2019年06月21日

『陸王』こはぜ屋のために知財コンサルティングをする(その4:第3話)

■幕間■
 『陸王』第2話では
 特許樹脂「シルクレイ」をソール素材に最適と考える宮沢社長(役所広司)が、
 行方不明になっていた特許権者の飯村氏(寺尾聰)を探し出し、
 説得に説得を重ねて、飯村氏からライセンスを受けることに成功しました。

 その間に、西島弁理士は「シルクレイ」を使用する前段階の試作品について、
 特許出願をします(特許の無名塾版『陸王』第2話)。
 
 『陸王』第3話では、
 銀行の融資担当の大橋(馬場徹)が、新規スポーツシューズのための融資を渋り、
 宮沢社長の息子の大地(山崎賢人)の就活がうまくゆかず、
 飯村氏と大地が取り組む「シルクレイ」の改良は進まず、
 宮沢社長が届けた『陸王』試作品を茂木選手(竹内涼真)は履いてくれず、
 『陸王』の実用化に向けた開発が停滞してしまうエピソードが進みます。

 詳細はこちらが参考になります↓
http://drama-night.com/tbs/rikuou-1wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-1wa2/2
http://drama-night.com/tbs/rikuou-2wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-3wa

 こういうときに、西島弁理士(西島秀俊)は宮沢社長をどうサポートするかを
 挿入してみました。

■第3話■
●西島特許事務所●
 秘書(石田ゆり子)が電話を取る。
〔秘書〕西島先生、宮沢社長からお電話です。
〔西島〕宮沢社長、何か進展がありましたか?
〔宮沢〕西島先生、飯村氏と交渉することに成功しました。
    飯村氏は最初渋ってましたが、何とか説得した結果、
    「シルクレイ」特許をこはぜ屋にライセンスしてくれることになりました!
〔西島〕宮沢社長、それはおめでとうございます。
    それでは、私の方から、ライセンス契約書と秘密保持契約書を送りますから、
    飯村氏と契約を交わして下さい。  

●こはぜ屋の事務所●
 西島弁理士が、宮沢社長から「シルクレイ」の進捗状況を聞いている。
〔宮沢〕西島先生、飯村氏がこはぜ屋の技術顧問になってくれて、
    就活が上手くいかずブラブラしている大地を助手につけて、あれから毎日、
    2人でシルクレイ製造装置で柔らかいシルクレイの製造条件を検討してますが
    なかなかうまくいきません。
〔西島〕宮沢社長、大丈夫ですよ。
    佃社長(三上博史/阿部寛)のおかげで、
    ソール素材の柔らかさの目標値はわかっています。
    目標値がわかっていれば、樹脂製造技術者は製造条件を必ずみつけますよ。

●西島特許事務所●
 秘書(石田ゆり子)が電話を取る。
〔秘書〕西島先生、宮沢社長からお電話です。
〔西島〕宮沢社長、何か進展がありましたか?
〔宮沢〕西島先生、飯村氏と大地が、ついに柔らかいシルクレイの製造に成功しました!
    いやー、ここまでくるのに半年かかりました。
〔西島〕宮沢社長、ここで気を抜いてはだめですよ。
    「シルクレイ」に関する特許出願を検討しましょう。
〔宮沢〕え〜!、西島先生、「シルクレイ」はもう特許になっているのに、
    これ以上、特許出願できるんですか?
〔西島〕勿論ですし、当然しなければいけません。
    電話では長くなるので、こはぜ屋さんに行って説明します。

●こはぜ屋の事務所●
 西島弁理士が、宮沢社長と富島専務(志賀廣太郎)に、
 今後の特許出願の可能性を説明している。

《基礎出願》
 シルクレイ樹脂ではない既存の樹脂を使用した、
 基本コンセプトを満たしますが、耐久性が不足する試作品については、
 先日出願しました。

《基礎出願に基づく国内優先権主張出願》(特許出願1)
 そこで、先日した基礎出願の内容に、シルクレイ樹脂を使用した、
 基本コンセプトと耐久性の両方を満たすスポーツシューズを加えて、
 国内優先権主張出願をして、これを改めて基本特許出願とします。
 基礎出願から1年以内ですから、このような特許出願ができます。

《低弾性シルクレイ樹脂、その製造方法及びその製造装置》(特許出願2)
 従来は硬いとばかり思われていたシルクレイ樹脂に対して、
 飯村氏と大地君が半年間試行錯誤しして、ある特定の範囲の加工温度にすると、
 誰も予想しなかった柔らかい低弾性シルクレイ樹脂を得たのです。

 従って、低弾性シルクレイ樹脂は、
 飯村氏の特許には開示されていなかったことになり、
 飯村氏のシルクレイ樹脂・製造方法・製造装置に関する特許があっても
 選択発明として新規性と進歩性を有する発明といえます。そして、
 加工温度を特定の範囲にするシルクレイ樹脂の製造方法も特許性がありますし、
 低弾性シルクレイ樹脂の製造装置も特許性があります。

 こはぜ屋さんがこれらについて特許権を取得すれば、
 低弾性シルクレイ樹脂は、こはぜ屋さんのライセンスを受けなければ、
 飯村氏といえども製造できず、他人にライセンスできません。

《低弾性シルクレイ樹脂を使用した靴用樹脂、靴底及び靴》(特許出願3)
 靴用途に限定した低弾性シルクレイ樹脂の発明です。
 こはぜ屋さんが特許権を取得すれば、
 誰もシルクレイ樹脂を靴用途に使用できなくなります。

〔宮沢〕私も冨島も頭が混乱して、
    西島先生のご説明にほとんどついていけなくなってますが、
    すいません、結局、特許出願1〜3をすると、
    こはぜ屋にどんなメリットがあるのでしょうか。
〔西島〕すみません。『陸王』が素晴らしい発明なので、
    目一杯の可能性を考えてしまいましたが、ややこしくなりました。
    要するに、貴社には以下のメリットがあると考えて下さい。

    @こはぜ屋さんが、これらの特許出願をして特許権を取得できれば、
     低弾性シルクレイ樹脂については、
     アトランティス社を始め、他社は手も足も出すことができなくなり、
     飯村氏も、どこにもライセンスできなくなります。

    A飯村氏のシルクレイ樹脂に関係する基本特許はあと6年で切れるので、
     こはぜ屋さんが、飯村氏から独占的なライセンス契約を結んでも、
     シルクレイ樹脂を独占使用できるのは、『陸王』販売からせいぜい5年です。
     ここで、低弾性シルクレイについて、こはぜ屋さんが特許権を取得すれば、
     飯村氏のシルクレイ樹脂に関係する基本特許を実質的に15年延命できる
     ことになり、こはぜ屋さんにとって、
     他社を排除した独占市場の中で、十分な投資回収期間を確保できます。
〔冨島〕西島先生、特許出願のメリットはよくわかりましたが、
    特許出願費用は最初の30万円どころか、100万円を超えてしまいますね。
    社長、どうするんですか。本当に発明貧乏にならないのでしょうね。
〔西島〕富島専務、そこは私も考えたところですが、
    埼玉県でも、中小企業の開発支援事業をしていて、
    特許出願費用も支援してくれます。ダメもとで申請してみませんか。
    『陸王』は特許性のある技術の塊ですから申請が通る可能性はあると思います。
〔宮沢〕そうですね。我々も今ある様々な支援制度を利用しない手はありませんよね。
    私の方でも、せっかくのシルクレイ樹脂を応用できないか考えてみます。
〔西島〕それと、今回の特許出願を準備するときに、
    こはぜ屋さんが『陸王』を製造販売したときに侵害してしまう他社特許の存否も
    突っ込んで調査してみます。
    先日、基礎出願をする際に、念のため、先行技術は調べていて、
    他社は、シルクレイ樹脂並に強靭で、
    シルクレイでも困難だった低弾性を有する樹脂などあるはずがない
    という先入観があるのかもしれませんが、
    低弾性の樹脂をソール素材とする特許出願はなかったので、
    おそらく、『陸王』に影響する他社特許はないと思いますけどね。
〔宮沢〕西島先生だけが頼りですので、よろしくお願いします。    
(続く)
posted by Dausuke SHIBA at 20:25| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ

『陸王』こはぜ屋のために知財コンサルティングをする(その3:第2話)

 『陸王』第1話では、
 老舗の足袋製造メーカーのこはぜ屋の4代目社長である宮沢(役所広司)が、
 こはぜ屋の将来のために、
 こはぜ屋の縫製技術を導入した新規スポーツシューズの開発に着手し、 
 足袋縫製技術者の正岡あけみ(阿川佐和子)をリーダーに据え、
 新規スポーツシューズの試作に、社員の残業を全て投入するのですが、
 基本コンセプト(ミッドフット走法に適したフィット感と軽さ)を達成するも、
 ソール(靴底)素材の耐久性が不足するという壁に突き当たりました。

 詳細はこちらが参考になります↓
http://drama-night.com/tbs/rikuou-1wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-1wa2/2
http://drama-night.com/tbs/rikuou-2wa

 ここまでは、ドラマ通りなのですが、特許の無名塾版『陸王』第1話(後編)では、
 ここで、弁理士を登場させて、ドラマにはない展開をさせてみました。
 
 宮沢社長は、銀行の融資担当の坂本(風間俊介)に、
 特許出願を検討すべきと言われ、西島弁理士(西島秀俊)を紹介されます。

 宮沢社長は、壁に突き当たった状況で特許出願など夢のまた夢と思いつつ、
 西島弁理士に会いに行きました。

 ところが、西島弁理士は、宮沢社長から、壁に突き当たった状況を聞きながら、
 新規スポーツシューズの発明は既に完成しているので、
 特許出願作業を開始しましょうと言いだします。

 宮沢社長が、この人は何で話を聞いただけで、
 特許出願できることがわかるのかと半信半疑のまま、
 西島弁理士に特許出願を託したところで第1話は終わりました。

 第1話の後、第2話までは、だいたいドラマの通り進展します。
 右向き三角1銀行は、こはぜ屋の無謀な新規事業を止めなかったとして坂本を左遷し、
  坂本の上司だった後任の大橋課長(馬場徹)が、宮沢社長に、
  こはぜ屋のリストラを提言し、宮沢社長は抵抗します。
 右向き三角1新規スポーツシューズの試作品を学校の採択コンペにエントリーするも、
  書類審査で、競合のアトランティス社に敗れます
  (西島弁理士は、コンペでの試作品の説明も新規性喪失にならないように、
   何らかのアドバイスをしたはずです)。
 右向き三角1左遷された坂本が、宮沢社長に、
 ソール素材として特許樹脂「シルクレイ」を紹介します。

 この流れの中で、弁理士がどう考えるかを挿入してみます。

■第2話■

●こはぜ屋の事務所●
 宮沢社長が社員全員を集めて、新規スポーツシューズの進捗を説明している。
〔宮沢〕新規スポーツシューズの特許出願を、西島先生に頼んだので、
    皆は、特許出願の作業が終わるまで、
    会社で行っている新規開発の中身は絶対に口外しないでくれ。

    西島先生には、こはぜ屋の知財顧問になってもらった。
    富島専務(志賀廣太郎)には、
    有村店長(光石研)との秘密保持契約の作業をしてもらっている。

    大地(山崎賢人)、西島先生が佃製作所にお願いしてくれた、
    失敗品の20足分のソール樹脂の弾性測定試験の結果がいつ届くか、
    佃社長(三上博史/阿部寛)に聞いてくれたか?(大地が頷く)

    西島先生が特許出願するまでの間、私の方は、
    坂本さんから紹介された特許樹脂「シルクレイ」を当たってみる。

    それと、新規スポーツシューズの名称は『陸王』にした。
    西島先生は既に『陸王』の商標登録の出願をしてくれている。

    先代の思いが籠もった名前だが、我々の手で『陸王』を完成させたい。
    これからも、皆、よろしく頼む。

■幕間■
 坂本が紹介した特許樹脂「シルクレイ」は誰からも注目されず、
 特許権者の飯村氏(寺尾聰)も行方不明で、宮沢社長も探し回ります。

 『陸王』の第2話のドラマの山場は、宮沢社長が、
 ようやく飯村氏をみつけたものの、なかなかライセンス契約に応じてくれず、
 宮沢社長の『陸王』にかける情熱を伝え説得した結果、
 飯村氏が心を動かされて特許樹脂「シルクレイ」をこはぜ屋にライセンスする
 という場面です。

 『陸王』についてコメントする知財関係の方々は、
 このエピソードを「死蔵特許問題」のように取り扱っていましたが、
 西島弁理士は以下のような処理を提案します。 

●西島特許事務所●
 宮沢社長と西島弁理士がミーティングテーブルを挟んで対面しているところに、
 秘書(石田ゆり子)が、アマンドの高級ケーキを置いて、
 にこっと笑みを浮かべて退室する。
〔宮沢〕西島先生、というわけで、坂本さんに
    ソール素材として「シルクレイ」を紹介してもらったのはいいのですが、
    「シルクレイ」の特許権者の飯村氏が、
    彼の会社が倒産して以来行方不明なっていて困っているんです。
〔西島〕こういう場合、いっそ飯村さんが見つからない方がよいともいえます。
    「シルクレイ」特許は、あと7年の有効期間がありますが、
    特許料は来年までしか支払われておらず、
    飯村氏が財政的に困窮しているのであれば、
    特許料をこれ以上支払わないこともありえます。
    特許権が消滅してしまえば、誰もが「シルクレイ」を自由使用できます。
    
    特許樹脂「シルクレイ」が3年間実施されない場合、
    特許権者の飯村氏とライセンスの協議ができなければ、
    こはぜ屋さんが特許庁長官に裁定請求をすることができます。

    この裁定請求が認められれば、ライセンス料を供託して、
    裁定によるライセンスを受けることができます。

    「シルクレイ」特許は製造方法も全て開示されているので、
    樹脂・繊維加工技術を有する企業であれば「シルクレイ」を製造できるはずです。
    我国の樹脂・繊維加工技術は今だに世界有数ですからね、
    その企業にも裁定によるライセンスを受けてもらい、
    こはぜ屋さんと「シルクレイ」を共同開発してもよいのではありませんか。
    佃製作所に余力があれば、共同開発を支援くれるかもしれません。

    「シルクレイ」特許が特許料未払いであと1年で消滅するなら、
    裁定のライセンスは1年だけで、あとは自由使用できますから、
    飯村氏の特許権の縛りはないに等しいですよ。    
〔宮沢〕なるほど、そんな仕組があるとは、特許制度は奥が深いんですね。
    しかし、西島先生、これは私の流儀というか、
    やはり、「シルクレイ」に思い入れがあるはずの飯村氏を探し出して、
    ライセンス交渉をやるだけやってみようと思います。
〔西島〕勿論、宮沢社長がやりたいように進めてよいと思います。
    もし、飯村氏とライセンス交渉できるようであれば、
    残りの6年分の特許料はこはぜ屋が持つということを、
    ライセンスの見返りにしてよいかもしれません。
〔宮沢〕西島先生、良い案を提案いただきながら、
    私の我儘を聞いていただきありがとうございます。
〔西島〕今準備している特許出願では、
    ソール素材は具体的な樹脂組成ではなく、
    柔らかさを示す樹脂の弾性で規定していますから、
    これがそのまま特許になれば、
    仮に、飯村氏が「シルクレイ」を他社にライセンスしても、その他社は、
    スポーツシューズ用の低弾性のソール素材としては使用できません。
    ですから、飯村氏には、
    せめて、スポーツシューズのソール素材の部分だけでも、
    ライセンスできないかお願いしてみて下さい。
    特許出願は今週中にしておきます。
〔宮沢〕何としても飯村さんを探し出して食いつこうと思っています。
    それと、特許出願後に、茂木選手に試作品を届けてもよいでしょうか?
〔西島〕茂木選手に認めてもらえるか否かは営業上重要ですから、
    やむを得ないでしょう。しかし、
    茂木選手とは必ず秘密保持契約を結び、
    誰も見ていないところで履いてもらうようにお願いして下さい。

■幕間■
 この段階で、西島弁理士は秘密保持契約に拘りますが、
 茂木選手と秘密保持契約を結べるかはなかなか微妙です。
 常識的には、面識もない宮沢社長に秘密保持契約を突き付けられて、
 契約通り、こっそりと試作品を履くスポーツ選手はいないでしょう。
 脚本上は工夫を要するところです。
(続く)
posted by Dausuke SHIBA at 20:05| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ

2019年06月16日

『陸王』こはぜ屋のために知財コンサルティングをする(その2)

 今回は、特許の無名塾版『陸王』です。

 第1話(前編)では、
 老舗の足袋製造メーカーのこはぜ屋の4代目社長である宮沢(役所広司)が、
 こはぜ屋の縫製技術を導入した新規スポーツシューズの開発に着手し、 
 足袋縫製技術者のあけみ(阿川佐和子)をリーダーに据え、
 200足を超える失敗試作品の山を築いた末に、
 基本コンセプト(ミッドフット走法に適したフィット感と軽さ)は出たものの、
 ソール(靴底)素材の耐久性が不足しており、
 このままでは本格的なスポーツシューズとしては使えない、
 という壁に突き当たったところまでお話ししました。

 ここで、宮沢社長の新規スポーツシューズの開発を後押しする
 融資担当の銀行員である坂本(風間俊介)が、
 苦戦する宮沢社長を陣中見舞に訪れます。
 
■第1話■(後編)

●こはぜ屋の事務所●

〔坂本〕社長、苦戦されているようですね。
〔宮沢〕坂本さん、ちょっと壁にぶつかってしまって。
〔坂本〕しかし、みたところ、
    新規スポーツシューズの足袋型形状はできているようですし、
    ここで、頭の整理をする意味でも、特許出願を検討されてはいかがですか?
〔宮沢〕でも、しがない足袋屋にとっては、特許なんて別の世界の話で、
    どうしていいかもわかりません。
〔坂本〕以前、佃製作所の佃社長(三上博史/阿部寛)の顧問弁護士をしている
    神谷先生(寺島しのぶ/恵俊彰)から、
    腕のいい弁理士として西島先生(西島秀俊)を紹介してもらったことがあります。
    その弁理士でよければ、新宿の曙橋ですが、一度訪問されてはいかがですか。

●西島特許事務所の前●
〔あけみ〕社長、かわいらしいビルだけど、ここみたいですよ。
西島特許事務所ビルと表札.jpg
●西島特許事務所の中●
 ミーティングテーブルを挟んで、
 西島弁理士と、宮沢社長とあけみが腰かけている。
西島特許事務所の室内.jpg

〔あけみ〕西島先生、おしゃれな事務所ですね。
〔西島〕(にこにこしながら頷く)

 秘書(石田ゆり子)が、軽く会釈をしながら、
 レモンティーを注いだ白磁のティーカップを並べて置く。
 宮沢は、秘書の白魚のような美しい指に見とれる。
 秘書は、にこっと微笑んで退室する。

〔あけみ〕
特許事務所の秘書さんて、とてもお美しいんですね。
     いやだ、社長、何をぼんやりしてるんですか!
〔西島〕坂本さんから、概要は伺いました。
    早速ですが、開発中の新規スポーツシューズについて詳細をお話し下さい。
〔宮沢〕・・・というわけで、壁にぶつかっているところで、
    こんな状態で特許どころではないように思うのですが・・・。
〔西島〕何をおっしゃっているんですか!
    今のお話では、もう特許出願はできたも同然で、
    今後、試作品を関係者に試用してもらう計画のようですから、
    一刻も早く特許出願をしてしまいましょう。

******

 西島弁理士は、ピンときていない宮沢社長に、以下の説明をする。

《発明者について》
 発明者は、
 新規スポーツシューズの基本コンセプトを提示して、
 試作品の製造を指揮し、試作品を試着して評価してきた宮沢社長と、
 宮沢社長の基本コンセプトを受けて、
 具体的に図面を作成し材料を選んで縫製した正岡あけみ様になります。

《特許を受ける権利》
 就業規則を見ると、職務発明制度を取り入れていらっしゃるので、
 宮沢社長と正岡様の特許を受ける権利は全てこはぜ屋さんに移転しています。
 従って、出願人と将来の特許権者はこはぜ屋さんということになります。
 この就業規則を作成された社労士の先生は抜かりないですね。

《秘密保持》
 試作品を不特定多数の方の前に提示する作業は、特許出願してからにして下さい。
 特許出願するまでに1月ほどかかると思いますので、
 できれば、その間に、ソール素材を探されたら良いと思います。

 但し、アドバイスを受けるために試作品を他の方に見せる場合、
 その方とは必ず秘密保持契約を結んでください。

 お話を伺った限りでは、
 スポーツ用品店の有村店長(光石研)とまずは結ぶべきと思いますし、
 ご家族、社員の方には、特許出願が終わるまで、
 開発内容を口外しないようくれぐれも注意すべきことをお伝え下さい。

******

〔宮沢〕しかし、失敗作しかないのに、何故、特許出願できるのでしょうか?
〔西島〕失敗作といっても、それは、実用上、耐久性が不足しているだけで、
    宮沢社長が当初構想された基本コンセプトである、
    ミッドフット走法に適したフィット感と軽さは達成していて、
    「裸足感覚」のスポーツシューズになっているじゃないですか。

    基本コンセプトを達成するのに、
    ミッドフット走法に適した靴底の形態と足袋型形態という基本構造を創作され、
    基本構造の形成手段として足袋の縫製形態を導入し、さらに、
    その縫製形態は、足袋では使用しないような微妙なアレンジがされています。

    特許性のあるバリバリの発明です。
    ただ、50mは走れても、100m走ると壊れてしまうだけですから、    
    ないのは耐久性だけです。
    ですから、新たな素材がみつかって耐久性が確保できたら、
    また特許出願すればいいですよ。
〔宮沢〕確かに、言われてみれば、
    有り合わせの材料を組合わせていつもの作業をして試作したつもりでしたが、
    我々は苦労していろいろな工夫をしたということですね。
〔西島〕その通りです。工夫をした部分に特許は宿るんです。
    ところで、200足の失敗作ですが、
    一度、貴社工場で見せていただいてよろしいですか?
〔宮沢〕え〜、あんなものを見てどうするんですか?

●こはぜ屋の縫製工場●
 西島弁理士が入ってくるのを見て、
 女性社員は、瞳に☆が瞬き、心が「♡♡♡♡♡♡」になっている。

〔宮沢〕西島先生、これが失敗作の全てです。
    最後の20足は耐久性を向上させるためのソール素材を選択したものですが。
〔西島〕(手にとって見ながら)なるほど。
    200足のうち、最後の50足は実施例に使えるな・・・・・・。

●こはぜ屋の事務所●
 西島弁理士、宮沢社長、番頭専務(志賀廣太郎)が打合せをしている。

〔専務〕社長、失敗作しかないのに、30万円もかけて特許を出願するなんて、
    いったい、何を考えているんですか?
    特許を出せば売れるというのならともかく、
    きちんと、使えるものになって、売れるようになってからでいいではないですか。
〔西島〕専務が仰るのもごもっともな部分があります。
    特許は先行投資で、特許を出せば商品が売れるわけではなく、
    売れるか売れないかは、貴社の営業努力によりますから。

    但し、考えてみて下さい。
    特許が威力を発揮するのは、貴社の営業努力が実を結んで成功してからです。
    貴社が成功した途端、他社は模倣品を貴社が切り開いた市場に投入します。
    特にアトランティス社のような開発力のある大企業であれば、
    あっという間に模倣品を投入して、安売りを仕掛けてくるでしょう。

    貴社が特許をもってなければ、貴社の成功は短命に終わりますが、
    貴社が特許をもっていれば、貴社の市場には当面誰も参入できませんから、
    貴社の成功は先行投資を回収するのに十分な長期間継続することになります。

    特許出願30万円前後と、さらに権利取得までに必要な40万円前後の
    計70万円前後を回収できない事業であれば、
    やらない方がマシと考えてもよいのではありませんか。
〔専務〕ウー・・・、それも一理ありますな。
    社長、それでは、今回の特許出願費用は予算計上しますから、
    きちんと、使えるものにして、売って下さいね。
〔西島〕それでは、宮沢社長、本件特許出願の手続を明日から開始します。
    それと、新規スポーツシューズの名称は商標登録をすべきと思いますので、
    決まったら必ずお知らせ下さい。
〔宮沢〕西島先生、是非とも、よろしくお願いします。
(続く) 
posted by Dausuke SHIBA at 14:42| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ