2016年08月28日

『後妻業の女』モダンなクライム・ストーリー

 『シン・ゴジラ』を見た映画館での予告編で、
 シワクチャ顔をどアップにした大竹しのぶが、
 関西弁で啖呵を切る場面が目に飛び込み、
 思わず拒絶反応が体中を駆け巡ったのですが、
 公開1週間前に、お客様から試写券をいただき、
 怖いものみたさで、地下鉄九段駅の近くの
 日本教育会館に入っている一ツ橋ホールに出向きました。

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 開場15分ほど前に着いたのですが結構な長蛇の列。

 既にご主人が定年をお向かえになったと思しきシニアカップルと、
 衰え知らずのかしましシニア女性軍団と、
 若いカップルがちらほらとみえるのですが、
 大昔の試写会のような厳めしそうな映画マニアらしき人は、
 全くみあたりません。

 ご婦人方は、試写会のためにお洒落しており、
 試写会の何とも言えない特別な雰囲気は、平和でいいものです。

 開場して上映が開始されるまでの30分間、
 ホールのロビーの結構数のある座り心地のよいソファに、
 主にご婦人方なのですが、
 持ち込んだコンビニ弁当を食される姿が、
 迫力がありすぎともいえるのですが、とても幸せそうです。

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 さて、映画ですが、どろどろの愛憎劇かと思いきや、
 まったく趣の異なる、
 からっとしたモダンなクライム・ストーリーでした。

 試写券の表面を引用しますので、雰囲気を感じてみて下さい。
20160818『後妻業の女』試写券2.jpg

 トヨエツ演じる詐欺師の結婚相談所所長が、
 芯まで悪女の大竹しのぶを使って、シニア見合いを催しては、
 金はあるが愛に飢えている老人に取り入り、
 公正証書遺言を書かせて、あの世に送り込み、
 親族が茫然としている前で全財産を乗っ取っていくという、
 どんより感のある痛快なストーリー。

 1件1件、結婚→死別→相続 とけじめつけていくならまだしも、
 ある老人とは正式に結婚し、
 並行して、他の老人の内妻となり、
 さらに並行して、新しい老人と付き合いだすという展開で、
 それぞれの老人の親族を巻き込んでのドロドロ話となっていきます。

 大竹しのぶが40代から六十路に入った現在までに
 8人の老人を食い物にして、
 現在9人目にチャレンジ中という設定なのですが、
 過去のあの世にいってしまった、
 どう見ても色ボケ金持ちにしか見えない老人を
 六平直政、森本レオ、伊武雅刀、津川雅彦といった芸達者が、
 楽しそうに演じています。

 津川雅彦の遺族で遺産を乗っ取られた娘(尾野真知子)が、
 一癖ありそうな私立探偵(永瀬正敏)と共に、
 トヨエツと大竹しのぶをあと一歩まで追い詰めるのですが、
 惜しくも逃げ切られるというところで終わっています。

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 先般試写会で見た『64−ロクヨン−』もそうでしたが、
 本作も日本映画の俳優達の演技を堪能できます。

 大竹しのぶは『青春の門』(1975)で清純な炭鉱の娘役で映画デビューして、
 大地が揺れるかと思うほどの大根足で走る可憐な姿が、
 今も目に焼き付いているのですが、
 あの初々しかった娘が、年取ってこんなになってしまったかと、
 本当にそうではないかと思えるほどの、
 生活力というか、生きる力に満ち溢れた悪女を怪演しています。

 なにしろ20代から実年齢の60代までを演じており、
 20代はそれなりにそう見えるのですから、大竹しのぶも、
 80過ぎて10代を演じた森光子の化物女優域に入ったのかもしれません。

 詐欺師は、顔がよく才覚があると、こんなシビアなことになってまでも、
 やめられないほどの面白い稼業になるんだと思わせる
 トヨエツは相変わらずかっこいい。

 年老いた父親をほっぽときながら、遺産がないと知ると執念を燃やして、
 怪獣大竹しのぶに立ち向かう迫力ある美女を尾野真千子が好演しています。
 美人がきつく怒り出すと本当い怖い。

 『64−ロクヨン−』で壮絶な演技をした永瀬君も、
 これらの中に入ると、やや影が薄くなるのも仕方ないと思えます。

 『さよなら小津先生』の突っ張り女子高校生から、
 『のだめカンタービレ』の音楽大学生のバイオリニストを経て、
 成熟した女性を演じるまで、順調に育っているという感じの
 美人なのかそうでもないのか微妙な水上あさみが、
 トヨエツを弄ぶかのような水商売の女を違和感なく演じているのは、
 何となく嬉しい。

 でも、毎度書きますが、何で鶴瓶を使うのでしょうね。
 この人、地で演じているので全然怖さがでないんですよ。

 稀代の悪女である大竹しのぶをさらに騙そうという竿士なのですから、
 むしろ、桂三枝(今は桂文枝で偉くなったんですね)なんかの方が、
 よかったのではないかと思います。

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 本作は、かつて松竹で撮っていた森崎東監督の『喜劇女は度胸』などの
 一連の喜劇に通じる知的なモダンさを感じるのですが、
 人情の要素が入らない、要は、相当にハードボイルドなので、
 からっとしていて、後味が非常によいと思います。

 鶴橋康夫監督はTVを主戦場にしているようですが、
 名前は記憶にあるのですが、演出したドラマはあまり見ていないようです。

 ウィーキペディアでリストを見ていたら、
 『龍神町龍神十三番地』(2003)と、
 『天国と地獄』(2007)(黒澤作品のリメーク)だけ見てました。

 『龍神町龍神十三番地』は、船戸与一原作で、
 佐藤浩一、柴田恭兵、高島礼子、宇崎竜童、佐野史郎という豪華キャスト
 のハードボイルドミステリーで面白かった記憶があり、
 『天国と地獄』も佐藤浩市主演でしたが、酷かったという記憶があります。

 音楽も、オリジナルなのか否かよくわからなのですが、
 軽いジャズテイストで本作にモダンさを与えています。

 音楽の羽岡佳『チームバチスタ』も担当しているのですね。

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 でも、本作にでてくる老人たちは、おそらく、
 高度成長時代は若手のモーレツサラリーマンか、地主の息子で、
 バブル時代は管理職、成り上がり経営者又は成金地主で、
 老後は、後妻業の女に狙われようかという金持ちばかりです。

 先の見えない現代、この映画を観て、
 自分に引き寄せて心底楽しめる人、どれだけいるのでしょうね。

 生真面目が度をすぎている気配もある今、
 こんな悪人と悪行を、肯定的に描くのはけしからん、
 なんていう雰囲気がでてもおかしくないような気もします。

 まあ、そんな人達は、そもそもこんな映画を、
 わざわざ映画館でみないでしょうから、
 本作は、TV放映されたときに何か物議を醸すかもしれませんね。

 楽しみですね。
タグ:トヨエツ
posted by Dausuke SHIBA at 09:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画
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