2018年06月10日

『家族はつらいよV(妻よ薔薇のように)』ますますおかしいブラック喜劇

 5月の連休明けに、お客様から本作の試写券が届き、
 とても嬉しかったのですが、試写会日が一日前の連休最終日ということがわかり
 ショックでした。

 長い連休は、郵便局もしっかり休むのですね。

 たまには映画館に直接足を運べとの天の声かと思い、
 先週、久々に映画館(新宿ピカデリー)で本作を楽しみました。

 おかげ様で、試写会ですと回収されて手元に残らない試写券が
 記念に残ることになりました。

 試写券の紙面を引用しますので、雰囲気を感じてみて下さい。

20180610『家族はつらいよV』.jpg

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 (おそらく)一流半の商社で部長職まで昇り65歳定年を5年以上過ぎて
 仕事もせずに日々を過ごすことに慣れてきっている平田周造(橋爪功)、
 周造に長年連れ添う老妻である平田富子(吉行和子)、
 周造の長男で海外に製造拠点をもつメーカーの営業課長である平田幸之助
 (西村まさ彦)、
 幸之助の妻で専業主婦の平田史枝(夏川結衣)、
 幸之助の長男で高校生の平田謙一(大沼柚希)、
 幸之助の次男で中学生の平田信介(小林颯)の3世代が住む、
 部長級で退職した周造に相応な青葉台に買った3世代住宅で生じる
 エゴも極まる好き勝手が高じて生じる自業自得の大事件をめぐる
 ドタバタブラック喜劇です。

 この3世代家族に、家を出て独立している、
 周造の長女で税理士をしている金井茂子(中嶋朋子)、
 茂子の夫(としては無能)で税理士事務所経営をする金井泰蔵(林家正蔵)、
 周造の次男でピアノ調律師の平田庄太(妻夫木聡)、
 庄太の妻で看護師の平田憲子(蒼井優)の衛星家族が絡み、
 毎度、
 周造の異なる(が同じにしか見えない)旧友(小林稔侍)と
 居酒屋の女将である加代(風吹ジュン)
 が平田一族の大騒ぎに油を注ぐことになります。
 

 周造にとっては、
 『家族はつらいよT』では、老妻富子から離婚を切り出され、
 『家族はつらいよU』では、たまたま泊めた旧友の死体と寝ていた、
 という大事件が続きましたが、今回は、長男夫婦の壮絶な喧嘩の末に、
 嫁が家出して実家に帰ってしまい、平田家は深刻な状況に陥ることになります。

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 以前のブログ記事でも指摘しましたが、
 この家族の年齢構成と俳優の実年齢は異常にミスマッチしています。

 登場人物と俳優の年齢構成を表にしてみました。

Book1.jpg

 今回は、幸之助が会社の香港支店のトラブル対応のために出張した間に、
 朝の家事が一段落したのどかな時間、史枝が2階でうとうとしていたところ、
 空き巣に入られ、史枝のへそくりを盗まれるという小事件が勃発します
 (盗まれた額が、史枝の健気さと相まって泣かせます)。

 夜遅く香港から帰宅して疲れ切った幸之助が、小事件の顛末を聞き、
 「俺が大変な思いで外国で仕事している間に、
  居眠りをしてへそくりを盗まれるとはいい身分だな」
 と史枝に言い放ってしまいます。

 実世間でこれを言ってしまえば往復ビンタ百発は覚悟しなければならない
 ことを、幸之助が史枝に言ってしまったその晩に、
 史枝が出たきり戻らないという大事件に発展します。

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 海外支店のトラブルに現地で対応するとすれば、
 普通は課長級の実務者が派遣されるでしょうから、
 幸之助は50代を目前に控えた40代後半で、部長になれるか否かという、
 会社人生で一番緊張した(か諦めきった)ポジションであろうと思われます。

 その妻である史枝は、幸之助より少し若く、
 幸之助よりも10歳ほど年下に見える庄太(妻夫木聡)に、
 高校生のときに見た新妻の史枝は匂い立つ美しさだったと言わしめているので、
 おそらく、40代半ばではないかと思われます。

 本作冒頭で、幸之助が史枝に生活費をその都度手渡している場面があるのですが、
 今時そのようなことをしている40代夫婦は、ほぼないように思いますし、
 幸之助の史枝に対する捨てぜりふ
 「誰のおかげでお前らは食っていけてるのかわかってるのか〜」は
 どうみても、団塊の世代までの感覚のような気がします。

 史枝は、一度は自分で稼いだお金で、
 学生時代にしていたフラメンコをまた練習したい、という
 健気な思いを胸にしまいつつ専業主婦をいているのですが、
 今時の40代半ばの専業主婦であれば、
 3世代住宅に住み、少なくともお金の苦労はない状況で、
 時間さえつくれば、フラメンコ教室くらいは行くであろうと思われます。

 さらに、今時の40代後半の管理職が言いそうもないセリフを、
 どうみても50代後半で定年を意識していそうな風貌である
 西村まさ彦が言うのもすごく変な感じがしますし、

 40代半ばの女性そのものの風貌の夏川結衣が、
 上記の健気な妻をとても上手に演じるので、
 これもまたすごく変な感じがします。

 本作は、俳優が醸し出す雰囲気と設定年齢のミスマッチが、
 前回にも増して変な感じなのです。

 私はこのミスマッチを批判しているわけでは全然なく、
 このミスマッチから生じる変な感じが、幸之助・史枝の夫婦喧嘩が、
 見ている側に他人ごととは思えない凄まじい迫力で迫ってくるのではないか、
 と率直に思って楽しんでいるわけです。

 とにかく、西村まさ彦は、
 鬼のような形相で、受け身の妻である夏川結衣を罵っており、
 会社勤めで人格が変わる恐ろしさをストレートにシリアスに演じています。

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 周造は、相変わらず、青葉台の相応に高級な3世代住宅で、
 その日その日の行き当たりばったりの生活をしており、
 それ以外の社会的・政治的出来事にはほとんど関心がありません。

 実際、周造・富子は、2階のそれぞれの大きく贅沢なベッドで寝起きするのですが、
 周造は、朝は富子の隣で目覚めて、
 夜は1階の家族が集うソファで疲れて寝てしまうということが
 いちいち描かれます。

 人間、退職して5年以上過ぎれば、
 同じパターンで朝起きて夜寝る生活はうんざりするのではないかと思うのですが、
 周造は、毎週旧友の悪友とゴルフに行き、
 週に数回は近所の居酒屋で加代の接待を受け、
 日常の自分の生活スタイルは崩さず、生産性のない毎日を繰り返すことができる
 一種の狂人であるといえるのかもしれません。

 しかし、そういった日常は、史枝というスーパー専業主婦がいなくなることで
 幻想であったことが、本作後半の恒例の一族会議で明らかになります。

 その一族会議で、周造は、史枝がこのまま戻らなければ、
 この家を売って、自分達夫婦は介護施設に、
 幸之助は息子2人を引き取って小ぶりのマンションに、
 自分達夫婦の面倒を庄太夫婦に時々みてもらう、という
 金に飽かせた都合のよい、しかし、一族にとっては身も蓋もない
 シミュレーションを手短かにします。

 この周造のシミュレーションの内容は妙にリアルで、
 現代日本が、結局は高齢者介護のためのハードとシステムを相応に整備して、
 社会と繋がりを持たず、政治に興味のない周造でも、
 すらすらと説明できる程度に老人介護システムのある世の中になったことが
 当たり前のこととして、しかしあまりに荒涼とした景色として見る側に伝わります。

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 上記のミスマッチな感覚と、
 金と住宅と大家族があっても、一瞬先は身も蓋もない荒涼とした現実がある
 というリアルな感覚が充満する本作は、
 やはり、日本でもまれにみるブラック喜劇として、
 山田洋次監督の晩年の代表作であるといえるでしょう。
 
 ここに述べたような本作の変な感じが、
 山田洋次監督のお年では、妄想が相当に入っているせいとみるか、
 山田洋次監督と共同脚本の平松美恵子の計算づくの設定のせいとみるか、
 どちらであっても、とても面白い映画体験を提供してくれます。

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 西村まさ彦夏川結衣は、本作では主役ともいえますが、
 夏川結衣が、西村まさ彦とがっぷり四つの演技をしており、
 私としてはとても嬉しい。

 夏川結衣さんは、知性・愛嬌・和風・少し怖いをバランスよくもっている
 松竹の伝統を継承する美人女優と思います。

 TVドラマ『結婚できない男』(2006)は、顔とスタイルがいいことは周囲も認めるが、
 上から目線の究極のマイペース野郎である阿部寛が、あまりの嫌味ぶりに、
 3人のアラサー美女(夏川結衣、高島礼子、国仲涼子)に毛嫌いされながら、
 結局は3人から愛を告白されたあげく、母性溢れる夏川結衣の胸に飛び込むという、
 世にも贅沢な阿部寛だから許されるコメディでありました
 (私も、上から目線の究極のマイペースの部分だけは感情移入できました)。

 夏川結衣さんが何とも愛らしく美しかったです。

 また、映画『64-ロクヨン-』では、多くの演技派男優を向こうに回し、
 夏川結衣一人が女優として堂々と張り合っており、
 彼女の演技は強烈に印象に残りました。

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 本作でも、次男の庄太が、嫁に来たばかりの史枝義姉さんは匂い立つ美しさだった、
 と述懐する場面がありますが、
 『結婚できない男』のさらに5年ほど前の夏川結衣さんのことを思い浮かべれば、
 まったくその通りであろうというものです。

 しかし、山田洋次監督は、史枝を、『男はつらいよ』のさくらのように美しく描かず、
 過去の美しさは庄太の述懐のみで見る側の想像力に委ね、
 40代半ばの覇気のないリアルな専業主婦として描きます。

 夏川結衣もそれに応え、むっちりと肉がついて体が重そうな、それでも、
 過去の美しさの片鱗は残っているという役作りををきっちりしています。

 史枝は長野の実家に帰るのですが、そこは家が存在するだけで親はすでに亡く、
 史枝は孤独であり、
 地元に残った友人の家族に歓迎されて、ようやく疲れた心が癒されます。

 『男はつらいよ』であれば、ここに寅さんが表れて、
 「お姐さん、何か悲しいことでもあったのかい?」
 と史枝に声をかけるところなのですが、
 『家族はつらいよ』ではもう寅さんがでてこないのでとても寂しい
 (本作は、寅さんの不在が如何に悲しいことなのかを感じさせる演出が
 随所に仕掛けられています)。

 そして、長野の山奥の凍てつくような雨の中、
 幸之助が東京から迎えにくるのですが、果たして、史枝は戻るのか。

 静かな人気のない家の中での、
 西村まさ彦と夏川結衣の二人だけのかけあいと、
 山田洋次監督の雨音が印象に残る演出によって、
 幸之助と史枝の気持ちが見る側に率直に伝わりとても感動的です。

 本作はそれだけで終わらせず、
 一族会議をしているエゴイスト家族の罵りあいを対比させて、
 本作のブラックぶりをさらに際立たせているように思います。。

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 本作では、ネットと政治状況を話題にすることを意図的に避けています。

 今後、おそらくはネットと政治状況を絡めて、
 平田一族にさらにとんでもない大事件が起きることと思います。

 山田洋次監督がもう90歳に届こうかという最高齢のスタッフでありながら、
 スタッフ・キャストを含めて一番ダンディでかっこよく若々しいことに驚きます。

 あと10年はこのシリーズを続けて欲しいと念じております。
posted by Dausuke SHIBA at 15:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画