2019年06月22日

『陸王』こはぜ屋のために知財コンサルティングをする(その8:第8〜10話・エピローグ)

■幕間■
右向き三角1『陸王』第7話では、
 アッパー素材の特許織物「ダブルラッセル」の供給が止まり、
 ソール素材の特許樹脂「シルクレイ」の製造装置が炎上して使用不能になり、
 『陸王』が製造できなくなったこはぜ屋を、
 世界的アウトドア用品メーカーのFelix社が買収を持ち掛けてきたところまで、
 展開しました。

右向き三角1『陸王』第8・9話は、ドラマでは、こはぜ屋は1件の特許も持たないので、
 宮沢社長は、なすすべなくFelixに身売りする瀬戸際まで追い詰められますが、
 「シルクレイ」特許権者の飯村氏(寺尾聰)が宮沢社長への恩義と信頼を取り、
 「シルクレイ」特許のライセンスをFelixにはしないという決断により、
 宮沢社長は、Felix社長(松岡修造)とある駆け引きをします。

右向き三角1陸王』第9・10話は、ドラマでは、こはぜ屋は飯村氏の「シルクレイ」特許を盾にして、
 Felix社がこはぜ屋に融資するという条件を引き出しますが、
 返済は5年以内にしなければいけません。
 宮沢社長(役所広司)はFelix社のこの条件を飲み、不退転の決意で、
 「シルクレイ」製造装置の再建と『陸王』の再事業化に取り組みます。

右向き三角1そして、シューフィッターの村野(市川右團次)がこはぜ屋から持ち出した
 最後に1足残されていた第2次改良『陸王』を履いた茂木選手(竹内涼真)は、
 完全な復帰レースと位置付ける豊橋国際マラソンに臨みます。

 詳細はこちらが参考になります↓
http://drama-night.com/tbs/rikuou-8wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-9wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-10wa

 私が腑におちないのは、おそらく飯村氏の「シルクレイ」特許は、
 残存期間が多くなく、5年過ぎてしまえば、
 Felix社は直ぐに「シルクレイ」を自由実施できてしまい、
 こはぜ屋を買収する動機付けもなくなるので、
 こはぜ屋はいつFelix社に切られても不思議ではないという点です。

右向き三角1特許の無名塾版『陸王』では、
 こはぜ屋はFelix社が欲しい低弾性シルクレイの特許2を持っているので、
 飯村氏とは独立に、Felix社とライセンス交渉(駆け引き)ができ、
 ドラマでの飯村氏のライセンスをFelixにはしないという決断は、
 こはぜ屋のライセンス交渉をさらに有利にするという位置づけになります。

 しかも、こはぜ屋の特許2の残存期間は、15年以上あるので、
 Felix社が低弾性シルクレイを使用するためには、長期間、
 こはぜ屋のライセンシーである必要があるので、
 こはぜ屋がFelixの融資を返済して企業体力を回復又は強化できてしまえば、
 逆に、こはぜ屋がFekixを切って、より条件のよいライセンシーと契約してもよく、
 極めて有利な立場になります。
 
■第8話■第9話■第10話■
 ということで、特許の無名塾版『陸王』では、
 表向きはドラマとほぼ同じ流れになりますが、

 第8話のこはぜ屋・宮沢社長と飯村氏の心理的葛藤は、
 こはぜ屋が特許権を4つ持つことにより、飯村氏のウェートが相対的に低くなり、
 こはぜ屋のFelix社対策を念頭に置いた知財戦略が中心にるでしょう。

 第9話の宮沢社長とFelix社の御園社長(松岡修造)との交渉は、
 宮沢社長の心境は、ドラマほどシリアスではなく、
 特許権をもつビジネス上の優位性を身をもって感じるという設定になるでしょう。

 第10話は、豊橋国際マラソンでの茂木選手の活躍で大団円となります。
 そして、ドラマと同じように、『陸王』を履いた茂木選手を、
 大橋課長(馬場徹)のように、西島弁理士と秘書(石田ゆり子)が、
 TV中継を見ながらの熱くハグしながら応援するという場面で終わることでしょう。

■エピローグ■
 以上を見ていくと、TVドラマ『陸王』は、
 技術がコンセプトの中核にある新しい商品の開発を題材にしながら、
 関係する誰一人として特許化することを考えない、という、
 ほとんど空想科学小説の世界としか思えません。

 ドラマのように、宮沢社長が、弁理士に相談もせずに、
 『陸王』の試作品を無防備に外部に見せて回ることは、
 それだけで、『陸王』の特許化が困難になるだけでなく、
 アトランティス社やFelix社のような巨大企業であれば、
 『陸王』試作品を見て、逆に先に特許出願して特許権を取得して、
 こはぜ屋が『陸王』を実施できなくなる、などというリスクに繋がり、
 こはぜ屋の倒産に直結しかねません。

 知財関係者の中には、このような場合、
 こはぜ屋は先使用権の範囲で実施できるから大丈夫、
 と条件反射的に説明する方も多いのですが、先使用権の主張は、
 アトランティス社の特許を侵害していることを自白していることになり、
 裁判で認められなければ、特許侵害を否定できなくなり、
 何と言っても、それ以上の改良ができなくなることもありえ、
 非常にリスクのある主張です。

 ドラマにおいて、
 こはぜ屋が下手をすれば倒産に直結するような目にあわないのは、
 こはぜ屋サイドだけでなく、
 敵対的なアトランティス社とFelix社も、全く知財戦略を考えないためで、
 まず現実にはありえないということになります。

 ドラマでは、特に、こはぜ屋の融資担当の坂本の設定が酷く、
 こはぜ屋の社長のメーカー志向が強ければ、
 当然に特許戦略を結びつけてこはぜ屋を評価しなければならないでしょうし、
 坂本はベンチャー企業を顧客とする融資ファンドに転職するのですから、
 特許戦略が不可欠なベンチャー企業に、身売り話だけ持って行っては、
 顧客から愛想をつかされます。

 また、一張羅の装置の特許権で一攫千金を狙うという飯村なる特許権者の描写も、
 いったい、いつの時代の話なのかと思ってしまいます。

******

 池井戸潤原作がドラマ化されてから結構な年月が流れていますが、
 TBSの総力を挙げてこの程度の脚本しか作成できず、
 このドラマを見た特許庁を含む多くの知財関係者が、
 「『陸王』から学ぶ・・・」なるネット記事を挙げながら、
 ドラマ『陸王』から何かを学んでいる(何か学ぶべきものがあるのでしょうか)
 という状況をみると、
 我国の知財制度の将来を悲観せざるをえないような気分になります。

 というわけで、『陸王』は、なりたての弁理士のための
 知財コンサルティングの練習用の素材としてとても良いと思うので、
 空想をたくましくして、こはぜ屋を知財コンサルティングすることをお奨めします。
posted by Dausuke SHIBA at 09:34| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ

『陸王』こはぜ屋のために知財コンサルティングをする(その7:第7話)

■幕間■
 『陸王』第6話では、弁理士が活躍し、ドラマと少し展開が変わります。。
 右向き三角1こはぜ屋が、タチバナラッセル社の特許織物「ダブルラッセル」をアッパー素材
  とした第2次改良『陸王』を完成する間、
  西島弁理士(西島秀俊)が第2次改良『陸王』に関する特許出願4をしながら、
  第1次改良『陸王』に関して特許出願1〜3を早期審査して特許1〜3にする。
 右向き三角1ニューイヤー駅伝で、こはぜ屋が支援する茂木選手(竹内涼真)が、
  第2次改良『陸王』を履いてアンカーとして走り、
  同じアンカーとなったライバルの毛塚選手(佐野岳)に競り勝ち、
  怪我からの復活を印象付ける。
 右向き三角1タチバナラッセル社がアトランティス社に寝返るが、
  アトランティス社は、特許1〜3が障害となってスポーツシューズに使用できない。
 
 『陸王』第7話では、ドラマは、以下のような展開となります。
 右向き三角1「ダブルラッセル」に代わるアッパー素材を大地(山ア賢人)が探すことになる。
 右向き三角1「シルクレイ」製造装置が火災で使用できなくなり、再建には1億かかり、
  メインバンクの埼玉中央銀行は融資を渋る。
 右向き三角1アウトドア用品の国際的大企業Felix社が、
  「シルクレイ」特許権者の飯村氏(寺尾聰)に、
  「シルクレイ」特許の独占的ライセンスを受けたいと申し出る。

 詳細はこちらが参考になります↓
http://drama-night.com/tbs/rikuou-1wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-1wa2/2
http://drama-night.com/tbs/rikuou-2wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-3wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-4wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-5wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-6wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-7wa

 ドラマでは、こはぜ屋は『陸王』関連特許を有しないので、
 Felix社との交渉当事者になりようがなく、
 「シルクレイ」のライセンスを継続するには飯村氏の胸先三寸に賭けるしかない
 という極めて非現実的な設定になっています。

 特許の無名塾版『陸王』では、こはぜ屋は既に3件の特許権を有していますので、
 外見上の進展は一見同じようにみえても、
 登場人物の胸中はドラマの展開とは大きく様相が異なってきます。

■第7話■
●西島特許事務所●
 西島弁理士が、ミーティングテーブルを挟んで、宮沢社長(役所広司)に、
 アッパー素材の探索と「シルクレイ」製造装置再建のアドバイスをしている。
 秘書(石田ゆり子)が、和歌山の高級南高梅を添えたほうじ茶を置いて、
 憂いを含んだ笑みを浮かべて退室する。
〔西島〕「ダブルラッセル」を含むアッパー素材に関する特許出願4については、
    また大門審査官が担当でしたが、先日、大地君も面接に行ってくれたおかげで、
    特許査定がきていました。
〔宮沢〕大地も、あの大門審査官の超上から目線審査にはとても怒ってましたが、
    まあ、それも社会勉強ですよね。
    西島先生のおかげで、知財戦略は着々と進んでいるのですが、
    開発が頓挫してしまい、本当に情けない。
〔西島〕大地君には、こはぜ屋さんの持っている4件の特許を頭に叩き込んで、
    アッパー素材メーカーに当たるよう伝えて下さい。
〔宮沢〕「シルクレイ」製造装置再建の方は本当に参っています。
    飯村氏がFelix社に心を動かすのも無理ありませんし。
〔西島〕いや、Felix社はそのうち、宮沢社長に話を持ち掛けてくるでしょう。
    飯村氏の「シルクレイ」特許のライセンスを受けても、
    Felix社の欲しいのは、
    飯村氏の「シルクレイ」特許に書いてある高弾性シルクレイではなく、
    こはぜ屋さんが持っている特許2の低弾性シルクレイですから、
    飯村氏と話していても意味がないことをすぐに理解すると思います。

●こはぜ屋の事務所●
 宮沢社長、富沢専務(志賀廣太郎)、そして西島弁理士が
 「シルクレイ」製造装置再建について討議している。
〔宮沢〕西島先生、わざわざ、和歌山の南高梅をお土産にもってきていただき
    ありがとうございます。先日、とても美味しかったものですから嬉しいです。
    すみません、うちだと茶渋のついた湯飲みと安いお茶しかなくて。
〔富島〕西島先生が仰ったように、
    坂本さんも、Felix社がこはぜ屋を買収したいという話を嗅ぎつけて、
    この話に乗っかったらどうかと言ってきたんです。
    こはぜ屋を身売りするなんてとんでもない話だと私は断固反対しています。
〔宮沢〕先日、融資担当の大橋課長(馬場徹)もめずらしく富島と同じこと言ってました。
〔西島〕私も、今回は、富島専務のご意見に賛成です。
    Felix社もこはぜ屋さんを丸ごと買収とは凄い話をもってきましたが、
    こはぜ屋さんが特許をもたない裸一貫の企業なら
    それもやむを得ないかもしれませんが、
    こはぜ屋さんは特許権で「裸足感覚」のスポーツシューズ市場を制圧しています。
    ですから、Felix社が当初飯村氏に持ち掛けた話に引き戻して、
    こはぜ屋さんの特許権に関するライセンス交渉にしてはどうでしょうか。
(続く)
posted by Dausuke SHIBA at 09:26| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ

『陸王』こはぜ屋のために知財コンサルティングをする(その6:第6話)

■幕間■
 『陸王』第5話では、以下の展開となりました。
 右向き三角1シルクレイ樹脂をソール素材とした改良『陸王』を茂木選手(竹内涼真)が履き、
  怪我からの復活の手応えを掴む一方、
  茂木選手を契約選手とするアトランティス社が、
  茂木選手仕様のスポーツシューズ『RU』を茂木選手に履くよう強要します。
 右向き三角1こはぜ屋では、さらに、タチバナラッセル社の織物をアッパー素材とする
  第2次改良『陸王』の開発に着手します。
 右向き三角1こはぜ屋の動きに合わせて、西島弁理士(西島秀俊)は、
  @新規アッパー素材を対象とした特許出願4をすることと、
  A「シルクレイ」を中核素材とする特許出願1〜3を早期審査すること
  を宮沢社長(役所広司)に提案します(ここは特許の無名塾版『陸王』です)。

 『陸王』第6話では、以下の展開になります。
 右向き三角1こはぜ屋が、タチバナラッセル社の特許織物「ダブルラッセル」をアッパー素材
  とした第2次改良『陸王』を完成させ、茂木選手に第2次改良『陸王』を届ける。
 右向き三角1茂木選手がアトランティス社の『RU』を履くか、『陸王』を履くか、
  迷った挙句『陸王』を履いて、復帰レースとなる、ニューイヤー駅伝にエントリーし、
  ニューイヤー駅伝での茂木選手の活躍が山場となります。
 右向き三角1そして、ついに第2次改良『陸王』は商品化され、店頭版橋されます。
 右向き三角1アトランティス社は、『陸王』が思った以上に良い商品であることから、
  タチバナラッセル社に、
  特許織物「ダブルラッセル」のこはぜ屋への提供を止め、
  アトランティス社に提供するよう、取引を持ち掛けませす。

 詳細はこちらが参考になります↓
http://drama-night.com/tbs/rikuou-1wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-1wa2/2
http://drama-night.com/tbs/rikuou-2wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-3wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-4wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-5wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-6wa

 こういうときに、弁理士は縁の下の力持ちとして、
 華やかな茂木選手の活躍の陰で、
 特許出願の審査対応をしていたりするわけです。

 また、こはぜ屋が西島弁理士が提案する知財戦略を実行すると
 タチバナラッセル社はアトランティス社に寝返ることができなくなる
 可能性があることもわかります。

■第6話■
●六本木アマンドの店内●
 審査官との面接の帰り、宮沢社長、正岡あけみ、西島弁理士が一息入れている。
〔あけみ〕あ〜、怖かった。何ですか、あの上から目線の審査官は。
〔西島〕大門審査官は、なかなか厳しい先行技術を挙げてきましたね。
    聞いた話では、大門審査官は、
    東帝大学病院でフリーランスの女医をしているお姉さんがいて、
    えらくコンプレックスをもっているということで、
    お姉さんに対抗して失敗しない審査を心掛けているというのですが、
    性格の悪さは同じくらいだと言われています。
〔宮沢〕西島先生、それで、勝算はいかがなものでしょうか。
〔西島〕どうも大門審査官は、先行技術の図面だけを見て、
    『陸王』は、図面に書かれてる絵を組合わせれば容易だと
    言っているようにしか聞こえません。
    私は元々化学系特許出願の権利化を多くしていていますが、
    化学系の審査官は、図面の絵を組合わせることなどありえないのですが、
    物品系の審査官は、絵だけしかみていないとしか思えない方もいるんです。
    大門審査官には、彼女が明細書の記載をずいぶんと見落としていることを、
    ねちっこく指摘しておいたので、少し考えるでしょう。
〔宮沢〕大門審査官、西島先生に言われて、ムカッ、カチンときているようでしたが、
    大丈夫ですか。
〔あけみ〕そうですよ、私、あのときの大門審査官の顔、怖くて正視できませんでした。
〔西島〕大丈夫ですよ、審査官はああ見えて頭はいいですから、
    感情的にならずに色々と考えるでしょう。

●西島特許事務所●
 西島弁理士が、ミーティングテーブルを挟んで、
 宮沢社長に、知財戦略の進捗状況を説明している。 
 秘書(石田ゆり子)が、新宿高野の高級プリンと緑茶を置いて、
 柔らかい笑みを浮かべて退室する。
〔西島〕先日、お知らせいただいた、
    特許織物「ダブルラッセル」と、特許樹脂「シルクレイ」を使用した
    第2次改良『陸王』について、特許出願4を今朝しておきました。
    これで、茂木選手に第2次改良『陸王』を届けていただいて構いません。
〔宮沢〕西島先生、ありがとうございます。
〔西島〕それと、大門審査官と面接していただいた特許出願1〜3については、
    今朝、特許査定が届きました。
    特許料を納付すれば1月ほどで特許証が届きますから、
    またその折はお知らせします。
〔宮沢〕え〜、こはぜ屋が特許権者になるのですか。
    何だか夢のようです。従業員も励みになります。
    茂木選手が出場するニューイヤー駅伝ですが、
    西島先生、もしお時間が許せば見に行きませんか。
〔西島〕それは嬉しい!
〔秘書〕あの〜、私も行ってもよろしいでしょうか?
〔宮沢〕是非、是非、大歓迎です!

●こはぜ屋の事務所●
 宮沢社長と富島専務(志賀廣太郎)が、西島弁理士に、
 タチバナラッセル社が特許織物「ダブルラッセル」について、
 こはぜ屋への独占販売契約を終了し、アトランティス社と独占販売契約するらしい
 ことについて相談している。
〔西島〕それでは、特許出願4も早期審査を仕掛けて早く特許にしてしまいましょう。
    特許出願4は、「ダブルラッセル」をアッパー素材に使用した靴について
    特許権を取得できるので、
    仮に、タチバナラッセル社が「ダブルラッセル」をアトランティス社に提供して、
    アトランティス社が「ダブルラッセル」ををアッパー素材に使用して、
    スポーツシューズを製造販売すると、
    アトランティス社はこはぜ屋さんの特許権を侵害することになりますから、
    アトランティス社がそのことを知れば「ダブルラッセル」の購入を躊躇う筈です。
〔富島〕そうすると、タチバナラッセル社の寝返りを阻止できるということですね。
〔西島〕相当な牽制力になると思います。
    但し、アトランティス社は、タチバナラッセル社に、「ダブルラッセル」を、
    アッパー素材には使用せず、靴以外の用途に使用することを吹き込み、
    こはぜ屋への提供を阻止することは可能でしょう。
    タチバナラッセル社がこはぜ屋への「ダブルラッセル」の提供を止めるか否かは、
    タチバナラッセル社の自由ですからね。
〔宮沢〕予断は許されませんね。
〔西島〕仮に、今回、タチバナラッセル社の寝返りを阻止できても、
    タチバナラッセル社の腰の定まらなさをみると、
    こはぜ屋さんへの「ダブルラッセル」の安定供給は盤石といえません。
    宮沢社長は、アッパー素材をさらに探して、
    タチバナラッセル社ともう1社による二社供給体制を組むべきと思います。
〔宮沢〕西島先生、いろいろとアドバイスいただきありがとうございます。
    タチバナラッセル社とは交渉を続け、他の提供先もあたってみます。
(続く)
posted by Dausuke SHIBA at 07:53| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ

2019年06月21日

『陸王』こはぜ屋のために知財コンサルティングをする(その5:第4・5話)

■幕間■
 『陸王』第4話では、
 茂木選手(竹内涼真)を契約選手とするアトランティス社の内部事情が描かれます。
 右向き三角1茂木選手が改良『陸王』を履いてその良さを実感するが、
  結局それ以上は改良『陸王』を履かず宮沢社長(役所広司)はがっかりする。
 右向き三角1茂木選手のシューフィッターでアトランティス社に所属する村野(市川右團次)が、
  茂木選手をトップランナー毛塚(佐野岳)の当馬にしようと、
  アトランティス社が画策するのを知り、
  アトランティス社と衝突した挙句に退職、茂木選手のためにこはぜ屋の顧問となる。
 右向き三角1茂木選手は、宮沢社長と村野のサポートを受け、
  アトランティス社の改良シューズにするか改良『陸王』にするか逡巡した結果、
  改良『陸王』を履いて、所属するチーム内レースに出場する。
  茂木選手は、こはぜ屋の社員が見守る中、健闘するが、
  改良『陸王』の履き心地のよさのため、うっかり走りすぎて足がつり完走を逃す。
 右向き三角1しかし、茂木選手は怪我からの復調の手応えを掴む。
 右向き三角1茂木選手が宮沢社長にアッパー素材をもう少し改良できないか、と注文をだす。

 詳細はこちらが参考になります↓
http://drama-night.com/tbs/rikuou-1wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-1wa2/2
http://drama-night.com/tbs/rikuou-2wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-3wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-4wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-5wa

 この中で、以下のような知財戦略の説明が挿入されてもよいでしょう。

■第4話■
●こはぜ屋の事務所●
 宮沢社長が社員全員を集めて、新規スポーツシューズの進捗を説明している。
〔宮沢〕
飯村顧問と大地のお陰で柔らかくて耐久性のある改良『陸王』が完成しました。
    飯村顧問と大地はよくやってくれました。

    西島先生には、この成果を基にして3件の特許出願をしてもらいました。
    富島専務は、これら3件について、
    飯村顧問と大地の特許を受ける権利のこはぜ屋への譲渡契約を頼みます。
    (富島専務が頷く)

    西島先生には、さらに、特許調査をしてもらい、
    『陸王』の開発に影響ありそうな他社特許はないとのことでした。
    さあ、これで、いよいよ、改良『陸王』の試作品を茂木選手に履いてもらうぞ!

■幕間■

 茂木選手が、こはぜ屋と秘密保持契約を結んでいれば、
 茂木選手は、宮沢社長が届けた『陸王』を、ドラマのように大っぴらには履けず、
 監督や仲間に隠れてこそこそと履くことになり、
 「お! これは凄いスポーツシューズだ」と実感することになるでしょう。
 この当り、もう少しドラマチックにしないといけませんね。
 
 ******

 『陸王』第5話では、以下のエピソードが展開されます。
右向き三角1契約選手である茂木選手が『陸王』の良さに傾くのをみたアトランティス社が、
  茂木選手仕様の改良シューズ『RU』を提供して巻き返しを図ります。
右向き三角1茂木選手は復活をアピールするため、ニューイヤー駅伝にエントリーしますが、
 そこで、『陸王』を履くか『RU』を履くかが山場となります。
右向き三角1宮沢社長は、茂木選手にニューイヤー駅伝で『陸王』を「履いてもらうために、
  アッパー素材の改良にとりかかります。

 こはぜ屋さんは、『陸王』完成に向けて貪欲に改良を重ねており立派です。
 顧客の技術開発に寄り添って知財戦略を検討するのが弁理士の役目です。
 「低弾性シルクレイ」をソール素材とした『陸王』について、
 西島弁理士は特許出願1〜3をしましたが、さらに踏み込んだ提案をします。

■第5話■ 
●西島特許事務所●
 宮沢社長と西島弁理士がミーティングテーブルを挟んで対面しているところに、
 秘書(石田ゆり子)が、曙橋の大角玉屋の高級和菓子と緑茶を置いて、
 にこっと笑みを浮かべて退室する。
〔宮沢〕西島先生、というわけで、
    シルクレイ樹脂をソール素材にした改良『陸王』は茂木選手に断られましたが、
    その後、チーム内レースでは履いてくれて、とても良い感触だと言ってくれました。
〔西島〕良かったですね。
〔宮沢〕それから、資金稼ぎのために開発した、
    シルクレイ樹脂を応用した地下足袋『足軽大将』が当たりました。
    おかげで、特許出願1〜3の出願と特許調査の費用は余裕で回収できましたし、
    これからのさらなる特許費用も対応できると思います。
〔西島〕そうですか。技術的には後戻りせずに進展していますね。
    特許出願1〜3は、『足軽大将』も範囲に含むようになっていますから、
    将来は特許地下足袋ということになりますよ。
    それと、『足軽大将』も商標登録出願しておきました。
    ほかに進展はありましたか?
〔宮沢〕西島先生、いつもありがとうございます。
    シルクレイ製造装置が不調で、飯村顧問が怪我で入院している間に、
    大地が1人で修理しようとしたら、飯村顧問が装置図面を見せてくれず、
    頭を抱えたことは先日お話しましたが、
    シルクレイ特許の明細書に図面がある程度書いてあるはず、との
    西島先生のアドバイスに従って、大地が特許図面を見て相談したら、
    飯村顧問が大地の熱心さに驚いてあっさり装置図面を見せてくれました。
〔西島〕それは良かった。お役に立てたようで嬉しいです。
〔宮沢〕茂木選手から注文が付いたアッパー素材の件ですが、
    意外にも融資担当の大橋課長が打開策をアドバイスしてくれました。
〔西島〕それも良かったですね。大橋課長はどのようにアドバイスしてくれましたか?
〔宮沢〕大橋課長は、『足軽大将』の製造現場に足を運んでくれて、
    我々の『足軽大将』の製造管理にかける熱意を感じ取ってくれたことと、
    我々が特許出願と商標登録出願をしている点も評価してくれ、
    何とかまとまった融資ができると言ってくれました。
    そのときに、アッパー素材を提供できそうな織物メーカーとして、
    タチバナラッセル社を紹介してくれたんです。
〔西島〕宮沢社長、茂木選手が改良『陸王』を履いて復調が注目され、
    新たなアッパー素材の可能性もでてきましたから、
    今後の知財戦略として、以下の2点を提案します。
    @タチバナラッセル社のアッパー素材に適した織物が決まりましたら、
     すぐに連絡して下さい。
     アッパー素材に特徴のあるスポーツシューズとして特許出願4を検討します。
    A『陸王』にとっての基本特許出願である特許出願1〜3を早期審査にかけて、
     権利化を急ぎましょう。
     アトランティス社も、『陸王』に注目しだしてますからね。
     今から審査請求すれば3ヵ月後には特許庁から拒絶理由通知が届く筈です。
     宮沢社長、正岡様と私とで、審査官と面接に行きましょう。
〔宮沢〕え〜、特許庁の審査官と面接ですか〜。
〔西島〕審査官は、発明者から見ると、
    浮世離れした何を考えているのかわからない人に見えると思いますが、
    実際に会うといろいろな人がいて面白いですよ。
    何も取って食われるわけではないので、気分転換に行ってみましょう。
    特許庁は虎ノ門本庁舎が工事中なので、審査官は六本木仮庁舎にいます。
〔宮沢〕おー、六本木ですか。あけみさんは喜びそうだな。
(続く)

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『陸王』こはぜ屋のために知財コンサルティングをする(その4:第3話)

■幕間■
 『陸王』第2話では
 特許樹脂「シルクレイ」をソール素材に最適と考える宮沢社長(役所広司)が、
 行方不明になっていた特許権者の飯村氏(寺尾聰)を探し出し、
 説得に説得を重ねて、飯村氏からライセンスを受けることに成功しました。

 その間に、西島弁理士は「シルクレイ」を使用する前段階の試作品について、
 特許出願をします(特許の無名塾版『陸王』第2話)。
 
 『陸王』第3話では、
 銀行の融資担当の大橋(馬場徹)が、新規スポーツシューズのための融資を渋り、
 宮沢社長の息子の大地(山崎賢人)の就活がうまくゆかず、
 飯村氏と大地が取り組む「シルクレイ」の改良は進まず、
 宮沢社長が届けた『陸王』試作品を茂木選手(竹内涼真)は履いてくれず、
 『陸王』の実用化に向けた開発が停滞してしまうエピソードが進みます。

 詳細はこちらが参考になります↓
http://drama-night.com/tbs/rikuou-1wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-1wa2/2
http://drama-night.com/tbs/rikuou-2wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-3wa

 こういうときに、西島弁理士(西島秀俊)は宮沢社長をどうサポートするかを
 挿入してみました。

■第3話■
●西島特許事務所●
 秘書(石田ゆり子)が電話を取る。
〔秘書〕西島先生、宮沢社長からお電話です。
〔西島〕宮沢社長、何か進展がありましたか?
〔宮沢〕西島先生、飯村氏と交渉することに成功しました。
    飯村氏は最初渋ってましたが、何とか説得した結果、
    「シルクレイ」特許をこはぜ屋にライセンスしてくれることになりました!
〔西島〕宮沢社長、それはおめでとうございます。
    それでは、私の方から、ライセンス契約書と秘密保持契約書を送りますから、
    飯村氏と契約を交わして下さい。  

●こはぜ屋の事務所●
 西島弁理士が、宮沢社長から「シルクレイ」の進捗状況を聞いている。
〔宮沢〕西島先生、飯村氏がこはぜ屋の技術顧問になってくれて、
    就活が上手くいかずブラブラしている大地を助手につけて、あれから毎日、
    2人でシルクレイ製造装置で柔らかいシルクレイの製造条件を検討してますが
    なかなかうまくいきません。
〔西島〕宮沢社長、大丈夫ですよ。
    佃社長(三上博史/阿部寛)のおかげで、
    ソール素材の柔らかさの目標値はわかっています。
    目標値がわかっていれば、樹脂製造技術者は製造条件を必ずみつけますよ。

●西島特許事務所●
 秘書(石田ゆり子)が電話を取る。
〔秘書〕西島先生、宮沢社長からお電話です。
〔西島〕宮沢社長、何か進展がありましたか?
〔宮沢〕西島先生、飯村氏と大地が、ついに柔らかいシルクレイの製造に成功しました!
    いやー、ここまでくるのに半年かかりました。
〔西島〕宮沢社長、ここで気を抜いてはだめですよ。
    「シルクレイ」に関する特許出願を検討しましょう。
〔宮沢〕え〜!、西島先生、「シルクレイ」はもう特許になっているのに、
    これ以上、特許出願できるんですか?
〔西島〕勿論ですし、当然しなければいけません。
    電話では長くなるので、こはぜ屋さんに行って説明します。

●こはぜ屋の事務所●
 西島弁理士が、宮沢社長と富島専務(志賀廣太郎)に、
 今後の特許出願の可能性を説明している。

《基礎出願》
 シルクレイ樹脂ではない既存の樹脂を使用した、
 基本コンセプトを満たしますが、耐久性が不足する試作品については、
 先日出願しました。

《基礎出願に基づく国内優先権主張出願》(特許出願1)
 そこで、先日した基礎出願の内容に、シルクレイ樹脂を使用した、
 基本コンセプトと耐久性の両方を満たすスポーツシューズを加えて、
 国内優先権主張出願をして、これを改めて基本特許出願とします。
 基礎出願から1年以内ですから、このような特許出願ができます。

《低弾性シルクレイ樹脂、その製造方法及びその製造装置》(特許出願2)
 従来は硬いとばかり思われていたシルクレイ樹脂に対して、
 飯村氏と大地君が半年間試行錯誤しして、ある特定の範囲の加工温度にすると、
 誰も予想しなかった柔らかい低弾性シルクレイ樹脂を得たのです。

 従って、低弾性シルクレイ樹脂は、
 飯村氏の特許には開示されていなかったことになり、
 飯村氏のシルクレイ樹脂・製造方法・製造装置に関する特許があっても
 選択発明として新規性と進歩性を有する発明といえます。そして、
 加工温度を特定の範囲にするシルクレイ樹脂の製造方法も特許性がありますし、
 低弾性シルクレイ樹脂の製造装置も特許性があります。

 こはぜ屋さんがこれらについて特許権を取得すれば、
 低弾性シルクレイ樹脂は、こはぜ屋さんのライセンスを受けなければ、
 飯村氏といえども製造できず、他人にライセンスできません。

《低弾性シルクレイ樹脂を使用した靴用樹脂、靴底及び靴》(特許出願3)
 靴用途に限定した低弾性シルクレイ樹脂の発明です。
 こはぜ屋さんが特許権を取得すれば、
 誰もシルクレイ樹脂を靴用途に使用できなくなります。

〔宮沢〕私も冨島も頭が混乱して、
    西島先生のご説明にほとんどついていけなくなってますが、
    すいません、結局、特許出願1〜3をすると、
    こはぜ屋にどんなメリットがあるのでしょうか。
〔西島〕すみません。『陸王』が素晴らしい発明なので、
    目一杯の可能性を考えてしまいましたが、ややこしくなりました。
    要するに、貴社には以下のメリットがあると考えて下さい。

    @こはぜ屋さんが、これらの特許出願をして特許権を取得できれば、
     低弾性シルクレイ樹脂については、
     アトランティス社を始め、他社は手も足も出すことができなくなり、
     飯村氏も、どこにもライセンスできなくなります。

    A飯村氏のシルクレイ樹脂に関係する基本特許はあと6年で切れるので、
     こはぜ屋さんが、飯村氏から独占的なライセンス契約を結んでも、
     シルクレイ樹脂を独占使用できるのは、『陸王』販売からせいぜい5年です。
     ここで、低弾性シルクレイについて、こはぜ屋さんが特許権を取得すれば、
     飯村氏のシルクレイ樹脂に関係する基本特許を実質的に15年延命できる
     ことになり、こはぜ屋さんにとって、
     他社を排除した独占市場の中で、十分な投資回収期間を確保できます。
〔冨島〕西島先生、特許出願のメリットはよくわかりましたが、
    特許出願費用は最初の30万円どころか、100万円を超えてしまいますね。
    社長、どうするんですか。本当に発明貧乏にならないのでしょうね。
〔西島〕富島専務、そこは私も考えたところですが、
    埼玉県でも、中小企業の開発支援事業をしていて、
    特許出願費用も支援してくれます。ダメもとで申請してみませんか。
    『陸王』は特許性のある技術の塊ですから申請が通る可能性はあると思います。
〔宮沢〕そうですね。我々も今ある様々な支援制度を利用しない手はありませんよね。
    私の方でも、せっかくのシルクレイ樹脂を応用できないか考えてみます。
〔西島〕それと、今回の特許出願を準備するときに、
    こはぜ屋さんが『陸王』を製造販売したときに侵害してしまう他社特許の存否も
    突っ込んで調査してみます。
    先日、基礎出願をする際に、念のため、先行技術は調べていて、
    他社は、シルクレイ樹脂並に強靭で、
    シルクレイでも困難だった低弾性を有する樹脂などあるはずがない
    という先入観があるのかもしれませんが、
    低弾性の樹脂をソール素材とする特許出願はなかったので、
    おそらく、『陸王』に影響する他社特許はないと思いますけどね。
〔宮沢〕西島先生だけが頼りですので、よろしくお願いします。    
(続く)
posted by Dausuke SHIBA at 20:25| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ

『陸王』こはぜ屋のために知財コンサルティングをする(その3:第2話)

 『陸王』第1話では、
 老舗の足袋製造メーカーのこはぜ屋の4代目社長である宮沢(役所広司)が、
 こはぜ屋の将来のために、
 こはぜ屋の縫製技術を導入した新規スポーツシューズの開発に着手し、 
 足袋縫製技術者の正岡あけみ(阿川佐和子)をリーダーに据え、
 新規スポーツシューズの試作に、社員の残業を全て投入するのですが、
 基本コンセプト(ミッドフット走法に適したフィット感と軽さ)を達成するも、
 ソール(靴底)素材の耐久性が不足するという壁に突き当たりました。

 詳細はこちらが参考になります↓
http://drama-night.com/tbs/rikuou-1wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-1wa2/2
http://drama-night.com/tbs/rikuou-2wa

 ここまでは、ドラマ通りなのですが、特許の無名塾版『陸王』第1話(後編)では、
 ここで、弁理士を登場させて、ドラマにはない展開をさせてみました。
 
 宮沢社長は、銀行の融資担当の坂本(風間俊介)に、
 特許出願を検討すべきと言われ、西島弁理士(西島秀俊)を紹介されます。

 宮沢社長は、壁に突き当たった状況で特許出願など夢のまた夢と思いつつ、
 西島弁理士に会いに行きました。

 ところが、西島弁理士は、宮沢社長から、壁に突き当たった状況を聞きながら、
 新規スポーツシューズの発明は既に完成しているので、
 特許出願作業を開始しましょうと言いだします。

 宮沢社長が、この人は何で話を聞いただけで、
 特許出願できることがわかるのかと半信半疑のまま、
 西島弁理士に特許出願を託したところで第1話は終わりました。

 第1話の後、第2話までは、だいたいドラマの通り進展します。
 右向き三角1銀行は、こはぜ屋の無謀な新規事業を止めなかったとして坂本を左遷し、
  坂本の上司だった後任の大橋課長(馬場徹)が、宮沢社長に、
  こはぜ屋のリストラを提言し、宮沢社長は抵抗します。
 右向き三角1新規スポーツシューズの試作品を学校の採択コンペにエントリーするも、
  書類審査で、競合のアトランティス社に敗れます
  (西島弁理士は、コンペでの試作品の説明も新規性喪失にならないように、
   何らかのアドバイスをしたはずです)。
 右向き三角1左遷された坂本が、宮沢社長に、
 ソール素材として特許樹脂「シルクレイ」を紹介します。

 この流れの中で、弁理士がどう考えるかを挿入してみます。

■第2話■

●こはぜ屋の事務所●
 宮沢社長が社員全員を集めて、新規スポーツシューズの進捗を説明している。
〔宮沢〕新規スポーツシューズの特許出願を、西島先生に頼んだので、
    皆は、特許出願の作業が終わるまで、
    会社で行っている新規開発の中身は絶対に口外しないでくれ。

    西島先生には、こはぜ屋の知財顧問になってもらった。
    富島専務(志賀廣太郎)には、
    有村店長(光石研)との秘密保持契約の作業をしてもらっている。

    大地(山崎賢人)、西島先生が佃製作所にお願いしてくれた、
    失敗品の20足分のソール樹脂の弾性測定試験の結果がいつ届くか、
    佃社長(三上博史/阿部寛)に聞いてくれたか?(大地が頷く)

    西島先生が特許出願するまでの間、私の方は、
    坂本さんから紹介された特許樹脂「シルクレイ」を当たってみる。

    それと、新規スポーツシューズの名称は『陸王』にした。
    西島先生は既に『陸王』の商標登録の出願をしてくれている。

    先代の思いが籠もった名前だが、我々の手で『陸王』を完成させたい。
    これからも、皆、よろしく頼む。

■幕間■
 坂本が紹介した特許樹脂「シルクレイ」は誰からも注目されず、
 特許権者の飯村氏(寺尾聰)も行方不明で、宮沢社長も探し回ります。

 『陸王』の第2話のドラマの山場は、宮沢社長が、
 ようやく飯村氏をみつけたものの、なかなかライセンス契約に応じてくれず、
 宮沢社長の『陸王』にかける情熱を伝え説得した結果、
 飯村氏が心を動かされて特許樹脂「シルクレイ」をこはぜ屋にライセンスする
 という場面です。

 『陸王』についてコメントする知財関係の方々は、
 このエピソードを「死蔵特許問題」のように取り扱っていましたが、
 西島弁理士は以下のような処理を提案します。 

●西島特許事務所●
 宮沢社長と西島弁理士がミーティングテーブルを挟んで対面しているところに、
 秘書(石田ゆり子)が、アマンドの高級ケーキを置いて、
 にこっと笑みを浮かべて退室する。
〔宮沢〕西島先生、というわけで、坂本さんに
    ソール素材として「シルクレイ」を紹介してもらったのはいいのですが、
    「シルクレイ」の特許権者の飯村氏が、
    彼の会社が倒産して以来行方不明なっていて困っているんです。
〔西島〕こういう場合、いっそ飯村さんが見つからない方がよいともいえます。
    「シルクレイ」特許は、あと7年の有効期間がありますが、
    特許料は来年までしか支払われておらず、
    飯村氏が財政的に困窮しているのであれば、
    特許料をこれ以上支払わないこともありえます。
    特許権が消滅してしまえば、誰もが「シルクレイ」を自由使用できます。
    
    特許樹脂「シルクレイ」が3年間実施されない場合、
    特許権者の飯村氏とライセンスの協議ができなければ、
    こはぜ屋さんが特許庁長官に裁定請求をすることができます。

    この裁定請求が認められれば、ライセンス料を供託して、
    裁定によるライセンスを受けることができます。

    「シルクレイ」特許は製造方法も全て開示されているので、
    樹脂・繊維加工技術を有する企業であれば「シルクレイ」を製造できるはずです。
    我国の樹脂・繊維加工技術は今だに世界有数ですからね、
    その企業にも裁定によるライセンスを受けてもらい、
    こはぜ屋さんと「シルクレイ」を共同開発してもよいのではありませんか。
    佃製作所に余力があれば、共同開発を支援くれるかもしれません。

    「シルクレイ」特許が特許料未払いであと1年で消滅するなら、
    裁定のライセンスは1年だけで、あとは自由使用できますから、
    飯村氏の特許権の縛りはないに等しいですよ。    
〔宮沢〕なるほど、そんな仕組があるとは、特許制度は奥が深いんですね。
    しかし、西島先生、これは私の流儀というか、
    やはり、「シルクレイ」に思い入れがあるはずの飯村氏を探し出して、
    ライセンス交渉をやるだけやってみようと思います。
〔西島〕勿論、宮沢社長がやりたいように進めてよいと思います。
    もし、飯村氏とライセンス交渉できるようであれば、
    残りの6年分の特許料はこはぜ屋が持つということを、
    ライセンスの見返りにしてよいかもしれません。
〔宮沢〕西島先生、良い案を提案いただきながら、
    私の我儘を聞いていただきありがとうございます。
〔西島〕今準備している特許出願では、
    ソール素材は具体的な樹脂組成ではなく、
    柔らかさを示す樹脂の弾性で規定していますから、
    これがそのまま特許になれば、
    仮に、飯村氏が「シルクレイ」を他社にライセンスしても、その他社は、
    スポーツシューズ用の低弾性のソール素材としては使用できません。
    ですから、飯村氏には、
    せめて、スポーツシューズのソール素材の部分だけでも、
    ライセンスできないかお願いしてみて下さい。
    特許出願は今週中にしておきます。
〔宮沢〕何としても飯村さんを探し出して食いつこうと思っています。
    それと、特許出願後に、茂木選手に試作品を届けてもよいでしょうか?
〔西島〕茂木選手に認めてもらえるか否かは営業上重要ですから、
    やむを得ないでしょう。しかし、
    茂木選手とは必ず秘密保持契約を結び、
    誰も見ていないところで履いてもらうようにお願いして下さい。

■幕間■
 この段階で、西島弁理士は秘密保持契約に拘りますが、
 茂木選手と秘密保持契約を結べるかはなかなか微妙です。
 常識的には、面識もない宮沢社長に秘密保持契約を突き付けられて、
 契約通り、こっそりと試作品を履くスポーツ選手はいないでしょう。
 脚本上は工夫を要するところです。
(続く)
posted by Dausuke SHIBA at 20:05| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ

2019年06月16日

『陸王』こはぜ屋のために知財コンサルティングをする(その2)

 今回は、特許の無名塾版『陸王』です。

 第1話(前編)では、
 老舗の足袋製造メーカーのこはぜ屋の4代目社長である宮沢(役所広司)が、
 こはぜ屋の縫製技術を導入した新規スポーツシューズの開発に着手し、 
 足袋縫製技術者のあけみ(阿川佐和子)をリーダーに据え、
 200足を超える失敗試作品の山を築いた末に、
 基本コンセプト(ミッドフット走法に適したフィット感と軽さ)は出たものの、
 ソール(靴底)素材の耐久性が不足しており、
 このままでは本格的なスポーツシューズとしては使えない、
 という壁に突き当たったところまでお話ししました。

 ここで、宮沢社長の新規スポーツシューズの開発を後押しする
 融資担当の銀行員である坂本(風間俊介)が、
 苦戦する宮沢社長を陣中見舞に訪れます。
 
■第1話■(後編)

●こはぜ屋の事務所●

〔坂本〕社長、苦戦されているようですね。
〔宮沢〕坂本さん、ちょっと壁にぶつかってしまって。
〔坂本〕しかし、みたところ、
    新規スポーツシューズの足袋型形状はできているようですし、
    ここで、頭の整理をする意味でも、特許出願を検討されてはいかがですか?
〔宮沢〕でも、しがない足袋屋にとっては、特許なんて別の世界の話で、
    どうしていいかもわかりません。
〔坂本〕以前、佃製作所の佃社長(三上博史/阿部寛)の顧問弁護士をしている
    神谷先生(寺島しのぶ/恵俊彰)から、
    腕のいい弁理士として西島先生(西島秀俊)を紹介してもらったことがあります。
    その弁理士でよければ、新宿の曙橋ですが、一度訪問されてはいかがですか。

●西島特許事務所の前●
〔あけみ〕社長、かわいらしいビルだけど、ここみたいですよ。
西島特許事務所ビルと表札.jpg
●西島特許事務所の中●
 ミーティングテーブルを挟んで、
 西島弁理士と、宮沢社長とあけみが腰かけている。
西島特許事務所の室内.jpg

〔あけみ〕西島先生、おしゃれな事務所ですね。
〔西島〕(にこにこしながら頷く)

 秘書(石田ゆり子)が、軽く会釈をしながら、
 レモンティーを注いだ白磁のティーカップを並べて置く。
 宮沢は、秘書の白魚のような美しい指に見とれる。
 秘書は、にこっと微笑んで退室する。

〔あけみ〕
特許事務所の秘書さんて、とてもお美しいんですね。
     いやだ、社長、何をぼんやりしてるんですか!
〔西島〕坂本さんから、概要は伺いました。
    早速ですが、開発中の新規スポーツシューズについて詳細をお話し下さい。
〔宮沢〕・・・というわけで、壁にぶつかっているところで、
    こんな状態で特許どころではないように思うのですが・・・。
〔西島〕何をおっしゃっているんですか!
    今のお話では、もう特許出願はできたも同然で、
    今後、試作品を関係者に試用してもらう計画のようですから、
    一刻も早く特許出願をしてしまいましょう。

******

 西島弁理士は、ピンときていない宮沢社長に、以下の説明をする。

《発明者について》
 発明者は、
 新規スポーツシューズの基本コンセプトを提示して、
 試作品の製造を指揮し、試作品を試着して評価してきた宮沢社長と、
 宮沢社長の基本コンセプトを受けて、
 具体的に図面を作成し材料を選んで縫製した正岡あけみ様になります。

《特許を受ける権利》
 就業規則を見ると、職務発明制度を取り入れていらっしゃるので、
 宮沢社長と正岡様の特許を受ける権利は全てこはぜ屋さんに移転しています。
 従って、出願人と将来の特許権者はこはぜ屋さんということになります。
 この就業規則を作成された社労士の先生は抜かりないですね。

《秘密保持》
 試作品を不特定多数の方の前に提示する作業は、特許出願してからにして下さい。
 特許出願するまでに1月ほどかかると思いますので、
 できれば、その間に、ソール素材を探されたら良いと思います。

 但し、アドバイスを受けるために試作品を他の方に見せる場合、
 その方とは必ず秘密保持契約を結んでください。

 お話を伺った限りでは、
 スポーツ用品店の有村店長(光石研)とまずは結ぶべきと思いますし、
 ご家族、社員の方には、特許出願が終わるまで、
 開発内容を口外しないようくれぐれも注意すべきことをお伝え下さい。

******

〔宮沢〕しかし、失敗作しかないのに、何故、特許出願できるのでしょうか?
〔西島〕失敗作といっても、それは、実用上、耐久性が不足しているだけで、
    宮沢社長が当初構想された基本コンセプトである、
    ミッドフット走法に適したフィット感と軽さは達成していて、
    「裸足感覚」のスポーツシューズになっているじゃないですか。

    基本コンセプトを達成するのに、
    ミッドフット走法に適した靴底の形態と足袋型形態という基本構造を創作され、
    基本構造の形成手段として足袋の縫製形態を導入し、さらに、
    その縫製形態は、足袋では使用しないような微妙なアレンジがされています。

    特許性のあるバリバリの発明です。
    ただ、50mは走れても、100m走ると壊れてしまうだけですから、    
    ないのは耐久性だけです。
    ですから、新たな素材がみつかって耐久性が確保できたら、
    また特許出願すればいいですよ。
〔宮沢〕確かに、言われてみれば、
    有り合わせの材料を組合わせていつもの作業をして試作したつもりでしたが、
    我々は苦労していろいろな工夫をしたということですね。
〔西島〕その通りです。工夫をした部分に特許は宿るんです。
    ところで、200足の失敗作ですが、
    一度、貴社工場で見せていただいてよろしいですか?
〔宮沢〕え〜、あんなものを見てどうするんですか?

●こはぜ屋の縫製工場●
 西島弁理士が入ってくるのを見て、
 女性社員は、瞳に☆が瞬き、心が「♡♡♡♡♡♡」になっている。

〔宮沢〕西島先生、これが失敗作の全てです。
    最後の20足は耐久性を向上させるためのソール素材を選択したものですが。
〔西島〕(手にとって見ながら)なるほど。
    200足のうち、最後の50足は実施例に使えるな・・・・・・。

●こはぜ屋の事務所●
 西島弁理士、宮沢社長、番頭専務(志賀廣太郎)が打合せをしている。

〔専務〕社長、失敗作しかないのに、30万円もかけて特許を出願するなんて、
    いったい、何を考えているんですか?
    特許を出せば売れるというのならともかく、
    きちんと、使えるものになって、売れるようになってからでいいではないですか。
〔西島〕専務が仰るのもごもっともな部分があります。
    特許は先行投資で、特許を出せば商品が売れるわけではなく、
    売れるか売れないかは、貴社の営業努力によりますから。

    但し、考えてみて下さい。
    特許が威力を発揮するのは、貴社の営業努力が実を結んで成功してからです。
    貴社が成功した途端、他社は模倣品を貴社が切り開いた市場に投入します。
    特にアトランティス社のような開発力のある大企業であれば、
    あっという間に模倣品を投入して、安売りを仕掛けてくるでしょう。

    貴社が特許をもってなければ、貴社の成功は短命に終わりますが、
    貴社が特許をもっていれば、貴社の市場には当面誰も参入できませんから、
    貴社の成功は先行投資を回収するのに十分な長期間継続することになります。

    特許出願30万円前後と、さらに権利取得までに必要な40万円前後の
    計70万円前後を回収できない事業であれば、
    やらない方がマシと考えてもよいのではありませんか。
〔専務〕ウー・・・、それも一理ありますな。
    社長、それでは、今回の特許出願費用は予算計上しますから、
    きちんと、使えるものにして、売って下さいね。
〔西島〕それでは、宮沢社長、本件特許出願の手続を明日から開始します。
    それと、新規スポーツシューズの名称は商標登録をすべきと思いますので、
    決まったら必ずお知らせ下さい。
〔宮沢〕西島先生、是非とも、よろしくお願いします。
(続く) 
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『陸王』こはぜ屋のために知財コンサルティングをする(その1)

 ここのところ、オリンピック関連商標の話ばかりで、
 なかなか映画・TVドラマの記事を書くことができませんでした。

 相変わらず、TUTAYAでDVDを借りて、
 2年遅れでTVドラマを見る日々ですが、
 ようやく話題になった『陸王』を見終わりました。

 『陸王』は、足袋製造の老舗メーカー「こはぜ屋」が、
 新規スポーツシューズの開発を始めたことで展開する人間模様を描いた、
 『下町ロケット』(三上博史版/阿部寛版)『七つの会議』(TVドラマ版/映画版)でお馴染みの池井戸潤原作の連続ドラマです。

 役所広司が、こはぜ屋の4代目社長を演じており、さすがにうまく、
 斜陽の中小企業の社長の悲哀感をこれでもかというほど滲み出しています。

 志賀廣太郎が、こはぜ屋の資金繰りで銀行と折衝するもコテンパに叩かれ、
 夢だけ追っているようにみえる4代目社長がこはぜ屋を潰すのではと、
 体を張って新規開発を止めようとするも、
 4代目社長の思いに押し切られて今日も銀行に頭を下げに行くという
 なくてはならない役どころを、これまた悲哀感たっぷりに演じています。

 ドラマ放映時に、以外とクールな役どころだったと評価されていましたが、
 やはり出てきただけで暑苦しさ全開の松岡修造も、
 企業買収だけで成功してきた得体のしれない社長を怪しく演じています
 (他の役者より頭一つ背が高くかっこいい)。

 これらの芸達者や安定したビジュアルは安心してみていられるのですが、
 役所広司の息子やマラソン選手を演じる若手が下手くそで、
 もっとさわやかで美しい女優はいないのか、というほど、
 魅力的な女性キャラクターがいない(これは池井戸潤原作の特徴ですが)
 など、いつもの池井戸潤原作ドラマだと思えば、
 そこそこ見ていることができました。

******

 『陸王』は新規技術を取り入れた開発商品を巡る群像劇といえますが、
 新規技術を語るドラマとしては決定的に欠けている要素があり、
 我国の企業の開発現場を知る者には、リアリティが欠如しています。

 新規技術を取り入れた商品開発においては、
 技術と商品を守るための知財戦略が事業の成否を決定づけますが、
 『陸王』には、こはぜ屋と知財戦略との関係がほぼ絶無であるため、
 池井戸潤原作を特徴付ける知的財産権を巡る知的バトルの面白さがなく、
 登場人物の思いばかりが前面にでてしまう結果、
 暑苦しい感動の押し付けに堕してしまっています。

 それでは、『陸王』に、
 『下町ロケット』に登場した知的財産専門の神谷弁護士を出演させれば
 知的バトルの面白さがでたかというと、そうはなりません。

 『下町ロケット』では、神谷弁護士が、
 佃製作所が既に取得した特許権を上手く活用して敵の大企業を撃退するのですが、
 『陸王』では、4代目社長が、
 特許樹脂「シルクレイ」と特許織物「ダブルラッセル」を活用しようとしますが、
 彼は特許制度に疎く(それは必ずしも非難されることではありませんが)、
 仮に神谷弁護士が付いても、こはぜ屋が特許権を有していないため、
 特許樹脂と特許織物の特許権者の意向によって、こはぜ屋にとって、
 これらの素材の供給が非常に不安定になる状況は食い止めようがないと思います。

 特許弁護士は、既にある特許権は活用できても、
 新たに創作されつつある発明の特許権を取得することは得意ではありません。

 そうなると、『陸王』に知的財産権を巡る知的バトルの面白さを与えるには、
 特許権活用に強い特許弁護士ではなく、
 特許権取得の専門家たる弁理士を出さざるをえないことになります。

 このように、『陸王』は、特許制度を考える上で、
 絶好の反面教師的題材であると思いますので、
 こはぜ屋が適切な知財コンサルティングを受けていれば、
 より面白いドラマになったであろうと、
 特許の無名塾版『陸王』を考えてみました。

■第1話■(前編)

 埼玉県に所在する足袋製造メーカー「こはぜ屋」は、
 創立百年を超える老舗で、
 全盛時は社員100名を超える業界大手であったが、
 足袋市場が長期的に縮小し、同業者が相次いで廃業する中、
 優れた縫製技術による履き心地の良い足袋を提供し続けた信用で、
 何とか生き残ってきた今や社員20名足らずとなった中小企業である。

 足袋関連産業は、銀行からは化石産業のように見られ、
 将来的に安定した資金繰りを続ける保証もなくなってきた。

 肝心の、縫製技術を裏付ける特製ミシンも、
 既にそれを製造しメンテナンスできるミシンメーカーがなく、
 廃業した同業者から譲り受けた中古ミシンの部品を使い回して、
 目先の事業運営を凌いでおり、
 銀行ならずとも、明るい将来像など描きようがない状況だった。

 こはぜ屋の4代目社長の宮沢(役所広司)は、
 何か新しいことをしなければ、こはぜ屋もじり貧だと、
 わかってはいたが、よい考えなど簡単には浮かばなかった。

 ******

 こはぜ屋の宮沢社長(役所広司)と就活中の息子の大地(山崎賢人)は、
 ある日、市役所前がスタート・ゴールとなるマラソン大会を観戦した。

 マラソン大会には、
 優勝候補である茂木選手(竹内涼真)が出場するが、
 大地は彼の熱烈なファンであった。

 しかし、茂木選手は、トップで市役所前に入るも、
 宮沢社長と大地の見ている前で、
 足を痛めてゴールすることができず退場するという結果となった。
 
 宮沢社長の知人であるスポーツ用品店長の有村(光石研))は、
 宮沢社長に茂木選手の状況を以下のように説明した。

(1) マラソンランナーの走法の主流である、
  踵から着地するヒールストライク(踵着地)走法は、
  業界最大手のアトランティス社が専用シューズを製造販売しているが、
  茂木選手はヒールストライク走法に対応できずにいて、
  足の故障に繋がる負荷がかかったのだろう。

(2) 茂木選手は、本来的に走りの理に適う、
  足裏中央部で着地する「ミッドフット走法」に切り替えるべきだが、
  「ミッドフット走法」に適した良いスポーツシューズがない。

 ******

 有村店長の説明を聞いた宮沢社長は、 
 「こはぜ屋にとっての新規事業はこれだ!」と閃き、
 こはぜ屋の縫製技術を適用して
 走りの理に適う「ミッドフット走法」に適した、
 ランナーの足に負担がかからない「裸足感覚」のスポーツシューズを開発し、
 茂木選手にも履いてもらおう、と決意した。

 こはぜ屋の融資担当の銀行員である坂本(風間俊介)が、
 宮沢社長の新規事業に臨む心意気を評価して後押ししたこともあり、
 経理担当の番頭専務(志賀廣太郎)の
 「社長の思い付きで「こはぜ屋」を潰す気か!」の猛反対を押し切り、
 宮沢社長は、新規スポーツシューズの開発に乗り出した。

 ******

 宮沢社長は、
 職場のムードメーカーで、足袋の構造・縫製に熟知する
 正岡あけみ(阿川佐和子)を開発リーダーに据え、
 残業時間を全て新規スポーツシューズの試作に充てた。

 来る日も来る日も、作っては履き、作っては履きを繰り返し、
 こはぜ屋縫製技術を導入した足袋型形状の試作品の
 200足を超える失敗作の山を築きながら、
 宮沢社長は試作品を履いて近所を走り回った結果、
 ミッドフット走法に適したフィット感と軽さは出たものの、
 ソール(靴底)素材の耐久性が不足しており、
 このままでは本格的なスポーツシューズとしては使えない、
 という壁に突き当たった。
(続く)

■幕間■


 ここまでは、ほとんどドラマに沿った内容ですが、
 ここまでで、宮沢社長とあけみは、
 彼らの目指したスポーツシューズの発明、
 それも十分に特許性のある発明を完成させています。

 従って、この段階で、宮沢社長は弁理士を探す必要があります。

 私の感覚では、弁理士役は、年齢・知性・見栄えを考慮すると、
 ちょっとカッコよすぎるかもしれませんが、
 西島秀俊君に演じてもらいたいと思います。

 次回は、西島弁理士がこはぜ屋に知財コンサルティングする
 という設定で話が進みます。
posted by Dausuke SHIBA at 13:18| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ

2017年11月05日

『天の方舟』不競法改正の裏で奏でられた大人のドラマ

 毎日が月曜日状態が続いていますが、
 毎週末にTUTAYAでDVDの旧作をまとめて借りて、
 晩酌しながらドラマを見るのが至福のときになっています。

 2000年代に入ってからの我国のTVドラマは面白いものが多いですが、
 WOWOWの一連のドラマ群の質が高く最近はよく見ています。

 中でも三上博史版『下町ロケット』(2011)は、
 特許騒動がテーマのど真ん中であるだけでなく、
 三上博史の佃社長が思索的で渋く、
 原作では男性の神谷弁護士を寺島しのぶに演じさせるなど、
 ドラマのアレンジとしては、私は、WOWOWの三上博史版の方を、
 剛速球なるも色気の乏しいTBSの阿部寛版よりも買っています。

 最近も地熱発電をテーマにした『マグマ』(2012)が面白く、
 主人公のハゲタカファンドの敏腕マネージャーである尾野真千子が、
 生涯を地熱発電に賭ける熱血の研究所長である長塚京三と仕事を共にするうちに、、
 研究の夢絶たれ若くして亡くなった自分の父親に重ねて見るようになり、
 その長塚京三の夢を継いで地熱発電の実現に渾身傾けるという、
 何とも、長塚京三がかっこよすぎて自分に重ねてみてしまい
 心地よくなってしまうという内容でした。

******

 今回の『天の方舟』(2012)は、予備知識が全くなく、
 WOWOWのドラマという理由だけで借りたのですが、

 なかなか見ごたえのある大人のドラマというだけでなく、
 何と不正競争防止法(不競法)の改正の裏を知ることができたという意味で、
 弁理士が見ると倍楽しめるものでありました。

《ストーリー》

 黒谷七波(水野美紀)は新潟の個人農家の娘として育つが、
 父親が地震の被害で農業経営に行き詰って自殺するという暗い過去をもつ。

 しかし、七波は頭がよく東京大学に進み、
 開発途上国の政府開発援助(ODA)に興味を持ち、
 ODAが開発途上国の役人と日本の商社・ゼネコンとの間で
 賄賂だけで動いてく汚職まみれの裏の仕組を知るようになり、
 貧しさから抜け出すために、自らその汚職の世界に飛び込んでいく。

 七波は、最初は学費を稼ぐために夜の商売でホステスをしていたのだが、
 ある日、ODAに群がるある建設会社の腕利きの重役である宮里一樹(伊原剛志)
 と互いに惹かれあい、抜き差しならぬ関係になると共に、
 宮里の手引きにより、その建設会社と開発途上国を結び付けるための
 コンサルティング会社に就職する。

 七波と宮里は、男と女の関係を続けながら、
 ODAを介して利用しあう会社の中心人物として裏の世界に突き進むが・・・。

 東南アジアに大ロケーションを敢行しています。

《伊原剛志》


 二人のドロドロの関係と裏稼業はやがて破滅に突き進むわけですが、
 伊原剛志がかっこいいです。

 伊原剛志は、夏八木勲を引き継ぐ、日本では数少ない硬派のアクションスターで、
 時代劇から現代劇のアクション映画を始め、
 シリアスからコミカルまで硬軟自在の役をこなせる演技派でもあります。

 そういう伊原剛志が、今回は、裏の世界で有能なるも影があり、
 その影に女が引きずり込まれるのも仕方ない、
 という宮里一樹にドンズバリ嵌っていて、かっこよすぎます。

 夏八木勲は、かつては映画の時代劇でニヒルな浪人役などピッタリで、
 アクションスターとして時代劇での雄姿をもっと観たかったのですが、
 時代劇が斜陽になると共に、誰も演じさせなかったのが、
 本当に勿体なくも残念でした。

 伊原剛志はまだまだ若いのですから、
 例えば、役所広司の体がまだ動くうちに、
 二人の対決をクライマックスにした時代劇を誰かつくらんか!
 (伊原剛志=拝一刀(子連れ狼)、役所広司=柳生烈堂)

 なお、水野美紀は、おかっぱ頭の眼鏡をかけた田舎娘東大生が
 夜になって、眼鏡をとってメークをきめて、ドレスアップすると
 とんでもない美女になるという美味しい役にも拘わらず、
 ちょっと地味な顔立ちで損をしています。

 伊原剛志が相手役だから、
 『黒革の手帳』でならした米倉涼子クラスでもよかったのではないかと思います。

《不競法改正との関係》


 このドラマの時代設定は、
 私が弁理士の受検勉強をしていた2003年(平成15年)頃であるはずです。

 当時、私が不競法を勉強するのに読んでいた
 「逐条解説 不正競争防止法(平成15年改正版)」がまだ手元にあり、
 この機会に、ほぼ10年ぶりに見返してみました。

 そうしたら、平成13年改正の説明として
 「外国公務員等に対する不正の利益供与等の禁止を処罰の対象とした
  平成10年改正後、OECD(経済協力開発機構)による
  日本の条約実施法の審査や加盟各国の同実施法の制定の進展等を踏まえ、
  犯罪構成要件の国際的調和を図り、条約のより効果的な実施を図る観点から、
  外国公務員等に対する不正の利益供与等の禁止規定に関する一部改正を
  行った。」
 と書かれています。

 ドラマでは、
 従来の不競法の規定がザルで、ODAでの賄賂まみれの日本の業者が、
 米国企業を押しのけて契約を取りに来るのに業を煮やした米国が、
 不競法の改正を我国に迫り圧力をかけてきた中で、
 七波と黒崎が以前のようにうまく立ち回れずに追い詰められていく、
 ということになっていました。

 私が、不競法を勉強していた当時は、
 「外国公務員等」のイメージが全く湧いておらず、
 『007』シリーズや『スパイ大作戦』にでてくる
 共産圏の某国の黒ずくめの高級官僚を思い描いていていたのですが、
 実際はODA絡みの東南アジアの開発途上国の公務員が対象だったことが
 このドラマを見てようやくわかった次第です。

 平成28年度の最新の不競法では第18条が関連します。

 弁理士試験には出題されそうにない条文内容ですが、
 知財法がドラマの内容に直結していて生きた法律が学べるという観点で、
 弁理士受験生は見ておいてもよく、
 弁理士をされている方々も、知財絡みの大人のドラマでもたまには見て、
 世界を広くしておくというのも良いと思います。

******

 しかし、弁理士がこのドラマにでてくる会社のコンサル顧問などをして、
 不競法18条関係を考慮して契約書を作成する業務などに深入りする場合は、
 いつか南シナ海に浮かぶことにもなりかねないことは
 覚悟する必要がありそうです。
posted by Dausuke SHIBA at 17:41| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ

2017年07月16日

TVドラマベスト10(第7位)

第7位 『白い巨塔』(1967)

第7位.jpg

 当時子供であった小生は田宮二郎の映画版は見ておらず、
 このモノクロフィルムのTVドラマ版『白い巨塔』のイメージが
 刻み込まれてしまいました。

 もともと悪役が多かった演技派の佐藤慶の財前五郎は、
 医学部の教授になるために患者をも踏台とする脂ぎった権力の信奉者で、、
 根上淳が演じる正義の里見先生と対象的で、
 悪の匂いが充満した迫力があり、子供ながらに怖かったものです。

 財前五郎を疎ましく思う上司の東教授を山形勲、
 その妻を小暮美千代、その娘を村松英子(とても美しい)、
 財前五郎の教授昇進を阻止するため色々と画策し、
 それはそれで財前五郎に引けをとらぬ俗物医師たちである、
 鵜飼教授を河津清三郎、菊川教授を南原宏治、
 財前五郎の義父の産婦人科院長を小池朝雄と、

 今みればそうそうたる役者陣ですが、
 当時の映画界では悪役専門の脇役ばかりの二線級キャスト、
 それも片岡千恵蔵、市川歌右衛門、大川橋蔵に叩斬られる、
 時代劇の悪代官と悪女ばかりであったと思います。

 しかし、さすがに映画俳優、
 TVのフレームでは俗悪が思い切りはみ出しておりました。

******

 この『白い巨塔』は、財前五郎が医療裁判に勝つまでが描かれており、
 悪が勝ち、正義が負けるという不条理を知り,
 何とも暗い気分になりましたが、社会勉強になりました。

 阪大医学部がモデルといわれており、
 教授を頂点とする絶対的なヒエラルキーの大学医局制度の中で、
 権力闘争に明け暮れ、これでよく普段の診療ができると思いましたが、
 大人の世界の異様な毒々しいエネルギーに圧倒されたものです。

 その後観た田宮二郎の映画版『白い巨塔』(1966)も素晴らしく
 (山本薩夫監督なので当然ですが)、小生にとっては、
 財前五郎は佐藤慶と田宮二郎の迫力が印象に残りすぎてしまい、
 村上弘明君と唐沢寿明君の財前五郎では、
 なぜか笑いがこみ上げてしまい、食指が動きませんでした。

 『白い巨塔』は、山崎豊子の原作小説と、
 佐藤慶・田宮二郎版のTV・映画の完成度が高く、
 四半世紀以上経た時代にリメイクしようとしても、そのまま描くしかなく、
 そうなると時代錯誤と役者の軽量ばかり目立つ、ということになると思います。

 黒澤・三船・仲代の『天国と地獄』(1963)をリメイクした
 鶴橋・佐藤・杏の『天国と地獄』(2007)も無惨でした(杏がでてたんですね)。

 その医局制度が崩壊した現代医療の世界に颯爽と現れたのが、
 『ドクターX』でした。

 『ドクターX』のオープニング・ナレーションは、
 『白い巨頭』の正当な後継者であることを自負しているようです。

******

 今回、この記事を書くにあたり、監督を調べたところ、
 何とも不思議な縁を見出してしまいました。

 監督の関川秀夫は、ウィキペディアによると、
 東宝の前身会社PCLで黒澤明と同期の助監督になって以降、
 東宝、東映、独立プロ、松竹を渡り歩いた一匹オオカミの筋金入りで、
 節操があるのかないのか、社会派・ドキュメンタリーを基軸として、
 『少年探偵団シリーズ』(1950年代)等の娯楽映画も多く、
 TVドラマ『あゝ同期の桜』『白い巨頭』の後に、
 エロ・グロ耽美系の映画『いれずみ無惨』を経て、、
 映画『超高層のあけぼの』(1969)を撮っています。

 この『超高層のあけぼの』は、
 日本で最初の超高層ビルである霞が関ビルの完成における、
 関係者の苦闘を描いた、
 今でいえばスカイツリーの建造物語のようなドラマでした。

 関係者を、
 池部良、木村功、丹波哲郎、平幹二朗、佐久間良子、新珠三千代、
 田村正和、佐野周二、中村伸郎、根上淳・・・
 って、おいおいおい、今では考えられないであろう
 豪華キャストが演じていました。
 
 上記の俳優のファンであった父に連れていかれ、しぶしぶ見たのですが、
 これが『下町ロケット』のような、
 地震国である日本で超高層建造物を最先端技術を駆使して作り上げようという
 技術者たちの知恵と努力を真っ直ぐに描いたドラマで、
 すっかり感動してしまいました。

 なにしろ、パソコンもインターネットもなく、
 国産の超大型コンピュータで、パンチカードと紙テープで情報の入出力をしていたのが
 最先端技術の象徴であった時代ですが、
 それを縦横に駆使して妥協を許さない技術者と、
 難しい決断を迫られる経営者との葛藤に、
 手に汗を握り、霞が関ビルの完成を共に祝うことができたのでした。

 築43年で東北大震災を受けた後、築50年を迎える霞が関ビルは
 まるで最近建造されたばかりのような美しい姿ですよね。

 我が国の技術力の高さは素晴らしいと率直に思います。

 というわけで、小生は、関川秀夫監督の『超高層のあけぼの』を観たおかげで、
 理科系の道を歩み、建築とは全く畑違いですが、
 化学分野で研究開発をし、少し道を踏み外して弁理士となりました。

 関川秀夫監督とはとても不思議な縁で結ばれていたということになります。
posted by Dausuke SHIBA at 09:40| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ

2017年07月01日

TVドラマベスト10(第10〜8位)

 前回、野際陽子さんの訃報に接して、追悼の意を込めて
 第5位を報告したのですが、今回はオーソドックスに、
 第10〜8位を紹介します。

 現代劇たるTVドラマは、
 テレビ時代劇に比べて、近年著しく短命化し、圧倒的に本数が多く、
 とても全貌など追うことなどできるはずがなく、
 暇だけはあった1970年代までの記憶が強く残っています。

 1980年代以降は、テレビ自体をあまり見なくなったのですが、
 たまに偶然みた作品が良かった、というよりは、時間がない中、
 好みのものに対する嗅覚だけは残っていたということができます。

 ただ、歳と共に朝型に移行したため、
 ここ何年か、週末にTUTAYAでDVDを借りて、
 晩酌しながら過去のTVドラマを楽しんで頭を空っぽにしていますが、
 2000年代に入ってからのTVドラマは質が高く、
 当時は、たまに見ても面白いものに当たる確率は高かったともいえます。
 
******

第10位 『七人の刑事』(1961〜1964)

第10位.jpg

 早々にTVを購入していたお隣によく見せにもらいに行ったものですが、
 小生の家もTVを購入して家族で見始めてから、
 小生の記憶に残る最初の本格的TVドラマとなりました。

 それまでのフィルム制作の子供向けドラマと米国製ドラマしか知らなかった小生には、
 VTRのシャープな質感と、
 芦田伸介を始めとする渋いおじさん達の生真面目さが新鮮でした
 (あのおじさん達、当時30〜40代、今の小生より遥かに若かったとは・・・)。

 当時、日本は高度経済成長期にあり、
 TVを始め3種の神器が普及しだして明日への希望に満たされていたのですが、
 TVドラマの世界では、
 『七人の刑事』だけでなく『特別機動捜査隊』等の刑事物ドラマでは、
 何とも暗い世相が描かれており、
 七人の刑事たちの無力感だけが印象に残っています。

 冒頭のタイトルバックのこれまた渋さを絵に描いたような低音のハミング
 (日本人の歌手ではなかったのですね)は、
 5年以上聴いていれば耳にこびりつくのも無理はありません。

第9位 『八日目の蝉』(2010)

第9位.jpg

 小生が、リアルタイムで観た最後のTVドラマだったように思います。

 その日の新聞のTV番組欄をみていたら、タイトルがきれいだったのと、
 『武士の一分』以来ファンになっていた
 檀れい主演という理由だけで観てしまったのですが、
 子供の誘拐事件から始まり、ミステリーとロードムービーの要素も絡み、
 面白く見ていたのですが、
 最終回のあまりに重い結末に心から感動してしまいました。

 女性版の『砂の器』といってよいと思います。

 歳をとったせいか、あまり重い内容のドラマは敬遠してしまうのですが、
 『八日目の蝉』はうっかり観てしまったのが運の尽きだったようです。


第8位 『わたしたちの教科書』(2007)

第8位.jpg

 当時面白く観ていた『富豪刑事』が終わった後に、惰性で見始めたのですが、
 予想外に面白く、また最終回は感動してしまいました。

 いじめを主題にした本格ミステリー(転落死は事故か殺人か?)で、
 リアルな学園ものが続くのかと思いきや、
 登場人物の関係が二転三転して、最後は法廷劇に移行するという、
 凝りに凝ったドラマ作りで、最後まで楽しめました。

 剽軽な名前ながら暗い過去をもつ弁護士の積木珠子(つみきたまこ)(菅野美穂)、
 転落死した生徒(志田未来)の真面目な担任(伊藤淳史)、そして、
 権威主義の悪役である副校長(風吹ジュン)の演技合戦が見事でした。

 佐藤二郎と大倉孝二が、職員室の陰湿なムードを思い切り感じ悪く醸成しています。

 オリジナル脚本のようですが、
 秀逸な本格ミステリーとしてTVドラマ史に残るのではないでしょうか。
posted by Dausuke SHIBA at 09:19| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ

2017年06月18日

TVドラマベスト10(第5位)

 2011年7月24日にアナログ放送が途絶えたときに、デジタル放送に切り替えず、
 TVを自宅では全く見なくなりました。

 しかし、それまでに出会った数々の素晴らしいTV番組は、
 私の人格形成に少なからぬ影響を与えており、ここに感謝の意味を込めて、
 2011年までの半世紀のTV鑑賞報告をさせていただきたいと思います。

 といことで、本体ブログの「Essay」に、
 「TVドラマベスト10」と「TV時代劇ベスト10」を連載したのですが、
 こちらのミニブログでの映画の短評記事が蓄積したので、
 誤記を修正し、ベスト10表を見易くし、リンクも飛び易くして、
 こちらに再度載せてみることにしました。

 既に「TV時代劇ベスト10」は報告しましたが、
 今回から「TVドラマベスト10」を報告します。

 と思い、第10位から順に報告しようとしたのですが、
 野際陽子さんが亡くなるという何とも寂しいニュースが入り、
 追悼の意味で、
 野際陽子さんの本当に初期の頃の準主役の当たり役となった
 第5位から始めたいと思います。
        §§§
 今でこそTVドラマには、当然に、
 トレンディな(時代の先端をいく)才色兼備の女優が主役・準主役を張りますが、
 野際陽子さんがその走りであったことは間違いありません。

 当時はドラマの女優といえば専ら映画畑から供給されていたのですが
 (それはそれで当時の女優の美しさは今風のタレントの比ではありませんでしたが)、
 TVアナウンサーであった野際陽子さんは現代を生きる女性としてのリアリティがあり、
 その凛とした美しさと現代的な知性は、齢を重ねてますます際だったと思います
 (私にとってはズーッとあこがれのお姉様でした)。

 野際陽子さんのすごいところは、年齢による衰えが最もでてしまうTVの世界で、
 半世紀にわたり、その年齢に応じてトレンディかつ美しくあり続けたことです
 (その代わり、TVドラマの映画化以外の映画や舞台での印象は希薄ですが、
  それは野際陽子さんにとっては勲章といってよいでしょう)。

 例えば、新垣結衣さんや米倉涼子さんらがTVの世界で80過ぎまで、
 存在感のある美人スターであり続けられるか、を考えると、
 野際陽子さんは、八千草薫さんと並び奇跡の存在であったといえます。

 また、野際陽子さんは、我が国の戦前・戦後の記憶がほとんどなくなった、
 世界でも稀有な平和な時代の開始をを象徴していたといってもよく、
 このタイミングで亡くなったことは、
 その平和な時代を大いに享受した我々の世代にとって、
 何かの終わりのようにも思います(こんなに早く終わりがくるとは)。
        §§§
 私は、当時会社での仕事が忙しく、冬彦さんの母親役はたぶん見ておらず、
 久々に野際陽子さんを意識したのはDVDで観た
 『トリック』での仲間由紀恵さんの母親役ですが、
 このあたりのことは、またの機会にお話ししようと思います。

 なお、当時の本体ブログでの連載は、かなり適当に書いており、
 あまりに昔のドラマについては記憶違いも相当にあり、
 その記憶違いもそれなりに面白いかと思いますので、修正しないままにしておきます。

 なお、当時の連載の中で、後日に記憶違いに気が付いて入れた《お詫びと訂正》を、
 本報告の最後に移動しておきました。

******

第5位 『ローンウルフ一匹狼』(1967〜1968)
     『非常のライセンス』(1973〜1980)


第5位.jpg

 前回までの第10位から第6位までは、1960年代3本、2005年以降が2本と、
 TV草創期から最近までの間40年程が抜け落ちていますが、
 第5位から第1位では、その間が少しだけ補充されます。

 『ローンウルフ一匹狼』は、
 天地茂演じる刑事が、美貌の妻「冴子」(野際陽子が本当に美しい)の失踪を機に、
 刑事を辞めざるをえなくなり、
 妻の行方を捜しつつ事件に巻き込まれて孤独な闘いを続ける
 『逃亡者』(1963)の流れもくむハードボイルド系の名作ドラマです。

 『非常のライセンス』は、
 警察機構内に視点を定め、天地茂演じる会田刑事が、
 掟破りの捜査によって巨悪と孤独な対決をする、
 今考えると『ダーティハリー』(1971)の流れをくむ
 「警察ハードボイルドアクション」の走りであり、
 『新宿鮫』(小説1990)の原型の1つといってよいと思います。

 山村聰の上司や渡辺文雄の東大卒キャリアとの葛藤など、
 渋い役者が濃い演技をしておりました
 (今思うと『必殺仕掛人』(1972-1973)テイストも濃厚か)。

 回想の場面の会田刑事の亡き妻の上村香子が美しかった。

 『ローンウルフ一匹狼』はTVオリジナルで、原案が都築道夫、深沢欣二であり、
 『非常のライセンス』は、
 原作が生島治郎で、脚本に橋本忍、赤川次郎も参加していたとなれば、
 傑作ができるのも当然かと思います。

 『非常のライセンス』は、てっきり1960年代のドラマかと思っていましたが、
 今回駄文を書くにあたり、
 1970年代前半から始まり1980年まで続いていたのを知り驚きました。

 野際陽子は、『ローンウルフ一匹狼』での印象が強烈だったのと、
 『非常のライセンス』ではテーマソング(名曲!)を歌っていたこともあり、
 『非常のライセンス』でも天地茂とコンビを組んでいたかと勘違いしており、
 私の中で、2つのドラマが完全に融合しておりました。

 天地茂は、
 当塾生のMs.M.K.の永遠の憧れの人である成田三樹夫の少し先輩にあたり、
 初期の映画やTVドラマでは、あの三白眼を活かした悪役専門であったのが、
 『座頭市物語』(1962)の平手造酒役の
 労咳病みの素浪人を悲哀たっぷりに演じて以降、本当にいい役者であり続けました。

 亡くなった母が天地茂が好きで、
 『ローンウルフ一匹狼』〜『非常のライセンス』を欠かさず観ており、
 Ms.M.K.もそうですが、大人の女性というのは、
 必ずしも二枚目でなくても心がときめくものなのだ、
 ということを教えてくれた人生教訓ドラマでもありました。

 また「美貌の妻」は、それだけで、
 こういう渋い男が探し求める強い動機付けになるということも新鮮でありました
 (野際陽子だから当然か)。

《お詫びと訂正》

 今回作成した表を、最初に作成してから書き出せばよかったのですが、
 記憶だけで書き流していたため、
 TVドラマベスト10(第5位)で、とんでもない勘違いをしておりました。

 『非常のライセンス』の主題歌は、天地茂が歌う「昭和ブルース」でした。

 天地茂の真っ暗な雰囲気が、当時、耳にこびりついていたことを思い出しました。

 野際陽子の歌う「非情のライセンス」は『キイハンター』の主題歌でした。

 『ローンウルフ一匹狼』の天地茂−野際陽子コンビの印象が強烈で、
 『非常のライセンス』の記憶がごちゃごちゃになっているようです。

 ここに謹んでお詫びしますと共に、訂正させていただきます。

 なお、『非常のライセンス』のオープニング曲を提供した渡辺岳夫は、
 栗塚旭初期三部作『新撰組血風録』『俺は用心棒』『燃えよ剣
 の主題歌の作曲の方で有名ですね。

posted by Dausuke SHIBA at 10:27| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ

2017年03月20日

TV時代劇ベスト10(第1位)

 いよいよ、今回は、第1位を報告します。

第1位 『素浪人 月影兵庫』(1965〜1968)

01.jpg

 
〔月影兵庫と花山大吉〕

 『素浪人 月影兵庫』は、
 戦後最高の剣豪スターである近衛十四郎の晩年を飾る代表作であり、
 二枚目時代劇俳優である品川隆二の名を後世に残すであろう、
 TV時代劇を超えてTVドラマ史上に「伝説」として輝く傑作です。

 ここであえて「伝説」というのには理由があります。

 『素浪人 月影兵庫』(1965〜1968年)が放映され、その最終回の次の週に、
 主演・スタッフ・ストーリーがほぼ瓜二つの
 『素浪人 花山大吉』(1969〜1970年)が放映され、
 ネット上で、ある年齢層の多くのファンが、この2つのドラマに熱く言及しています。

 しかし、実際は、カラーの『素浪人 花山大吉』をリアルタイムで見た方が多く、
 その前にもよく似たモノクロの『素浪人 月影兵庫』が放映されていたらしいが、
 残念ながら記憶がない、と『素浪人 月影兵庫』を伝説的に語る方が多いのです
 (本体ブログの投稿者であるMr. RollinとMs. Cendrillonもその世代)。

 君たち、ほんの少し遅く生まれた不幸を呪いたまえ。

 ここに大きな優越感をもって言わせていただきますが、
 ネット上で皆様が懐かしく褒めちぎっているように
 『素浪人 花山大吉』は稀代の傑作TV時代劇と思いますが、
 『素浪人 月影兵庫』をリアルタイムで見た私にとっては、
 『素浪人 月影兵庫』の方がもっと面白かった!

 衛星放送やケーブルTVで何度も放送され、
 そのたびに新たなファンが生まれるのも当然と思います。

〔近衛十四郎と品川隆二〕


 時代劇は、我が国における映画の発祥以来、
 日本映画の一大潮流として今に至っているのですが、
 映画産業が凋落する1960年代までは、
 歌舞伎界に何らかの由来をもつスターが幅をきかせており、
 歌舞伎界とは縁もゆかりもない近衛十四郎は、
 戦前戦後を通じて不遇をかこつ時代が長く続きました。

 一方で、近衛の殺陣捌きは、
 戦前からの時代劇の大スターを凌駕し他の追随を許さず、
 三船敏郎と並ぶ戦後最高の剣豪スターとして高く評価されていました。

 近衛は、その群を抜く殺陣捌きが評価されたにもかかわらず、
 格下の映画会社のモノクロ時代劇でしか主演ができず、
 ついに時代劇の象徴たる東映時代劇において主役を張ることができませんでした。

 しかし、近衛が演じた 『柳生武芸帳シリーズ』、 中でも、
 大友柳太郎と死闘を演じた『十兵衛暗殺剣』を代表とする多くのモノクロ時代劇は、
 アクション映画として極めて質が高く、今見ても全く古さを感じません。

 近衛自身、脇役に回った場合ですら、
 あの座頭市の勝新よりも強くみえた『座頭市血煙り街道』のように
 ドラマ全体を引き締めることができた稀有の存在でした。

 近衛十四郎については、永田哲明の名著『殺陣 チャンバラ映画史』(現代教養文庫)
 に詳しいので、私に騙されたと思って死ぬまでに是非一読することをお奨めします。

 そして、品川隆二も、映画界では近衛とほぼ同時期に、
 やはり格下映画会社の若手の二枚目時代劇スターとして、
 多くのモノクロ時代劇で近衛と共演していたのでした。

 ******

 TVドラマの黎明期には、近衛十四郎や品川隆二のような、
 二線級といわれた多くの時代劇俳優、監督、脚本家が、
 斜陽の映画界に見切りをつけ、新天地であるTV時代劇に活躍の場を移しました。

 近衛十四郎は50歳にしてTV版『柳生武芸帳』の主演を、
 品川隆二は30歳過ぎでTV版『忍びの者』の主演をして後、
 1965年、TV時代劇『素浪人 月影兵庫』において、
 近衛十四郎演じる「月影兵庫」と、品川隆二演じる「焼津の半次」として、
 私は運命的な出会いをするのでした。

〔ドラマの面白さ〕


 『素浪人 月影兵庫』を最初に見たときの印象は、
 なんと真面目で面白くないチャンバラ映画なのだ、というもので、
 当然に真剣に見てはいませんでした。

 子供向け(といっても大人の視聴にも耐えた)『隠密剣士』に熱中した後なので
 なおさらでした。

 第1シリーズは、平日の夜8時から放映されており、いつ終了したかも定かではなく、
 第2シリーズが、土曜日(まだ、休日ではなく半ドン日でしたが)の夜8時から
 放映されたのも気が付かなかったほどでした。

 それが、土曜日の夜10時30分から始まった
 『スパイ大作戦』第1シリーズを見るまでの時間潰しに、
 夜8時からの『素浪人月影兵庫』でも見てみるかと思ってたまたま見たら、
 何と、あのくそ真面目な本格時代劇が、
 底が抜けたようなおバカ珍道中ものに様変わりしていたのでした。

 ******

 私が見たのは、おそらく第2シリーズが始まって数か月たってからですが、
 何の目的で旅をしているかもわからない素浪人で、
 酒を呑むことだけが楽しみの月影の旦那と、何故かその月影の旦那が好きで、
 博打で稼いだ金を月影の旦那の酒代に貢ぎ続ける焼津の半次との珍道中設定
 が既に固まっておりました。

 二人は、立ち寄った宿場で必ず事件に巻き込まれ、その事件も、
 いたいけな町娘か、わけありの年増美女が、
 その土地のやくざか代官に絡まれるというワンパターン。

 ヒョンなことから事件に関わった二人が、やくざを全て成敗した後、
 月影の旦那がやくざの用心棒(天津敏とか戸上城太郎とか、ど迫力満点)
 を一騎打ちの末に倒して一件落着、
 また次の旅にでるというマンネリも極まれるストーリーでした。

 この時間帯の遥か後の後継番組が、
 大マンネリ時代劇『暴れん坊将軍』であることを思えば、
 この時にマンネリ時代劇の伝統はしっかり築かれていたことになります。

 なお、『素浪人 月影兵庫』『素浪人 花山大吉』を通じて、
 各話のサブタイトルが『〇〇が△△していた』のスタイルで統一されていたのも
 毎度のお楽しみで、おバカぶりが徹底されていたともいえます。

 このサブタイトルは、『素浪人 花山大吉』になってからますます冴えわたり、
 私が一番好きでサブタイトルだけでお腹がよじれたのは「渦まで左に巻いていた」
 でありました。

 ******

 『素浪人 月影兵庫』が、おバカ珍道中ものだけで100話以上制作され、
 最終回にいたるまでワンパターンを貫いたにも関わらず面白かったのは、
 いろいろと理由があります。

 最大の要素は、月影の旦那と焼津の半次の、
 おそらく映画・テレビのコメディ・バラエティ史上空前絶後の底抜け罵り合いの場面
 にあります。

 月影の旦那の酒の呑み方は決して上品ではなく、
 呑めば呑むほど意地汚く下品になり、
 それも半次の懐を鼻からあてにしてのことなので、
 半次も絶えず堪忍袋の緒を切らして、月影の旦那を罵ります。

 半次も、女に見境がなく、事件のからくりなどはサッパリなので、
 月影の旦那に『この馬鹿たれが!』と常に罵られており、
 あれだけ罵られれば切れるのが当然で、「この旦那野郎が、言わせておけば!」と
 月影の旦那が毛嫌いする猫をなすりつけて逆襲するのですが、
 多くの場合、半次の毛嫌いする蜘蛛が目の前に現れて気絶しそうになり、
 蜘蛛を手づかみする月影の旦那からさらに「ちっ、しょうがねえ奴だなあ」と、
 軽蔑丸出しに諌められる、というやりとりを延々と繰り返します。

 酷いときには、この罵り合いが、
 ドラマが始まってから30分以上続いたりするのですが、
 月影の旦那は正義漢溢れる剣の使い手で、
 最後は一瞬にして正気に戻って敵を一刀両断、
 半次も曲がったことが大嫌いで反りのない真っ直ぐ刀を抜いて、
 結構やくざよりも強かったりします。

 このような空前絶後の底抜けおバカシチュエーションと、
 迫力満点の正統チャンバラシーンの落差の大きさが、
 何ともいえないカタルシスになっていたのだと思います。

 このようなカタルシスに結びつく大きな落差は、
 時代劇俳優として高度な技術に裏打ちされた演技力と、
 それを全て破壊するほどの飛び切ったコメディセンスに裏打ちされた
 演技力が兼ね備わっていることが必要不可欠ですが、
 二人が共にそれを持っていたというのは奇跡的なことです。

 ******

 『素浪人 月影兵庫』では、映画時代の正当な剣豪スターと、
 正当な二枚目時代劇スターの雰囲気が色濃く残っており、
 その二人がいったい、どうしたらこうなるの!?という落差の大きい面白さがあります。

 当初から底抜けおバカシチュエーションが組み込まれていた
 『素浪人 花山大吉』では、
 その落差が希薄になってしまっていた、ということになります。

 『素浪人 月影兵庫』では、確か、
 月影兵庫は焼津の半次を「半次!」と気安く呼び、
 半次は月影兵庫を「月影の旦那」又は切れたときでも「この旦那野郎が!」
 と若干の敬意をもって呼んでおり、二人の愛ある親密ぶりが伝わったのですが、

 『素浪人 花山大吉』では、一応、月影兵庫とは別人物という設定であったため、
 花山大吉が焼津の半次を「焼津の!」とやや敬意をもって呼び、
 半次の方が花山大吉を「このおから野郎!」と言い捨てる場合が多く、
 若干の距離を置いた間柄であったことも、
 ちょっとだけ水臭いようで一抹の寂しさを感じたものです。

 なお、一応説明しておきますが、
 月影兵庫が酒に意地汚かったのに対して、
 花山大吉は「おから」無しでは酒が飲めないほど「おから」好きで、
 その食べ方がこれ以上なく下品なので、
 あきれた焼津の半次が「このおから野郎!」と罵るのが常であったのでした。

 『素浪人 月影兵庫』の最終回は、
 月影兵庫が実は家老の息子で、国に帰らなければならないことが
 何故か番組が終わる直前に知らされ、突然に訪れた月影の旦那との永久の別れに、
 半次が悲しみのあまり河原で号泣するという切ない場面で終わっています。

 私も思わずもらい泣きしてしまいました
 (次週から『素浪人 花山大吉』が始まることは勿論承知していたのですが)。

〔時代背景〕

 『素浪人 月影兵庫』の始まった1960年代後半、
 我が国は、映画産業は斜陽でしたが、TV業界が、
 TV時代劇の黎明期から全盛時代への移行期にあたったばかりでなく、
 『鉄腕アトム』に始まる質の高いSFアニメが次々と制作され、
 ビートルズに始まる欧米ポップスと、
 いしだあゆみ、森進一、ブルーコメッツ等に始まる歌謡曲・グループサウンズとが
 黄金時代に移行する時期でもありました。

 ベトナム戦争、公害、大学紛争・・・と問題は多かったのですが、
 我が国は、それでも、高度経済成長の波に乗り、東京オリンピック〜大阪万博と続く、
 明日は今日よりも良くなるはずであることを素直に信じられる、
 世界史をみても稀有な時代を迎えていたと思います。

 1967年のある土曜日の我が家の夜のテレビの時間割は以下の通りでした:

  7:00  『悟空の大冒険』(4年続いた『鉄腕アトム』の後継アニメ)
  7:30  『グーチョキパー』(和製ホームコメディ)
  8:00  『素浪人 月影兵庫』(第2シリーズ)
  9:00  『かわいい魔女ジニー』(米国製ホームコメディ)
  9:30  『土曜劇場』(良質なホームドラマ、後に『キイ・ハンター』に乗り換え))
 10:30  『スパイ大作戦』(第1シリーズ)

 当時、日本はまだまだ高度経済成長時代の真只中にあり、
 私の父もエコノミックアニマルといわれた世代でしたが、
 夜8時には茶の間にいて、家族とTVを囲んでチャンネル争いをしていたものです。

 北島三郎が、『函館の女』もまだ耳に新しい、あの高らかな澄んだ声で、
 
 ♪ は〜な追い風が吹いていた、し〜ろい雲が呼んでいた、
 ♪ うわさ訪ねて来た町は、真っ赤な渦が巻いていた、
 ♪ ま〜え触れなしにく〜る男、ろ〜にん一人、旅をゆ〜く

 と歌い上げる主題歌『浪人独り旅』を背景に、
 オープニングの月影兵庫の殺陣が始まると、気持ちが引き締まったものですが、
 その後に続く下品極まるおバカやりとりに、家族揃って笑い転げ、

 我が家は、世にもおめでたい時間を過ごしたのでした。

 その後に『スパイ大作戦』、明日は『ウルトラマン』が控えており、
 お楽しみはこれからであったTVドラマ黄金時代の開幕です。

 ******

 今、ネットで『素浪人 月影兵庫』と『素浪人 花山大吉』を語る方々が、
 その楽しさを懐かしむことはあっても、
 「いくらなんでもあれは下らなすぎてどうしようもない番組だった」
 などとネガティブに評価するのを読んだことがありません。

 おそらく、当時、日本中の多くの家庭で、
 あのおめでたくも幸せな時間を共有していたのだと思います。

 また、月影兵庫の酒の呑み方や、花山大吉のおからの食べ方がいくら下品で、
 二人の罵り合いが、今では放送できないであろう言葉でなされていても、
 愛すべき俗物ぶりを楽しめることはあっても、あのおバカシチュエーションに、
 生理的嫌悪感を催したり、毒々しい差別感情を感じたりするようなことは
 なかったと思います。

 二人の主演俳優の叩き上げらしい誠実さと、
 本来は『新撰組血風録』『俺は用心棒』等のシリアスなドラマで知られる
 結束信二の脚本が、ドラマの品格を担保していたといえるでしょう。

〔素浪人シリーズは再現できるか〕

 『素浪人 月影兵庫』『素浪人 花山大吉』は、戦後の日本の社会状況の中で、
 様々な日本人の才能が奇跡のような出会いをして初めて生み出しえた、
 あまりにもTV的なドラマであり、TV時代劇ベスト10の2位以下のドラマが、
 オーソドックスな文学・映画の文脈の中でいかに優れていても、
 到達することができない時代の産物であったように思います。

 ましてや、現代の俳優とスタッフで制作することは絶望的なように思います。

 一方、従来は、
 品川隆二以外に「焼津の半次」を演じることができる俳優はありえない、
 といわれたものですが、
 私は、今であれば、片岡愛之助に可能性があるように思います。

 その代わりに、あれだけ多かった時代劇俳優がいなくなってしまい、
 今度は「月影兵庫」を演じることができる俳優が思いつきません。

 貫禄ある中年のおっさんで、酒を呑むと果てしなくだらしなくなるが、
 いざとなると剣の達人って、誰をイメージすればいいのでしょうか?

 北大路欣也がもう少し若かったら・・・。

 歌舞伎の坂東三津五郎さんであれば、と思いましたが、亡くなってしまったし・・・。

 今の中堅の時代劇・アクション俳優はかっこよすぎて、
 中年のおっさん要件をなかなか満たせないように思います。

 例えば、真田広之や渡辺謙あたりが、
 年齢と殺陣の実力の観点ではピッタリなのですが、
 いかんせん、かっこよすぎます。

 強いて挙げれば、2017年現在で、
 NHK金曜時代劇『はんなり菊太郎』で好演した内藤剛志はどうでしょうか。

 内藤剛志は風格があり(183cm)、殺陣はまずまず、豪放磊落で、
 年齢(61)も片岡愛之助(44)と合うように思います。

 片岡愛之助版「焼津の半次」は、若干おねえがかるので、
 内藤剛志版「月影兵庫」に惚れていながら、
 いい男がいるとそちらにすぐ浮気するような設定かな?
 と暇に任せていろいろと妄想しています。

 ******

 実は、最近、DVDで若村麻由美主演『夜桜お染』(2003)を見る機会があり、
 若村麻由美の美しさにボーっとなって見ていたのですが、
 ここで、何と、内藤剛志と片岡愛之助が共演しているのです。

 やはりイメージ通りというか、まだ真面目時代劇であった頃の、
 月影兵庫と焼津の半次を彷彿とする組合せであることが嬉しかったです。

 『夜桜お染』は、愛すべき埋もれた時代劇の傑作で、
 また稿を改めて報告したいと思います。

******

 何はともあれ、焼き直しではありましたが、
 無事『TV時代劇ベスト10』が完結しましたので、最後に、
 ベスト10一覧表を付して、幕締めとします。

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posted by Dausuke SHIBA at 21:40| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ

2017年03月18日

TV時代劇ベスト10(第2位)

 前回までで、第10位から第3位までをまとめました。

03-10.jpg

 今回は、第2位を報告します。

第2位 『清左衛門残日録』(1993)

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〔背景〕
 当時、NHK及び民放共に連続時代劇枠が消滅又は激減していました。

 NHKの時代劇担当スタッフは強い危機感の下、
 まだドラマ化がされていなかった藤沢周平の原作に目をつけ、
 『腕におぼえあり』(1992)を皮切りに、2000年代半ばに至るまで、
 TV時代劇だけでなく広くTVドラマ史に残るであろう傑作が制作され続けました
 (NHKアーカイブスに人情時代劇枠の歴史サイトがあったのですが、
 削除されてしまったようですが、NHK殿、それはないでしょ)。

 『腕におぼえあり』は、藤沢周平の『用心棒日月抄』を原作に、
 海坂藩らしき東北の小藩の内部抗争に巻き込まれた青江又八郎(村上弘明)が、
 最愛の妻(清水美沙)を置いたまま脱藩。

 その後、青江又八郎は、江戸に出て用心棒稼業をしながら、
 藩の追っ手(必ず、技をもった剣客が含まれる)と死闘を重ねたり、
 藩の美人隠密(黒木瞳)と情を交わしたり、
 と『腕におぼえあり』は非常に面白い本格時代劇でした。

 が、村上弘明のあの長身から刀を振り下ろす大根切り剣法(今は違いますが)
 に目を覆い、黒木瞳の時代劇演技もぎこちなく、
 主演の2人は顔だけが取り柄で(それで十分なほどの美男美女ですが)、
 ひたすら脇役(渡辺徹、風吹ジュン、坂上次郎)の芸達者に支えてもらっていた印象
 が残っています(繰り返しますが、それでも、本作は面白い)。

 『腕におぼえあり』に引き続いて、平岩弓枝原作『はやぶさ新八御用帳』(1993)を、
 私は楽しく観ていたと記憶していたのですが、
 実はこの両作の間に藤沢周平原作『清左衛門残日録』(1993)が放映されたことに
 長い間気が付きませんでした。

 当時、何故、『清左衛門残日録』だけ見ていなかったのか思い出せません。

 『腕におぼえあり』は、主演の殺陣と演技が前述したような状況でしたが、
 それなりにカッコよかった村上弘明と若く美しい黒木瞳のコンビが、
 時代劇としては新鮮で楽しめたところ、
 『清左衛門残日録』は新鮮味の全くない仲代達矢では食指が動かん
 ということであったのかもしれません。

 しかし、後日、
 『清左衛門残日録』が実によくできた時代劇であるとの評判を知り、
 いつか『清左衛門残日録』を見てみたいと思っていました。

 そして、10年以上たってから、
 ようやくDVD化されたのを機に見たところ、完全に嵌ってしまいました。

〔物語〕
 これも海坂藩らしき東北の小藩で、
 先代藩主のころから長年、御側御用人(おそばごようにん)、
 今でいえば、社長の秘書室長を務めていた三屋清左衛門(仲代達矢)が、
 先代の藩主の死去を契機に、家督を息子の又四郎に譲り、
 藩が用意した、こじんまりしながらも瀟洒な屋敷で、
 息子一家と共に隠居するところから物語は始まります。

 清左衛門は、愛妻は数年前に亡くしたものの、
 まじめ一筋の又四郎、美しく明るい嫁の里江(南果歩)と
 孫に囲まれ悠悠自適の余生を楽しむつもりでした。

 しかし、まだ町奉行として現役で頑張る盟友、
 佐伯熊太(財津一郎)が持ち込む庶民の喜怒哀楽溢れる種々事件に一汗かき、
 藩の保守勢力の朝田筆頭家老(鈴木瑞穂)と、
 藩の改革勢力の中老の遠藤治郎助(御木本伸介)との対立による
 内紛に巻き込まれるという落ち着かない日々が続きます。

 それでも暇な日々、清左衛門は、己の人生を振り返り、
 かけがえのない何人もの友(河原崎長一郎、佐藤慶、他)に対する
 悔いの残る記憶が悪夢に蘇り、毎度後悔の念に苛まれます。

 その清左衛門に、佐伯熊太が
 行きつけの料亭『涌井』の女将であるみさ(かたせ梨乃)を紹介しますが、
 2人は互いに一目ぼれするも、身分の違いもあり、
 思いを伝えられないままの淡くも煮え切らない想いのやり取りが続きます。

〔スター達〕
 本作は、キャストを一人ずつ全員紹介したいほど、レギュラーだけでなく、
 毎回のゲストも含めて俳優陣が非常に素晴らしいと思います。
 
●仲代達矢
 ドラマのタイトルの背景に毎回かぶる、
 仲代達矢の朗々とした端正で力強いモノローグ

 「日残りて昏るるに未だ遠し

 は、聞いていて気持ちが清々とし、
 まるで、俗世にしがみつく自分のことを言っているのか、
 と勘違いしながら聴き入ってしまいます。

******

 主演の仲代達矢が素晴らしい。

 仲代達矢は、『七人の侍』(1954)の通行人の浪人役でデビューした後、
 同じ黒澤明監督の『用心棒』『椿三十郎』『天国と地獄』『影武者』『乱』、
 小林正樹監督の『人間の条件』『切腹』、
 山本薩夫監督の『華麗なる一族』『不毛地帯』『金環食』等の
 最も良質な日本映画の大作で主役・準主役を張ってきた、
 押しも押されもしない名優として知られています。

 仲代達矢は一見演技派のようですが、
 『人間の条件』『切腹』の汗まみれで匂わんばかりの兵隊や浪人役
 に代表されるように、どちらかといえば体臭がむせ返るようなワイルド派、
 演技といえば『用心棒』『人間の条件』の頃からほとんど全く変わらぬワンパターンで、
 私は長い間、何故、仲代達矢が名優として評されるのかよくわかりませんでした
 (『影武者』は勝新太郎で見たかったと今でも思います)。

 しかし、『清左衛門残日録』を見て、
 仲代達矢は演技派俳優ではなく、魅力ある稀代のスターであることがよくわかり、
 私は仲代達矢を見直しました。

 清左衛門は、今で言えば、定年にはまだ少し間がある時期に隠居しており、
 完全に老成しているわけではなく、御側御用人という要職を務めあげ、
 知性と良識を併せ持つ文人系武士としての魅力に加えて、
 数年前に妻を亡くしたまじめ一徹の男やもめながら、
 男としての魅力もまだまだ十分に残っており、
 嫁の里江(南果歩)、女将のみさ(かたせ梨乃)、みさの叔母の類(浅丘ルリ子)
 その他清左衛門の人生に関わる美女たちが惹かれていきます。

 また、清左衛門は、武芸のたしなみは人並み以上にあるものの、
 寄る年波もあり、あまり強いわけではないという設定がよく、
 それでも筋を通さねばならないときは、
 不安を押し隠して堂々と立ち向かうという男気をもっています。

 かつての手練れが、寄る年波と長年のブランクによって、
 腕がめっきり衰えたことを自覚しながらも、敵に立ち向かうという設定は、
 藤沢周平原作のおなじみの設定ですね。

 例えば、加藤剛の代表作『残月の決闘』(1991)(音無美紀子さん良かったです)
 が典型です。

 このように清左衛門は、役者にとっては非常に難しい役どころです。

 仲代達矢は、既に60代で、かつての荒々しいむき出しの野性的な雰囲気が後退し、
 落ち着いた初老の雰囲気を地で醸し出す一方、
 それらが絶妙に入り混じって男としての品のある色気が漂っており、
 このドラマでは、他の俳優にはないオーラを発散しています。

 女将のみさが、佐伯熊太を差し置いて清左衛門に一目ぼれするのも無理はなく、
 それを知った嫁の里江が嫉妬するという
 上記したキャラクター設定にドンピシャリ嵌っています。

 『清左衛門残日録』は、仲代達矢の生涯の代表作であり、
 このドラマで彼の名は後世に残るのだろうと思います。

●財津一郎
 清左衛門の気の置けない幼友達であり、
 隠居後の清左衛門にとっては藩の内実を知るための情報源であり、
 さまざまなエピソードにおいて盟友となる、
 現役の町奉行の佐伯熊太を財津一郎が演じており、仲代達矢以上に素晴らしい。

 「やめて、チョーだい」の昔から変わらぬ財津節が、
 ともすると聖人君子じみる本作全体に俗社会の空気を流し込み、
 しみじみとしたユーモアと味わい深い俗物ぶりを滲み出しています。

 藩の実権が反改革派の朝田筆頭家老から改革派の遠藤家老に移ろうという
 藩内の大騒動の中、ラインにあと一歩で乗り切れず、
 このまま万年町奉行で終わってしまうかもしれないというやりきれなさに、
 悠悠自適の清左衛門への尊敬とささやかな嫉妬も混じる、
 定年間近の中間管理職の複雑な心情を、絶妙な悲哀感を伴って演じています。

 この仲のよい初老の二人が、東北の寒さ厳しい夕刻、「涌井」で、
 女将のみさが作る愛のこもった料理で(ふろふき大根がおいしそう)
 みさを交えた三人で酒を酌み交わす場面が毎度の見どころで、
 こんなトリオで酒盛りできたら本当に楽しい人生になるだろうと思ってしまいます。

 また、この見どころの毎度の場面が、最終回の清左衛門の深い哀しみを、
 見る側の心の底にまで伝えるための伏線にもなっています。

●南果歩
 嫁の里江を演じるのが可憐で美しい南果歩でした。

 里江は、まじめ一徹の夫を愛し、夫からも愛されながら、
 その出世を願い甲斐甲斐しく家事をこなす一方で、
 元御側御用人でダンディな舅の清左衛門に、
 夫がときどき焼きもちを焼くほど惹かれており、
 亡き清左衛門の妻に対抗するかのように行き届いた世話をします。

 清左衛門も、そんな嫁の里江には頭が上がらず、
 里江に小遣いを渡されながら『涌井』通いをします。

 里江は、清左衛門がときどきみせる孤独な心の影に強く興味をもち、
 清左衛門の日記(残実録)をしっかり盗み読みしているのですが、
 肝心の清左衛門が、
 心の相談ごとは全て女将のみさに委ねてしまうのを知り激しく嫉妬します。

 という、これもなかなか難しい役どころを、南果歩は軽やかに演じています。

 里江が、清左衛門に、
 夫の出世のためにその上司に口添えをすることを願い出るエピソードがあります。

 そのような口添えはたとえ何人からの頼みといえども引き受けないこと
 を信条とする清左衛門が、他でもない里江からのたっての頼みということで、
 渋々引き受けて、雪がちらつく寒い夜に、
 上司の屋敷の前を行ったり来たりの逡巡をします。

 そうこうするうちに、清左衛門の心を決定的に痛める出来事が起こり、
 結局、里江の願いは思ったように運ばないのです。

 しかし、里江はその出来事を知ったとき、
 無理を押し通した自分の我儘を詫び、清左衛門の胸に泣き崩れます。

 清左衛門に対する里江の思いに、見ている方も感極まってしまいました。

 南果歩、素晴らしいです。

●かたせ梨乃
 「涌井」の女将のみさを演じたかたせ梨乃、これまた素晴らしい。

 田舎から女中奉公にでて、奉公先の主人に見初められて嫁いだものの、
 若くして後家となり、自ら料亭『涌井』を切り盛りする孤独な苦労人です。

 「涌井」の常連客となった佐伯熊太が、
 みさを見せびらかすために清左衛門を連れてきたことが、
 みさにとって清左衛門との運命の出会いになってしまいます。

 佐伯熊太にとっては清左衛門を連れてきたことを後悔することになるのですが、
 里江の厳重な管理下にあることもあり、
 清左衛門とみさの関係はプラトニックで煮え切らないまま続きます。

 ある冬の豪雪が吹きすさぶ晩、
 清左衛門は、昔の友に対する悔悟の念から屋敷を飛び出し、
 すれ違いで屋敷に戻った里江と佐伯熊太が心配するのも知らずに、
 『涌井』に倒れこみます。

 みさの介抱を受けて回復した清左衛門と、
 みさは、願ってもない二人だけの、幸せな酒盛りの夜を過ごします。

 その晩、清左衛門は「涌井」に泊まります。

 清左衛門が疲労で寝静まったのち、その寝床にそっと入り添い寝するみさと、
 寝たままの清左衛門との濃密な心の交錯が何とも切ない余韻を残します。

 『清左衛門残日録』は、実は、
 清左衛門とみさとの美しくも哀しいラブストーリーであるともいえます。

 かたせ梨乃は、不幸の影を持ちながらも、きっぷがよく、
 身分違いの清左衛門を思いながら、人生の荒波に翻弄されるみさそのもの、
 としかいえないほどに嵌り切っていて素晴らしいとしかいえません。

●佐藤慶●渡浩行
 清左衛門の若いころからの友でありながら(と、清左衛門は思っていた)、
 朝田筆頭家老側についたために、出世の道が閉ざされ、
 隠居後も零落したままの金井奥之助を、佐藤慶が演じています。

 金井奥之助は、己の生き方に筋を通す一方で、
 今も、友として訪れる清左衛門に対して、狂おしいほどに嫉妬します。

 この二人の、それぞれの人生を賭けた心の葛藤と、その葛藤を引き継いだ
 金井奥之助の息子の金井祐之進(渡浩行)と、
 清左衛門の息子の又四郎(赤羽秀之)との対立が、
 本作の太い縦糸を構成します。

 佐藤慶は出番が少なく、
 妻(中原ひとみ)も出てしまった薄暗いあばら家で寝たきりになる
 という動きのない役まわりなのですが、
 佐藤慶の、過去の人生の苦渋がにじみ出る、
 重厚かつ繊細な演技があって初めて本作の縦糸を構成しえたと思います。

 息子の金井祐之進を演じた渡浩行も、
 腕が立つが故に朝田筆頭家老側の暗殺者に成り下がったうえ、
 逆に始末されそうになるという、
 俗世の流れに翻弄される若侍を凄烈に演じています。

 奥之助は、自分と同じ道を歩み始めている祐之進に心を痛め、
 清左衛門に「せがれを頼む」と遺言を残します。

 清左衛門は、自らをも暗殺しようとする祐之進を、亡き友の遺言通り守り抜きます。

 金井親子と清左衛門親子の間の人生を賭けた葛藤と、
 最後にお互いを受け入れるまでの、
 山あり谷ありのエピソードも、見る者の心を打つことになります。

 このエピソードは、
 本作の番外編『清左衛門残日録 仇討ち! 播磨屋の決闘』の伏線となっています。

●鈴木瑞穂

 長い間、藩の実権を握り、
 改革派に追いつめられる朝田筆頭家老を鈴木瑞穂が演じています。

 鈴木瑞穂は、滝沢修、宇野重吉らと劇団民藝を支えてきた、
 バリバリのリベラル系俳優で、
 誠実な弁護士役などがぴったりなのですが、どういうわけか、
 権力欲に凝り固まった大物の悪役も重厚に演じることができる名優です。

 朝田筆頭家老は、清左衛門の正義の鉄槌によって失脚するのですが、
 権力に未練たらたら、復活するためにさまざまな悪あがきをします。

 仲代達矢のこれまた重厚に振り下ろす正義の鉄槌は、
 このくらいの名優を悪役に据えないと受けきれないと思います。

●山下真司

 藩で随一の使い手であり、
 清左衛門の護衛役でもある平松与五郎を山下真司が演じています。

 平松与五郎は、隠居後の清左衛門が通う道場の師範代でもあるのですが、
 剣のたしなみ以外は、何の趣味もないまじめ一徹のほとんど人がいいだけの好漢で、
 清左衛門に仲人をしてもらい、出戻りの多美(喜多嶋舞)と夫婦になります。

 互いに女心、男心のわからないカップルで、
 それが原因の山下真司ならではのユーモア溢れる夫婦ものエピソードがある一方で、
 朝田筆頭家老側の放つ暗殺者から清左衛門を幾度も助け、
 番外編『清左衛門残日録 仇討ち! 播磨屋の決闘』では、
 男平松の重要かつかっこいい見せ場が用意されています。

 私が山下真司を見たのは、『清左衛門残実録』が初めてでしたが、
 その後、『富豪刑事』で演じた鎌倉警部も面白く、とてもいい役者だと思います。

〔プロデューサー(菅野高至)〕
 『清左衛門残日録』は、軽重のバランスのとれたキャスティングが見事ですが、
 これを実現したスタッフ、特に、プロデューサーの菅野高至は、
 映画では到達できなかったTV時代劇を確立した人物として歴史に残ると思います。

●第一の功績

 菅野高至の第一の功績は、藤沢周平の原作を初めてドラマ化したことです。

 従来、映画及びTVの時代劇は、
 滝沢馬琴(南総里見八犬伝)、中里介山(大菩薩峠)の古典や、
 海音寺潮五郎、子母沢寛、山岡荘八、山本周五郎、南條範夫、司馬遼太郎、
 池波正太郎、松本清張といった大家の原作によっていたのですが、
 映画時代劇の衰退と、TV時代劇の定番原作の安易なドラマ化の流れの中で、
 藤沢周平の原作は映画化又はドラマ化されないままでした。

 天下レベルの権力者に繋がる枠組みをもつ従来の原作に比べて、
 東北の小藩を舞台に、藩に仕えるが、
 剣の使い手としてプロ意識みなぎる下級武士(清左衛門が最高位の官僚経験者か)
 の人生の機微とミステリーの骨格を物語の主体とする藤沢周平原作は、
 映画化するには地味すぎるとの映画サイドの判断があったのかもしれません。

 『腕におぼえあり』『清左衛門残実録』を見ると、
 企業勤めを中心とする今を生きる日本人の心情に近い舞台設定で、
 結構際どい男女関係など、従来の原作では描き切れなかった現代性があり、
 むしろTV時代劇の原作として好適だったことが理解できます。

 また、主人公が剣の達人で、その剣の達人が身につける《秘剣》は、
 文字では想像することしかできないところを視覚化する楽しみがあること、
 ミステリーの骨格は時代劇との親和性が高いことなど、
 従来ながらの時代劇としての面白さは引き継がれています。

 藤沢周平原作を先にTVでドラマ化されたことで、
 本家としてTV時代劇を引っ張ってきた映画時代劇は、
 TV時代劇の後塵を拝する状況に追い込まれたといってもよいと思います。

 菅野高至は、『清左衛門残日録』以降も、
 藤沢周平原作の『蝉しぐれ』『秘太刀 馬の骨』『風の果て
 をドラマ化し、さらに、
 北原亞以子原作『慶次郎縁側日記』(TV時代劇ベスト10の第5位)
 もドラマ化しました。

●第二の功績

 菅野高至の第二の功績は、新しい時代劇ドラマの型を作り上げたことです。

 主人公だけでなく、
 他の登場人物を主人公以上に丹念に描写して群像劇化することで、
 ドラマ全体を俯瞰する視点が設定されているように思います。

 この手法は、『慶次郎縁側日記』でも踏襲しており、
 『清左衛門残日録』と『慶次郎縁側日記』のドラマ構造はほぼ同じです。

 TVドラマ化から遅れること10年、2002年に至って、
 ようやく山田洋次監督が藤沢周平の『たそがれ清兵衛』を映画化しましたが、
 山田洋次監督は、菅野高至の創造した以上のことは何も生み出していません。

 なお、『たそがれ清兵衛』は、真田広之、宮沢えり、田中泯の好演により、
 名作一歩手前までいきながら、
 ラスト5分で山田史観のようなものが突然提示されシラケ切ってしまいました。

 映画監督ってなんで客の求めるものを率直に提示しないのでしょうね。

 ということで、
 菅野高至プロデューサーはTV時代劇に新しい道を切り開いたという意味で、
 黒澤明監督の『七人の侍』に匹敵する創作を行ったと思います。

〔NHKの撮影技術〕
 菅野高至の描いたTV時代劇のイメージを実現する上で、
 NHKの時代劇における撮影技術の高さは大きく貢献していると思います。

 モノクロビデオ撮影から出発したNHKの人情時代劇シリーズは、
 『清左衛門残日録』に至って、
 時代劇に不可欠な自然描写(NHKの自然ドキュメンタリーの雰囲気)や、
 室内撮影におけるセットデザインを実に美しくカラービデオ撮影しており、
 おそらく様々なノウハウの蓄積が生かされているものと思われます。

 このあたりの技術的解説をどなたかにしていただきたいと思っています。

******

 4年前(2013年)、仲代達矢へのインタビューを書き起こして、
 仲代達矢の映画人生を本にした『仲代達矢が語る日本映画黄金時代
 (PHP新書)の出版記念として、仲代達矢と著者の春日太一の対談が、
 新宿紀伊国屋ホールで行われたのを聞きに行きました。

 舞台では、若手の春日太一がことの経緯を説明した後に、
 仲代達矢が舞台の対談席に登場したのですが、
 登場したとたんに、スターのオーラが燦然と輝き、
 スターとはなんと神々しいものかと感激してしまいました。

 さすがに真っ白でしたがふさふさの髪の毛と、
 新作映画のために伸ばしたぼうぼうのこれも真っ白な髭がダンディで、
 80歳を超えているとは思えないシャキッとした姿勢とガッシリとした体躯、
 声を発すれば、昔ながらのあの朗々とした仲代達矢の明瞭な語り口で、
 入れ歯による発声の衰えなどとは無縁でありました。

 対談終了後に、客との質疑応答があったのですが、
 50〜60歳台と思われるご婦人方が、仲代達矢を前にぽーっとしてしまい、
 上ずった声で質問していたのが記憶に残っています。
posted by Dausuke SHIBA at 20:05| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ

2017年03月17日

TV時代劇ベスト10(第4〜3位)

 前回までで、第10位から第5位までをまとめました。

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 今回は、第4位及び第3位をまとめます。

第4位 『新撰組血風録』(1965〜1966)

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 船橋元(近藤勇)が池田屋に突入し、
 飛び散るモノクロの血しぶきが想像力を刺激して、
 どれだけ血なまぐさく恐ろしかったか、
 子供の私には怖くてみることができないTVドラマでした。

 その後、『俺は用心棒』や『風』(土田早苗さんに憧れました)の栗塚旭がかっこよく、
 よく共演していた左右田一平と島田順司の3人が
 『新撰組血風録』でも同じイメージの役をやっていたという話をよく聞き、
 いつか『新撰組血風録』をきちんとみてみたいと思っていたのです。

 そして『新撰組血風録』がビデオレンタルされ始めたのを機に、
 毎週末1巻ずつ借りて、TVとほぼ同じペースで見たところ、
 毎回の感動と滂沱の涙で困ってしまいました。

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 各隊士に焦点を合わせたエピソードを丹念に積上げ、
 これらのエピソードにレギュラーの斉藤一(左右田一平)と沖田総司(島田順司)
 がさりげなく絡み、
 土方歳三(栗塚旭)が渋い語り口(クールの極み)のナレーションで話を進行させていく
 という構成で、ドラマ全体が、
 各隊士の死に向かう物語を客観的に突き放しながらも、暖かく包み込むという、
 計算し尽くされた素晴らしい脚本でありました。

 脚本の結束信二と、多くのエピソードを監督した河野寿一は、
 東映娯楽時代劇でならしており、
 このコンビがTV時代劇の基礎をつくったともいえます。

 現在の太秦映画村と違い、当時の東映のセットをそのまま使用していると思われ、
 広々とした屋内での殺陣は、ダイナミックで迫力があります。

 また、春日八郎のアナクロムードに溢れた「新撰組の旗が行く」(渡辺岳夫作曲)も、
 ドラマの前半では、若き新撰組の立ち上げへの応援歌、
 ドラマの後半では、落ち延び追い詰められる新撰組の葬送歌として、
 これ以上ぴったりの曲はないといえます。

 隊士の中では、
 徳大寺伸演じる原田佐之助の控え目ながら筋を通す生き方が印象に残っています。

 しかし、なんといっても、栗塚旭が演じる水も滴る「土方歳三」、
 島田順司が演じる透明で切ない「沖田総司」、そして、
 左右田一平が演じる新撰組の最後をみとり生涯その供養をする「斉藤一」
 の主役3人の死と背中合わせの若さが情熱的で、それぞれが、
 ついに最後の別れを迎える場面では涙を抑えることができませんでした。

 土方歳三、沖田総司、斎藤一の3人は、栗塚旭、島田順司、左右田一平の3人
 以外が思い浮かばなくなるほどのはまり役で、
 1998年のテレビ朝日版の村上弘明の土方歳三、
 2011年NHK版の永井大の土方歳三(おいおいおい『特命係長 只野仁』の・・・
 だいぶ違うだろ)などは、やはりは笑いがこみ上げてしまい、
 敬遠してしまいました。

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 映画が斜陽になりだした頃、
 映画の仕事がなくなりつつありTVに活動舞台を移さざるをえなかった
 若手俳優、悪役俳優、優れた脚本家・監督その他のスタッフが、
 撮りたいものを撮るという熱気があふれた多くのTV時代劇がつくられましたが、
 『新撰組血風録』は、その中でも際立って情熱的なTV時代劇です。

 『新撰組血風録』は、
 我が国の高度成長時代の始まりと共にTV産業が急速に立ち上がっていった
 あの頃でなければ制作しえなかった奇跡のTV時代劇であるといえましょう。

 もし、特に女性で、
 この栗塚旭版『新撰組血風録』を観ていない方がいらっしゃるようでしたら、
 この時代に生まれてこれを観なければ甲斐なし、と思いますので、
 ご鑑賞いただくことを強くお奨めします。

第3位 『必殺仕掛人』(1972〜1973)

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 市川崑監督の演出がモダン、上条恒彦の歌がモダン、
 主演で新人の中村敦夫がこれまでの時代劇俳優とは異なりモダン、
 とモダンずくめの『木枯し紋次郎』(フジテレビ)でしたが、
 同じ時間帯にTBSが仕掛けた本格時代劇『必殺仕掛人』に力負けしました。

 大映時代劇の奇才で、当時、
 大映時代劇の最後の光芒を放っていた若山富三郎主演の『子連れ狼』(勝プロ)
 を演出した三隅研次監督と、
 東映のやくざ映画のエース監督で、
 残酷場面を品よく描くことができる深作欣二監督とが、
 多くのエピソードを演出しました。

 NHK歴史時代劇『太閤記』(1965)と『源義経』(1966)の主演級を経て、
 油が乗り切っていた稀代の個性派かつ演技派俳優である緒方拳が主演であり、
 『木枯し紋次郎』に比べれば遥かに正統派本格時代劇であったといえます。

 私は、『木枯し紋次郎』を初回から欠かさず観ていたのですが、
 新番組の『必殺仕掛人』の第1回だけは見ておこうと思ったのが運の尽きで、
 それきり、乗り換えてしまいました。

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 『必殺仕掛人』は、殺し屋が主人公で、依頼人に悪行の限りを尽くした悪の権化を、
 依頼人の人生と引き換えに仕掛人が暗殺する、
 というストーリーの斬新さが話題にもなり物議を醸したものですが、
 本作はTV時代劇あるいはTVドラマとして、
 映画では味わえないリズム感を創造した点に
 他のドラマにはない面白さがあったのだと思います。

 悪の権化に人生のどん底に突き落とされた依頼人が、
 身売り、破産等の己の人生と引き換えに百両は下らぬ仕掛依頼料を懐に、
 仕掛人元締めである音羽屋半衛門(山村聡が貫禄たっぷり)に
 悪の権化の殺しを依頼し、音羽屋が、針医者の藤枝梅安(緒方拳)と
 同僚のわけあり浪人である西村佐内(林与一)に仕掛けを命じるところまでは、
 言ってしまえば毎度お決まりのワンパターンストーリーでもあります。

 しかし、本作はここから先の展開、即ち、三隅研次と深作欣二の、
 アップ気味のシルエットに由来する光と影が交錯するシャープな映像、
 地獄の底で弾けるようなベース音と、依頼人の暗黒の背景物語とは真逆の
 軽快な主題歌「荒野の果てに」(唄:山下雄三/曲:平尾昌晃)をバックに、

 藤枝梅安の指の間に針を構えてから唇に挟み込むという、
 何ともかっこいい、従来にない様式的な殺陣と、
 西村佐内の歌舞伎調正当派の殺陣が美しく舞う仕掛けによって、
 悪の権化の息の根を止めるところまでのプロセスを、
 胸がわくわくするようなリズム感で一気に見せ切ってしまうところに、
 『木枯し紋次郎』を含めた従来の時代劇にはない、
 力強いカタルシスを伴う何とも言えない爽快感があります。

 この爽快感、「指令→ミーティング→仕掛け→任務達成」までのプロセスを、
 ラロ・シフリンの軽快な音楽と共に見せる、
 全体がリズミカルな音楽の体験とでもいえるような『スパイ大作戦』に
 共通するものがあります。

 『必殺仕掛人』は『スパイ大作戦』を多分に意識しているものと思われます。

 優れたTVドラマの多くは、
 このような観る者の音楽的生理に訴えることに成功しており、
 だから、毎回楽しみでもあり飽きがこないともいえます。
 (『ドクターX』もそうですね)。

 実際、田宮二郎主演の映画版『必殺仕掛人』も面白かったのですが、
 映画の横長の大スクリーンでは、
 TVサイズだからこその詰め込まれた密度の高いリズム感は生じ得ず、
 軍配はTV版に挙がると思います。

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 仕掛人たちは、仕掛けた後、決して後味が良いわけではなく、
 稼業がばれれば獄門磔の刑になるのは必定、
 日常には二度と戻れない精神的ストレスを金で解決するしかなく、
 依頼人の用意しなければならない金は、毎度、百両はくだらない額でありました。

 依頼人の多くは、
 悪の権化に全財産をむしり取られたり、体を奪われたりした挙句に依頼するのであり、
 百両の金は、さらに自分の人生と引き換えで工面するしかなく、
 仕掛人が悪の権化を倒しても、依頼人にとって何の救いもないままとなります。

 この少なくとも百両という額の設定が、このドラマに強い説得力を与えています。

 この設定は、脚本というよりは、
 原作のリアリティによるところが大きいのだと思います。

 池波正太郎の原作を離れた『必殺仕掛人』の後継ドラマである中村主水シリーズは、
 同じ脚本家が執筆していたにも関わらず、
 依頼金額がわずか数両、ひどいときには小判1枚にも満たない依頼金額を、
 仲間で分け合うという設定で、そんな少額で命を張って仕掛などするわけないだろう、
 と突っ込みたくもなり、目を覆わんばかりにドラマの質が大きく低下します
 (「ムコ殿!」は面白かったですが)。

 毎回の悪の権化も、
 遠藤辰雄、小池朝雄、金田龍之介、戸浦六弘、神田隆、内田朝雄、安倍徹といった、
 殺されて当然の悪役スター達の渋さも味わい深いですが、
 大友柳太郎、松橋登、小坂一也、近藤正臣といった、
 悪役とは縁がなさそうな俳優たちが嬉々として殺され役を引き受けているのも
 TVならではの面白さでした。

 また、毎回のオープニングの睦五郎の渋さ全開のナレーション:
 「はらせぬ恨みをはらし、許せぬ人でなしを消す、
 いずれも人知れず仕掛けて仕損じなし、人呼んで仕掛人。
 ただしこの稼業、江戸職業づくしには載っていない。」は、
 ハードボイルドの極みともいえ、
 このドラマのリズム感を決定づける絶品でありました。

 『必殺仕掛人』もまた、
 現代劇、時代劇を問わず、TVドラマの1つの到達点であろうと思います。
posted by Dausuke SHIBA at 20:36| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ