2019年06月16日

『陸王』こはぜ屋のために知財コンサルティングをする(その1)

 ここのところ、オリンピック関連商標の話ばかりで、
 なかなか映画・TVドラマの記事を書くことができませんでした。

 相変わらず、TUTAYAでDVDを借りて、
 2年遅れでTVドラマを見る日々ですが、
 ようやく話題になった『陸王』を見終わりました。

 『陸王』は、足袋製造の老舗メーカー「こはぜ屋」が、
 新規スポーツシューズの開発を始めたことで展開する人間模様を描いた、
 『下町ロケット』(三上博史版/阿部寛版)『七つの会議』(TVドラマ版/映画版)でお馴染みの池井戸潤原作の連続ドラマです。

 役所広司が、こはぜ屋の4代目社長を演じており、さすがにうまく、
 斜陽の中小企業の社長の悲哀感をこれでもかというほど滲み出しています。

 志賀廣太郎が、こはぜ屋の資金繰りで銀行と折衝するもコテンパに叩かれ、
 夢だけ追っているようにみえる4代目社長がこはぜ屋を潰すのではと、
 体を張って新規開発を止めようとするも、
 4代目社長の思いに押し切られて今日も銀行に頭を下げに行くという
 なくてはならない役どころを、これまた悲哀感たっぷりに演じています。

 ドラマ放映時に、以外とクールな役どころだったと評価されていましたが、
 やはり出てきただけで暑苦しさ全開の松岡修造も、
 企業買収だけで成功してきた得体のしれない社長を怪しく演じています
 (他の役者より頭一つ背が高くかっこいい)。

 これらの芸達者や安定したビジュアルは安心してみていられるのですが、
 役所広司の息子やマラソン選手を演じる若手が下手くそで、
 もっとさわやかで美しい女優はいないのか、というほど、
 魅力的な女性キャラクターがいない(これは池井戸潤原作の特徴ですが)
 など、いつもの池井戸潤原作ドラマだと思えば、
 そこそこ見ていることができました。

******

 『陸王』は新規技術を取り入れた開発商品を巡る群像劇といえますが、
 新規技術を語るドラマとしては決定的に欠けている要素があり、
 我国の企業の開発現場を知る者には、リアリティが欠如しています。

 新規技術を取り入れた商品開発においては、
 技術と商品を守るための知財戦略が事業の成否を決定づけますが、
 『陸王』には、こはぜ屋と知財戦略との関係がほぼ絶無であるため、
 池井戸潤原作を特徴付ける知的財産権を巡る知的バトルの面白さがなく、
 登場人物の思いばかりが前面にでてしまう結果、
 暑苦しい感動の押し付けに堕してしまっています。

 それでは、『陸王』に、
 『下町ロケット』に登場した知的財産専門の神谷弁護士を出演させれば
 知的バトルの面白さがでたかというと、そうはなりません。

 『下町ロケット』では、神谷弁護士が、
 佃製作所が既に取得した特許権を上手く活用して敵の大企業を撃退するのですが、
 『陸王』では、4代目社長が、
 特許樹脂「シルクレイ」と特許織物「ダブルラッセル」を活用しようとしますが、
 彼は特許制度に疎く(それは必ずしも非難されることではありませんが)、
 仮に神谷弁護士が付いても、こはぜ屋が特許権を有していないため、
 特許樹脂と特許織物の特許権者の意向によって、こはぜ屋にとって、
 これらの素材の供給が非常に不安定になる状況は食い止めようがないと思います。

 特許弁護士は、既にある特許権は活用できても、
 新たに創作されつつある発明の特許権を取得することは得意ではありません。

 そうなると、『陸王』に知的財産権を巡る知的バトルの面白さを与えるには、
 特許権活用に強い特許弁護士ではなく、
 特許権取得の専門家たる弁理士を出さざるをえないことになります。

 このように、『陸王』は、特許制度を考える上で、
 絶好の反面教師的題材であると思いますので、
 こはぜ屋が適切な知財コンサルティングを受けていれば、
 より面白いドラマになったであろうと、
 特許の無名塾版『陸王』を考えてみました。

■第1話■(前編)

 埼玉県に所在する足袋製造メーカー「こはぜ屋」は、
 創立百年を超える老舗で、
 全盛時は社員100名を超える業界大手であったが、
 足袋市場が長期的に縮小し、同業者が相次いで廃業する中、
 優れた縫製技術による履き心地の良い足袋を提供し続けた信用で、
 何とか生き残ってきた今や社員20名足らずとなった中小企業である。

 足袋関連産業は、銀行からは化石産業のように見られ、
 将来的に安定した資金繰りを続ける保証もなくなってきた。

 肝心の、縫製技術を裏付ける特製ミシンも、
 既にそれを製造しメンテナンスできるミシンメーカーがなく、
 廃業した同業者から譲り受けた中古ミシンの部品を使い回して、
 目先の事業運営を凌いでおり、
 銀行ならずとも、明るい将来像など描きようがない状況だった。

 こはぜ屋の4代目社長の宮沢(役所広司)は、
 何か新しいことをしなければ、こはぜ屋もじり貧だと、
 わかってはいたが、よい考えなど簡単には浮かばなかった。

 ******

 こはぜ屋の宮沢社長(役所広司)と就活中の息子の大地(山崎賢人)は、
 ある日、市役所前がスタート・ゴールとなるマラソン大会を観戦した。

 マラソン大会には、
 優勝候補である茂木選手(竹内涼真)が出場するが、
 大地は彼の熱烈なファンであった。

 しかし、茂木選手は、トップで市役所前に入るも、
 宮沢社長と大地の見ている前で、
 足を痛めてゴールすることができず退場するという結果となった。
 
 宮沢社長の知人であるスポーツ用品店長の有村(光石研))は、
 宮沢社長に茂木選手の状況を以下のように説明した。

(1) マラソンランナーの走法の主流である、
  踵から着地するヒールストライク(踵着地)走法は、
  業界最大手のアトランティス社が専用シューズを製造販売しているが、
  茂木選手はヒールストライク走法に対応できずにいて、
  足の故障に繋がる負荷がかかったのだろう。

(2) 茂木選手は、本来的に走りの理に適う、
  足裏中央部で着地する「ミッドフット走法」に切り替えるべきだが、
  「ミッドフット走法」に適した良いスポーツシューズがない。

 ******

 有村店長の説明を聞いた宮沢社長は、 
 「こはぜ屋にとっての新規事業はこれだ!」と閃き、
 こはぜ屋の縫製技術を適用して
 走りの理に適う「ミッドフット走法」に適した、
 ランナーの足に負担がかからない「裸足感覚」のスポーツシューズを開発し、
 茂木選手にも履いてもらおう、と決意した。

 こはぜ屋の融資担当の銀行員である坂本(風間俊介)が、
 宮沢社長の新規事業に臨む心意気を評価して後押ししたこともあり、
 経理担当の番頭専務(志賀廣太郎)の
 「社長の思い付きで「こはぜ屋」を潰す気か!」の猛反対を押し切り、
 宮沢社長は、新規スポーツシューズの開発に乗り出した。

 ******

 宮沢社長は、
 職場のムードメーカーで、足袋の構造・縫製に熟知する
 正岡あけみ(阿川佐和子)を開発リーダーに据え、
 残業時間を全て新規スポーツシューズの試作に充てた。

 来る日も来る日も、作っては履き、作っては履きを繰り返し、
 こはぜ屋縫製技術を導入した足袋型形状の試作品の
 200足を超える失敗作の山を築きながら、
 宮沢社長は試作品を履いて近所を走り回った結果、
 ミッドフット走法に適したフィット感と軽さは出たものの、
 ソール(靴底)素材の耐久性が不足しており、
 このままでは本格的なスポーツシューズとしては使えない、
 という壁に突き当たった。
(続く)

■幕間■


 ここまでは、ほとんどドラマに沿った内容ですが、
 ここまでで、宮沢社長とあけみは、
 彼らの目指したスポーツシューズの発明、
 それも十分に特許性のある発明を完成させています。

 従って、この段階で、宮沢社長は弁理士を探す必要があります。

 私の感覚では、弁理士役は、年齢・知性・見栄えを考慮すると、
 ちょっとカッコよすぎるかもしれませんが、
 西島秀俊君に演じてもらいたいと思います。

 次回は、西島弁理士がこはぜ屋に知財コンサルティングする
 という設定で話が進みます。
posted by Dausuke SHIBA at 13:18| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/186146615
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック