2018年09月24日

『散り椿』西島君の好演と木村大作監督の映像美を堪能

 酷暑の夏が過ぎて、ようやくまともに頭が働く季節になりましたが、
 このタイミングで、
 秋にふさわしい映画の試写券をお客様からいただきました。

 いつもありがとうございます。

******

 ちょうど2年前(2016年9月10日)に『真田十勇士』を試写会で見て以来、
 久々の時代劇『散り椿』でありました。

 全体にわっさわっさと落ち着きのなかった『真田十勇士』に比べて、
 富山を舞台にした、しっとりと落ち着いた美しい時代劇でした。

 今週末(2018年9月28日)から公開されますので、
 準主役の好漢、西島秀俊君の演技と
 黒澤明監督仕込みの撮影技術者でもある木村大作監督による映像美を
 堪能していただければと思います。 

 試写券の紙面を引用しますので、雰囲気を感じてみて下さい。
IMG_0001.jpg

 但し、本作は観ていて、事件の概要と人間関係がやや解り難いので、
 以下のストーリーは事前に頭にいれて観た方が良いよいと思います。

《ストーリー》


 時は享保15年(徳川吉宗将軍の時代)。

 扇野藩のそれぞれ役職が違う若手で、互いに友人同士であった
 瓜生新兵衛(岡田準一)・榊原采女(西島秀俊)
 篠原三右衛門(緒方直人)・坂下源之進(駿河太郎)は、
 平山道場の四天王と言われ、それぞれが剣の使い手であった。

 四天王の中の瓜生新兵衛は、
 上役で榊原采女の父である榊原平蔵(榊原采女の父)の不正を訴えた。

 しかし、藩の実権を握る家老であった石田玄蕃(奥田暎二)は取り合わず、
 新兵衛を藩から追放する。

 新兵衛は、坂下源之進の妻・里美(黒木華)の姉である篠(麻生久美子)と共に、
 藩を出て、二人は夫婦となり長い放浪生活を共にする。

 その3年後、土砂降る雨の中で榊原平蔵は闇討ちに会い死亡した。

 さらに、四天王の一人である坂下源之進が藩から横領の罪を着せられて自決した。

 ******

 映画はここから始まり、
 上記エピソードは回想として断片的に描写されます。

 篠は新兵衛との長い放浪生活の末、
 肺の病で亡くなるが、新兵衛に以下の最後の願いを託する。

 ・故郷の実家の庭の椿を自分の代わりに見てほしい。
 ・榊原采女を助けて欲しい。

 新兵衛は篠の最後の願いをかなえるべく、
 18年ぶりに扇野藩に戻り、篠の実家である坂上家に居候した。

 新兵衛は、
 篠の妹で坂上源之進の自決で未亡人となった里美から手厚いもてなしを受けるが、
 里美の弟の藤吾(池松壮亮)からは闇討ちの首謀者かもしれぬと警戒される。

 新兵衛は、榊原平蔵の闇討ちの濡れ衣を着せられていること、
 坂下源之進が腹を切らされたことを知り、
 18年前の不正事件との関係を疑い、
 その真相を再度突き止めるべく行動を起こす。

 決して快く迎え入れているわけではない坂下家との軋轢、
 闇討ちの主犯として新兵衛を逆恨みする亡き榊原平蔵の妻(富司純子)の怨念、
 今では扇野藩の重役にまで昇りつめた榊原采女との友情、
 新兵衛を抹殺しようと暗躍する石田玄蕃との対立、
 そして最愛の妻である篠の心が采女と新兵衛のどちらにあったのか。

 散り椿の静かな季節の中で、
 新兵衛は悩み苦しみながら、采女と共に、
 石田玄蕃との最後の対決に出向く。

《西島君が好演》

 西島秀俊君は、今や、
 知性に溢れた二枚目かつ演技派の代表といってよいでしょう。

 私の周りにいらっしゃる女性で(西島君より皆さま年上ですが)、
 西島君を悪く言う人を見かけないほど、好感度も抜群です。

 私が西島君を初めて注目したのはNHKの連続ドラマ
 『ジャッジ 〜島の裁判官奮闘記〜』で、
 離島の裁判所で、
 美しい妻(戸田菜穂)と娘(枡岡明)に支えられ悪戦苦闘する
 若き判事役でした。

 そういえば、この判事は大阪地裁で知的財産専門という設定で、
 西島君に演じてもらえれば本望だなと変なところで感激したものです。

 判事という仕事柄、全く感情を表に出さないにも拘らず、
 離島と家族の様々なエピソードに接したときの
 内面で生じる葛藤・感動・悲哀、そして彼自身の心の成長が伝わる
 表情の微妙な演技が素晴らしかったことが強く印象に残っています。

 西島君は、『アンフェア』での猟奇殺人者も上手でしたね。

 ******

 本作でも、西島君は、新兵衛に、美しい自分の妻が慕っていたのは、
 実は采女ではなかったのかと嫉妬させるに相応しい
 知性と大人の落ち着きを備え、しかも、藩の重役として、
 藩の不正事件と父親の暗殺事件に関与したのではないか、
 と疑われもする影のある雰囲気にぴったり嵌っています。

 最初は、岡田君に対抗して、
 ちょん髷結っての殺陣は大丈夫かなと心配だったのですが、
 全くの杞憂で、
 最後の悪家老・石田玄蕃一味との殺陣は鬼気迫っており、
 かっこよすぎます。

《脇役の若手男優陣が好演》


 悪家老・石田玄蕃を快く思わない若き扇野藩主(渡辺大)、
 江戸から戻った藩主を警護する四天王の一人である篠原三右衛門(緒方直人)、
 帰郷した新兵衛を出迎える平山道場師範代(柳楽優弥)、
 帰郷した新兵衛に秘剣を伝授される里恵の弟の坂上藤吾(池松壮亮)、
 坂上家の下男(柄本時生)がそれぞれ出番は少しなのですが、
 皆、存在感のある素晴らしい演技をしています。

 緒方直人、渡辺大、柄本時生は、
 それぞれの親父(緒形拳、渡辺謙、柄本明)を彷彿とします。

 映画俳優も段々歌舞伎のように演技的に世襲になってきたか、
 と思ったほどです。

 中でも、緒方直人は、いろいろな秘密を抱えたまま、
 命をかけて藩主を守り抜く三右衛門を、
 とても若手とは思えない不敵な面構えで好演しており、
 緒方拳が乗り移ったかのような迫力がありました。

 試写券の右下の、およそちょん髷が似合っていない、
 つるんとした若造が坂上藤吾(池松壮亮)で、
 試写券を見たときは大丈夫かな、と思ったものです。

 しかし、藤吾を演じた池上君は、
 若輩のうちに坂上家を双肩に担うことになる毅然として実直、一方で、
 新兵衛仕込の秘剣の使い手として見せ場をつくる藤吾の二面性を淡々と演じており、
 大変によかったです。

 ******

 なお、富司純子さん(私などは「藤純子」の方がピンとくるのですが)は
 今でも大変に美しく、
 息子の采女に期待するも、新兵衛を呪詛する年老いた鬼女を堂々と演じており、
 本作を引き締めています。

《映像美》

 藤沢修平の小説の舞台となる荒涼として寒々しい東北とは一味違う、
 緑生い茂る山々を背景とした清流に近い美しい富山の奥地が舞台ですが、
 これは本作の映像をそのまま説明したもので、
 黒澤明監督の映画で撮影技師として腕を磨いた、
 木村大作監督にして初めてできる描写と思います。

 黒澤明監督は、背景の美しさよりは、
 そこで蠢く武将の衣装や舞台となる城内の美術に焦点を当てますが、
 木村大作監督は、肌理に立ち入った背景そのものの美しさに惹かれているようです。

 私は、三右衛門に護衛された藩主が、鷹狩りに出かけた折に、
 藩主一行が清流に沿った林の中を馬で駆け抜けるときの、
 清流の水音、馬のいななきと足音、木々の葉音などの自然音が、
 背景の緑と混然となった映画ならではの動的な美しさに見とれてしまいました。

《辛口の注文》

 以下は、映画を観てから読まれる方が良いと思いますが、
 興味深々の方は自己責任でご自由にお読みください。

■脚本■
 本作は、闇討ちの濡れ衣を着せられたまま、
 采女と新兵衛の間で揺れ動く篠と共に藩を出奔した新兵衛が、
 亡き篠の願いをかなえ、闇討ちの真相に迫るというのが
 大枠のストーリーですが、
 @藩の不正事件と闇討ちの真相は何だったのか、
 A篠は果たして采女と新兵衛のどちらを慕っていたのか
 を大きな2つの謎としてミステリーの骨格を形成します。

 ところが、本作は、謎の発端となる出来事が、全て、
 篠が亡くなる場面以降の回想の中で、断片的に語られるだけなので、
 重要な出来事の概要が見ている方で理解し難く、
 謎の解明と肝心の「散り椿」の意味が十分に伝わってきません。

 これは脚本(小林堯史)に問題があると思います。

 小説は主人公の内心や過去の回想をいくらでも文章で説明できますが、
 映画はせりふの説明に頼るべきではありません。

 新兵衛が出奔する前の出来事は、映画の30分を割いてでも、
 時系列で具体的に描写すべきです。

 謎@に関係する事件描写だけでなく、
 謎Aに関わる若き篠、采女、新兵衛の人間関係もきちんと描写しておくべきです。

 その描写があれば、観ている方は想像力で補えるので、
 本作冒頭で具体的に描写した、
 長い放浪の果てに、疲れ切って病床にある篠が新兵衛に言付ける場面
 の方をむしろ回想にした方が、、
 あの若く美しかった篠がどのような思いで新兵衛に言付けをしたかが、
 観る側の心に迫ったのではないかと思うのです。

 そういう意味もあって、本作では、
 篠を演じた麻生久美子さんをもう少し美しく撮れなかったかと
 思います(木村大作監督は人間は描写できないと言われますよ)。

 ******

 また、回想で謎@と謎Aの過去の出来事を説明する構成にしてしまうと、
 俳優の演技力に大きな負荷がかかってしまいます。

 そこをきちんと表現しなければ、
 その葛藤を籠めてなされるべき殺陣の迫力(それこそが時代劇の醍醐味)
 が削がれますが、後述するように、
 新兵衛の最愛の妻と長年の友の間で苛まれる心の葛藤を、
 演技力で表現することは、岡田君には無理です。

 黒澤明監督の時代劇は、展開するエピソードの順番に沿って、
 見る側は出来事を具体的に理解できるようになっているので、
 (敵も味方も)登場人物の心の葛藤に感情移入できて、
 最後の壮絶な殺陣の場面によるカタルシスが強烈であるといえます
 
 『椿三十郎』の三船vs仲代が典型ですよね。

 本作は、脚本をうまく構成すれば、
 『椿三十郎』に匹敵する面白さになったのではないかと惜しんでいます。

■ミスキャスティング■

 本作は、上述したように、脚本構成によらず、
 新兵衛の心の葛藤が見る側に伝わる必要がありますが、
 岡田君には無理です。

 岡田君演じる新兵衛は、本作の冒頭から終わりにかけて、
 試写券で大写しされているような、
 髭面に眉間にしわ寄せた表情のままで、これでは、
 いったい何を考えているのかわからない薄汚い浪人にしか見えません
 (最初のうちは、着物だけは匂わんばかりの薄汚さがリアルで、
 桜京十郎に見えてしまい困りました)。

 木村大作監督は、俳優が演技をする素晴らしい環境は設定できますが、
 俳優に演技指導することはできないのではないかと思います。

 そうであれば、
 木村大作監督にとってキャスティングは極めて重要であると思います。

 本作では、2つのミスキャスティングがあると思います。

 ******

 1つ目は、先にも触れたように、新兵衛と采女のキャスティングです。

 私は、新兵衛を西島君、采女を岡田君に演じさせるべきだったと思います。

 本作のような、理不尽な目にあって長年の放浪で妻まで失う悲運な男であって、
 それでも人間らしさを失わない男は、
 二枚目の演技力と色気のある俳優にやらせて丁度よいのです。

 原作では、新兵衛は剣は強いが粗忽なややシンプルな性格のようですが、
 映画でキャラクターを変えても何ら問題はないと思います。 

 寡黙な(実は剣の達人である)采女の役であれば、
 岡田君でも十分に雰囲気は出せたのではないでしょうか。

 ******

 2つ目は、悪役の家老である石田玄蕃に名優奥田暎二を当てたことです。

 本作を見る限り、この悪家老は、
 過去の出来事を暴こうとする新兵衛を謀略にかけるには、
 やることが相当に軽く、無能のように見えます。

 このような軽い悪人役に奥田暎二ではいかにも勿体ない。

 悪家老の護衛をする剣の使い手らしき役人に、
 TVで軽い悪役をこなすベテラン俳優が演じていますが、
 むしろ、こちらの俳優を悪家老にして、
 奥田暎二に悪家老の護衛役人をやせた方がよかったのではないかと思います。

 この護衛役人を、
 新兵衛と采女の二人がかりでも敵わないかもしれない雰囲気にして、
 無能の悪家老に長年仕えているが、
 どこかで死に場所を探しているニヒルな男とすれば、
 多少浮き上がるかもしれませんが、奥田暎二にはピッタリかと思います。

■殺陣■
 本作は、新兵衛の強さを演出するための、あまり意味があるとは思えない
 新兵衛の妙な太刀捌きと立ち回りの場面が多すぎるように思います。

 本作は、勝新太郎の『座頭市』シリーズや三船敏郎の『用心棒』シリーズのような
 殺陣そのものの迫力を見せる映画ではなく、むしろ、
 藤沢周平原作のように、剣の達人でありながら不遇な目に合う下っ端の武士が、
 理と情に殉じて最後にその強さを静かに爆発させるという、
 人情時代劇の流れにあると思います。

 そうであれば、本作は殺陣を前面に出さず、
 登場人物の心情描写にウェートを置いて、
 最後に本格的殺陣を展開すべきだったと思うのです。

 実際、西島君の采女についてはそのようになっていて、
 ラストまでほとんど殺陣の場面はなかったにも拘わらず、
 ラストにおいて展開された立ち回りは十分に剣の達人ぶりが伝わり、
 カタルシスがあったと思います。 

■岡田君■
 本作を観終わると、
 普段俳優をしていないタレントと、俳優を専門とする役者の違いが、
 まざまざとわかってしまいます。

 岡田君は主役なのに、準主役の西島君だけでなく、
 上記した癖のある若手の脇役に完全に食われてしまっています。

 脚本とミスキャストの影響を最も受けてしまっており、
 岡田君には同情の余地は多分にあると思います。

 しかし、岡田君も、もし役者をこのまま続けるのであれば、
 本作を繰り返し観て、タレント業と引き換えに、
 専門の俳優の演技を真剣に学んで、真の役者にならなければいけません。

 殺陣師のまねごとなどしている余裕はないものと考えるべきです。
posted by Dausuke SHIBA at 11:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/184503157
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック