2019年06月16日

『陸王』こはぜ屋のために知財コンサルティングをする(その2)

 今回は、特許の無名塾版『陸王』です。

 第1話(前編)では、
 老舗の足袋製造メーカーのこはぜ屋の4代目社長である宮沢(役所広司)が、
 こはぜ屋の縫製技術を導入した新規スポーツシューズの開発に着手し、 
 足袋縫製技術者のあけみ(阿川佐和子)をリーダーに据え、
 200足を超える失敗試作品の山を築いた末に、
 基本コンセプト(ミッドフット走法に適したフィット感と軽さ)は出たものの、
 ソール(靴底)素材の耐久性が不足しており、
 このままでは本格的なスポーツシューズとしては使えない、
 という壁に突き当たったところまでお話ししました。

 ここで、宮沢社長の新規スポーツシューズの開発を後押しする
 融資担当の銀行員である坂本(風間俊介)が、
 苦戦する宮沢社長を陣中見舞に訪れます。
 
■第1話■(後編)

●こはぜ屋の事務所●

〔坂本〕社長、苦戦されているようですね。
〔宮沢〕坂本さん、ちょっと壁にぶつかってしまって。
〔坂本〕しかし、みたところ、
    新規スポーツシューズの足袋型形状はできているようですし、
    ここで、頭の整理をする意味でも、特許出願を検討されてはいかがですか?
〔宮沢〕でも、しがない足袋屋にとっては、特許なんて別の世界の話で、
    どうしていいかもわかりません。
〔坂本〕以前、佃製作所の佃社長(三上博史/阿部寛)の顧問弁護士をしている
    神谷先生(寺島しのぶ/恵俊彰)から、
    腕のいい弁理士として西島先生(西島秀俊)を紹介してもらったことがあります。
    その弁理士でよければ、新宿の曙橋ですが、一度訪問されてはいかがですか。

●西島特許事務所の前●
〔あけみ〕社長、かわいらしいビルだけど、ここみたいですよ。
西島特許事務所ビルと表札.jpg
●西島特許事務所の中●
 ミーティングテーブルを挟んで、
 西島弁理士と、宮沢社長とあけみが腰かけている。
西島特許事務所の室内.jpg

〔あけみ〕西島先生、おしゃれな事務所ですね。
〔西島〕(にこにこしながら頷く)

 秘書(石田ゆり子)が、軽く会釈をしながら、
 レモンティーを注いだ白磁のティーカップを並べて置く。
 宮沢は、秘書の白魚のような美しい指に見とれる。
 秘書は、にこっと微笑んで退室する。

〔あけみ〕
特許事務所の秘書さんて、とてもお美しいんですね。
     いやだ、社長、何をぼんやりしてるんですか!
〔西島〕坂本さんから、概要は伺いました。
    早速ですが、開発中の新規スポーツシューズについて詳細をお話し下さい。
〔宮沢〕・・・というわけで、壁にぶつかっているところで、
    こんな状態で特許どころではないように思うのですが・・・。
〔西島〕何をおっしゃっているんですか!
    今のお話では、もう特許出願はできたも同然で、
    今後、試作品を関係者に試用してもらう計画のようですから、
    一刻も早く特許出願をしてしまいましょう。

******

 西島弁理士は、ピンときていない宮沢社長に、以下の説明をする。

《発明者について》
 発明者は、
 新規スポーツシューズの基本コンセプトを提示して、
 試作品の製造を指揮し、試作品を試着して評価してきた宮沢社長と、
 宮沢社長の基本コンセプトを受けて、
 具体的に図面を作成し材料を選んで縫製した正岡あけみ様になります。

《特許を受ける権利》
 就業規則を見ると、職務発明制度を取り入れていらっしゃるので、
 宮沢社長と正岡様の特許を受ける権利は全てこはぜ屋さんに移転しています。
 従って、出願人と将来の特許権者はこはぜ屋さんということになります。
 この就業規則を作成された社労士の先生は抜かりないですね。

《秘密保持》
 試作品を不特定多数の方の前に提示する作業は、特許出願してからにして下さい。
 特許出願するまでに1月ほどかかると思いますので、
 できれば、その間に、ソール素材を探されたら良いと思います。

 但し、アドバイスを受けるために試作品を他の方に見せる場合、
 その方とは必ず秘密保持契約を結んでください。

 お話を伺った限りでは、
 スポーツ用品店の有村店長(光石研)とまずは結ぶべきと思いますし、
 ご家族、社員の方には、特許出願が終わるまで、
 開発内容を口外しないようくれぐれも注意すべきことをお伝え下さい。

******

〔宮沢〕しかし、失敗作しかないのに、何故、特許出願できるのでしょうか?
〔西島〕失敗作といっても、それは、実用上、耐久性が不足しているだけで、
    宮沢社長が当初構想された基本コンセプトである、
    ミッドフット走法に適したフィット感と軽さは達成していて、
    「裸足感覚」のスポーツシューズになっているじゃないですか。

    基本コンセプトを達成するのに、
    ミッドフット走法に適した靴底の形態と足袋型形態という基本構造を創作され、
    基本構造の形成手段として足袋の縫製形態を導入し、さらに、
    その縫製形態は、足袋では使用しないような微妙なアレンジがされています。

    特許性のあるバリバリの発明です。
    ただ、50mは走れても、100m走ると壊れてしまうだけですから、    
    ないのは耐久性だけです。
    ですから、新たな素材がみつかって耐久性が確保できたら、
    また特許出願すればいいですよ。
〔宮沢〕確かに、言われてみれば、
    有り合わせの材料を組合わせていつもの作業をして試作したつもりでしたが、
    我々は苦労していろいろな工夫をしたということですね。
〔西島〕その通りです。工夫をした部分に特許は宿るんです。
    ところで、200足の失敗作ですが、
    一度、貴社工場で見せていただいてよろしいですか?
〔宮沢〕え〜、あんなものを見てどうするんですか?

●こはぜ屋の縫製工場●
 西島弁理士が入ってくるのを見て、
 女性社員は、瞳に☆が瞬き、心が「♡♡♡♡♡♡」になっている。

〔宮沢〕西島先生、これが失敗作の全てです。
    最後の20足は耐久性を向上させるためのソール素材を選択したものですが。
〔西島〕(手にとって見ながら)なるほど。
    200足のうち、最後の50足は実施例に使えるな・・・・・・。

●こはぜ屋の事務所●
 西島弁理士、宮沢社長、番頭専務(志賀廣太郎)が打合せをしている。

〔専務〕社長、失敗作しかないのに、30万円もかけて特許を出願するなんて、
    いったい、何を考えているんですか?
    特許を出せば売れるというのならともかく、
    きちんと、使えるものになって、売れるようになってからでいいではないですか。
〔西島〕専務が仰るのもごもっともな部分があります。
    特許は先行投資で、特許を出せば商品が売れるわけではなく、
    売れるか売れないかは、貴社の営業努力によりますから。

    但し、考えてみて下さい。
    特許が威力を発揮するのは、貴社の営業努力が実を結んで成功してからです。
    貴社が成功した途端、他社は模倣品を貴社が切り開いた市場に投入します。
    特にアトランティス社のような開発力のある大企業であれば、
    あっという間に模倣品を投入して、安売りを仕掛けてくるでしょう。

    貴社が特許をもってなければ、貴社の成功は短命に終わりますが、
    貴社が特許をもっていれば、貴社の市場には当面誰も参入できませんから、
    貴社の成功は先行投資を回収するのに十分な長期間継続することになります。

    特許出願30万円前後と、さらに権利取得までに必要な40万円前後の
    計70万円前後を回収できない事業であれば、
    やらない方がマシと考えてもよいのではありませんか。
〔専務〕ウー・・・、それも一理ありますな。
    社長、それでは、今回の特許出願費用は予算計上しますから、
    きちんと、使えるものにして、売って下さいね。
〔西島〕それでは、宮沢社長、本件特許出願の手続を明日から開始します。
    それと、新規スポーツシューズの名称は商標登録をすべきと思いますので、
    決まったら必ずお知らせ下さい。
〔宮沢〕西島先生、是非とも、よろしくお願いします。
(続く) 
posted by Dausuke SHIBA at 14:42| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ
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