2020年07月26日

米国TVドラマ『名探偵モンク』 涙なしには見られない哀愁漂うお馬鹿ミステリー(弁理士も殺される)

 TVを見なくなってから、
 TUTAYAでDVDを毎週3枚借りて、
 少し昔のTVドラマを毎週6話ずつ見ていることは、
 米国TVドラマ『メンタリスト』の視聴完了報告でお話ししました。

 その『メンタリスト』の最大の山場である第5シリーズを見終わり、
 あと第6(11話)及び第7(7話)シリーズを残すのみとなり、
 そろそろ次のTVドラマを探さねばと思っていたところ、
 『メンタリスト』のDVDでもときどき予告編が紹介されていた
 『名探偵モンク』を試しに見てみようということになり、
 昨年(2019年)2月から見始めました。

■物語■
《粗筋》
 エイドリアン・モンクは、
 サンフランシスコ市警察の優秀な刑事でしたが、
 愛妻トゥルーディが爆殺されてから、
 持病であった潔癖症などの38種類の神経症が極度に悪化して、
 3年間、自宅アパートに引き籠ってしまいました。

 そこに救いの手を差しのべたのが子持ちの看護師シャローナでした。

 (ドラマでは描写はありませんが)シャローナの懸命の介護により
 モンクは引き籠りから脱して、古巣の市警には戻れないものの、
 市警付の犯罪コンサルタントとして社会復帰を果たしました。

 ドラマはここからスタートし、モンクが、アシスタントとして、
 初代のシャローナとそれを引き継いだ2代目のナタリーを従えて、
 サンフランシスコ市内で起こる難事件に取り組み、最後に、
 トゥルーディ爆殺事件を解決してモンクが真に救われる最終回まで、
 7シリーズ(2002〜2009年)が制作されました。

《お馬鹿を貫き通す小話コメディ》
 私が見た予告編では、
 シリアスな本格ミステリーとしか思えなかったのですが、
 まったく予想は裏切られ、実際には、
 毎度のミステリーは(きっちり構成されていますが)小粒で、
 シリアスというよりは、
 お馬鹿を貫き通す小話コメディという方が適切かもしれません。

 実際『名探偵モンク』は、エミー賞とゴールデングローブ賞で、
 コメディ部門のドラマとして数々の受賞を果たしています
 
 この物語のお馬鹿ぶりは、モンクの38の神経症に由来するもので、
 モンク本人にとっては真剣に悩ましい状況なのですが、
 モンクは神経症モードに入ると相手の気持ちを察することができず、
 端から見ればエゴイスト丸出しで、
 モンクを心配するお人好しレギュラーメンバーを含めて、
 周りが振り回される(お馬鹿な)エピソードで満たされています。

 ******

 例えば、モンクが不安定なコンサルタント業に不安を覚え、
 大学の教員試験を受けることになるエピソードがありました。

 神経症のモンクは、教材に集中して読み書きする自習ができないため、
 いやがるナタリーに毎日教材を読ませ、丸暗記して試験に臨みますが、
 試験机に置かれた鉛筆の削り具合が気になり、何度も削りなおす、
 鉛筆で書いた解答の字体が気になり、消したり書いたりを繰り返す、
 ゴムカスが気になり、試験官に鉛筆と消しゴムの交換を何度もせがむ、
 という、しょうもない場面が延々と続き、
 当のモンクは真剣に作業に取り組んでいるのですが、
 見ている私の方も背中がむず痒くなり、
 「いい加減にせんか!」とイライラしてしまいます。

 当然のことながら、そんなことをしていれば試験に受かる筈もなく、
 実際に試験に落ちたことを知ったモンクは猛烈に落ち込んで、
 ナタリーを始め、モンクの受験を応援したお人好し仲間も心配する
 (周りの連中のお人好しも度が過ぎるのではないかと呆れますが)、
 というミステリーには直接関係のないお馬鹿エピソードが
 20分近く続くことがあります。

 ******

 私は、これを見ていて、
 伝説の本格お馬鹿時代劇『素浪人 月影兵庫』『素浪人 花山大吉』
 を思い出しました。

 この素浪人シリーズも、
 本筋は結構シリアスな時代劇ミステリーなのですが、
 近衛十四郎演じる剣の達人と、旅を共にするやくざの焼津の半次が、
 剣の達人の酒癖やつまみの趣味と品の悪さなるくだらないことを巡り、
 (毎度酒代を出す羽目になる)半次と剣の達人が口汚く罵り合う、
 定番のお馬鹿エピソードが20〜30分続き、見ている方は、
 それを馬鹿馬鹿しく楽しんだだけで疲れ果ててしまったものでした。

《哀愁が漂い涙なしには見られない》
 モンクは、神経症であることを意識していなかった子供の頃、
 周りのガキ共にからかわれ続けたことを気に病んできたのですが、、
 大学に入ってから、図書館で出会ったトゥルーディと恋に落ちて、
 人生が救われ、市警の刑事になってその才能が開花したのでした。

 しかし、それもつかの間、愛妻のトゥルーディが爆殺された後、
 人生の闇に落ち込んでしまい、3年後にシャローナに救い出されるも、
 モンクにとって、トゥルーディのいない人生を神経症と共に生きることに、
 何の意味も見出せないことが、多くのエピソードでしみじみと描かれ、
 モンクの絶望が見る方にも直接伝わり胸が締め付けられます。

 このような、物語の感情の躁鬱的起伏の大きさは、
 『男はつらいよ』シリーズとよく似ています。

■エイドリアン・モンク■
 メイキング映像によれば、『名探偵モンク』の脚本は、
 アンディ・ブレックマンを中心に5人前後の脚本家の共同によりますが、
 脚本家のそれぞれが、
 自分と周りの家族・友人にまつわる神経症をリストアップして、
 全部で38の神経症をもつエイドリアン・モンクが創作されたとのことです。

 脚本家それぞれが、モンクは自分のことだと大真面目に語っており
 (どの脚本家も表情が神経症モードに入ったモンクに似ています)、
 米国のコメディ作家のちょっと壊れている凄みを感じます。

 また、エイドリアン・モンクの名前の由来は、脚本家の一人が、
 ジャズピアニストのセロニアス・モンクから採った、
 というイージーさが分かり易くて笑えます。

 ******

 エイドリアン・モンク(トニー・シャブール)は、
 おそらく40代半ばで、イタリア系の濃い面相の堂々たる中年です。

 モンクは、至って真剣に生活しており、
 普段はにこりともせずにクソ真面目な顔をしているのですが、
 とても疑り深く、驚くほど器量が小さいため、
 何ともずる賢い人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべ
 (それが原因でろくでもない結果をよく招くのですが)、
 シャローナやナタリーにもその小馬鹿笑いをするので、
 彼女たちには思い切り軽蔑されます。

 モンクは、寝るとき以外は、
 地味なカッターシャツを最上段までボタン止めし、
 茶色のズボンを履き、ネクタイなしで茶色のブレザーをひっかけています

 モンクは、常時そのコーディネートを維持するため、
 同じブランドと色のカッターシャツ、ブレザー、ズボンを10着以上持ち、
 同じ店の決まった店員にクリーニングさせています。

 モンクは、アパートの自宅を完全に管理しており、
 各部屋を毎日念入りに清掃し、
 冷蔵庫は各食品ごとに専用トレイできっちり仕分けし。
 (毎度同じ手順で長時間かけて調理をしているようです)、
 災害に備え、予備の予備の予備まで飲料水等を保管しています
 (ルーズな女性は、モンクの傍にいると息が詰まるかもしれません)。

 おかげでモンクの部屋はいつもピカピカで、
 趣味のよかったトゥルーディの丁度品は、これだけは、
 トゥルーディが生前にずらして置いたままの状態で維持されていて、
 客がそのズレを修正しても、
 モンクはその都度元に戻し、客に訝られます。

 ******

 犯罪捜査の現場で、テーブル上の瓶類が不揃いに並べられていると、
 モンクは、何の疑問もなく並べ直すので、
 現場の警官や現場の住人の顰蹙を買い、
 シャローナには「エイドリアン! もう止めなさい!」としかられ、
 ナタリーには「モンクさん、そちらはいいからこちらに来て!」と
 いなされてしまいます。

 推理力はシャーロック・ホームズやパトリック・ジェーン級で、
 現場に落ちていた些細な小物と、面談した被疑者候補から、
 確実に真犯人を当ててしまいます。

 モンクは、その抜群の推理力で相当に免罪されていますが、
 神経症に由来する極端に社会性がないところが念入りに描かれるので、
 見ているこちらも、
 (シャローナとナタリー以外は)この人と一緒に生活できない
 ことを納得してしまいます。

■トゥルーディとモンクを取り巻くお人好し仲間■
《トゥルーディ》
 トゥルーディは、母親のようにモンクを包み込む、教養と知性に溢れた、
 グレースケリー型の金髪の美女です
 (第2シリーズから女優が変わりますが、2代目の方が、
  年増ながら美女度は高いと思います)。

 亡くなっているという設定なので、
 回想場面や夢枕にでてくるだけなのですが、
 このように美しく聡明な女性に愛されてしまっては、モンクが、
 彼女の死によって生きる意味を喪ってしまうことがよくわかります。

 しかし、トゥルーディはこの物語での最大の重要人物で、
 結局のところ、最後の最後で、彼女がモンクを救うことになるという、
 心が温かくなるエピソードでドラマの幕は閉じられることになります。

《モンクを取り巻くお人好し仲間》
●シャローナ●
 シャローナは、3年間引き籠りのモンクを社会復帰させるという、
 モンクの重要な恩人であり、彼女なしには社会生活が維持できない、
 母でもあり、頼もしいアシスタントでもある、
 登場人物中唯一、モンクを「エイドリアン」とファーストネームで呼ぶことができる、
 特別な関係にある人物といえます。

 ちなみに、2代目アシスタントのナタリーは、
 モンクを「モンクさん」(Mr.Monk)と呼び、ファーストネームでは呼びません。

 脚本の機微を感じるところです。

 ******

 シャローナはアラサー、息子と二人暮らしで、夫とは別居中ですが、
 モンクのアシスタントとしての給料で何とか暮らしていけるようです
 (何度か賃上げ交渉するも、ケチなモンクは取り合わないのですが、
  そのために却ってひどい目に遭うことになったりします)。

 シャローナはミニスカートにブーツの組合せのことが多く、
 ファッションに無知な私から見てもダサイとしか見えないのですが、
 これは、脚本の意図があるのかもしれません。

 私が広島・関西に住んでいた頃、この地域の人たちは、
 住んでいる都市はそこそこ大都市なのに、
 東京コンプレックスがやけにに強く、女性のファッションが、
 ちょっと遅れて東京に追随していることが何となくわかりました。

 モンクとシャローナが本拠とするサンフランシスコも大都市とはいえ、
 ニューヨークに比べると、地方都市の田舎臭さがあるのかもしれません
 (その分、ニューヨークと比べて静かで落ち着いているようです)。

 モンクがトゥルーディ爆殺事件の手掛かりを探しに、
 ニューヨークに行くエピソードがありますが、
 巨大都市のあまりのカオスぶりに、モンクはふらふらになり、
 早くサンフランシスコに戻りたいと嘆いています。

 ******

 シャローナは、野暮ったいファッションと吹替のせいで、
 まったくのオバサンキャラクターに見えてしまいますが、
 メイキング映像を見ると、演じているビティ・シュラムは、
 実際には、肌が透き通るように白く、整った顔をしており、
 繊細でセクシーで、美女(ロシア系か?)といってよく、
 美しすぎるコメディエンヌなのでした。

 シャローナは、残念ながら、ギャラが折り合わず、
 第3シリーズで降板しますが、
 その後も、何かにつけてお人好し仲間の話の端々で言及され、
 最終シリーズで再登場して、2代目アシスタントのナタリーと、
 モンクを巡って一大決戦をします。

 また、シャローナは、モンクに加えてもう一人、
 男を人生の虚しさから救うことになります。

 脚本家たちは、シャローナをとても愛しているのでしょうね。

●ナタリー●
 シャローナが元夫とよりを戻すために故郷に帰ったため、
 モンクは、新たなアシスタントを募集しました。

 そこに応募してきた、やはり子持ちの堂々たるアラサー美女が
 ナタリーでした。

 ナタリーは、戦死した夫を今でも愛し続けていますが、
 子育てのためにはどんな変人のアシスタントもやるという
 パワフルさがあり、やや陰のあるシャローナに比べると、
 常に前向きなキャピキャピの(年増ながら)アメリカンガール
 の雰囲気です。

 ただし、ナタリーは学級委員長的な優等生タイプの清楚な顔立ちで、
 それなりにフォーマルないでたちです。

 これは、ナタリーが、実は資産家の娘で、夫をめぐり親と対立して、
 実家から離れて暮らしているという設定に起因しています。

 ナタリーを演じるトレイラー・ハワードは、
 シャローナに比べると、普通の主婦的オバサンの雰囲気なのですが、
 何ともムチっとしており、
 ミニスカートから延びる足がなんともアンバランスにセクシーです。
 
 米国TVドラマには必ずあるサービスシチュエーションなのですが、
 ナタリーが犯人側のスナックに潜入捜査したときは、
 紐を首の周りに引っかけているだけで、前は隠れているものの、
 背中が完全に露出している衣装で突然登場するので、
 目が眩んでしまったことがあります。

 ******

 ナタリーは、シャローナに代わって、モンクを支え、
 強い信頼感で結ばれますが、シャローナよりもやさしい面があり、
 ナタリーもまた、男を人生の虚しさから救う役割を演じます。

●リーランド警部●
 リーランド警部は、モンクが現役刑事で部下だったときは、
 モンクの奇行に手を焼いたのですが、
 トゥルーディ爆殺をモンクに伝えることになり、
 モンクが完全に人生の闇に沈潜したことを深く悲しみ、
 (おそらく)シャローナと共にモンクの社会復帰を助け、
 モンクの社会復帰後は、
 モンクを実質リーランド警部付のコンサルタントとして雇い、
 モンクの市警復帰を陰ながら支援しています。

 ドラマ冒頭で発生する難解な殺人事件の現場で、
 リーランド警部とディッシャー警部補の市警コンビと
 モンクとシャローナ(ナタリー)の探偵コンビが落ち合い、
 モンクがあっという間に謎の手掛かりを発見し、
 その手掛かりに沿って市警コンビが活動するというのが、
 毎度のパターンです。

 ほとんど金田一耕助におんぶに抱っこの磯川警部と似たり寄ったりですが、
 リーランド警部は、磯川警部よりも遥かにかっこいいのです。

 ******

 リーランド警部演じるテッド・レヴィンは、全く覚えていませんでしたが、
 『羊たちの沈黙』で凶悪殺人鬼を演じて有名になったとのことで、
 『名探偵モンク』ではいかつい顔に髭を蓄えた絵に描いたような警部顔です。

 登場人物の中では、唯一、奇人・変人ではなく、
 正義感溢れリーダーシップのある社会人なのですが、
 モンクを始めとする、奇人・変人と直接会話をせざるをえず、
 相手を傷つけまいと、グッと話を呑み込む場面が多く、
 これでは、さぞやストレスが溜まるだろうと心配してしまいます。

 ******

 リーランド警部は、どう見ても女性に優しく、
 それゆえ女性にモテ、悪いことは何もしないのですが、
 インテリ美女が好みというのが、彼の人生を狂わしており、
 最初の妻は映画監督をしていましたが、
 家にいないリーランド警部に愛想を尽かし出て行ってしまい、
 次に恋に落ちた女性はワケありすぎてうまくいかず、
 その次に恋に落ちた女性は、
 リーランド警部の殺人事件に巻き込まれて怯えてしまい、
 これでは彼女にも愛想を尽かされると、
 リーランド警部もさすがに落ち込みます。
 
 リーランド警部には同情してしまいますが、
 最後はやはり女性に救われることになります。

 リーランド警部が、最初の妻に家を出て行かれた際に、
 モンクのアパートに駆け込んで、しばらく寝泊まりさせてくれ、
 という話になり、モンクもしぶしぶ泊めるのですが、
 モンクが一晩中部屋の清掃をしている異常さに耐えかねて、
 一泊で退散するというお馬鹿エピソードもありました。

 ******

 ところで、サンフランシスコ市警といえば
 『鬼警部アイアンサイド』が懐かしいですが、
 リーランド警部の執務室は、それほど広くないフロアーの中にあり、
 他の警部や担当部署とも隣接していないようで、
 片田舎の地方都市の5階建ビルの間借り事務所のように見えてしまいます。

 『鬼警部アイアンサイド』のときは、サンフランシスコ市警といえば、
 アメリカの巨大警察組織としか思えませんでしたが、
 実際はどうなんでしょうね。
 
●ディッシャー警部補●
 ディッシャー警部補は、リーランド警部の部下で、
 モンクとも古くからの付き合いのようです。

 てきぱきと事件を実務的に処理をするのはよいのですが、
 事件について議論する段になると、
 完全に自分の世界観で、頓珍漢な意見を連発し、
 リーランド警部が、話を止めるわけにもいかず、
 ディッシャーを慮ってグッと話を呑み込む場面が多くあります。

 モンクとは、お互いに話がアサッテ方向に飛びあって、却って、
 うまくいく面もあるようです。

 ディッシャーは、自らの頓珍漢さを自覚して悩んではおり、
 ときどき、仕事を辞めて、
 若い頃から夢であったロック歌手を目指したりしますが、
 歌が聴くに堪えないほど下手くそで、ロック仲間からも見放されて
 結局は、リーランド警部、モンク、ナタリーに諭されて、
 市警への復帰を繰り返します。

 そのディッシャーも、最後に、
 女性によって人生を救われることになります。

●モンクの弟アンブローズ●
 この兄にしてこの弟あり。
 アンブローズは頭がよく気が優しいのですが、
 重度の広場恐怖症で、兄に負けじと、10年以上、
 親が住んでいないサンフランシスコ市の実家に閉じ籠っています。

 兄のモンクとは、父親への思いの差異がネックとなり、
 なかなか打ち解け合うことができません。

 アンブローズは、ある事件がきっかけで、
 ナタリーに恋してしまいますが、ナタリーには、
 半分受け入れてもらい半分断られてしまいます。

 しかし、このことがきっかけで、
 アンブローズは、10年の閉じ籠りから解法され、
 兄のモンクとも打ち解け合うこととなりました。

 シャローナは3年閉じ籠ったモンクを救いだいましたが、
 ナタリーは10年閉じ籠ったモンクの弟を救いだしたことになります。

 アンブローズを半分受け入れ半分断わるナタリーの手腕は大したもので、
 女性に断られるときはこのようにお手柔らかにされたいものです。

●クローガー先生とベル先生●
 クローガー先生は、モンクが引き籠って以来、
 モンクが頼り切っている精神科医です。

 クローガー先生の診察室(といいうより普通のマンションの一室の設え)で、
 横並びにそれぞれの椅子に座った二人が、
 カウンセリングを通して話し合う場面が毎度の見せ場です。

 クローガー先生は、おそらくは、朝から、
 モンクのような神経症持ちの患者とカウンセリングをし続け、
 目も虚ろな憔悴しきった顔をしており、それでもなお、
 モンクの話を肯定的に聞きながら論理的に会話していきます。

 殺人事件の解決の状況によっては、モンクの症状が改善され、
 クローガー先生が「モンクさん、良い方に向かっていてあと一歩ですね」
 などと励ますのですが、モンクはその手には乗るかとばかりに、
 話を台無しにしてしまい(もう少し素直になれないのでしょうか)、
 完成しそうになった砂の城を全部壊すようなことをします。

 しかし、モンクは、実は、
 自分の話をまともに聞いてくれるのはクローガー先生しかいないということも
 よく理解しており、クローガー先生の愛を独占しようと、姑息に、
 診療日を段々増やし、第1シリーズの週1回が、シリーズを経るごとに、
 週2回、週3回、あげくは毎日となり、
 クローガー先生の憔悴ぶりがますます激しくなるようです。

 ******

 私はクローガー先生がいちばんのご贔屓だったのですが、残念なことに、
 クローガー先生を演じたスタンリー・カメルが、
 第5シリーズ中に亡くなってしまい(物語中でも亡くなったという設定で)、
 第6、7シリーズでは、モンクは精神科医ベル先生を頼ることになります。

 私からみると、クローガー先生は、
 モンクのカウンセリングで憔悴しきった果てに亡くなったのでは、
 と思いたくなるほどのスタンリー・カメルの名演でした。

 米国のコメディは、『パパにはヒ・ミ・ツ』もそうでしたが、
 演じている俳優が本当に亡くなったときに、
 ドラマ中でも亡くなったことにして続けることが少なくないようです。

 『パパにはヒ・ミ・ツ』は、主人公のパパ役の俳優が亡くなり、
 どうドラマを継続するのかと思ったのですが、さすがに、
 ドラマ中で最愛のパパが交通事故死した後の家族のコメディは
 痛々しいものでした(それでもコメディにしようとする作家魂は凄い)。

 ******

 米国はカウンセリングには健康保険的な補助がでていて、
 モンクが週に何回も個別のカウンセリングを受けることに、
 経済的負担はあまり大きくなかったようです。

 ところが第7シリーズで、米国の保険制度が変更され、
 個別のカウンセリングが一定回数以上達した場合は、
 補助の対象から外れることになり、
 クローガー先生とベル先生に闇雲にカウンセリングを受けたモンクは、
 個別カウンセリングが受けられなくなり、
 集団カウンセリングを受けざるを得なくなります。

 集団内での協調性が全くないモンクは、いったいどうなるのか、
 というエピソードがあり、
 馬鹿馬鹿しいオチで解決するところが見ものです。

●ハロルド・クレンショー●
 『名探偵モンク』のお馬鹿度を決定的にした最大の功労者が、
 モンクの最大のライバルであるハロルド・クレンショーです。

 ハロルド・クレンショーも相当に重症の躁鬱的神経症で、
 クルーガー先生のカウンセリングを受けており、
 2人が待合室でばったり顔を合わせると、
 クルーガー先生の愛(カウンセリング)を独占しようとして罵り合い、
 そこに憔悴しきったクルーガー先生が止めに入るという
 定番のお馬鹿エピソードが用意されています。

 ハロルド・クレンショーは社会復帰して教育委員会委員にまでなり、
 そのことをモンクに勝ち誇って伝えるのですが、モンクも負けじと、
 ハロルド・クレンショーのずっこけエピソードを並べ立て、
 勝ち誇った顔で、ハロルド・クレンショーをあざ笑うといった、
 目くそ鼻くそエピソードのあまりの馬鹿馬鹿しさは、
 見てる方のストレス解消になり、
 お馬鹿を貫き通す脚本家の覚悟に胸打たれます。

■コロナ禍の時代に見てちょっと感じたこと■
●価値観が転換するティッシュエピソード●
 『名探偵モンク』の毎度の定番の見せ所は、
 モンクが犯罪現場で関係者と握手した後に、シャローナ(ナタリー)に、
 「ティッシュ!ティッシュ!ティッシュ!」と急かすも、
 常時ウェットティッシュを携帯しているシャローナ(ナタリー)がモタモタすると、 
 「あ〜、君は何をしてるの、早く!」と、急かす場面です。

 シャローナ(ナタリー)は慣れたもので、
 モンクの急かしを適当にいなすのですが、
 握手した相手は当然に不快な気分になり、相手が黒人の場合は、
 「あなたは人種差別をするのか!」となじられ、シャローナ(ナタリー)は、
 「誰にもこうなんです。ごめんなさい」と尻拭いに追い立てられます。

 このような微妙なシチュエーションを逃げることなくコメディに転化する
 ところが、米国の脚本家の凄いところです。

 さらに、コロナ禍の中でこれを見ると、なんとも妙なリアリティがあり、
 モンク流の価値観の方が正常に見えてしまい、
 健全/病的の価値観が転換してしまいます。

●米国の豊かさを実感する●
 『名探偵モンク』が制作された2002〜2009年は、
 米国はITバブル破裂後の決して景気のよい時期ではありませんでしたが、
 モンクは、おそらく3LDK(但し、各部屋は日本の3LDKに比べて遥かに広い)
 くらいのアパートに暮らしています。

 市警付のコンサルタントをする元刑事の稼ぎで、
 この程度に広いアパートに住むことができ、さらに、
 アシスタントを雇うことができ、
 個別カウンセリングを受けることができるのですから、
 貧富の差が激しくなり、かつての勢いはないにしても、
 米国はやはり豊かだなと、今更ながら思ってしまいます。

 サンフランシスコ市という地方都市で、
 ニューヨーク市ほど住宅事情は悪くないにしても、
 日本では羨ましいと思われる水準でありましょう。

 私は、米国TVドラマの草創期に『パパは何でも知っている』などで、
 米国の住宅と電化製品の豊かさを羨んだクチですが、
 1970年代くらいまでは、これからは、日本も、
 あの程度の豊かさを目指すことができると思ったものです。

 しかし、我が国のバブル崩壊後の長期停滞とアベノミクスの失政により、
 結局、いまだに米国の豊かさを羨む状況から脱することができないことを、
 『名探偵モンク』を見ていて実感します。

●撮影の美しさ●
 『名探偵モンク』の予告編やDVDケースの写真を見て、
 最初は米国ドラマではなく、英国ドラマかと思ったほどに、
 『名探偵モンク』の映像はシックで落ち着きがあります。

 米国西海岸のサンフランシスコ市ですから、
 この辺りを舞台にした米国ドラマでは、空は抜けるように青く、
 紫外線がきつく登場人物はサングラスを常備し、
 陽が当たるセレブ住宅の白壁の反射も眩しい映像が多かった
 と思います(『メンタリスト』もそうでした)。

 しかし、『名探偵モンク』では、
 青空は強調されず、どちらかと言えば、
 暖色系のくぐもった感じの色調で統一されているように思います。

 これは意図的に映像処理しているとも思うのですが、
 お馬鹿エピソード満載のコメディが徒に拡散しないようにする
 意図があるのかもしれません。

●音楽の楽しさ●
 『名探偵モンク』の音楽は、
 @冒頭の主題歌↓
https://www.youtube.com/watch?v=cVBppz64n_A
https://www.youtube.com/watch?v=L_IOsLYVKkY
 Aエンディングのタイトルロールに流れるテーマ
 BDVDの音声設定のBGM
 があり、どれもとてもおしゃれで、
 @Aはドラマのほのぼのとした余韻を味合わせてくれますし、
 Bはクインシージョーンズのようなスピード感があります。

●弁理士が殺された●
 最終シリーズに、何と、最新式電気掃除機の発表会で、
 Patent Attorney が口八丁に装置の説明をした後で、
 あっさり死体となって発見される残念なエピソードがありました
 (最終シリーズ第8話)。

 吹き替えではしっかり「弁理士」とされていたので、 
 安心したのですが、やはり米国でも、
 弁理士は何か胡散臭く思われる職業なのでしょうか。
 
●キンブル・チョウ捜査官も殺された●
 『メンタリスト』で、パトリック・ジェーンを助ける、
 渋いアジア系警官キンブル・チョウを演じたティム・カンが
 ろくにせりふもなく殺される役ででていました(第6シリーズ第9話)。

 『メンタリスト』は2008〜2015年ですから、
 ティム・カンが『メンタリスト』でブレークする前の端役だったのですね。

●吹き替え●
 こちらをどうぞ→https://www.youtube.com/watch?v=ZXhiZ3O549o

 どの方も、ぴったりの吹き替えでした。
 顔の似ている人を当てると、声帯周辺の骨格が似ているので、
 はずれがないと言われていますが。その通りかもしれません。

******

 ということで、コロナ禍の中、『名探偵モンク』は、
 外出もままならない夏の長い夜を楽しく過ごすのに最適のドラマですので、
 是非ご覧になることをお奨めします。
 
posted by Dausuke SHIBA at 16:39| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ
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