法の内容を、時間をかけて、
 基本的な事項を満遍なく提供してくれるので、
 2か月近く土曜日が潰れますが、弁理士は受講しておくことをお奨めします。

 ただ、だからといって、研修内容が手放しで賞賛できるかといえば、
 必ずしもそうではありません。

 研修担当者には、このブログ記事は受講者による愛の鞭と受け取ってもらい、
 今後も、研修内容の充実に励んで欲しいと思います。

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 私は5年程前に初級講座を受けており、
 確か、土曜日に半日ほどかけて、5回受けた記憶があります。

 初級講座を受けたときは、
 講師陣が個々の判例・判決例の内容をマニュアル的に扱い、
 あまり根を詰めて考えているようには思えませんでした
 (それはそれで研修としては構わないのですが)。

 そのときに違和感があったのが、
 講師が『雪月花事件』判決を当然の結論のように話していたことで、
 質疑応答でも紋切り回答であったので、
 私の本体ブログの最初の頃の投稿記事で考察したものです。

 今回の上級講座も、良い点、悪い点ありますので、
 ブログで報告しておくのもよいかと思った次第です。

●第1回(著作物性)●講師:中川弁理士 

 著作権制度は、産業財産権制度と異なり、
 著作権法で保護される対象の要件について、
 特許庁のように審査をしてくれる行政官庁がありません。

 発明が、本当に特許法が規定する発明であるか、
 意匠が、本当に意匠法が規定する意匠であるか、
 商標が、本当に商標法が規定する商標であるかは、
 これらを出願すれば、特許庁が判断してくれますが、

 著作物が、本当に著作権法が規定する著作物であるかは、
 弁理士が自分で考えなければなりません。

 その場合の拠り所は、著作権法と過去の最高裁の判例と下級審の判決例です。

 第1回は、おそらくは著作権法の専門家として活動されているであろう、
 中川裕幸弁理士(中川国際特許事務所)が講師をされました。

 私も、著作権絡みの判決を丹念に追いかけているわけではないので、
 著作物性に関する夥しい数の判例等の中川弁理士のまとめは、
 大変に重宝するものでした。

 全般的に講義の内容が悪くはなかったことを前提に、
 以下の点だけ報告したいと思います。

(1)キャラクターと著作物の関係が曖昧。

 キャラクターと著作物の関係は、裁判実務は非常に曖昧な取扱いをしてきており、
 実はきちんと区別しなければならない重要事項ですが、
 ワークショップの設例で用語を区別して使用していなかったため、
 受講者の間で若干混乱があったようです。

 これは3回目の講師の下田弁護士も同様でした。

 1回目のワークショップのファシリテータ(2回目では講師)であられた
 峯先生がさすがにきちんと整理されており、
 最近の判決の流れではキャラクターと著作物はどう把握されているのか、
 という私の愚問に対して、『キャンディ・キャンディ事件』最高裁判例を挙げながら、
 適切に回答いただいたのには感謝感激でした。

(2)特許明細書の著作物性について見解が提示されなかった。

 特許弁理士としては非常に興味があったところですが、
 中川弁理士から、話題として提供されたにも関わらず、
 持論を提示しないのは、専門家の講義としてはお粗末と言われても仕方ありません。

 明細書の著作物性についてほとんど情報がないことは、
 初級講座を経ている弁理士であれば百も承知であり、
 そのような中で。
 専門家として見解を言いたくないという極めて消極的な姿勢は、
 少々情けないのではないでしょうか。

 技術系論文は、あのSTAP細胞論文ですら、
 当然に著作物性が認められていることを考慮すれば、
 形式上、技術系論文とほとんど同じ構成である特許明細書に対して、
 著作物性が認められない理由が考え難いと思われ、
 その上で、著作権制度上どう取り扱うべきかを考えることは、
 特に弁理士に課せられることであろうと思われるので、
 中川弁理士の今後の研究を期待したいと思います。

(3)意匠の著作物への接近に対する中川弁理士の思いが面白かった。

 中川弁理士が感傷にふけった面持ちで、
 講義の最後に唐突にされた意味不明の解説が面白かったです。

 意匠にも著作物性を認めた「TRIPP TRAPP」知財高裁判決
 の解説が終わった後でしたが、
 中川弁理士は、ホワイトボードに、著作権制度の歴史を書きながら、
 意匠権は、著作権とは長い間交わることはなく、
 互いに独自の立ち位置があったのに、ここにきて、
 意匠権が著作権ににじり寄ってきており嘆かわしい、と呟かれた
 (と私には思えた)のでした。

 中川弁理士は文系ご出身の弁理士であるようなので、
 おそらく著作権制度への思い入れが強く、
 このように嘆かれたのも理解できたように思いました。

 私は、理系出身の特許弁理士なので、
 著作権法が、人格権と財産権からなりたっていて、
 人格権の手厚い保護は、特許法・意匠法等の発明者・創作者の比ではなく、
 財産権としての保護期間も、そもそもは親子3代の期間を想定してており、
 本来は、16世紀以降の芸術・文化をを守るための制度である点が
 産業財産権と全く異なり、とても面白いと思ったものです。

 従って、中川弁理士の抱かれる感傷はよく理解できるのです。

 しかし、おそらく、実際は、中川弁理士の見方とは逆であり、
 近年の著作権の財産権としての在り方が、産業財産権的なものに変貌したことで、
 著作権が意匠権ににじり寄ってしまったために、裁判実務で、
 意匠の著作物性を認めるのに抵抗がなくなってきたのではないかと、
 私には思えるのです。

 このような文系と理系の感性の違いを考えると、中川弁理士の感傷は、
 弁理士が著作権法をしみじみ考えるのに有用と思った次第です。

●第2回(著作権)●講師:峯弁理士 

 峯唯夫先生(特許業務法人レガート知財事務所)は意匠法の大家でもあられ、
 今回の講座で講師を務められるとは思っておらず、
 第1回でファシリテータをされた折には、ご尊顔を存じておらず、
 私の全くの不躾質問に丁寧なサポートをしていただいたのには恐縮いたしました。

 そして、今回の事例を活用したワークショップ形式の演習は、
 ポイントが明確に抑えられており、解り易く、
 あ〜、わかっておられる先生の解説というのは、なんとすんなりと心に収まるのか、
 と思ったものです。

 特に、私の不躾質問でしたが、
 「パロディモンタージュ事件」最高裁判例と著作権法32条(引用)との関係について、
 最高裁判例は旧法に基づくもので、新法に基づく最高裁判例はまだなされていない、
 との解説をいただき「そうか〜」と思いました。

 即ち、現行法の著作権法32条の引用の要件と、最高裁判例の引用の要件とは、
 相互の包括関係がなく、並列して考える必要があるということがよく理解できました。

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 峯先生の講義は超一級でしたが、ワークショップに参加した受講者は、
 本当に初級講座を受けているのか、と思わざるを得ない方も結構多く、
 弁理士が著作権法絡みの業務をやる際には、
 よくよく自覚された方がよいと思いました。

 弁理士試験で徹底的に叩きこまれるのは、知財法を、
 具体的事例に当てはめる際に考えるべき要件は何か、ということです。
 それは著作権法でも変わることはなく、
 例えば、引用として成立するための要件は、
 最高裁判例と著作権法32条に基づいて考える必要があります。

 さすがに、私も、著作権法の場合は、
 特許法のように見なくても要件が頭に浮かぶというわけにいかず、
 いちいち最高裁判例と著作権法を見ながら整理するわけですが、
 この基本的作業を全くスルーされる方が結構いて、
 うろ覚えの勘違い要件を堂々と開陳されるなど、
 耳を覆いたくなる瞬間もありました。

 著作権絡みの実務で、産業財産権の特許庁手続程度の料金が見込めるのは、
 事件絡みの場合が多く、結構胃が痛くなるのですが、
 研修ですら基本的作業が全く身についていないようでは、
 著作権絡みの業務には深入りしない方がよいようにも思います。

 上級講座は、このあたりも考慮した
 弁理士にとっての心構えに関する内容も必要ではないか、と思う次第です。

●第3回(著作権契約)●講師:下田弁護士

 実務で契約書の作成をして思うのは、弁理士と弁護士の立場の違いです。

 弁理士は、契約書の内容を立案したり、作成できたりするのですが、
 契約を巡って揉めた場合に、民事訴訟の代理人を、
 産業財産権に関する特定侵害訴訟であっても単独ではできず、
 それ以外の民事訴訟では代理人をそもそもすることができません。

 従って、私は、契約書の内容は、契約書の教科書の説明を額面通り受けて、
 後で揉め事がおきたときに、できるだけ解釈が割れることがないように、
 特許クレームの如く、明確にすることを心がけます。

 ところが、弁護士は、最後は裁判で決着する、という戦略がとれるため、
 契約書の条項が、解釈が割れそうな内容であっても、案外平気です。

 そのことが、今回の下田憲雅弁護士(せいしん特許法律事務所)の
 仮想事例に基づく契約書案文の作成演習でも、実感できたように思います。

 ある仮想事例の契約書案文が課題でしたが、
 著作物の対象を特定する契約書第1条の模範案文が以下のようでした。

 第1条(対象、著作物)
  「本件著作物」とは、次に掲げるものをいう。
 一 別紙「デザインマニュアル」に示すキャラクターの図柄に係る著作物
 二 別紙「・・・」に示すキャラクターの本質的特徴を直接感得できる著作物。
   (以下略)

 私が驚いたのは、第1条二号です。

 特許クレームの感覚では、
 「キャラクターの本質的特徴を直接感得できる」という特定は、
 後でいくら揉めても構わないと考えているのでなければ、
 まず行うことはありえないと思われます。

 裁判所が裁判で判示する際に使用する上位概念的な言い回しであり、
 「本質的特徴」「直接感得できる」などという裁判用語の解釈が
 契約当事者にはまずできない(意味がわからない)であろうし、
 裁判で争わない限り解釈の妥当性を決めようがないからです。

 下田弁護士は、これは模範案文ではなく、個人的見解であると言われていましたが、
 研修というのは、その分野に精通している専門家が、
 ある程度最大公約数的な内容を提供するという趣旨も当然にあるのですから、
 できれば模範案文を、模範案文でない場合は、その例示案文の立ち位置、例えば、

 ・市販の契約書マニュアルにもよくでてくるものなのか、
 ・最近使われ出した最先端のものであるのか、
 ・他では使われないその人の完全な個人的スタイルなのか、

 などは、講義で断るのが望ましい姿勢であるし、
 特に、完全な個人的スタイルであるならば、留意すべき点を、
 受講者に説明すべきだろうと思うのです。

 調べてみると、契約書で、第1条二号のような特定の仕方をする例示は、
 パテント誌に弁理士が提唱しており、この場合も、
 「別紙の著作物には限られず,
  将来的な著作物を含むことを暗示できるのではなかろうか」
 などと意味不明の解説がなされています。

 契約書では、最重要の定義規定を「暗示できる」程度にしか記載しないのでしょうか?

 契約自由の原則で、契約書で、何をどう規定してもよいとはいうものの、
 キャラクター関係の著作権契約ではこのような規定ぶりが蔓延しているのでしょうか?

 下田弁護士の講義は、あまりに弁護士の実務感覚であり、
 研修の担当者は、弁理士が著作権契約書に立ち向かう場合について、
 弁護士とは異なる弁理士の実務感覚に配慮した内容で、
 上級の講義を提供することを、今後さらに検討されるべきだろうと思うのです。

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 ということで、弁理士会関東支部におかれましては、
 来年度以降の上級講座も頑張られることを期待します。
posted by Dausuke SHIBA at 17:43| Comment(1) | TrackBack(0) | 著作権

2017年02月21日

『朗読劇 こころ』新宿より漱石に愛を込めて(その3)

〔朗読劇 こころ〕
●開幕前●
 イケメントリオの一人、プロパフォーマーの関井君が渋くサックスを演奏し、
 劇団3人娘の一人の高木さんがピアノ演奏をしてくれました。
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 高木さんは、天辰座長が好きな曲だというだけの理由で、天辰座長に指示されて、
 お気の毒にも『エリーゼのために』を何回も弾いてくれました。
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 天辰座長が、厳しい表情で、劇団3人娘の広岡さんと榎本さんに最後の指示を出しています。
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 舞台側の全景です。
 手前のウクレレは天辰座長がミュージカルシーンで音合わせに使います。

 右端の白髪の紳士は、出演を予定していたのですが、
 無念にも体調の関係で本番の出演を断念されました。
 せめて舞台側で時間を共にしたいとして、最後まで観劇されました。
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 会場側の全景です。
 当所の予想50人を大幅に上回る公称200人を超えようかという盛況です。
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 私のような天辰先生との義理・人情関係者だけでなく、
 新宿区内で『朗読劇 こころ』のチラシを見て興味をもった方、
 新宿区のHPをご覧になった新宿に以前住まわれていた方、
 文化・社会活動繋がりの皆様方、
 等々、新宿に根付く文化の総力が結集したようで壮観です。

●後編の開幕●
 昨年末に前編(私は時間が取れず観れませんでした)、今回が後編と完結編です。
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 各場の要所要所で、登場人物の心象風景を反映したミュージカル仕立ての歌唱・群舞が入ります。

 しかし、こんな古い歌ばかりで、若いメンバーがよく付いていったと思います
 (歌の年代とほぼ同じ年代層が圧倒的に多い観客側は大いに満足されていました)。
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 舞台に向かって右端で、天辰座長が演出・進行・ウクレレ演奏をしています。

 画像には写っていませんが、舞台に向かって左端で、
 猪爪さんと早乙女さんが全体の進行をリードするナレーションを行い、
 天辰座長の脱線気味の演出を鋭い眼光で監督しています。

 歌唱シーンです。
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●後編の見せ場●
 「若い頃の先生」(関井君)が東京の「お嬢様」(高木さん)にぞっこんなのを知らずに、
 故郷の「叔父さんB」(山崎さん)が自分の娘(広岡さん)を嫁にと申し出る場面。
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 「若い頃の先生」(関井君)が、叔父さんに、
 娘とは幼馴染で恋愛の対象にならない、と言い切り、
 それを聞いた叔父さんの娘(広岡さん)が泣き崩れる場面。

 朗読劇中、唯一の過剰演技場面で、
 広岡さんの性格俳優ぶりが遺憾なく発揮されています。

 天辰座長がその演技に感激して、もう1回再現するようにと暴走し出して、
 広岡さんも見事にその暴走演出に応え、観客が大喜びしていました。
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 「若い頃の先生」(関井君)が、
 「お嬢様」(高木さん)の「K」(松澤君)との二股愛を疑うドロドロ場面。

 「お嬢様」(高木さん)の母を、森田さんがミステリアスに演じてます。
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 森田さんのソロ歌唱の場面。
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 後編までで、「こころ」の原作は終了。
 完結編前の休憩時間に入念に原稿をチェックをする天辰座長。
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●完結編●

 後編で、原作の最後まで行きついてしまうのですが、
 天辰座長のオリジナルによる完結編が用意されていました。
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 「K」の自殺と「今の先生」の自殺には謎があり、実は・・・

 ということなのですが、その謎の1つとして、
 かつての「K」と「若い頃の先生」は実はBL関係だったのではないかとか、
 「今の先生」と「私」も実はBL関係だったのではないかとか、
 これだけイケメン(但し、三雲先生は除く)が勢ぞろいすると、
 天辰座長の演出の意図を離れて、
 何か『リーガルハイ』の小御門先生と羽生君のような関係が示唆されてしまいます。

 最後の千葉の崖淵の場面は、主要な登場人物が出揃い、
 土曜ワイド劇場の探偵による最後の謎の解明の場面のようでスリリングです。

 夏目漱石は、『エマ』や『高慢と偏見』で有名なジェーン・オースティンの影響
 を受けているとも言われており、
 ジェーン・オースティンの小説には相当にミステリーの要素がありますので、
 天辰エンディングもありかと思われます。

●完結編のフィナーレ●

 惨劇を極めた「先生」「K」「私」の事件から20年後、
 登場人物の人生に、何故か平和な時が訪れ『うれしいひなまつり』が合唱されます。
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 天辰座長が、天国の漱石から頼まれたというハッピーエンドを形にした、
 平和を願う『ハッピーバースデー 夏目漱石さん』と『憧れのハワイ航路』の
 会場の全員による合唱によって、2時間半にわたる超大作は幕を閉じたのでした。
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●客席の講評と出演者の挨拶●

 客席には、著名な漱石研究の大家もいらっしゃり、
 天辰演出に相当に戸惑われたご様子ですが、
 いずれの方も、アマチュアリズムを尊重して楽しまれ、暖かい講評をされていました。

 出演者挨拶では、先にお話したように榎本さんの涙が感動を誘ったり、
 本田君が予想しなかった質問に完全に詰まって会場全体が沈黙に包まれるなど、
 楽しい幕引きとなりました。

 なにか既視感があるなと思ったのですが、
 これは、昨年試写で観た『オケ老人!』そのままではないですか。

 オーケストラでバイオリンを弾く夢を追った杏が、
 間違えてよぼよぼの老人オーケストラに入団し、
 入院した指揮者の老人(笹野高史)に騙されて、指揮者を引継がされ、
 3年間の悪戦苦闘の末に公民館での演奏会を成就するという感動的な映画でした。

 天辰座長と劇団天辰のこの3年間の努力は、
 杏とそのオーケストラの『オケ老人!』に匹敵するでしょう。

 天辰座長と杏では、やはり杏の方がずっと素敵ですが、
 映画化してくれる人がでてくるかもしれませんね。

〔エピローグ〕
 高田馬場駅にすぐ近い「磯丸水産」の打上にもお供しました。

 劇団3人娘と森田さんが、何故か私の前と両横に座ってくれて、
 もうこの先、このようなシチュエーションはないなという嬉しい状況で
 漱石研究の代表的な研究者のお一人である東京外語大の柴田先生の薀蓄を肴に、
 美味しい日本酒を呑みながら、
 天辰先生と、念願成就を祝い硬い握手を交わすことができました。

 また、隣の机に座られた、80歳を超えて矍鑠とした
 『漱石山房』の近藤理事長(東北大学OB)と加藤副理事長(早稲田大学OB)の、
 漱石と東北大学、早稲田大学との関わりについてのご経験に基づく貴重なお話を伺うことができました。

 近藤理事長・加藤副理事長より二回り若く、お酒が入って絶好調の柴田先生による、
 漱石の時代の世界の戦争状況の解説を受けて、
 二十歳の榎本さんが、昨年、何かの文化映画会で、、
 「その頃の戦争に巻き込まれて軍部に虐げられた女の人が最後飛行機で逃げる」
 という映画を観て感動したという話をし出したのです。

 どこかで聞いた話と思い、私が、
 「女は結構身勝手で、かっこいいおじさんが女を助けるのだけれども、
 夫と逃げるでしょ?」と聞いたら、
 「そうです」との回答だったので、「それは、きっと『カサブランカ』だよ」
 となり、榎本さんがさらに「あの男の人かっこいいですよね」となったので、
 柴田先生と私は大笑いしてしまいました。

 孫に近い劇団俳優の卵にとって『カサブランカ』などは、
 どういう時代にみえるのだろうと妙な感慨に耽ってしまいました。

(終わり)
タグ:夏目漱石
posted by Dausuke SHIBA at 14:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 舞台・ライブ

『朗読劇 こころ』新宿より漱石に愛を込めて(その2)

〔劇団員〕
 天辰座長が、適材適所で採用した、朗読劇の出演者となる劇団員を紹介しましょう。

●イケメントリオと三雲先生●
 早稲田OBの天辰座長が、遥か後輩を含むいずれ劣らぬイケメン3人を配しました。

 今回の公演の実質的な主役である「若い頃の先生」を演じる関井君、
 「お嬢様」に失恋して自殺を図る影の主役「K」を演じる松澤君、
 手紙を読んで「今の先生」の秘密を知り衝撃を受ける「私」を演じる本田君。

 関井君は、『北の大地の詩』で振付け・出演をしたプロパフォーマーです。

 今回は、背筋すっきりと和服を美しく着こなし、さすがの安定した朗読と演技でした。
 左が「若い頃の先生」の関井君、右が「お嬢様」の高木さん。
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 松澤君は早大法学部で憲法学を志す一見真面目な長身の学生で、
 お嬢様への片想いに悶々と苦しむ苦学生を実感込めて演じています。

 本田君は、若きテレンス・スタンプを彷彿とさせるハーフの美青年で、
 「今の先生」と互いに惹かれ合うという妖しいBL設定にピッタリです。

 左が「K」の松澤君、中央が「私」の本田君、右が「今の先生」の三雲先生。
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 三雲先生は、区議・弁護士という多忙な公職の合間のどこに
 こんなことをする時間があるのだろうかと思ったのですが、
 アラフォーの「今の先生」を、
 忙しさにかまけた泥縄練習も顧みずにズーズーしく演じています。

 「若い頃の先生」(左、関井君)が年とってもこうはならないのではないか
 (「今の先生」(右、三雲先生))と訝しかったのですが、
 慣れると、影の薄い「今の先生」にピッタリと思えてくるところは、
 やはり天辰マジックなのでしょうか。
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 4人ともみな、声がセクシーでよく通り、劇団3人娘もウットリしておりました。

●劇団3人娘と本田さん●
 それぞれ劇団に所属する舞台俳優の卵である3人娘は、
 広岡さん(左から2人目)、榎本さん(左から3人目)、高木さん(右から2人目)です。
 左端の美熟女は豊永さん、右端の美熟女は野田さんです。
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 広岡さんは、民芸所属の役者の卵で、
 普段着になるとまだ制服が似合いそうな清純な外見と、
 「カリガリ博士」などの古典的な表現主義映画が大好きで、
 エロ・グロ・BL・GG何でもOKの内面とに、相当なギャップがあります。
 将来は、杉村春子ばりのひねくれ切った性格俳優の道が開かれています。

 榎本さんは、ピアノ演奏もする劇団員で、年に2回は感極まって泣けてくるときがあり、
 今回の公演の最後の挨拶がその時であったようで、
 タイミングよく涙が溢れてきて、観客の感動を誘っていました。
 相当の演技派です。

 高木さんは、背が高く「お嬢様」にピッタリの容姿なのですが、
 主人公の「若い頃の先生」(関井君)と「K」(松澤君)に対して二股愛を仕掛け、
 2人を自殺に追い込むという、
 罪深い不気味なおっとりぶりが板についていてよかったです。

 森田さんは、「今の先生」の妻と「お嬢様」の母の二役ですが、
 夏目漱石の小説で描かれるミステリアスな何か想像してしまう和風の人妻役を
 なかなかの雰囲気で演じています。
 本業が歌手であるだけに、せりふも声量と力強さがあり、
 天辰座長が、朗読演技とは別に、森田さんのソロ歌唱の場面を用意しています。
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●美熟女カルテット●
 天辰座長の脱線・暴走演出を、がっちり受け止めて全体を締めてくれたのは、
 猪爪さん、早乙女さん、豊永さん、野田さんの美熟女カルテットです。

 猪爪さん(左端)と早乙女さん(左から2人目)は、貫禄のナレーションを担当され、
 豊永さん(左から3人目)は着物の着付けを担当されたいかにも新宿粋人の風情。
 広岡さんと榎本さんが、美熟女に圧倒されて小さくなっていいます。
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 野田さん(左)は役者もされており、今回何役もこなし天辰座長をサポートされました。
 「私」の美青年の本田君(右)と並んでお似合いと思える着物の着こなしです。
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●叔父さんを演じた二人のおじ様●

 伊藤さん(前列右から2人目)は「若い頃の先生」(関井君)の叔父さんA役を、
 山崎さん(前列左から3人目)は「若い頃の先生」に娘(広岡さん)を見合いさせる叔父さんB役を、それぞれ演技じられました(前列左端は、叔父さんBの妻を演じる豊永さん)。

 伊藤さんは、師匠について踊りの修行をされており、
 今回の舞踏場面の振付けをされたロマンスグレーの紳士で、
 独り身の「若い頃の先生」が故郷に戻ると何かとこまめに世話を焼く叔父さんAにピッタリです。

 山崎さんは、本業が行政書士・税理士の先生で、
 「若い頃の先生」から預かった財産を使いこんでしまう人のよい叔父さんBの役を、
 そのような相談に日ごろ接していらっしゃるせいでしょうか、
 大変にリアルに演じていらっしゃいました。
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 天辰座長の手のひらで踊ってくれそうな劇団員のように思えましたが、実際は、
 天辰座長の演出が脱線・暴走するのもうなづける、
 一癖も二癖もあって一筋縄ではいかない方々のようでした。

(続く)
タグ:夏目漱石
posted by Dausuke SHIBA at 09:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 舞台・ライブ