2020年05月03日

『理科教育』を弁理士が考えてみた(その4)物理は数学で考えるべきだ

 『“アベノマスク”未配布分を回収 汚れや不良品発見で再検品
 衛生用品企業がこんな状況に陥ったら、配布分も含めて全品回収して、
 幹部が顔を晒しての謝罪会見を行うでしょう。

 マスクの生産・流通管理について全くの素人の
 厚労省・経産省・総務省の官僚マスクチームが、
 素人事業を仕切っているため、本当に無責任な事態になっています。
https://www.asahi.com/articles/ASN3B777MN3BUTFK02B.html

 ******

 友人からいただいたガリレオ温度計ですが、下の3個のガラス球が沈みました。
KIMG0103.JPG
 温度反応性が数時間あるので、全く実用性はないのですが、
 この2週間の気温上昇を実感するには十分です。
****** 

 私の大学時代(広島大学理学部大学院)の先輩で、
 山口大学教育学部で教授をされ昨年退官された
 村上清文先生から届いた理科教育に関する論文について、
 『『理科教育』を弁理士が考えてみた(その1)』では論文の内容を、
 『『理科教育』を弁理士が考えてみた(その2)』では、
 論文の主テーマたる「自然を愛する心情を養う」ことを
 理科教育に組み込むことについて、私なりの考えをまとめ、

 さらに、前回の
 『『理科教育』を弁理士が考えてみた(その3)算数で鶴亀算をきちんと教えるべきだ
 では、『理科教育』から少し離れて、
 私が1960〜1970年代に実際に受けた学校教育を通じて、
 強く感じていた、教育の縦割・縄張・蛸壺の教育の非効率について
 『算術・算数・数学』を題材にして経験論的にお話ししました。

 今回は、『数学・物理』を題材にして経験論的なお話しをします。

■物理は数学で考えるべきだ■

《高校の数学・物理が互いを全く参照しないことについて》
 小学校・中学校の算術・算数・数学も、
 およそ連携をとっているとは思えない縦割・縄張・蛸壺教育がなされていますが、
 高校の数学・物理も、何故頑なに独自路線に凝り固まるのか理解できません。

 高校の数学の内容は、以下の通りと思います:、
 @高校1年で習う集合論・整数論・方程式を中心にした代数;
 A高校2年で習うベクトル・行列を中心にした代数幾何と多項式関数の微積分;
 B高校3年で習う三角関数等の非多項式関数の微積分・確率・統計。

 戦前に女学校(今の女子高)で教育を受けた母から聞いていましたが、
 かつては、数学は「代数」「幾何」「解析」と呼ばれ、
 大雑把には、上記の「代数」「代数幾何」「微積分」に対応するのですが、
 私が高校生くらいの時代から、
 高校1年では「数T」、高校2年では「数U」、高校3年では「数V」
 と訳の分からない高校教育専門用語が使われており、
 中学の数学とも、大学の数学とも関連付けられておらず、
 これも縦割・縄張・蛸壺教育の一つの現れと理解することができます。
 
 高校の数学は、
 @は、最も抽象度が高く難解ですが、
 AとBは、
 ベクトルと微積分が空間的な概念と関係するので具体性があり、
 確率・統計が実際に数え上げれば何とかなることもあり、
 @よりも理解し易く、難解という感じは相当に減ります。

 私が大学生の頃、高校生の家庭教師をしたときに、高校生が、
 確率・統計の問題を解くときに、
 順列・組合せの公式(あの「nPr」「nCr」です)に頼り切りで、
 実際に数え上げる作業を惜しむため、そのうち、
 数え上げるという単純作業ができなくなり、公式の記憶もあやふやで、
 お手上げになったことがあります。

 高校の数学は中学の数学に比べて格段に難解であることは確かで、
 そうなると、何故こんな難解なことを勉強しなければならないのか、
 という数学を学ぶモチベーションの喪失に直面することになります。

 しかし、高校2年から学習するベクトルと微積分が、
 物理を理解するのに直接的に役に立つことが分かれば、
 数学を学ぶ大きなモチベーションになるはずで、逆に、
 数学で物理を理解することができることが分かれば、
 物理を学ぶ大きなモチベーションになるはずだと思うのです。

 もともと微積分は、ニュートンが力学を体系づける際に、
 道具として開発されたものですから、物理の本質と密接不可分であり、
 数学と物理を分離して学習する意味は全くないわけです。

 それを、何を考えているのか、公教育は頑なに、
 数学と物理を分離して関係づけずに学習させており、結果として、
 高校生が、数学と物理の密接不可分性を知らないままになり、
 後述するような、私が教育実習で経験したような大きな問題が生じてしまい、
 公教育の縦割・縄張・蛸壺教育の大きな弊害を実感した次第です。

《物理を数学で理解するとは》
 物理の力学のところで「保存力」という概念があります。
 「保存力」とは、
 物体をA点からB点に移動するとき、
 移動させようとする力のする仕事が移動経路によらず一定になる場合、
 元々物体に働いていた力をいい、その代表例として重力が挙げられます。

 このように説明されると恐ろしく抽象的で理解し難いのですが、
 高校2年で学習するベクトルで説明すると、
 特段に何のことはないことであることが理解できます。

 鶴亀問題を
 「鶴亀算」で説明されるととても複雑ですが、
 「連立方程式」で説明されると何のこともなく理解できる
 のとまったく同じです。

 試しに、数学で物理を理解することを試みてみますが、
 現役の高校2年生は大丈夫ですが、
 ベクトル・三角関数など、ここ半世紀見ていないという方でも、
 思い出しながら頑張って理解してみて下さい。

●数学で学習する初歩的なベクトル演算●
(1)ベクトルの定義
  ベクトルとは長さと向きをもつ有向線分のことをいい、
  点Pから点Qに向くベクトルは、以下のように表現されます。
図11.jpg
 図を対応させると以下のようになります。
P14.jpg

(2)ベクトルの和
 ベクトルの和は、
 最初に足されるベクトル1の始点Pと最後に足されるベクトル6の終点Q
 とをつないだ有向線分となり、以下の図では、
 ベクトル16までの和は、ベクトルに等しいということになります。
P11.jpg

図12.jpg

(3)ベクトルの内積
 ベクトルの内積は以下の式で定義されます。
図13.jpg
 図を対応させると以下のようになります。
P12.jpg 

(4)ベクトルの内積の分配法則
 片方のベクトルが、ベクトル16の和である場合、
内積は以下のように計算できます。
図15.jpg

(5)応用問題
 一方のベクトルが鉛直上方に向き、
 他方のベクトルが、
 水平右向きのベクトルと鉛直上方向きのベクトルの和である場合、
 以下のように計算されます。
P13.jpg

図16.jpg

図17.jpg
 のなす角度がπ/2=90°、のなる角度が0°なので、
 cos(π/2)=cos90°=0
 cos(0)=cos0°=1
 という公式を利用しています。

●力学の基礎●
(1)力
 力Fはベクトルである。
(2)変位
 質量mの物体が点Pから点Qに移動したとき、ベクトルSを変位という。
図21.jpg
(3)仕事
 力Fが物体Mを点Pから点Qまで移動させた場合、
 力Fと変位Sの内積を、力Fが物体Mになした仕事Wという。
図22.jpg

P22.jpg

●保存力・重力・位置エネルギー●

(1)保存力
 力Fが一定であれば、
 力Fが物体Mになした仕事Wは、移動経路によらず一定(同じ)である。

 これは、簡単に証明できます。
@力Fが、物体Mを、直線的にベクトルSだけ移動させた場合に、
 力Fが物体Mになした仕事Wは以下の式で表されます。
図22.jpg
A力Fが、物体Mを、迂回経路S'を経由して移動させた場合の、
 力Fが物体Mになした仕事W'は以下の式で表されます。
図24.jpg

P21.jpg
Bつまり、力と迂回経路S'の道のりの複数の変位iの内積は、
 複数の変位iのベクトル和との内積になり、
 複数の変位iのベクトル和が、どの経路を辿ろうが変位になるため、
 仕事W’は経路によらず、常にWと同じということになります。
C従って、一定の力は保存力であるということになります。

(2)重力
 力が重力であれば、重力加速度をとすると、
図25.jpg

P23.jpg
 重力mは、常に鉛直下方に働く一定の力だから、保存力である。

(3)位置エネルギー
 重力mに釣り合うように上向きの力mを加えて、
 物体Mを変位Sだけ移動させると、mの力が物体Mになす仕事は、
 以下のように計算できます。
P24.jpg

 は水平の変位と垂直の変位のベクトル和だから、
図27.jpg
 となって
図26.jpg
 この式の導出は、少し上の方で導いた以下の式を使っています。
図17.jpg

 物体Mが高さhにおいて有する位置エネルギーはmgh
 であるというお馴染みの結果が得られたことになります。

 即ち、重力場における位置エネルギーは、
 質量mの物体Mを、重力F=mgに逆らってA点からB点に、
 どのような移動経路を辿って移動させても、
 高さhだけで決まるということになります。

 ******

 以上のことを、ベクトルを使わずに説明すると、
 例えば、以下のような説明になり、説明者自身も言っていますが難解です。
 ▼保存力
 FNの高校物理」の「1.物理(1)力学 保存力
 ▼重力場の位置エネルギー
 FNの高校物理」の「1.物理(1)力学 仕事とエネルギー(3)重力に伴う位置エネルギー

 以上は、力Fが一定である重力だけを取り上げたので、
 ベクトル演算の範囲だけで説明できましたが、
 例えば、力Fが、場所によって変化する、
 ばねのような弾性力や、万有引力のような中心力の場合は、
 微積分を使うことになるのですが、
 いずれも、高校の数学の範囲で十分に対応できるので、
 微積分を使えばよいのです。

 本来物理のために開発された数学が、
 いかに物理を理解し易いものにしており、
 問題を解くためのいかに重要な道具であるのかを生徒に経験させ、
 さらに、数学で理解した物理の数学的構造が、
 物理以外の教科でも類推的に適用できるところまで経験できれば
 生徒のサイエンスに向けた視野は大きく広がるように思います。

《教育実習で驚いたこと》
 私が広島大学付属高校の生徒の前で、教育実習をさせていただいたとき、
 授業の課題がたまたま、物理の位置エネルギーだったのです。

 広島大学付属高校の生徒は馬鹿ではないので、
 ベクトルを使って教えても理解できるだろうと踏んで、
 授業で上記のような説明をしました。

 生徒も担当教官も驚いたようでしたが、
 生徒は、何とか理解できたようであり、
 担当教官は、高校数学のカリキュラム内であり、
 ベクトルを使用した説明に問題はないと言ってくれたので、
 ほっとしたことを覚えています。

 しかし、私が驚いたのは、私の授業を生徒と共に聞いていた、
 教育実習の同期生たちでした。

 彼らは、広島大学理学部の物理系学科の修士たちですが、
 私の説明を聞いて、
 「初めて、保存力や位置エネルギーのことが理解できた」
 と感動していたのです。

 おい、おい、おい、
 君たちが生物系の修士の学生ならわからないでもないが、
 物理系の修士課程の学生で、それはないのではないか、
 と思ったものです。

 ですから、現状の、高校の数学と物理を相互に参照をしない、
 縦割・縄張・蛸壺教育の下で、そのまま何も考えずに先生になったりすると、
 先生自身がいつまでも算数による物理の理解から抜け出せず、
 本来物理のために開発された数学によって理解すべき物理の本質を
 生徒に伝えることができないのではないかと思うわけです。

******

 次回は、高校における物理・化学の縦割・縄張・蛸壺教育について
 考えてみます。
posted by Dausuke SHIBA at 14:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 教育
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