2020年05月10日

『理科教育』を弁理士が考えてみた(その5)化学は実学に徹すべきだ

 4月下旬に、私のところにアベノマスクが届きました。
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 マスメディアは「一所帯あたり2枚」と報道していましたが
 私のところには事務所と自宅のそれぞれに2枚入りパッケージが届きました。

 厚労省が使用した郵便局の配布システム「タウンプラス」は、
 指定された地域の住所登録された全家屋に配布するのであって、
 「所帯」宛に配布するわけではないということです。

 厚労省も「所帯」宛とは説明していません。
 「布マスクの全戸配布に関するQ&A

 アベノマスクの配布は、
 国民宛を彷彿とさせる「所帯宛にお届けした」というようなものではなく
 要は、住所登録家屋にばら撒いたに過ぎません。

 「数さえ揃えばよい」と言うだけの絨毯爆撃配布をする方もする方ですが、
 「一所帯あたり2枚」と忖度報道する方もする方ということでしょう。

 ******

 よい機会なので、厚労省が、
 アベノマスクのことをどのようにアピールしているのかを調べたところ、
 「布製マスクの都道府県別全戸配布状況」というサイトの中で、
 政策の意義等が書かれていました。

 普通であれば、アベノマスク配布政策を中心にした説明がまずあって、
 最後の方に「布製マスクの都道府県別全戸配布状況」
 を参考程度に置いておくものと思いますが、
 さすがに数を揃えて配っておけばよい精神丸出しです。

 Q&Aを見ると以下のようなことが書いてあります:

 Q3.布製マスクに効果はあるのですか?
 「布製マスクには以下のような効果があると考えています。
  1.せきやくしゃみなどの飛散を防ぐ効果があることや、
    手指を口や鼻に触れるのを防ぐことから、感染拡大を防止する効果。」

 アベノマスクはメーカー表示もない雑貨にすぎませんが、このような雑貨が
 「感染拡大を防止する効果」を有するとまで書いているのに驚かされます。

 「感染拡大」は特定のウィルスである新型コロナを念頭にしていることは
 明らかですから、
 特定のウィルスの「感染拡大を防止する効果」を表示することは、
 雑貨品メーカーが広告として行えば、ほぼほぼ薬事法違反です。

 薬事法の管轄省庁が、
 このような雑貨の効果の誇大表示をしてよいわけがありません。

 関連業界が、雑貨であるマスクを、薬事法の観点から、
 如何に注意深く扱っているか、少しでも参考にしようという謙虚さは、
 「数さえ揃えばよい」官僚にはないのも当然といえます。
 『マスクの表示・広告自主基準』(特に第三条)
 
 既に配布されたアベノマスクは検品もされておらず、
 口の周りに装着するのも憚られるとんでもない雑貨ですから、
 このような如何わしい効能を説明されては、
 袋から出す気にもならなくなります。。

■化学は実学に徹すべきだ■
 私の大学時代(広島大学理学部大学院)の先輩で、
 山口大学教育学部で教授をされ昨年退官された
 村上清文先生から届いた理科教育に関する論文について、
 『『理科教育』を弁理士が考えてみた(その1)』では論文の内容を、
 『『理科教育』を弁理士が考えてみた(その2)』では、
 論文の主テーマたる「自然を愛する心情を養う」ことを
 理科教育に組み込むことについて、私なりの考えをまとめ、

 さらに、『理科教育』から少し離れて、前々回の
 『『理科教育』を弁理士が考えてみた(その3)算数で鶴亀算をきちんと教えるべきだ
 では、私が1960〜1970年代に実際に受けた学校教育を通じて、前回の
 『『理科教育』を弁理士が考えてみた(その4)物理は数学で考えるべきだ』では、
 大学のときに行った教育実習のときに強く感じた、
 教育の縦割・縄張・蛸壺の教育効果上の非効率について
 『数学・物理』を題材にして経験論的にお話ししました。

 今回は、『化学』を題材にして経験論的なお話しをします。

《高校化学の縦割・縄張・蛸壺教育》
 高校化学は、物理による原子・分子構造の概念を基礎にして、
 化学結合論を基礎に熱力学/酸と塩基/酸化・還元
 といった極めて抽象的な構造化学を延々と学習させられて、
 その後で、暗記に次ぐ暗記を迫られる周期律表に基づく無機化学を、さらに、
 止めを刺されるように暗記量がさらに多い有機化学を学習させられます。

 しかも、有機化学の最も重要な適用分野である、
 合成高分子・生体高分子まで辿り着かないことも多く
 (日本史・世界史で現代史まで辿り着かないことと同じです)、
 高校生物の基礎である細胞生物学に接続しないままになります。

 高校物理は、原子・分子構造の概念が、
 力学・電磁気学・波動・熱力学などを経て、最後に学習するため
 物理と同時に開始される高校化学を化学結合論から始めると、
 先生は、頭の中で、物理の基礎を解った上で教えているのですが、
 生徒は、頭の中に、物理の基礎がないまま丸呑みするしかない
 ということになり、
 多くの生徒が最初の段階で化学離れするのも無理はありません。
 
 私の高校時代「化学は暗記科目ではない」
 などと馬鹿なことを言っていた先生がいましたが、
 物理の基礎もなく化学結合論を丸呑みする生徒の身にもなってみろ!
 ということです。

《化学は元々如何わしい実学であると認識すべきだ》
 物理学は、この世界の仕組みを突き詰める自然哲学であり
 この世界が奇跡的に数学で既述できるため、
 抽象的な数学との親和性が強い思索的な学問です。

 化学は、元を辿れば、
 中世の怪しげな人(錬金術師)たちが金(gold)を合成できないかと
 実験室に日夜籠って失敗の山を築き上げたことが基礎となっており、
 およそ哲学とは縁のない、学問というよりは、
 俗物的な人間の欲望が渦巻く実学であり、その点は現在も変わりません。

 ノーベル賞の学者といえば、私にとっては、
 私が物心ついた頃に既に伝説の受賞者であった湯川秀樹先生、
 私が大学のときに量子力学の教科書を読んで、
 川端康成の小説を読んだときのように感動した朝永振一郎先生、
 お二人と同時代に活躍していたにも関わらず、
 あまりに先に進みすぎて受賞が遅れた南部洋一郎先生、
 日本語で物理学を考えておられ励みになった益川・小林先生
 の素粒子物理学の研究者が本流で、これらの先生方は
 宇宙の終焉まで見通しているのではないかと思えたものです。

 一方、その後に受賞が増えた応用物理・化学・生物分野の研究は、
 試行錯誤の実学精神の成果で、自然哲学の趣はあまり感じません。

 中でも、化学は、試行錯誤的に物質を生み出すことが先行し、
 物理と関係なく、物質は、
 手(原子価)の生えた質量(原子量・分子量)の異なる微小な粒子(原子・分子)の繋がりで構成されている、という怪しげな仮説を頼りに、
 自らが生み出した物質の変化の仕組みを理解してきたといえます。

 しかし、その怪しげな仮説は、それだけで精密な分子模型がつくれる程度に、
 物質の構造を定性的に説明できており、
 具体的な材料を取り扱うにはそれだけで十分といえます。

 私が身近にみる中小企業の発明の才ある技術者は、
 物理を基礎とする化学構造論を理解して発明しているわけではなく、
 材料を試行錯誤してこねくり回して失敗の山を築いた結果として、
 優れた発明に到達しており、
 錬金術師の遠い子孫といってよい魅力的に怪しげな方々です。

《化学は有機化学を基礎とすべきだ》
●有機化学と有機化学をベースとする理論化学●
 有機物質はC、H、Oなどの限られた少数の原子が結合して、
 官能基に対応する分子を構成し、Cの結合の連なりによって、
 様々な形態のモノマー、オリゴマー、ポリマーが規則的に構成されます。

 その規則性は、「手の生えた質量の異なる微小な粒子」を想定すれば、
 定性的には十分に理解でき、
 有機物質の分子構造を規則的に暗記することができるので、
 暗記が苦手な(私のような)生徒でも納得して
 (丸呑みでなくモチベーションをもって)暗記に取り組めるといえます。

 さらに、同じ定性的な理解に基づき、
 身の回りにある材料を構成する合成高分子や、
 自分自身を構成する生体高分子まで一直線に理解できてしまうので、
 暗記量が多いにしても、(無機物質以外の重要な)化合物は視野に入った、
 という達成感をもつことができます。

 具体的な有機物質とその構成元素が頭に入った上で、
 これらの有機物質を題材に
 「化学反応」「物質の三態」「気体分子運動論」「酸・塩基」「酸化・還元」
 などの抽象的な理論化学を学習すればよいと思います。

 既に暗記すべきことは暗記しているので、
 理論の理解に頭が使えるということになり、
 物理を基礎とする化学結合論を学習していなくても、
 「手の生えた質量の異なる微小な粒子」を想定するだけで、
 定性的な理解は十分できるということになります。

●無機化学と無機化学をベースとする理論化学●
 無機化学は、周期律表の理解をベースに学習することになりますが、
 周期律表も、何も物理を基礎とする化学結合論を学習する必要はなく、
 「手の生えた質量の異なる微小な粒子」を質量の順番に並べると、
 理屈はよくわからんが、周期律表に従って、分類することができる
 ことさえ理解して暗記すれば、周期律表に従って、
 金属・非金属で構成される無機物質の性状を暗記すればよいことになります。

 有機物質と無機物質を頭に詰め込んだ上で、無機物質で重要な
 「化学反応」「物質の三態」「気体分子運動論」「酸・塩基」「酸化・還元」
 などの抽象的な理論化学を学習すればよいと思います。

■エネルギー・システム・食料の科学■
 我が国が国際的に生き残るために最重要のテーマは、
 「エネルギー」「システム」「食料」であり、
 数学・物理・化学・生物・地学・地理・政経倫社を総動員する
 総合学習「エネルギー・システム・食料の科学」として、生徒には、
 「自然を愛する心情」と関連付いた哲学を基礎に、
 「科学的な見方」でロジカルに学習してもらうべきです。

 具体的には、以下のようなテーマを学習してよいと思います。
●エネルギーの科学:化学結合論・熱力学・発電・蓄電・環境・兵器
●システムの科学 :コンピュータと情報
●食料の科学   :農林水産業と地政学
●知的財産制度・国内法制度・国際条約

 私の感覚では、ここで初めて、
 物理を基礎とする化学結合論を学習して、
 化学の基礎とした「手の生えた質量の異なる微小な粒子
 の本質を考えても遅くはないということです。

 グローバリゼーションと新自由主義の嵐の中で、
 我が国がどのような状況あるのかについて、
 生徒も先生も無知であってはなりません。

 これらのテーマは、我が国の将来を生徒に託すという意義があり、
 生徒だけでなく、先生方が縦割・縄張・蛸壺教育から抜け出して、
 先生方ご自身が柔軟な思考をもって学習する必要があり、現状では、
 教育現場が国策とどう対峙するかについて真剣に悩まなければ、
 「科学的な見方」と「自然を愛する心情」の教育理念を貫けない筈です。

 文科省も面従腹背を貫いて、
 将来を見据えた我が国の教育行政の舵を取り切れるかが問われる筈です。

 というわけで、現在の高校化学は、全面的に改組して、
 『物質の科学』として再編すべきではないかと考えています。
物質の科学.jpg

 次回は、小中学校の『理科教育』に戻ってまとめてみたいと思います。
posted by Dausuke SHIBA at 15:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 教育
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