2019年10月27日

N国党系YouTuberによる著作権問答を考えてみた(その1)

 著作権関係の記事を検索していたら、たまたま、
 話題のN国党系YouTuber氏が、文化庁の問合せ窓口の職員と、
 結構真面目に、著作権の話をしている配信番組がヒットして、
 とても面白く見ることができました。

 YouTuber氏の文化庁職員への無手勝流の突撃問答ですが、
 YouTuber氏が真面目に正面から著作権制度を理解しようとしている
 ことがよく伝わる一方、、
 ここまで怖いもの知らずに勉強しないで著作権法に挑めば、
 YouTuber氏のような理解の混乱が生じるのも無理はないと思います。

 ちなみに、文化庁職員は、忍耐強く、
 丁寧で間違いのない対応をされていました。

 今回は、この著作権問答について、
 著作権制度に基づいて考えるとどうなるかを説明ししてみます。

 なお、このYouTuber氏の配信番組は、以下の通りです:

 ●ユーザー名:平塚正幸さゆふらっとまうんど
 ●配信番組名:
 『文化庁に「時事の報道」に著作権を主張できるのか聞いてみた』
 ●URL:https://www.youtube.com/watch?v=j1EDABP8Ix0

■YouTuber氏の直面したトラブルの概要■
 私は、上記配信番組の中での、
 YouTuber氏の文化庁職員との問答の内容しか見ていないので、
 YouTuber氏の直面したトラブルの内容の詳細はわかりませんが、
 以下が概要と思われます。

 YouTuber氏は、
 ご自身の過去のtwitter記事(以下「テロップ画像利用記事」)で、
 某TV会社の報道番組の文字テロップが映し出されている一場面
 (以下「テロップ画像」)をスクリーンショット(画像のまま複製)
 して、テロップ画像利用記事で、テロップ画像を表示して説明したところ、
 当該TV会社がTwitter社に、
 テロップ画像利用記事中のテロップ画像を表示して説明した部分は、
 著作権侵害であると訴え、
 YouTuber氏はテロップ画像利用記事を削除せざるをえなくなった。

 なお、テロップ画像利用記事が、
 Twitter社管理運営部門側によって強制的に削除されたのか、
 YouTuber氏によって自発的に削除されたのかはわからないのですが、
 YouTuber氏としては不本意な削除であったようです。

■著作権法32条(引用)■

《結論》
 まず、結論から説明します。

 YouTuber氏は、スクリーンショットしたテロップ画像を、
 テロップ画像利用記事で表示した際に、
 「TV会社の報道番組からスクリーンショットした
  テロップ画像を引用して説明します」
 の一言を添えて説明をすればよかったのだと思います。

 著作権法32条1項は以下の通りです:
 「公表された著作物は、引用して利用することができる。
  この場合において、
  その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、
  報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で
  行なわれるものでなければならない。


 TV番組及びYouTuber氏の配信番組のような、
 創作的に撮影され編集されて放映・配信された音声を含む映像と、
 映像を構成する各静止画像は著作物であると概ね考えられています。

 TV会社の報道番組(及び構成画像)が公表されていること
 は明らかといってよいのでしょう。

 従って、YouTuber氏が、公表された著作物であるテロップ画像を、
 引用して利用することができることは、
 著作権法で保証されているということです。
 
 この場合の「利用」とは、
 著作権者の権利としての支分権に基づく全ての行為ですから、
 スクリーンショットによる複製や、
 ネット配信等のネット上の公衆送信も全て含みます。

 YouTuber氏は、他人の著作物を利用するときは、
 以下に留意して、引用であることを断って利用すれば、
 それ以上、著作権法の面倒な規定に思い悩んで、
 今回の突撃問答のような、
 エネルギーの無駄と思えるようなことをする必要がない
 ともいえます。

《留意事項》
●YouTuber氏が、他人の著作物を利用するときは、
 当該他人に、
 引用してもよいかどうかの確認を求める必要はありません。

 著作権法32条1項では、引用は当然にできるのであって、
 確認を求めなければならないことは
 何ら規定されていないからです。

 むしろ、下手に確認を求めめると、当該他人に、
 著作物の利用の許諾(ライセンス)を求めているとみなされ、
 引用していることにならないことになりかねません。

●引用であることを断ってテロップ画像を表示した説明に対して、
 TV会社は、それは引用でなく著作権の侵害である、
 と主張することは可能ですが、
 それが引用でないことは、TV会社が立証しなければなりません。

 従って、YouTuber氏は、Twitter社に、
 テロップ画像を表示した説明は著作権法に規定される引用なので、
 著作権の侵害には当たらない、と主張すれば足りるはずです。

 Twitter社は、TV会社側に、
 YouTuber氏は「引用なので問題ない」と主張しているが、
 「引用でないことを立証できるか」と問い合わせ、
 TV会社が立証できなければ、
 YouTuber氏の動画は削除する必要がないと判断すればよいのです。

《引用とは》
●引用の範囲(引用であるか否か)は、
 最高裁の基準と著作権法32条1項の基準が独立して存在します。

〔最高裁による引用の基準〕
 (昭和51(オ)923号「パロディモンタージュ」事件
  最高裁判所 第三小法廷昭和55年3月28日判決)
  
引用にあたるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、
 引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを
 明瞭に区別して認識することができ、かつ、
 両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる
 場合でなければならない。


〔著作権法32条1項の基準〕
 著作権法32条1項の後段が引用の基準です。
 「引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、
  報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれる
  ものでなければならない。

 
●これらの基準による引用の範囲を超えて他人の著作物を利用すると、
 当該他人の著作権を侵害するリスクに晒されることになるので、
 他人の著作物を利用することが引用に該当するか否かは、
 引用する側もしっかり考えておくべきです。
 (著作権者側が引用でないことを主張してきた場合に、
  反論できるようにしておかなければなりませんので)。

●最高裁の基準と著作権法32条1項の基準は抽象的ですが、
 個別の多くの事件で、裁判所の具体的な判断が蓄積され、
 著作権法の参考書でも整理されているので、
 本来は、他人の著作物を利用する者(本件ではYouTuber氏)が、
 裁判所の判断の蓄積と参考書の整理を勉強して頭に叩き込むべきです。

 しかし、引用は、おそらく著作権制度が形成される前から、
 報道、批評、研究の分野においてなされてきており、
 当該分野では、引用の基準(ルール)は既に確立されていた、
 ともいえます。

 YouTuber氏も、多少なりとも報道、批評、研究に関する
 新聞・TV・論文・書籍を読んでいるのでしょうから、
 これらの中でなされる引用の態様を経験的に理解するだけでも、
 YouTuber氏自身の他人の著作物の利用が、
 引用といえる常識的な利用態様なのか、
 引用といえない非常識な利用態様なのかは判断できる筈です。

《YouTuber氏のテロップ画像の利用は引用といえるか?》
 YouTuber氏は、
 twitterで政治トピックに関する論評をした際に、
 当該トピックの事実としての裏付けを
 テロップ画像を表示して説明したということですから、
 引用といえる常識的な態様でテロップ画像を利用しており、
 著作権法32条1項の後段が規定する引用の範囲に入る可能性は
 高いように思われます。

 但し、twitterが一行文章で、
 twitterの文面のほとんどがテロップ画像で占められている場合は、
 最高裁判例の
 「両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる
 ことを満たしていない場合がありえ、この場合は、
 YouTuber氏は、実質的に論評しておらず、
 テロップ画像を見せるためだけにtwitter記事を上げただけとされ、
 引用とはいえず、
 TV会社の著作権を侵害するとされることもありえますので、
 注意を要します。

******

 今回は、YouTuber氏は著作権法上の「引用」をよく理解した上で、
 論評活動をされるとよい、ということを説明しましたが、
 以下の私のブログ記事と
http://patent-japan.sblo.jp/article/178900676.html
 引用か否かが争われた小林よしのり氏が当事者となった有名な判決
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/161/013161_hanrei.pdf
 も参考になるかと思います。

 次回は、YouTuber氏の理解の混乱について説明してみます。
posted by Dausuke SHIBA at 20:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 著作権
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