2020年03月07日

『三屋清左衛門残日録』(北大路欣也版)あ〜、草場の陰の時代劇

 本業が立て込んでしまい、ブログの更新がなかなかままならないまま、
 コロナウィルス騒動が始まり、世間並に長い夜を過ごす毎日です。

 欧米では、コロナウィルス騒動のお蔭で、握手することが敬遠されているようです。
https://news.livedoor.com/article/detail/17904847/

 この記事を読んで、
 毎週1巻(2話)ずつレンタルして見ているお楽しみドラマ『名探偵モンク』
 の主人公エイドリアン・モンクを思い出して笑ってしまいました。

 私立探偵モンクは、元々優秀な刑事だったのですが、
 5年前に愛する美人妻が事件に巻き込まれて殺害されたのをきっかけに、
 子供の頃からの神経症が悪化し、3年間引き籠り、
 さらに強度の潔癖症など30を超える神経症が顕在化してしまい、
 お母さん代わりのシングルマザーの助手に助けられながら、
 難事件を次々に解決していくという、切なくもお馬鹿な本格ミステリーです。
https://www.youtube.com/watch?v=ygM_linq7-0

 このモンク探偵が、潔癖症のために握手がどうしてもできず、
 助手がウェットティッシュを持ち歩いていて、
 やむを得ず握手したときは、「ティッシュ、ティッシュ、あ〜早くティッシュ!」
 と助手からティッシュをひったくって、握手した相手の目の前で、
 手を念入りに拭き拭きする(勿論、相手は顔をしかめます)というのが、
 毎度のお馬鹿見せ場になっています。

 日本人が普段慣れない握手をすると、
 掌の生暖かい感触が何とも言えない感覚として残るのですが、
 欧米の人たちも、コロナウィルスが相手の掌についていると思うと、
 モンク探偵のような気分になるのですね。

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 ということで、気分だけは長い夜を過ごすのに、
 いつもレンタルしている『名探偵モンク』『ロー&オーダー』の他に
 (両作ともにとてつもなく面白いです)、時代劇の長編ドラマを見ようと思い立ち、
 『三屋清左衛門残日録』(北大路欣也版)をレンタルして見てみました。

 藤沢周平原作の『三屋清左衛門残日録』は、
 NHKが大河時代劇シリーズと並ぶ人情時代劇シリーズの中で、
 1993年に仲代達矢主演で『清左衛門残日録』(連続14回+特別編1回)として
 ドラマ化しました。

 仲代達矢版は、どの出演者にとっても代表作といってよい、
 日本のドラマ史上に残る名作で、私は、ブログ『TV時代劇ベスト10』で、
 第2位に挙げ、褒めちぎらせていただきました。

 ということで、仲代達矢版がよかっただけに、
 それから30年近くたってからの再ドラマ化がどのような出来になるのか、
 興味があったわけで、この機会にみてみようということになりました。

 が、事前の不安が的中する残念な結果となりました。

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 「日残りて昏るるに未だ遠し」

 これは、NHK版のオープニング冒頭での仲代達矢による朗々とした語りです。

 『三屋清左衛門残日録』の内容を一言でいえば、まさにこの語りに尽きるわけです。

 『三屋清左衛門残日録』は、社会人(武士)として現役を退いて隠居暮らしをしだすと、
 ともすれば人生の終末(日昏)が見えるも、
 まだ現役時代の生命力漲る日々の残渣(日残りて)が生活の端々に滲み出て、
 何かと忙しない日々が過ぎるが、
 それでも日ごとに人生の週末に近づいていることを意識するようになる、という
 人生の機微を残日録として書き留めながら悔いのない日々を過ごす、
 インテリ官僚武士であった三屋清左衛門の隠居生活を描いています。

 仲代達矢版は、
 清左衛門の世代を、仲代達矢・財津一郎を始めとする60代前後の役者が演じ、
 清左衛門の息子世代を、南果歩を始めとする30代前後の役者が演じ、
 清左衛門後輩の藩の現役武士を、平田満・山下真司などの40代前後の役者が演じ、
 武骨なるも教養と愛情豊かな魅力的な初老の武士である清左衛門に思いを寄せる
 ヒロインみさを、色気満ち溢れるアラフォーのかたせ梨乃が演じており、
 絶妙のキャスティングで「日残りて昏るるに未だ遠し」を存分に体現します。

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 北大路欣也は東映時代劇でならした素晴らしい時代劇俳優なのですが既に70代、
 清左衛門の友で現役を続ける相棒の佐伯熊太を演じる伊東四朗も70代後半、
 清左衛門の息子の嫁を演じる優香(私はこの女優知りませんでした)がアラフォー、
 清左衛門に思いを寄せるみさを演じる麻生祐未が50代で、
 「日残りて昏るるに未だ遠し」を体現するには、ちょっと無理があるのです。

 ちなみに、仲代達矢版と北大路欣也版のキャスト・スタッフの対照表を作成しましたので、
 暇潰しにご覧ください。
三屋清左衛門残日録.jpg

 キャストの平均年齢が、仲代達矢版は45歳、北大路欣也版は58歳ですから、
 「日残りて昏るるに未だ遠し」を体現する年齢構成としては、
 仲代達矢版は理想的ですが、北大路欣也版は見るも無残です。

 清左衛門に対峙する悪の権化である朝田弓之助も、
 仲代達矢版の鈴木瑞穂に対して、北大路欣也版は金田明夫ですから、
 格が違いすぎており、
 仲代達矢vs鈴木瑞穂は横綱相撲ですが、
 北大路欣也vs金田明夫では暴れん坊将軍の軽さになってしまいます。

 それと、いくら何でも、名優・栗塚旭を何という使い方をするのか。
 これでは、『子連れ狼』の柳生烈堂で、漫画だろう
 (『子連れ狼』は元々漫画だからそれでいいのですが)。

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 北大路欣也版は、「日残りて昏るるに未だ遠し」ではなく、
 「日沈みきって真っ暗」で、更にその後の、草場の陰で、
 清左衛門と佐伯熊太が生前を懐かしんでいるようなドラマになっています。

 これは、決して出演者の責任ではなく、
 スタッフが時代劇ドラマを舐めているということであるように思います。

 演出の山下智彦は、名監督・山下耕三の息子で、
 市川崑監督の企画で役所広司主演の隠れた名作『盤嶽の一生』で監督デビュー
 ということですから、相応に実力があると思うので、
 少しは仲代達矢版を意識して演出して欲しいものです。

 今、清左衛門を任せるのであれば、渡辺謙(60歳)とか、
 歌舞伎役者の中村橋之助(55歳)を少し老けさせるとか、いくらでも選べるでしょうし、
 女優だってもっと魅力的な人が選べるのではないかと思うのです。

 そういった中で、北大路欣也には、むしろ、
 味方の重臣の間島弥兵衛か、敵方の朝田弓之助を演じさせた方が
 ドラマに重みがでた筈です。

 残念なドラマをあげつらうのはあまり趣味ではないのですが、
 仲代達矢版も相当に時代劇が苦境に陥った中で、
 NHKのスタッフが力を振り絞って名作として残しただけに、
 この30年のTV時代劇の現場の劣化は、
 我が国の文化レベルの劣化を反映しているのかと、しみじみと感じ入る次第です。
posted by Dausuke SHIBA at 17:25| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ