2016年07月10日

『64-ロクヨン-』(後編)(2016-6-18)

 『64-ロクヨン-』(前編)を見てから仕事が立て込んでしまい、
 大分経ってしまいましたが『64-ロクヨン-』(後編)を、
 新宿ピカデリーに見に行ってまいりました。

 まずまずの満席に近い状態で、中高年の方々が多かったです。

 前編と同様に役者の演技の質の高さは、
 重要な役割を演じる緒方直人と、
 ちょっとかっこいい?柄本佑の両2世が加わり、
 ますます暑苦しさを増して良いのですが、、
 脚本と演出の甘さと興行のまずさが、
 前編のテンションの高さを削いでしまったように思います。

******

 前編は、佐藤浩市演じる群馬県警広報官が、
 過去の64事件のしがらみと、
 現在の組織内外の軋轢に巻き込まれ、
 娘との葛藤に苛まれる中で、
 警察官僚群、事件関係者、被害家族との錯綜した群像劇が構成され、
 部分的に脚本と演出の甘さはあるものの、
 群像を構成する役者の質の高さが存分に生かされ、
 全体としては『天国と地獄』に匹敵する迫力のある内容でした。

 前編が『天国と地獄』のようなサスペンス群像劇であるのに対して、
 後編は、
 64事件を引きずる元刑事としての佐藤浩市と、
 64事件の犯人との対決に至るまでを描く
 いわば『野良犬』のようなサスペンス社会劇となります。

 前篇の最後に、64事件をなぞる誘拐事件が勃発し、
 群像集団の内部エネルギーがピークに達したところで終わります。

 後編は、このピークの混乱から始まるのですが、
 群像内の絡み合いがパッタリとなくなり、
 64事件をなぞる犯人と被害家族の行動が全体の縦糸として
 アクション描写の中心となり、
 その過程で、各登場人物の役割(前編で提示された謎)が解き明かされ、
 佐藤浩市の行動の射程が64事件の犯人の追跡に絞られ、
 最後に2人が河原で1対1で対決することになります。

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 脚本と演出が甘すぎます。

、前篇もそうでしたが、
 心理描写は佐藤浩市と犯人に集中させて、他は、
 登場人物の行動だけを描けば、言い換えれば、
 ハードボイルドに徹底すればよいのに、
 佐藤浩市の心情をおもんばかる若い部下たちが、
 佐藤浩市の行動に感動するところを長々と写したり、
 広報官チームの誠実を認めた瑛太の表情を延々と写したり、
 新旧二つの誘拐事件が密接に関係することを示すために、
 64事件をなぞる場面がやたらと長かったり、
 それに比べて、
 犯人個人に迫る描写がほとんどなかったりするので、
 後編の主題である、
 佐藤浩市と犯人の関係性が平面的で錯綜せず、
 説明的になってしまっています。

 『天国と地獄』は、
 前半では、舞台劇で、誘拐事件の家族の背景をしっかり説明し、
 後半では、野外劇で、犯人と警察の対決をハードボイルドに徹して描写し、
 最後に、犯人を慟哭させるに至る流れで構成されており、、
 後半以降では、犯人、家族及び警察の関係が、
 何の説明もなくても、見る側の心に直接迫ります。

 『野良犬』は、
 社会の不条理と、
 その中で誠実さを貫こうとして苦しむ若い刑事(三船敏郎)
 をたっぷりと描く中に、
 (全く出てこない)犯人の人間像が浮かび上がるように構成されており、
 最後に、沼地に追い詰められた実体としての犯人と、
 追い詰めた三船敏郎が泥まみれの取っ組み合いをして、
 2人は抱き合って力尽きるに至るのですが、
 見てる方も手に汗握り感極まってしまいます。

 吠えたり叫んだりする以外は説明的なせりふなしに、
 アクション描写だけで全てを言い尽くす、
 黒澤明監督ならではの脚本・演出です。

 そう考えると、『64-ロクヨン-』は、
 前篇も後編も、まだカットする余地が多くあり、
 前後編併せて4時間半ある上映時間を、3時間程度に圧縮して、
 一気にみせるべきではなかったかと思います。

 そうすれば、ラストの佐藤浩市と犯人の対決には、
 もっとエネルギーが凝縮した手に汗握るものになったのではないか。

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 そこを前後編に分けてしまうので、
 前篇を早々に見た人は、
 後編を1月待ってから見ることになります。

 私などは前編を試写会で見た身分で文句も言えませんが、
 2月待って見ることになり、
 さすがに前編の複雑かつ重要な伏線を全ては覚えておらず、
 緒方直人はこれだけ重要な役だけど前編で出てたかな?
 とかいらんことを考え出すし、
 何といっても前編ラストから続く県警内の混乱状態は、
 いったいこれ何でこうなったんだっけな、という感じで、
 どうも乗り切れません。

 また、試写会の小ぶりのスクリーンに対して、
 新宿ピカデリーの巨大なスクリーンでは、
 なんとなく画面の両脇がスケスケした感じになってしまい、
 撮影の画像設計の甘さがあからさまにでてしまいます。

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 『64-ロクヨン-』を『天国と地獄』と『野良犬』‎と比較したのは酷ではありましたが、
 『64-ロクヨン-』は、最近の大人向け日本映画(*)に比べれば、
 遥かに上質な映画といえるので、見てよかったと思っています。

 佐藤浩市にはこれからも頑張って欲しいものです。

(*)『ソロモンの偽証』のミステリーとしての構成、
   『天空の蜂』のシナリオ(これは監督が気の毒)、
   『人生の約束』の脚本・演出・俳優
   は本当に酷かった。

   特にこれらの映画のシナリオライターは、
   何か映画を誤解しているのではないかと思う。
タグ:佐藤浩市
posted by Dausuke SHIBA at 13:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画
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