2018年02月10日

『今夜、ロマンス劇場で』映画に魅入られたままの幸せな人生を送った男の物語

 集中していた仕事が一息ついた隙を見計らってくれたかのように、
 お客様から試写券をいただきました。

 仕事で頭がコチンコチンのときに、
 このようなロマンチック丸出しの映画は最良の清涼剤となりますので、
 読売ホールに駆け付けました。

 「『今夜、ロマンス劇場で』は、とてもよかったよ」などと、
 私のようなおっさんが、口に出すには恥ずかしくなるような
 臆面もない気障なタイトルですが、ラストでは、ウルウルと涙腺が締まらず、
 試写会場が明るくなってから困ってしまいました。

 試写券の紙面を引用しますので、雰囲気を感じてみて下さい。
今夜、ロマンス劇場で.jpg

 本日(2/10)からロードショーとのことなので、
 心が荒んでいる方を中心に、是非ご覧になることをお奨めします。

《ストーリー》

 カラーテレビが登場し、映画が娯楽の王様から転落する昭和35年(1960年)。
 それでも、この世とは隔絶したスター達が跋扈していた、
 夢の製造工場である映画スタジオで、
 牧野健司(坂口健太郎)は、明日の監督を夢見て助監督として下働きをしていた。

 牧野は、製造工場で製造された夥しい数の夢の残骸で、
 倉庫の隅に保管されてはいるが、誰も覚えていない戦前のモノクロ映画に魅入られ、
 ボロ映画館「ロマンス劇場」の映画館主(柄本明)に頼み込んで、
 毎日の営業終了後にその映画を自ら上映して至福の時を一人楽しんでいた。

 ある嵐の深夜に、「ロマンス劇場」でいつものようにその映画を観ていた牧野は、
 一瞬の停電が復旧した後に、
 その映画のヒロイン(綾瀬はるか)が、スクリーンの前に倒れているのを見つける。

 最初は戸惑う二人であったが、奇妙な同居生活が始まり、
 二人の心は急速に接近していくが、
 彼女は元の映画の世界に戻ってしまうのか、いったどうなるのか・・・

《脚本と演出》


 現実にはありえない物語であることを百も承知で、
 そこに観る側を引き込んでいく力技が素晴らしい。

 現実の世界で創作された物語の中の話なら納得もいくが、
 その現実の世界自体も夢か幻なのか、人生夢のごとしを、
 現実に夢を人々に提供してきた映画というロマンチックなメディアを介して、
 観客に追体験できるようにした、手の込んだ入れ子構造のシナリオになっています。
 
 ですから観る側は、リアリティを気にすることなく、
 安心して映画に心を委ねて魅入ることができます。

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 牧野が魅入るモノクロ映画は、試写券からもわかるように、
 『ローマの休日』のアン王女のようなお姫様が俗世界に彷徨いでる物語ですが、
 お城での舞踏場面、お城を出て森に入り3人の日本風妖怪と冒険をする場面など、
 戦前の忘れられたモノクロ映画を彷彿とするチープな映像で構成されています。

 3人の妖怪は、竹中直人等のお馬鹿俳優3人がこれまたチープに演じています。

 綾瀬はるかも、アン王女のような本物感は全くない、やや品のないタカピー姫です。

 私も気付かないところで、映画への愛に溢れたパロディが散りばめられており、
 『ローマの休日』を始め、日本風妖怪は『狸御殿』のイメージが下敷きなのかもしれず、
 『また逢う日まで』(1950)のガラス越しのキスが、
 21世紀の若者をグッとさせることなど、今井正監督も予想できなかったことでしょう。

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 牧野の目の前に現れたお姫様は、モノクロのままなのですが、
 それでは外に出せないということで、
 牧野は、お姫様を映画スタジオに連れて行きそこで化粧をさせます。

 綾瀬はるかはモノクロでもそこそこ美しいのですが、
 化粧を施すと絶世の美女となり、牧野は完全にKOされます。

 私は、綾瀬はるかの容姿にそれほど興味がなかったのですが、
 その私も目が眩みそうになったくらいで、この演出はズルイ。

 『椿三十郎』(1962)で、黒澤明監督が試みたくて諦めた、
 モノクロ画面中に真っ赤な椿を咲かせたいという色彩加工でしたが、
 カラー映像の中にモノクロ人物を歩かせるという逆の色彩加工などが、
 易々とできてしまうのですから、映画テクノロジーは進化したものです。

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 全体にドタバタお馬鹿シチュエーションで大笑いした後に、
 でも我に返ると、せつない二人の心情が観る側の心に突き刺さるという
 メリハリの効いた演出ですが、
 私も大好きな『のだめカンタービレ』(2006)の武内英樹監督であれば納得です。

 今思えば、本作のテンポは、『のだめカンタービレ』における
 のだめと千秋先輩を中心とする群像の掛け合いのテンポに重なり、
 心地よいのは当然です。

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 お姫様が雨に降られる(どれも美しい)場面が多く、
 お姫様の化粧が落ちないかと心配したのですが、
 映画のクランクアップが2017年6月6日とのことなので、
 梅雨の撮影のせいもあるのでしょうね。

 バックに『雨だれ』(ショパン)がかかっており、のだめ風でありました。
 
《キャスト》

坂口健太郎君は、背がスラーっと高く、足が長く、
 少女マンガから飛び出してきたような作業服を着た王子様のようで、
 日本の若者のプロポーションはここまできたか、と思うほどかっこいい
 (作業服をああいう風には着こなせないよ)。

 映画から飛び出した絶世の美女が彼を好きになってしまうのも無理はない、
 という「現実にはあり得ない物語」のリアリティを支えています。

 現実の世界側からみて、思い切り理想化された若者になっていることが、
 牧野とお姫様が海辺を散歩するところでよくわかります。

綾瀬はるかさんは、名前は聞いていましたが、
 水野真紀さんと混同してたりしており、ドラマで観るのは今回初めてでした。

 坂口君と釣合う背の高さで、気風の良い姉御肌の絶世の美女にぴったりです。

 そして、現実の世界側からみて、牧野にとって理想の女性であったことが、
 ラストに向けて明らかになっていき、坂口君と同様に、、
 「現実にはあり得ない物語」のリアリティを支えています。

北村一輝は、ホスト出身でホスト役が嵌るという、ホストにしか見えない個性派で、
 大河ドラマ『北条時宗』(2001)の執事役で注目したのですが、
 Wikipediaで経歴をみたら、とんでもなく面白い彼らしい苦労をしていましたが、
 真面目に役者を志望しており、改めて好感をもってしまいました。

 今回は、映画スターがまだまだこの世とは隔絶した異人であった時代の、
 小林旭・宍戸錠・鶴田浩二を足して3で割ったような典型的な映画スターの役で、
 テンションの高いお馬鹿シチュエーションを担いながらも、
 映画から飛び出したお姫様が、同じ境遇の異人と勘違いして心を許すという、
 とても難しい役を、軽々と楽しそうに演じているのがかっこ良すぎる儲け役です。

●柄本明は、ほとんど『Shall we ダンス?』(1996)の私立探偵と同じ雰囲気で、
 「ロマンス劇場」の謎の映画館主を怪演しています。

●加藤剛が出ているのです。
 映画で観るのは『砂の器』(1974)以来と思います。
 いったい何の役かと思ったのですが、とても重要な役で観てのお楽しみです。

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 映画とは、20世紀に入って確立した現代テクノロジーに立脚した第8の芸術ですが、
 本作は、映画は現代人を本当に魅了するものだということを、
 しみじみと思い出させてくれました。

 この映画のように「映画に魅入られたままの幸せな人生を送った男」
 は実際にいたりして、淀川長治さんなどは、その典型的な人物なのでしょうね。

《玉にキズ》

 最後のエンドロールで何故「主題歌」なる、
 映画と何の関係もない歌手の歌を流すのでしょうか。

 「主題歌」は男と女の恋愛を歌っていますが、本作は、
 この陳腐な歌を遥かに超えたイメージを観る側に植え付けているので、
 本当に邪魔なだけのように思います。

《最後に》

 というわけで、『今夜、ロマンス劇場で』のスタッフ・キャストが、
 今の時代だからこそできたし、その機会を逃さず作り上げたという意味で、
 とてもいい仕事をされ、その成果はしっかりと見る側に伝わったことを、
 まずはお知らせいたしました。

posted by Dausuke SHIBA at 15:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画