2017年02月25日

『著作権実務者養成講座(上級)』受講報告

 たまには、本業のことでも書こうと思い立ち、
 2017年1月21日から1週間おきに、 
 3回にわたり、土曜日の午後の3時間半を費やした、
 著作権の研修について受講報告をまとめてみました。

 なお、私がちゃんと受講した証拠を以下に掲げます。
受講終了証(修正).jpg

 本研修は、今年度から新たに始まった、
 弁理士会関東支部主催の『著作権実務者養成講座(上級)』です。

 もともと、『著作権実務者養成講座』(ここでは「初級講座」といっておきます)
 は、5年以上前から、年2回行われていたのですが、
 著作権に興味をもつ弁理士がほぼ受講し尽くしたようで、
 受講者数が減って来たので、初級講座は年1回にして、
 他の1回を、上級講座に衣替えしたとのことだそうです。

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 弁理士は、資格試験の1次試験に著作権法が課せられており、
 60問のマークシート方式の設問のうち、著作権法に
 5問以上充てられていて、結構難しいため、鼻から捨ててしまい、
 特許・商標・意匠の主要科目だけで点を稼いで合格する弁理士も
 結構多いという状況がありました
 (昨年度くらいから、足切り点が科目毎に設定され、
 著作権法が半分解けないと不合格になったようですが)。

 私は、著作権法は結構面白く勉強したのですが、
 試験は難しく半分くらいしか解けなかったと記憶しています。

 弁理士にとっては、
 主戦場が特許・意匠・商標の特許庁への出願・権利化業務で、
 私も特許弁理士として事務所務めをしていた間は、
 著作権絡みの仕事はしたことがありません。

 しかし、一昨年(2015年)に事務所を開設した最初の仕事の1つが、
 商標に著作権が絡む事案で、このとき、
 しみじみと初級講座を受けておいてよかったと思ったものです。

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 著作権法は、知財法の中では条文数が多く、さらに、
 判例法的に裁判での判断が蓄積しつつ、次々に新しい条項が加わるので、
 特許法等の産業財産法とはまた別の意味で学ぶべき情報量は膨大です。

 初級講座は、この膨大な著作権法の内容を、時間をかけて、
 基本的な事項を満遍なく提供してくれるので、
 2か月近く土曜日が潰れますが、弁理士は受講しておくことをお奨めします。

 ただ、だからといって、研修内容が手放しで賞賛できるかといえば、
 必ずしもそうではありません。

 研修担当者には、このブログ記事は受講者による愛の鞭と受け取ってもらい、
 今後も、研修内容の充実に励んで欲しいと思います。

******

 私は5年程前に初級講座を受けており、
 確か、土曜日に半日ほどかけて、5回受けた記憶があります。

 初級講座を受けたときは、
 講師陣が個々の判例・判決例の内容をマニュアル的に扱い、
 あまり根を詰めて考えているようには思えませんでした
 (それはそれで研修としては構わないのですが)。

 そのときに違和感があったのが、
 講師が『雪月花事件』判決を当然の結論のように話していたことで、
 質疑応答でも紋切り回答であったので、
 私の本体ブログの最初の頃の投稿記事で考察したものです。

 今回の上級講座も、良い点、悪い点ありますので、
 ブログで報告しておくのもよいかと思った次第です。

●第1回(著作物性)●講師:中川弁理士 

 著作権制度は、産業財産権制度と異なり、
 著作権法で保護される対象の要件について、
 特許庁のように審査をしてくれる行政官庁がありません。

 発明が、本当に特許法が規定する発明であるか、
 意匠が、本当に意匠法が規定する意匠であるか、
 商標が、本当に商標法が規定する商標であるかは、
 これらを出願すれば、特許庁が判断してくれますが、

 著作物が、本当に著作権法が規定する著作物であるかは、
 弁理士が自分で考えなければなりません。

 その場合の拠り所は、著作権法と過去の最高裁の判例と下級審の判決例です。

 第1回は、おそらくは著作権法の専門家として活動されているであろう、
 中川裕幸弁理士(中川国際特許事務所)が講師をされました。

 私も、著作権絡みの判決を丹念に追いかけているわけではないので、
 著作物性に関する夥しい数の判例等の中川弁理士のまとめは、
 大変に重宝するものでした。

 全般的に講義の内容が悪くはなかったことを前提に、
 以下の点だけ報告したいと思います。

(1)キャラクターと著作物の関係が曖昧。

 キャラクターと著作物の関係は、裁判実務は非常に曖昧な取扱いをしてきており、
 実はきちんと区別しなければならない重要事項ですが、
 ワークショップの設例で用語を区別して使用していなかったため、
 受講者の間で若干混乱があったようです。

 これは3回目の講師の下田弁護士も同様でした。

 1回目のワークショップのファシリテータ(2回目では講師)であられた
 峯先生がさすがにきちんと整理されており、
 最近の判決の流れではキャラクターと著作物はどう把握されているのか、
 という私の愚問に対して、『キャンディ・キャンディ事件』最高裁判例を挙げながら、
 適切に回答いただいたのには感謝感激でした。

(2)特許明細書の著作物性について見解が提示されなかった。

 特許弁理士としては非常に興味があったところですが、
 中川弁理士から、話題として提供されたにも関わらず、
 持論を提示しないのは、専門家の講義としてはお粗末と言われても仕方ありません。

 明細書の著作物性についてほとんど情報がないことは、
 初級講座を経ている弁理士であれば百も承知であり、
 そのような中で。
 専門家として見解を言いたくないという極めて消極的な姿勢は、
 少々情けないのではないでしょうか。

 技術系論文は、あのSTAP細胞論文ですら、
 当然に著作物性が認められていることを考慮すれば、
 形式上、技術系論文とほとんど同じ構成である特許明細書に対して、
 著作物性が認められない理由が考え難いと思われ、
 その上で、著作権制度上どう取り扱うべきかを考えることは、
 特に弁理士に課せられることであろうと思われるので、
 中川弁理士の今後の研究を期待したいと思います。

(3)意匠の著作物への接近に対する中川弁理士の思いが面白かった。

 中川弁理士が感傷にふけった面持ちで、
 講義の最後に唐突にされた意味不明の解説が面白かったです。

 意匠にも著作物性を認めた「TRIPP TRAPP」知財高裁判決
 の解説が終わった後でしたが、
 中川弁理士は、ホワイトボードに、著作権制度の歴史を書きながら、
 意匠権は、著作権とは長い間交わることはなく、
 互いに独自の立ち位置があったのに、ここにきて、
 意匠権が著作権ににじり寄ってきており嘆かわしい、と呟かれた
 (と私には思えた)のでした。

 中川弁理士は文系ご出身の弁理士であるようなので、
 おそらく著作権制度への思い入れが強く、
 このように嘆かれたのも理解できたように思いました。

 私は、理系出身の特許弁理士なので、
 著作権法が、人格権と財産権からなりたっていて、
 人格権の手厚い保護は、特許法・意匠法等の発明者・創作者の比ではなく、
 財産権としての保護期間も、そもそもは親子3代の期間を想定してており、
 本来は、16世紀以降の芸術・文化をを守るための制度である点が
 産業財産権と全く異なり、とても面白いと思ったものです。

 従って、中川弁理士の抱かれる感傷はよく理解できるのです。

 しかし、おそらく、実際は、中川弁理士の見方とは逆であり、
 近年の著作権の財産権としての在り方が、産業財産権的なものに変貌したことで、
 著作権が意匠権ににじり寄ってしまったために、裁判実務で、
 意匠の著作物性を認めるのに抵抗がなくなってきたのではないかと、
 私には思えるのです。

 このような文系と理系の感性の違いを考えると、中川弁理士の感傷は、
 弁理士が著作権法をしみじみ考えるのに有用と思った次第です。

●第2回(著作権)●講師:峯弁理士 

 峯唯夫先生(特許業務法人レガート知財事務所)は意匠法の大家でもあられ、
 今回の講座で講師を務められるとは思っておらず、
 第1回でファシリテータをされた折には、ご尊顔を存じておらず、
 私の全くの不躾質問に丁寧なサポートをしていただいたのには恐縮いたしました。

 そして、今回の事例を活用したワークショップ形式の演習は、
 ポイントが明確に抑えられており、解り易く、
 あ〜、わかっておられる先生の解説というのは、なんとすんなりと心に収まるのか、
 と思ったものです。

 特に、私の不躾質問でしたが、
 「パロディモンタージュ事件」最高裁判例と著作権法32条(引用)との関係について、
 最高裁判例は旧法に基づくもので、新法に基づく最高裁判例はまだなされていない、
 との解説をいただき「そうか〜」と思いました。

 即ち、現行法の著作権法32条の引用の要件と、最高裁判例の引用の要件とは、
 相互の包括関係がなく、並列して考える必要があるということがよく理解できました。

 ******

 峯先生の講義は超一級でしたが、ワークショップに参加した受講者は、
 本当に初級講座を受けているのか、と思わざるを得ない方も結構多く、
 弁理士が著作権法絡みの業務をやる際には、
 よくよく自覚された方がよいと思いました。

 弁理士試験で徹底的に叩きこまれるのは、知財法を、
 具体的事例に当てはめる際に考えるべき要件は何か、ということです。
 それは著作権法でも変わることはなく、
 例えば、引用として成立するための要件は、
 最高裁判例と著作権法32条に基づいて考える必要があります。

 さすがに、私も、著作権法の場合は、
 特許法のように見なくても要件が頭に浮かぶというわけにいかず、
 いちいち最高裁判例と著作権法を見ながら整理するわけですが、
 この基本的作業を全くスルーされる方が結構いて、
 うろ覚えの勘違い要件を堂々と開陳されるなど、
 耳を覆いたくなる瞬間もありました。

 著作権絡みの実務で、産業財産権の特許庁手続程度の料金が見込めるのは、
 事件絡みの場合が多く、結構胃が痛くなるのですが、
 研修ですら基本的作業が全く身についていないようでは、
 著作権絡みの業務には深入りしない方がよいようにも思います。

 上級講座は、このあたりも考慮した
 弁理士にとっての心構えに関する内容も必要ではないか、と思う次第です。

●第3回(著作権契約)●講師:下田弁護士

 実務で契約書の作成をして思うのは、弁理士と弁護士の立場の違いです。

 弁理士は、契約書の内容を立案したり、作成できたりするのですが、
 契約を巡って揉めた場合に、民事訴訟の代理人を、
 産業財産権に関する特定侵害訴訟であっても単独ではできず、
 それ以外の民事訴訟では代理人をそもそもすることができません。

 従って、私は、契約書の内容は、契約書の教科書の説明を額面通り受けて、
 後で揉め事がおきたときに、できるだけ解釈が割れることがないように、
 特許クレームの如く、明確にすることを心がけます。

 ところが、弁護士は、最後は裁判で決着する、という戦略がとれるため、
 契約書の条項が、解釈が割れそうな内容であっても、案外平気です。

 そのことが、今回の下田憲雅弁護士(せいしん特許法律事務所)の
 仮想事例に基づく契約書案文の作成演習でも、実感できたように思います。

 ある仮想事例の契約書案文が課題でしたが、
 著作物の対象を特定する契約書第1条の模範案文が以下のようでした。

 第1条(対象、著作物)
  「本件著作物」とは、次に掲げるものをいう。
 一 別紙「デザインマニュアル」に示すキャラクターの図柄に係る著作物
 二 別紙「・・・」に示すキャラクターの本質的特徴を直接感得できる著作物。
   (以下略)

 私が驚いたのは、第1条二号です。

 特許クレームの感覚では、
 「キャラクターの本質的特徴を直接感得できる」という特定は、
 後でいくら揉めても構わないと考えているのでなければ、
 まず行うことはありえないと思われます。

 裁判所が裁判で判示する際に使用する上位概念的な言い回しであり、
 「本質的特徴」「直接感得できる」などという裁判用語の解釈が
 契約当事者にはまずできない(意味がわからない)であろうし、
 裁判で争わない限り解釈の妥当性を決めようがないからです。

 下田弁護士は、これは模範案文ではなく、個人的見解であると言われていましたが、
 研修というのは、その分野に精通している専門家が、
 ある程度最大公約数的な内容を提供するという趣旨も当然にあるのですから、
 できれば模範案文を、模範案文でない場合は、その例示案文の立ち位置、例えば、

 ・市販の契約書マニュアルにもよくでてくるものなのか、
 ・最近使われ出した最先端のものであるのか、
 ・他では使われないその人の完全な個人的スタイルなのか、

 などは、講義で断るのが望ましい姿勢であるし、
 特に、完全な個人的スタイルであるならば、留意すべき点を、
 受講者に説明すべきだろうと思うのです。

 調べてみると、契約書で、第1条二号のような特定の仕方をする例示は、
 パテント誌に弁理士が提唱しており、この場合も、
 「別紙の著作物には限られず,
  将来的な著作物を含むことを暗示できるのではなかろうか」
 などと意味不明の解説がなされています。

 契約書では、最重要の定義規定を「暗示できる」程度にしか記載しないのでしょうか?

 契約自由の原則で、契約書で、何をどう規定してもよいとはいうものの、
 キャラクター関係の著作権契約ではこのような規定ぶりが蔓延しているのでしょうか?

 下田弁護士の講義は、あまりに弁護士の実務感覚であり、
 研修の担当者は、弁理士が著作権契約書に立ち向かう場合について、
 弁護士とは異なる弁理士の実務感覚に配慮した内容で、
 上級の講義を提供することを、今後さらに検討されるべきだろうと思うのです。

******

 ということで、弁理士会関東支部におかれましては、
 来年度以降の上級講座も頑張られることを期待します。
posted by Dausuke SHIBA at 17:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 著作権
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