2017年10月15日

ロス・プリモスと東京ロマンチカ

 先日(2017年10月5日)、
 「鶴岡雅義と東京ロマンチカ」(以下「東京ロマンチカ」)
 のメインボーカルの三條正人さんが亡くなりましたね。

 もう8年前になる2009年に、東京ロマンチカの少し先輩になる
 「黒沢明とロス・プリモス」(以下「ロス・プリモス」)
 のメインボーカルの森聖二さんが亡くなっています。

《たそがれの銀座》

 私が生まれた頃から始まったと言われている高度経済成長時代が、
 東京オリンピックと新幹線開通した1964年を経て、
 ピークが続いていた1968年に、
 TVと近所の武蔵小山商店街のスピーカーから流れてきたのが、
 ロス・プリモスの『たそがれの銀座』でした。

 私は中学生でしたが、一回聴いて耳にこびりつき、
 今に至るもとても好きな曲となりました。

 『たそがれの銀座』は、
 地方から出て東京での生活と仕事に慣れてきたであろう、
 おそらく水商売で生計を立てている若い男が、
 銀座の華やかな風俗の中で恋と酒を知り、一丁前になるまでを、
 ボサノバが入った軽やかなメロディにのせて、
 銀座1丁目から8丁目までの数え唄にしている名曲です。

 『たそがれの銀座』がヒットしたのは、
 国内の道路舗装が隅々までいきわたり、
 雨の日にも、会社の帰りの男と女が、
 東京・横浜の繁華街に立ち寄って帰宅するまでに
 長靴を履かないで済むようになっていた時代といってよいでしょう。

 『たそがれの銀座』の少し前の
 『ラブユー東京』が大ヒットした1967年頃から、
 華やかな都会の中で楽しむ中産階級の若い男と女を主人公にした歌が
 様になってきたように思います
 (例えば『ブルーライトヨコハマ』(1968年)もその代表曲でしょう)。

 ちなみに、
 マクドナルドの第1号店が銀座にできたのが3年後の1971年です。

 『たそがれの銀座』の6年前に映画と歌でヒットした
 『銀座の恋の物語』(1962年)は、
 銀座のアパート(があったんですね)に住む若い男(石原裕次郎)と、
 戦争のトラウマが残る若い女(浅丘ルリ子)のラブストーリーで、
 まだまだ、高度経済成長下での地方から出てきた男女の物語
 とはいえなかったように思います。

******

 『たそがれの銀座』は、今聴いてもオシャレですが、
 当時、私が聞いたときには、ちょっとだけ時代がズレていた感じがしました。

 『たそがれの銀座』の第1番に、
  ♪ 一丁目の蛯ェ ためいきついて
  ♪ 二丁目の蛯ェ ささやいた

  第4番に、
  ♪ 数寄屋橋は きえても
  ♪ 銀座はのこる
  ♪ 柳とともに いつまでも

 とあるのですが、『たそがれの銀座』がヒットするほんの少し前に、
 銀座の蛯ヘ伐採されてしまっていたのでした。

 また、『たそがれの銀座』の第3番に、
  ♪ 三丁目のフユ子は 小唄が上手
  ♪ 四丁目のナツ子は ジャズが好き

 とあるのですが、いくらあの頃でも、
 小唄が上手な銀座の女は相当に古風で、私などイメージできなかったものです。

 作詞家の古木花江さん(星野哲郎又はその夫人といわれているようです)が、
 星野哲郎さんであれば、当代超一流の作詞家で、
 お若い頃は、当然に歌詞通り、日常を銀座で活躍されたでしょうから、
 柳に思い入れがあるのも当然で、小唄が上手な小粋な女もいたでしょうし、
 当時としても、『たそがれの銀座』の第4番にある
  ♪ 七丁目の酒場で おぼえたお酒
  ♪ 八丁目のクラブで 知った恋

 のようなことは、地方出の若い男にはまずありえないことですが、
 星野哲郎さんの若い頃がモデルとあれば百%納得です。
 
《ロス・プリモス》

 『たそがれの銀座』を歌っていたロス・プリモスは、
 当時のサラリーマンのガキにすぎない私からみれば、
 どこから見てもおじさん達の集まりでしたが、
 テカテカのポマードヘアと黒いスーツで統一され、
 ピカピカのエナメル靴を履き揃えた、
 ダンスホールかキャバレーの舞台から抜け出たような、
 とても怪しく胡散臭い、
 玄人としか形容のしようがない大人の世界の人達でした
 (森聖二が当時29歳、今の私より遥か年下というのは信じ難い)。

 ロス・プリモスは、『たそがれの銀座』の少し前に、
 今でもカラオケの定番として有名な『ラブユー東京』を大ヒットさせており、
 私はこちらもとても好きですが、
 『ラブユー東京』が、地方出の若い女が、
 七色の虹がきらめく憧れの東京で恋に夢中になっている様を歌い込んでいて、
 田舎臭さが無きにしも非ずで乗り切れなかったところ、
 『たそがれの銀座』のモダンさの方がピッタリ嵌ったという感じです。

《東京ロマンチカ》

 『小樽のひとよ』(1967年)は、
 『たそがれの銀座』と同時期にヒットした東京ロマンチカの名曲ですが、、
 私がTVで初めて聴いたときは、
 こんなアナクロな歌がなんでヒットするのかと思ったものです。

  ♪ 逢いたい気持ちが ままならぬ
  ♪ 北国の街は つめたく遠い
 で始まる、ベタでくさい歌詞を、これまた、
 戦前の映画雑誌から抜け出たような白面の古典的二枚目である三條正人が、
 透き通った高音で歌うのですから、こういう歌はこの現代にありえねぇ〜
 と思ったのですが、なんと、

 『君は心の妻だから』が立て続けにヒットして、これがまた、
  ♪ 愛しながらも さだめに負けて
  ♪ 別れたけれど こころはひとつ
 とさらに輪をかけた、ベタベタのくさい歌詞を、
 三條正人が切々と歌うのですから、
 この現代には理解できないことが起こるものだと思ったものです。

 『小樽のひとよ』は、
 小樽から東京に出て水商売で仕事をする二枚目の若い男が、
 故郷に一人残した恋人を想う歌ですが、
 故郷で女を泣かすだけ泣かせ、東京でも女を泣かせ続けた挙句に、
 結局はやっぱり故郷の女を想うというこの若い男は、
 三條正人にイメージがピッタリ重なってしまいます。

 曲のイントロをクラシックギターで一見真面目そうに爪弾く鶴岡雅義は、
 裏で三條正人を操る怪しい黒幕のように見える一方で、
 全員が、真っ白なスーツと白のエナメル靴で揃え、
 ロス・プリモスと正反対の清潔ぶりなのですが、
 グループ名が「東京ロマンチカ」とテカテカの字面と響きで、
 ロス・プリモスよりもかえって怪しい胡散臭さが増幅したものです。

《森聖二さんと三條正人さん》


 森聖二さんの柔らかいが輪郭の明瞭な歌声は女唄によく合い、
 ロス・プリモスは女唄が多く、
 『たそがれの銀座』はめずらしく男唄であったように思います。

 女唄のときは、森聖二さんの歌だけ聴くと、
 わけありの水商売の女を彷彿とするしかなく、
 これを男が歌っていると思うと気色の悪さが漂いそうにも思いますが、
 全くそうなっておらず、どれも品のよい名曲ばかりです。

 三條正人さんの透き通った高音は、女を想う若い男に合っており、
 東京ロマンチカは男唄が多かったように思います。

 そして『小樽のひとよ』も『君は心の妻だから』も、
 聴いているうちに、ドラマの世界に引き込まれる迫力があり、
 特に、大人になって、
 たとえ女たらしであっても純愛はありうる、
 女性は三條正人さんがたとえ本当に悪い人であっても好きになることがある、
 などということを知るようになってからは、
 やはり名曲であったということを再認識しています。

 両グループの歌の品が落ちないのは、
 森聖二さんと三條正人さんの半端でない圧倒的な歌唱力がなせる技で、
 バックコーラスの安定感とリーダーの確かな演奏技巧が絶妙にサポートして、
 グループ歌唱として極めて完成度が高いことに裏付けられているためと思います。

 東京のイメージが強烈な森聖二さんが大阪出身、
 北国のイメージが強烈な三條正人さんが滋賀出身というのも、
 両者のイメージが如何に演出によって喚起されていたのかがよくわかります。

 そして、森聖二さんも三條正人さんも、
 60代を過ぎても歌唱力が衰えておらず、名曲の多くを、
 当初のままに歌い続けることができたというのは驚異的で、
 プロ中のプロというしかありません。

 森聖二さんが亡くなったときに、東京ロマンチカが追悼として、
 ロス・プリモスのヒット曲を歌唱したことは知っていましたが、
 三條正人さんの『ラブユー東京』は聞いてみたかったです。

 ロス・プリモスと東京ロマンチカには、
 歌謡曲の楽しさ、大人の世界、そしてプロの何たるかを教えていただいたこと、
 本当に感謝申し上げます。

******

 三條正人さんのような、放っておくと悪い女の餌食になりそうな二枚目には、
 しっかりと掴んで離さない年上の美女が守っていることが多いように思います。

 三條正人さんの場合も、独立騒動のときに干されたりして、
 苦難の芸能人生を歩んだようですが、
 私も好きであった美人女優の香山美子さんが人生を共にしてくれました。

 香山美子さんに捨てられずに最後まで看取ってもらったのは、
 とても幸せなことであったと思います。

 三條正人さんの葬儀に出られた香山美子さんの写真を久々に拝見して、
 相変わらずお美しいので安心した次第です。
posted by Dausuke SHIBA at 17:32| Comment(0) | TrackBack(0) | エッセイ
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