2020年03月07日

『三屋清左衛門残日録』(北大路欣也版)あ〜、草場の陰の時代劇

 本業が立て込んでしまい、ブログの更新がなかなかままならないまま、
 コロナウィルス騒動が始まり、世間並に長い夜を過ごす毎日です。

 欧米では、コロナウィルス騒動のお蔭で、握手することが敬遠されているようです。
https://news.livedoor.com/article/detail/17904847/

 この記事を読んで、
 毎週1巻(2話)ずつレンタルして見ているお楽しみドラマ『名探偵モンク』
 の主人公エイドリアン・モンクを思い出して笑ってしまいました。

 私立探偵モンクは、元々優秀な刑事だったのですが、
 5年前に愛する美人妻が事件に巻き込まれて殺害されたのをきっかけに、
 子供の頃からの神経症が悪化し、3年間引き籠り、
 さらに強度の潔癖症など30を超える神経症が顕在化してしまい、
 お母さん代わりのシングルマザーの助手に助けられながら、
 難事件を次々に解決していくという、切なくもお馬鹿な本格ミステリーです。
https://www.youtube.com/watch?v=ygM_linq7-0

 このモンク探偵が、潔癖症のために握手がどうしてもできず、
 助手がウェットティッシュを持ち歩いていて、
 やむを得ず握手したときは、「ティッシュ、ティッシュ、あ〜早くティッシュ!」
 と助手からティッシュをひったくって、握手した相手の目の前で、
 手を念入りに拭き拭きする(勿論、相手は顔をしかめます)というのが、
 毎度のお馬鹿見せ場になっています。

 日本人が普段慣れない握手をすると、
 掌の生暖かい感触が何とも言えない感覚として残るのですが、
 欧米の人たちも、コロナウィルスが相手の掌についていると思うと、
 モンク探偵のような気分になるのですね。

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 ということで、気分だけは長い夜を過ごすのに、
 いつもレンタルしている『名探偵モンク』『ロー&オーダー』の他に
 (両作ともにとてつもなく面白いです)、時代劇の長編ドラマを見ようと思い立ち、
 『三屋清左衛門残日録』(北大路欣也版)をレンタルして見てみました。

 藤沢周平原作の『三屋清左衛門残日録』は、
 NHKが大河時代劇シリーズと並ぶ人情時代劇シリーズの中で、
 1993年に仲代達矢主演で『清左衛門残日録』(連続14回+特別編1回)として
 ドラマ化しました。

 仲代達矢版は、どの出演者にとっても代表作といってよい、
 日本のドラマ史上に残る名作で、私は、ブログ『TV時代劇ベスト10』で、
 第2位に挙げ、褒めちぎらせていただきました。

 ということで、仲代達矢版がよかっただけに、
 それから30年近くたってからの再ドラマ化がどのような出来になるのか、
 興味があったわけで、この機会にみてみようということになりました。

 が、事前の不安が的中する残念な結果となりました。

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 「日残りて昏るるに未だ遠し」

 これは、NHK版のオープニング冒頭での仲代達矢による朗々とした語りです。

 『三屋清左衛門残日録』の内容を一言でいえば、まさにこの語りに尽きるわけです。

 『三屋清左衛門残日録』は、社会人(武士)として現役を退いて隠居暮らしをしだすと、
 ともすれば人生の終末(日昏)が見えるも、
 まだ現役時代の生命力漲る日々の残渣(日残りて)が生活の端々に滲み出て、
 何かと忙しない日々が過ぎるが、
 それでも日ごとに人生の週末に近づいていることを意識するようになる、という
 人生の機微を残日録として書き留めながら悔いのない日々を過ごす、
 インテリ官僚武士であった三屋清左衛門の隠居生活を描いています。

 仲代達矢版は、
 清左衛門の世代を仲代達矢・財津一郎を始めとする60代前後の役者が演じ、
 清左衛門の息子世代を南果歩を始めとする30代前後の役者が演じ、
 清左衛門後輩の藩の現役武士を平田満・山下真司などの40代前後の役者が演じ、
 武骨なるも教養と愛情豊かな魅力的な初老の武士である清左衛門に思いを寄せる
 ヒロインみさをを色気満ち溢れるアラフォーのかたせ梨乃が演じており、
 絶妙のキャスティングで「日残りて昏るるに未だ遠し」を存分に体現します。

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 北大路欣也は東映時代劇でならした素晴らしい時代劇俳優なのですが既に70代、
 清左衛門の友で現役を続ける相棒の佐伯熊太を演じる伊東四朗も70代後半、
 清左衛門の息子の嫁を演じる優香(私はこの女優知りませんでした)がアラフォー、
 清左衛門に思いを寄せるみさを演じる麻生祐未が50代で、
 「日残りて昏るるに未だ遠し」を体現するには、ちょっと無理があるのです。

 ちなみに、仲代達矢版と北大路欣也版のキャスト・スタッフの対照表を作成しましたので、
 暇潰しにご覧ください。
三屋清左衛門残日録.jpg

 キャストの平均年齢が、仲代達矢版は45歳、北大路欣也版は58歳ですから、
 「日残りて昏るるに未だ遠し」を体現する年齢構成としては、
 仲代達矢版は理想的ですが、北大路欣也版は見るも無残です。

 清左衛門に対峙する悪の権化である朝田弓之助も、
 仲代達矢版の鈴木瑞穂に対して、北大路欣也版は金田明夫ですから、
 格が違いすぎており、
 仲代達矢vs鈴木瑞穂は横綱相撲ですが、
 北大路欣也vs金田明夫では暴れん坊将軍の軽さになってしまいます。

 それと、いくら何でも、名優・栗塚旭を何という使い方をするのか。
 これでは、『子連れ狼』の柳生烈堂で、漫画だろう
 (『子連れ狼』は元々漫画だからそれでいいのですが)。

******

 北大路欣也版は、「日残りて昏るるに未だ遠し」ではなく、「日沈みきって真っ暗」で、
 更にその後の、草場の陰で、
 清左衛門と佐伯熊太が生前を懐かしんでいるようなドラマになっています。

 これは、決して出演者の責任ではなく、
 スタッフが時代劇ドラマを舐めているということであるように思います。

 演出の山下智彦は、名監督・山下耕三の息子で、
 市川崑監督の企画で役所広司主演の隠れた名作『盤嶽の一生』で監督デビュー
 ということですから、相応に実力があると思うので、
 少しは仲代達矢版を意識して演出して欲しいものです。

 今、清左衛門を任せるのであれば、渡辺謙(60歳)とか、
 歌舞伎役者の中村橋之助(55歳)を少し老けさせるとか、いくらでも選べるでしょうし、
 女優だってもっと魅力的な人が選べるのではないかと思うのです。

 そういった中で、北大路欣也には、むしろ、
 味方の重臣の間島弥兵衛か、敵方の朝田弓之助を演じさせた方が
 ドラマに重みがでた筈です。

 残念なドラマをあげつらうのはあまり趣味ではないのですが、
 仲代達矢版も相当に時代劇が苦境に陥った中で、
 NHKのスタッフが力を振り絞って名作として残しただけに、
 この30年のTV時代劇の現場の劣化は、
 我が国の文化レベルの劣化を反映しているのかと、しみじみと感じ入る次第です。
posted by Dausuke SHIBA at 17:25| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ

2019年10月12日

米国TVドラマ『メンタリスト』 本格的猟奇殺人ミステリーが本格的ラブストーリーに

 TVを見なくなってからもう10年近くなりますが、
 TVドラマを見続けてきた習慣は抜けきれず、
 TUTAYAでDVDを毎週3枚借りて、TVドラマを毎週6話ずつ見ています。

 日本のドラマは、それでも新聞のTV欄で粗筋くらいは知っているので、
 例えば『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』のように、
 2年遅れでTUTAYAに並ぶと見てみようと思ったりします。

 しかし、外国のドラマは、かつては、地上波で、
 ゴールデンタイムにほぼ毎日見れたのが(『スパイ大作戦』の頃までが全盛でした)、
 次第に深夜枠に移っていき(『ドクタークイン 大西部の女医物語』の頃でしょうか)、
 この10年は、いつ頃、どのような外国ドラマが話題になったのか、
 新聞では全くわからないまま、
 TUTAYAで行き当たりばったりに借りてみているという状況です。
 
 米国のTVドラマは、かつての3大ネットワークだけでなく、
 2000年頃から米国のローカルなケーブルTVでも盛んに製作されて、
 とてつもなく面白いドラマが量産されていることがわかったりして、
 頭を空っぽにするのに、最適の時間を過ごすことができます。

******

 人格が壊れた天才ドクターが、
 もっと壊れてしまっているドクター仲間と毎回難病に立ち向かう
 『Dr.HOUSE』を2016年から見始め、
 永遠に続くかと思ったら、2018年始めに見終わってしまい途方に暮れた後、
 TUTAYAで適当に選んだ、、
 時代遅れのアナログ親父(かっこいいですが))とその跳ね返りおバカ娘が、
 天才科学者しか住んでいない謎の町「ユーリカ」に迷い込んで、
 おバカ事件に巻き込まれるも、しっかりSFとして楽しめた
 『ユーリカ〜地図にない街〜』も2018年中に泣く泣く最終回を見たのですが、
 その後に困りながらもTUTAYAで適当に選んで見始めたのが
 『メンタリスト』でした。
 
《猟奇殺人ミステリーとしての『メンタリスト』》

 『メンタリスト』(2008〜2015年、CBS)は、
 カリフォニア州警察の独立機関CBI(カリフォルニア州捜査局)のチームが、
 こんなのが毎週起きては市民はおちおち寝てもいられないであろう難事件に臨む
 典型的な探偵ドラマです。
https://www.youtube.com/watch?v=PW21qP9zB0c

 CBIの犯罪コンサルタントであるパトリック・ジェーンが主人公で、、
 CBIのリーダーで度胸が据わり頭の回転も早いテレサ・リズボンが不動のヒロイン、
 そして、
 ハードボイルドに徹し笑顔を見せないサブリーダーのキンブル・チョウ;
 図体がでかく食い意地が張ったウェイン・リグスビー;
 ITに強いモデル並の新人美人捜査官グレース・ヴァンペルト
 の3人がCBIのレギュラーメンバーで、
 いかにも怪しそうな面々が彼らの周りで、
 上司であったり、隣人であったり、友人であったり、恋人であったりして
 彼らを翻弄します。

 原則1話完結で、
 カルフォルニア州のセレブの邸宅周辺で起きた殺人事件の現場に
 CBIのメンバーが駆り出され、
 ジェーンが、現場周辺と関係者を一通り見て、
 ドラマ開始早々に七割方謎を解いてしまい、残った難解な謎を、
 リズボン率いるCBIのメンバーと共同して解決する
 というのがワンパターンのストーリーです。

 事件は、相当に猟奇的なのですが、
 実際にそれほど残虐な映像がでるわけではありません。
 視聴者の想像を駆り立てる見せ方をしており、
 さすがに米国のドラマは上手です。

 「典型的な探偵ドラマ」と書きましたが、
 殺人事件に関係する複数のいかにも怪しい輩が犯人の候補として絞り込まれ、
 最後にこれらの候補を一同に集めて、
 ジェーンが推理を披露して犯人を指差すというパターンも多く、
 「シャーロック・ホームズ」以来の古典的な探偵ドラマの形式を踏襲してもいます。

《パトリック・ジェーン》


 ジェーンは、サーカス小屋で育った(従ってあまり教育はない)希代の詐欺師で、
 天才的な推理力と博学、人を騙すテクニック、そして手品と催眠術を駆使して、
 えげつなく殺人犯を追い詰めていきます。

 ジェーン演じるサイモン・ベイカーは、典型的なWASP(ジョン・F・ケネディ顔)で、
 知的な甘い二枚目(教育がないようには全く見えませんが、ちょっと下品)ですが、
 人を馬鹿にしているとしか思えないにやけ顔をしながら、
 上から目線で相手を追い詰めます
 (『プラダを着た悪魔』でアン・ハサウェイを口説きまくる、
  当て馬のにやけ野郎をやっていたのを思い出しました)。

 ジェーンのあまりにえげつない追い詰め方に、
 CBIメンバーは、頼りにしつつも、時には引いてしまいながら顔をしかめます
 (ちなみに、リズボンの口癖は「あいつってイヤな奴!」)。

 あるエピソードでは、
 ジェーンに馬鹿にされながら罠に嵌められ逮捕された過去のある女が、
 ジェーンを誘拐して恨みを晴らそうとし、
 女が「あなた、自分以外はみな馬鹿にみえるんでしょう!!!」
 と叫びながら、がんじがらめに縛りあげたジェーンに、
 牛豚用の電気ムチをグリグリ押し付けてビリビリさせ、
 ジェーンに悲鳴を上げさせるのですが、
 見ているほうは、妙に女の方に感情移入してしまいました。

 ちなみに、ジェーンは正規の捜査官ではないので、銃を所持せず、
 丸腰で、銃を構えてドアを蹴破るリズボンの後ろにへばりつき、
 銃撃戦が始まると安全な場所に待機してしまいます。

 また、ジェーンは格闘がまるで弱く、痛みが我慢できず、
 悪党によく縛りあげられるのですが「頼む、痛くしないでくれ〜」
 と情けないことこの上ありません。

******

 ジェーンは、その昔、TVにでながら本当に詐欺師をしていたときに、
 残忍な猟奇殺人鬼であるレッド・ジョンに目を付けられ、
 妻子をレッド・ジョンに惨殺されたという、
 生涯消すことができないトラウマを抱えています。

 ジェーンは、レッド・ジョンを探し出して復讐するために、
 当時捜査を担当していたCBIに犯罪コンサルタントとして雇われることになります
 (米国の警察はコンサルタントをよく雇うのでしょうか。
  『名探偵モンク』のエイドリアン・モンクも
  サンフランシスコ市警のコンサルタントとして契約していました)。

 レッド・ジョンは、その後も猟奇殺人をし続け、
 レッド・ジョンとジェーン+CBIの闘いが、
 7シーズンまで続く長いドラマの経糸を形成しています。

 他の米国ドラマにも出てくる何人かのベテラン大物俳優が、
 いかにも怪しげに暗躍しますが、誰がレッド・ジョンなのか、
 なかなかわからないままシーズンが進み、
 その範囲がじわじわ狭まり6シーズン目にクライマックスが訪れます。

《テレサ・リズボン》

 ドラマ開始の時代設定の5年ほど前に、
 レッド・ジョンによって妻子を惨殺されたジェーンが、
 事件の真相を解明するために、
 サクラメント市のCBIの入る本部ビルに迷い込んで来た時に、
 リズボンとジェーンは運命の出会いをします。

 事件から絶対に逃げず、危険を顧みずに立ち向かい、
 部下思いでもあるリズボンは、
 むさ苦しい野郎メンバーにもボスとして尊敬されますが、
 いかんせん、性格が正直すぎて、とてもかわいいので、
 ジェーンにからかわれっ放しで、それが癪に障る毎日です。

******

 私は、米国TVドラマのヒロインは、
 『スパイ大作戦』のシナモン(バーバラ・ベイン)以外に、
 あまり胸がときめくことはなかったのですが、
 リズボン(ロビン・タニー)にはKOされました。

 米国ドラマの女優は田舎臭さが抜けず垢抜けない中、
 ブロンドで色が透けるように白いシナモンの美しさは別格で、
 今に至るも最高のヒロインと思っています(若干年増ではありますが)。

 高級ファッション雑誌のモデルをしながらスパイをするシナモンに入れあげても、
 日本で観ている視聴者野郎などまずはお呼びでなく、
 下手に近づけばスッテンテンになるのが関の山ですが、
 代わりに、敵方の悪党官僚が、
 シナモンの色仕掛けで破滅の道を辿るのを毎週楽しみに見ていたものです
 (山東昭子さんの吹き替えもぴったりでした)。

 リズボンは、スペイン系のエキゾチックな雰囲気、着痩せするムッチリ型で、
 グレーの瞳に吸い込まれそうになりますが、決して、
 シナモンのようなスレンダーな垢抜け切った雰囲気はありません。

 しかし、かわいい のです。

 リズボンは、ジェーンの捜査に振り回され「あいつってイヤな奴!」
 と言いながら、実は、憎からず思っており、
 トラウマを抱え、孤独の淵で寂しそうな雰囲気を漂わすジェーンに
 どんどん惹かれていってしまいます。

 しかし、ジェーンは、リズボンすら平気で騙すので、
 リズボンはそれが悔しくて悔しくてたまらず、
 ジェーンに対しては疑心暗鬼に構えるのですが、
 結局見事に騙されます。

 リズボンは思っていることがそのまま全部顔にでるので
 (それが何ともかわいい)、
 ジェーンもからかい半分に騙すことに喜びを感じるのですが、
 あんな可憐に思いが顔にでる女性が年中そばにいれば、
 ジェーンのほうも好きになるのは仕方がありません。

******

 脚本担当が、リズボンの可愛らしい見せ場を、
 意識的にコンスタントに出してくるのがよくわかります。

 部下の結婚式のための衣装合わせを、CBIの執務室でする場面があり
 (何でわざわざそんな所でするんだ、と突っ込みたくなりますが)、
 肩から胸ぐりまで剥き出しになった白いドレスを着たりして、
 目のやり場に困るほどでしたが、
 そこに、突然ジェーンがドアを開けて入ってくるものだから、
 二人とも驚いて顔を見合わせて沈黙が支配する雰囲気にになりつつも、
 リズボンはばつの悪さが顔中にでてしまい(かわいい)、
 ジェーンは目を見開いてじっくり見入ってしまうという
 サービス・シチュエーションでした。

 敵のセレブ野郎の邸宅に、
 リズボンがコールガールに扮して潜入捜査するときも、
 ケバケバのノースリーブ・ミニスカート・ブーツの
 これも目のやり場に困る衣装。

 普段が、黒ずくめの相当にダサい制服姿だけに、
 そのギャップに萌え切ってしまいます。

******

 リズボンを演じるロビン・タニーは、まったく知らなかったのですが、
 決して若い女優ではなく、シリーズ開始時に30代後半、
 シリーズ終了時には40代になっていたと思いますが、
 整形して若作りなどせず、米国俳優らしく年齢のまま見せています。

 オバサン臭く全くならないのは、
 性格の可愛らしさが表情にでているからでしょう。

 米国の映画俳優は、映画のドラマの中では普通に綺麗に見えるのに、
 舞台挨拶などするときには口が裂けているのではないか、
 と思えるようなくっきりと派手なメークをしてくるので驚くことがありますが
 (アン・ハサウェイがそうですね)、
 ロビン・タニーは、ドラマ内でも普段でも同じ印象でかわいいです。
https://www.youtube.com/watch?v=pHZR1yU0vcQ

《リズボンの部下達》


 『メンタリスト』では、
 CBIの各メンバーの個性と人間関係がとても面白く描かれ、
 本当に飽きることがありません。

●私が好きなのは、ハードボルドに徹する、
 ほとんどブルース・リーのような中国系のキンブル・チョウ捜査官。

 元はギャング団のメンバーで、どんな危機に陥っても冷静沈着で、
 悪党は容赦なくぶちのめして銃弾をぶち込みますが、
 弱いものは徹底的に守り抜く正義漢でかっこよすぎます。

 ワケアリの女たちにしっかりモテます。
 
 ほとんど眉間に縦皺でにこりともしないのですが、
 1シーズンに1回ほど笑顔になったときは、
 元の顔が跡形もなく崩れ去ってしまうただのオジサン顔になるところが
 ギャップがあって、リズボンとは違う意味で萌えます。

●図隊がでかく殴り合いには強いのですが、
 人がよいお兄さんのリグスビー捜査官も好漢です。

 リグスビー捜査官、どこかで見たような、と思ったら、見ているうちに、
 TV版『ターミネーター』(『ターミネーター:サラ・コナー クロニクルズ』)で、
 高校で授業中のジョン・コナー少年に、先生に化けたターミネーターが襲い掛かるも、
 その授業に潜入していた美少女ターミネーターに叩き潰される、
 悪玉ターミネーターであったことを思い出しました。

 力だけで頭脳がないターミネーターとしては結構怖い雰囲気でしたが、
 『メンタリスト』でセリフのある役をもらえてよかったです。

●そのリグスビーが一目ぼれして一度は同棲までしたのが、
 モデル並の新人美人捜査官のヴァンペルトです。

 その後、リグスビーが一途に思い続けるのに、ヴァンペルトは、
 あちらこちらのどう見てもリグスビーよりもイケメンに目移りして、
 その因果で彼女は彼女で酷い目に遭うのですが、
 これも美人の宿命で仕方がないとも言えます。

《本格的ラブストーリーとしての『メンタリスト』》


 シリーズを通してみると、
 ジェーンとリズボンの距離が少しずつ少しずつ近づいていくのがわかり、
 山あり谷ありの末に最後の1シリーズは、
 猟奇殺人事件の後始末の難解な事件もしっかり描きこまれますが、
 ほぼ二人のラブストーリーと化してしまい、
 見ている方も、幸福感に包まれた最終回を迎えることができます。

 見ている方は、二人の恋の行く末を無責任に楽しめばよいのですが、
 リズボンの我儘ぶりとジェーンの受け止めが、
 いろいろな意味でとても参考になります。

 女性はここまで我儘であっても許され、
 男性はこんな我儘をいなしつつ、どう彼女の愛をゲットすればよいのか、
 がよくわかります。

******

 リズボンもよくモテて、ジェーンが煮え切らないので、
 当て馬(誠実でまじめで地位のある申し分ない男)とつきあったりします。

 結局当て馬はリズボンに振られますが、
 ジェーンが「あの当て馬さんはどうするの?」と心配するも、
 リズボンは「あの人は私のことを理解してくれるわ」
 って、さすがにこの場面は私も絶句して笑ってしまいました
 (当て馬氏はリズボンを一途に愛し大事にし、
  何一つ悪いことをしていないので、さすがに可哀そうでした)。

******
 
 猟奇殺人ミステリー編では、レッド・ジョンの仲間の何人もの美女
 (当然に平然と人を殺せる悪女ですが、エキゾチックで本当に綺麗)
 がジェーンに取り入り、
 ジェーンもこんな恐ろしい美女たち怖くないのかなと思うのですが、
 割と平気でベッドインしてしまいます。

 このエピソードにリズボンはあまり出てこなかったと思うのですが、
 ラブストーリー編では、リズボンが全部覚えていることになっていて、
 「ジェーン、あのときのあの女、あの女、あの女、・・・とあなた関係あったんでしょ。
  あの女がまた近づいてきたけど、あなたどうするの!」
 と嫉妬に燃え狂ってジェーンに迫ってくるので、
 ジェーンも困り果ててしまうシチュエーションがありました。

 天才的詐欺師のジェーンは、こんなときにも、
 ちゃんと、リズボンが言って欲しいことを全部言ってあげて、
 最後は一番して欲しいことをしてあげて、
 リズボンのさらなる深い愛を勝ち取るところがおしゃれです。

 リズボンとジェーンのラブストーリーは、
 男性が女性にどう向き合うべきかの参考になりますが、あくまでも、
 サイモン・ベイカー並みのルックスと知性が前提であることは
 注意を要します。
https://www.youtube.com/watch?v=w-T9AT72W4k
https://www.youtube.com/watch?v=9l-e12Z_HuY

******

 『メンタリスト』は吹替版もなかなか良いのですが、
 不思議なもので、吹替版はどうしてもキャラクターが子供っぽくなり、
 英語版の方が、ずっと大人のドラマを感じることができます。

 ということで、TVドラマ『メンタリスト』は、
 秋の夜長を楽しんで過ごすのに絶好ですので、
 騙されたと思って御覧になることをお奨めします。
posted by Dausuke SHIBA at 16:05| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ

2019年06月22日

『陸王』こはぜ屋のために知財コンサルティングをする(その8:第8〜10話・エピローグ)

■幕間■
右向き三角1『陸王』第7話では、
 アッパー素材の特許織物「ダブルラッセル」の供給が止まり、
 ソール素材の特許樹脂「シルクレイ」の製造装置が炎上して使用不能になり、
 『陸王』が製造できなくなったこはぜ屋を、
 世界的アウトドア用品メーカーのFelix社が買収を持ち掛けてきたところまで、
 展開しました。

右向き三角1『陸王』第8・9話は、ドラマでは、こはぜ屋は1件の特許も持たないので、
 宮沢社長は、なすすべなくFelixに身売りする瀬戸際まで追い詰められますが、
 「シルクレイ」特許権者の飯村氏(寺尾聰)が宮沢社長への恩義と信頼を取り、
 「シルクレイ」特許のライセンスをFelixにはしないという決断により、
 宮沢社長は、Felix社長(松岡修造)とある駆け引きをします。

右向き三角1陸王』第9・10話は、ドラマでは、こはぜ屋は飯村氏の「シルクレイ」特許を盾にして、
 Felix社がこはぜ屋に融資するという条件を引き出しますが、
 返済は5年以内にしなければいけません。
 宮沢社長(役所広司)はFelix社のこの条件を飲み、不退転の決意で、
 「シルクレイ」製造装置の再建と『陸王』の再事業化に取り組みます。

右向き三角1そして、シューフィッターの村野(市川右團次)がこはぜ屋から持ち出した
 最後に1足残されていた第2次改良『陸王』を履いた茂木選手(竹内涼真)は、
 完全な復帰レースと位置付ける豊橋国際マラソンに臨みます。

 詳細はこちらが参考になります↓
http://drama-night.com/tbs/rikuou-8wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-9wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-10wa

 私が腑におちないのは、おそらく飯村氏の「シルクレイ」特許は、
 残存期間が多くなく、5年過ぎてしまえば、
 Felix社は直ぐに「シルクレイ」を自由実施できてしまい、
 こはぜ屋を買収する動機付けもなくなるので、
 こはぜ屋はいつFelix社に切られても不思議ではないという点です。

右向き三角1特許の無名塾版『陸王』では、
 こはぜ屋はFelix社が欲しい低弾性シルクレイの特許2を持っているので、
 飯村氏とは独立に、Felix社とライセンス交渉(駆け引き)ができ、
 ドラマでの飯村氏のライセンスをFelixにはしないという決断は、
 こはぜ屋のライセンス交渉をさらに有利にするという位置づけになります。

 しかも、こはぜ屋の特許2の残存期間は、15年以上あるので、
 Felix社が低弾性シルクレイを使用するためには、長期間、
 こはぜ屋のライセンシーである必要があるので、
 こはぜ屋がFelixの融資を返済して企業体力を回復又は強化できてしまえば、
 逆に、こはぜ屋がFekixを切って、より条件のよいライセンシーと契約してもよく、
 極めて有利な立場になります。
 
■第8話■第9話■第10話■
 ということで、特許の無名塾版『陸王』では、
 表向きはドラマとほぼ同じ流れになりますが、

 第8話のこはぜ屋・宮沢社長と飯村氏の心理的葛藤は、
 こはぜ屋が特許権を4つ持つことにより、飯村氏のウェートが相対的に低くなり、
 こはぜ屋のFelix社対策を念頭に置いた知財戦略が中心にるでしょう。

 第9話の宮沢社長とFelix社の御園社長(松岡修造)との交渉は、
 宮沢社長の心境は、ドラマほどシリアスではなく、
 特許権をもつビジネス上の優位性を身をもって感じるという設定になるでしょう。

 第10話は、豊橋国際マラソンでの茂木選手の活躍で大団円となります。
 そして、ドラマと同じように、『陸王』を履いた茂木選手を、
 大橋課長(馬場徹)のように、西島弁理士と秘書(石田ゆり子)が、
 TV中継を見ながらの熱くハグしながら応援するという場面で終わることでしょう。

■エピローグ■
 以上を見ていくと、TVドラマ『陸王』は、
 技術がコンセプトの中核にある新しい商品の開発を題材にしながら、
 関係する誰一人として特許化することを考えない、という、
 ほとんど空想科学小説の世界としか思えません。

 ドラマのように、宮沢社長が、弁理士に相談もせずに、
 『陸王』の試作品を無防備に外部に見せて回ることは、
 それだけで、『陸王』の特許化が困難になるだけでなく、
 アトランティス社やFelix社のような巨大企業であれば、
 『陸王』試作品を見て、逆に先に特許出願して特許権を取得して、
 こはぜ屋が『陸王』を実施できなくなる、などというリスクに繋がり、
 こはぜ屋の倒産に直結しかねません。

 知財関係者の中には、このような場合、
 こはぜ屋は先使用権の範囲で実施できるから大丈夫、
 と条件反射的に説明する方も多いのですが、先使用権の主張は、
 アトランティス社の特許を侵害していることを自白していることになり、
 裁判で認められなければ、特許侵害を否定できなくなり、
 何と言っても、それ以上の改良ができなくなることもありえ、
 非常にリスクのある主張です。

 ドラマにおいて、
 こはぜ屋が下手をすれば倒産に直結するような目にあわないのは、
 こはぜ屋サイドだけでなく、
 敵対的なアトランティス社とFelix社も、全く知財戦略を考えないためで、
 まず現実にはありえないということになります。

 ドラマでは、特に、こはぜ屋の融資担当の坂本の設定が酷く、
 こはぜ屋の社長のメーカー志向が強ければ、
 当然に特許戦略を結びつけてこはぜ屋を評価しなければならないでしょうし、
 坂本はベンチャー企業を顧客とする融資ファンドに転職するのですから、
 特許戦略が不可欠なベンチャー企業に、身売り話だけ持って行っては、
 顧客から愛想をつかされます。

 また、一張羅の装置の特許権で一攫千金を狙うという飯村なる特許権者の描写も、
 いったい、いつの時代の話なのかと思ってしまいます。

******

 池井戸潤原作がドラマ化されてから結構な年月が流れていますが、
 TBSの総力を挙げてこの程度の脚本しか作成できず、
 このドラマを見た特許庁を含む多くの知財関係者が、
 「『陸王』から学ぶ・・・」なるネット記事を挙げながら、
 ドラマ『陸王』から何かを学んでいる(何か学ぶべきものがあるのでしょうか)
 という状況をみると、
 我国の知財制度の将来を悲観せざるをえないような気分になります。

 というわけで、『陸王』は、なりたての弁理士のための
 知財コンサルティングの練習用の素材としてとても良いと思うので、
 空想をたくましくして、こはぜ屋を知財コンサルティングすることをお奨めします。
posted by Dausuke SHIBA at 09:34| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ

『陸王』こはぜ屋のために知財コンサルティングをする(その7:第7話)

■幕間■
 『陸王』第6話では、弁理士が活躍し、ドラマと少し展開が変わります。。
 右向き三角1こはぜ屋が、タチバナラッセル社の特許織物「ダブルラッセル」をアッパー素材
  とした第2次改良『陸王』を完成する間、
  西島弁理士(西島秀俊)が第2次改良『陸王』に関する特許出願4をしながら、
  第1次改良『陸王』に関して特許出願1〜3を早期審査して特許1〜3にする。
 右向き三角1ニューイヤー駅伝で、こはぜ屋が支援する茂木選手(竹内涼真)が、
  第2次改良『陸王』を履いてアンカーとして走り、
  同じアンカーとなったライバルの毛塚選手(佐野岳)に競り勝ち、
  怪我からの復活を印象付ける。
 右向き三角1タチバナラッセル社がアトランティス社に寝返るが、
  アトランティス社は、特許1〜3が障害となってスポーツシューズに使用できない。
 
 『陸王』第7話では、ドラマは、以下のような展開となります。
 右向き三角1「ダブルラッセル」に代わるアッパー素材を大地(山ア賢人)が探すことになる。
 右向き三角1「シルクレイ」製造装置が火災で使用できなくなり、再建には1億かかり、
  メインバンクの埼玉中央銀行は融資を渋る。
 右向き三角1アウトドア用品の国際的大企業Felix社が、
  「シルクレイ」特許権者の飯村氏(寺尾聰)に、
  「シルクレイ」特許の独占的ライセンスを受けたいと申し出る。

 詳細はこちらが参考になります↓
http://drama-night.com/tbs/rikuou-1wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-1wa2/2
http://drama-night.com/tbs/rikuou-2wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-3wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-4wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-5wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-6wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-7wa

 ドラマでは、こはぜ屋は『陸王』関連特許を有しないので、
 Felix社との交渉当事者になりようがなく、
 「シルクレイ」のライセンスを継続するには飯村氏の胸先三寸に賭けるしかない
 という極めて非現実的な設定になっています。

 特許の無名塾版『陸王』では、こはぜ屋は既に3件の特許権を有していますので、
 外見上の進展は一見同じようにみえても、
 登場人物の胸中はドラマの展開とは大きく様相が異なってきます。

■第7話■
●西島特許事務所●
 西島弁理士が、ミーティングテーブルを挟んで、宮沢社長(役所広司)に、
 アッパー素材の探索と「シルクレイ」製造装置再建のアドバイスをしている。
 秘書(石田ゆり子)が、和歌山の高級南高梅を添えたほうじ茶を置いて、
 憂いを含んだ笑みを浮かべて退室する。
〔西島〕「ダブルラッセル」を含むアッパー素材に関する特許出願4については、
    また大門審査官が担当でしたが、先日、大地君も面接に行ってくれたおかげで、
    特許査定がきていました。
〔宮沢〕大地も、あの大門審査官の超上から目線審査にはとても怒ってましたが、
    まあ、それも社会勉強ですよね。
    西島先生のおかげで、知財戦略は着々と進んでいるのですが、
    開発が頓挫してしまい、本当に情けない。
〔西島〕大地君には、こはぜ屋さんの持っている4件の特許を頭に叩き込んで、
    アッパー素材メーカーに当たるよう伝えて下さい。
〔宮沢〕「シルクレイ」製造装置再建の方は本当に参っています。
    飯村氏がFelix社に心を動かすのも無理ありませんし。
〔西島〕いや、Felix社はそのうち、宮沢社長に話を持ち掛けてくるでしょう。
    飯村氏の「シルクレイ」特許のライセンスを受けても、
    Felix社の欲しいのは、
    飯村氏の「シルクレイ」特許に書いてある高弾性シルクレイではなく、
    こはぜ屋さんが持っている特許2の低弾性シルクレイですから、
    飯村氏と話していても意味がないことをすぐに理解すると思います。

●こはぜ屋の事務所●
 宮沢社長、富沢専務(志賀廣太郎)、そして西島弁理士が
 「シルクレイ」製造装置再建について討議している。
〔宮沢〕西島先生、わざわざ、和歌山の南高梅をお土産にもってきていただき
    ありがとうございます。先日、とても美味しかったものですから嬉しいです。
    すみません、うちだと茶渋のついた湯飲みと安いお茶しかなくて。
〔富島〕西島先生が仰ったように、
    坂本さんも、Felix社がこはぜ屋を買収したいという話を嗅ぎつけて、
    この話に乗っかったらどうかと言ってきたんです。
    こはぜ屋を身売りするなんてとんでもない話だと私は断固反対しています。
〔宮沢〕先日、融資担当の大橋課長(馬場徹)もめずらしく富島と同じこと言ってました。
〔西島〕私も、今回は、富島専務のご意見に賛成です。
    Felix社もこはぜ屋さんを丸ごと買収とは凄い話をもってきましたが、
    こはぜ屋さんが特許をもたない裸一貫の企業なら
    それもやむを得ないかもしれませんが、
    こはぜ屋さんは特許権で「裸足感覚」のスポーツシューズ市場を制圧しています。
    ですから、Felix社が当初飯村氏に持ち掛けた話に引き戻して、
    こはぜ屋さんの特許権に関するライセンス交渉にしてはどうでしょうか。
(続く)
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『陸王』こはぜ屋のために知財コンサルティングをする(その6:第6話)

■幕間■
 『陸王』第5話では、以下の展開となりました。
 右向き三角1シルクレイ樹脂をソール素材とした改良『陸王』を茂木選手(竹内涼真)が履き、
  怪我からの復活の手応えを掴む一方、
  茂木選手を契約選手とするアトランティス社が、
  茂木選手仕様のスポーツシューズ『RU』を茂木選手に履くよう強要します。
 右向き三角1こはぜ屋では、さらに、タチバナラッセル社の織物をアッパー素材とする
  第2次改良『陸王』の開発に着手します。
 右向き三角1こはぜ屋の動きに合わせて、西島弁理士(西島秀俊)は、
  @新規アッパー素材を対象とした特許出願4をすることと、
  A「シルクレイ」を中核素材とする特許出願1〜3を早期審査すること
  を宮沢社長(役所広司)に提案します(ここは特許の無名塾版『陸王』です)。

 『陸王』第6話では、以下の展開になります。
 右向き三角1こはぜ屋が、タチバナラッセル社の特許織物「ダブルラッセル」をアッパー素材
  とした第2次改良『陸王』を完成させ、茂木選手に第2次改良『陸王』を届ける。
 右向き三角1茂木選手がアトランティス社の『RU』を履くか、『陸王』を履くか、
  迷った挙句『陸王』を履いて、復帰レースとなる、ニューイヤー駅伝にエントリーし、
  ニューイヤー駅伝での茂木選手の活躍が山場となります。
 右向き三角1そして、ついに第2次改良『陸王』は商品化され、店頭版橋されます。
 右向き三角1アトランティス社は、『陸王』が思った以上に良い商品であることから、
  タチバナラッセル社に、
  特許織物「ダブルラッセル」のこはぜ屋への提供を止め、
  アトランティス社に提供するよう、取引を持ち掛けませす。

 詳細はこちらが参考になります↓
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 こういうときに、弁理士は縁の下の力持ちとして、
 華やかな茂木選手の活躍の陰で、
 特許出願の審査対応をしていたりするわけです。

 また、こはぜ屋が西島弁理士が提案する知財戦略を実行すると
 タチバナラッセル社はアトランティス社に寝返ることができなくなる
 可能性があることもわかります。

■第6話■
●六本木アマンドの店内●
 審査官との面接の帰り、宮沢社長、正岡あけみ、西島弁理士が一息入れている。
〔あけみ〕あ〜、怖かった。何ですか、あの上から目線の審査官は。
〔西島〕大門審査官は、なかなか厳しい先行技術を挙げてきましたね。
    聞いた話では、大門審査官は、
    東帝大学病院でフリーランスの女医をしているお姉さんがいて、
    えらくコンプレックスをもっているということで、
    お姉さんに対抗して失敗しない審査を心掛けているというのですが、
    性格の悪さは同じくらいだと言われています。
〔宮沢〕西島先生、それで、勝算はいかがなものでしょうか。
〔西島〕どうも大門審査官は、先行技術の図面だけを見て、
    『陸王』は、図面に書かれてる絵を組合わせれば容易だと
    言っているようにしか聞こえません。
    私は元々化学系特許出願の権利化を多くしていていますが、
    化学系の審査官は、図面の絵を組合わせることなどありえないのですが、
    物品系の審査官は、絵だけしかみていないとしか思えない方もいるんです。
    大門審査官には、彼女が明細書の記載をずいぶんと見落としていることを、
    ねちっこく指摘しておいたので、少し考えるでしょう。
〔宮沢〕大門審査官、西島先生に言われて、ムカッ、カチンときているようでしたが、
    大丈夫ですか。
〔あけみ〕そうですよ、私、あのときの大門審査官の顔、怖くて正視できませんでした。
〔西島〕大丈夫ですよ、審査官はああ見えて頭はいいですから、
    感情的にならずに色々と考えるでしょう。

●西島特許事務所●
 西島弁理士が、ミーティングテーブルを挟んで、
 宮沢社長に、知財戦略の進捗状況を説明している。 
 秘書(石田ゆり子)が、新宿高野の高級プリンと緑茶を置いて、
 柔らかい笑みを浮かべて退室する。
〔西島〕先日、お知らせいただいた、
    特許織物「ダブルラッセル」と、特許樹脂「シルクレイ」を使用した
    第2次改良『陸王』について、特許出願4を今朝しておきました。
    これで、茂木選手に第2次改良『陸王』を届けていただいて構いません。
〔宮沢〕西島先生、ありがとうございます。
〔西島〕それと、大門審査官と面接していただいた特許出願1〜3については、
    今朝、特許査定が届きました。
    特許料を納付すれば1月ほどで特許証が届きますから、
    またその折はお知らせします。
〔宮沢〕え〜、こはぜ屋が特許権者になるのですか。
    何だか夢のようです。従業員も励みになります。
    茂木選手が出場するニューイヤー駅伝ですが、
    西島先生、もしお時間が許せば見に行きませんか。
〔西島〕それは嬉しい!
〔秘書〕あの〜、私も行ってもよろしいでしょうか?
〔宮沢〕是非、是非、大歓迎です!

●こはぜ屋の事務所●
 宮沢社長と富島専務(志賀廣太郎)が、西島弁理士に、
 タチバナラッセル社が特許織物「ダブルラッセル」について、
 こはぜ屋への独占販売契約を終了し、アトランティス社と独占販売契約するらしい
 ことについて相談している。
〔西島〕それでは、特許出願4も早期審査を仕掛けて早く特許にしてしまいましょう。
    特許出願4は、「ダブルラッセル」をアッパー素材に使用した靴について
    特許権を取得できるので、
    仮に、タチバナラッセル社が「ダブルラッセル」をアトランティス社に提供して、
    アトランティス社が「ダブルラッセル」ををアッパー素材に使用して、
    スポーツシューズを製造販売すると、
    アトランティス社はこはぜ屋さんの特許権を侵害することになりますから、
    アトランティス社がそのことを知れば「ダブルラッセル」の購入を躊躇う筈です。
〔富島〕そうすると、タチバナラッセル社の寝返りを阻止できるということですね。
〔西島〕相当な牽制力になると思います。
    但し、アトランティス社は、タチバナラッセル社に、「ダブルラッセル」を、
    アッパー素材には使用せず、靴以外の用途に使用することを吹き込み、
    こはぜ屋への提供を阻止することは可能でしょう。
    タチバナラッセル社がこはぜ屋への「ダブルラッセル」の提供を止めるか否かは、
    タチバナラッセル社の自由ですからね。
〔宮沢〕予断は許されませんね。
〔西島〕仮に、今回、タチバナラッセル社の寝返りを阻止できても、
    タチバナラッセル社の腰の定まらなさをみると、
    こはぜ屋さんへの「ダブルラッセル」の安定供給は盤石といえません。
    宮沢社長は、アッパー素材をさらに探して、
    タチバナラッセル社ともう1社による二社供給体制を組むべきと思います。
〔宮沢〕西島先生、いろいろとアドバイスいただきありがとうございます。
    タチバナラッセル社とは交渉を続け、他の提供先もあたってみます。
(続く)
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2019年06月21日

『陸王』こはぜ屋のために知財コンサルティングをする(その5:第4・5話)

■幕間■
 『陸王』第4話では、
 茂木選手(竹内涼真)を契約選手とするアトランティス社の内部事情が描かれます。
 右向き三角1茂木選手が改良『陸王』を履いてその良さを実感するが、
  結局それ以上は改良『陸王』を履かず宮沢社長(役所広司)はがっかりする。
 右向き三角1茂木選手のシューフィッターでアトランティス社に所属する村野(市川右團次)が、
  茂木選手をトップランナー毛塚(佐野岳)の当馬にしようと、
  アトランティス社が画策するのを知り、
  アトランティス社と衝突した挙句に退職、茂木選手のためにこはぜ屋の顧問となる。
 右向き三角1茂木選手は、宮沢社長と村野のサポートを受け、
  アトランティス社の改良シューズにするか改良『陸王』にするか逡巡した結果、
  改良『陸王』を履いて、所属するチーム内レースに出場する。
  茂木選手は、こはぜ屋の社員が見守る中、健闘するが、
  改良『陸王』の履き心地のよさのため、うっかり走りすぎて足がつり完走を逃す。
 右向き三角1しかし、茂木選手は怪我からの復調の手応えを掴む。
 右向き三角1茂木選手が宮沢社長にアッパー素材をもう少し改良できないか、と注文をだす。

 詳細はこちらが参考になります↓
http://drama-night.com/tbs/rikuou-1wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-1wa2/2
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http://drama-night.com/tbs/rikuou-3wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-4wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-5wa

 この中で、以下のような知財戦略の説明が挿入されてもよいでしょう。

■第4話■
●こはぜ屋の事務所●
 宮沢社長が社員全員を集めて、新規スポーツシューズの進捗を説明している。
〔宮沢〕
飯村顧問と大地のお陰で柔らかくて耐久性のある改良『陸王』が完成しました。
    飯村顧問と大地はよくやってくれました。

    西島先生には、この成果を基にして3件の特許出願をしてもらいました。
    富島専務は、これら3件について、
    飯村顧問と大地の特許を受ける権利のこはぜ屋への譲渡契約を頼みます。
    (富島専務が頷く)

    西島先生には、さらに、特許調査をしてもらい、
    『陸王』の開発に影響ありそうな他社特許はないとのことでした。
    さあ、これで、いよいよ、改良『陸王』の試作品を茂木選手に履いてもらうぞ!

■幕間■

 茂木選手が、こはぜ屋と秘密保持契約を結んでいれば、
 茂木選手は、宮沢社長が届けた『陸王』を、ドラマのように大っぴらには履けず、
 監督や仲間に隠れてこそこそと履くことになり、
 「お! これは凄いスポーツシューズだ」と実感することになるでしょう。
 この当り、もう少しドラマチックにしないといけませんね。
 
 ******

 『陸王』第5話では、以下のエピソードが展開されます。
右向き三角1契約選手である茂木選手が『陸王』の良さに傾くのをみたアトランティス社が、
  茂木選手仕様の改良シューズ『RU』を提供して巻き返しを図ります。
右向き三角1茂木選手は復活をアピールするため、ニューイヤー駅伝にエントリーしますが、
 そこで、『陸王』を履くか『RU』を履くかが山場となります。
右向き三角1宮沢社長は、茂木選手にニューイヤー駅伝で『陸王』を「履いてもらうために、
  アッパー素材の改良にとりかかります。

 こはぜ屋さんは、『陸王』完成に向けて貪欲に改良を重ねており立派です。
 顧客の技術開発に寄り添って知財戦略を検討するのが弁理士の役目です。
 「低弾性シルクレイ」をソール素材とした『陸王』について、
 西島弁理士は特許出願1〜3をしましたが、さらに踏み込んだ提案をします。

■第5話■ 
●西島特許事務所●
 宮沢社長と西島弁理士がミーティングテーブルを挟んで対面しているところに、
 秘書(石田ゆり子)が、曙橋の大角玉屋の高級和菓子と緑茶を置いて、
 にこっと笑みを浮かべて退室する。
〔宮沢〕西島先生、というわけで、
    シルクレイ樹脂をソール素材にした改良『陸王』は茂木選手に断られましたが、
    その後、チーム内レースでは履いてくれて、とても良い感触だと言ってくれました。
〔西島〕良かったですね。
〔宮沢〕それから、資金稼ぎのために開発した、
    シルクレイ樹脂を応用した地下足袋『足軽大将』が当たりました。
    おかげで、特許出願1〜3の出願と特許調査の費用は余裕で回収できましたし、
    これからのさらなる特許費用も対応できると思います。
〔西島〕そうですか。技術的には後戻りせずに進展していますね。
    特許出願1〜3は、『足軽大将』も範囲に含むようになっていますから、
    将来は特許地下足袋ということになりますよ。
    それと、『足軽大将』も商標登録出願しておきました。
    ほかに進展はありましたか?
〔宮沢〕西島先生、いつもありがとうございます。
    シルクレイ製造装置が不調で、飯村顧問が怪我で入院している間に、
    大地が1人で修理しようとしたら、飯村顧問が装置図面を見せてくれず、
    頭を抱えたことは先日お話しましたが、
    シルクレイ特許の明細書に図面がある程度書いてあるはず、との
    西島先生のアドバイスに従って、大地が特許図面を見て相談したら、
    飯村顧問が大地の熱心さに驚いてあっさり装置図面を見せてくれました。
〔西島〕それは良かった。お役に立てたようで嬉しいです。
〔宮沢〕茂木選手から注文が付いたアッパー素材の件ですが、
    意外にも融資担当の大橋課長が打開策をアドバイスしてくれました。
〔西島〕それも良かったですね。大橋課長はどのようにアドバイスしてくれましたか?
〔宮沢〕大橋課長は、『足軽大将』の製造現場に足を運んでくれて、
    我々の『足軽大将』の製造管理にかける熱意を感じ取ってくれたことと、
    我々が特許出願と商標登録出願をしている点も評価してくれ、
    何とかまとまった融資ができると言ってくれました。
    そのときに、アッパー素材を提供できそうな織物メーカーとして、
    タチバナラッセル社を紹介してくれたんです。
〔西島〕宮沢社長、茂木選手が改良『陸王』を履いて復調が注目され、
    新たなアッパー素材の可能性もでてきましたから、
    今後の知財戦略として、以下の2点を提案します。
    @タチバナラッセル社のアッパー素材に適した織物が決まりましたら、
     すぐに連絡して下さい。
     アッパー素材に特徴のあるスポーツシューズとして特許出願4を検討します。
    A『陸王』にとっての基本特許出願である特許出願1〜3を早期審査にかけて、
     権利化を急ぎましょう。
     アトランティス社も、『陸王』に注目しだしてますからね。
     今から審査請求すれば3ヵ月後には特許庁から拒絶理由通知が届く筈です。
     宮沢社長、正岡様と私とで、審査官と面接に行きましょう。
〔宮沢〕え〜、特許庁の審査官と面接ですか〜。
〔西島〕審査官は、発明者から見ると、
    浮世離れした何を考えているのかわからない人に見えると思いますが、
    実際に会うといろいろな人がいて面白いですよ。
    何も取って食われるわけではないので、気分転換に行ってみましょう。
    特許庁は虎ノ門本庁舎が工事中なので、審査官は六本木仮庁舎にいます。
〔宮沢〕おー、六本木ですか。あけみさんは喜びそうだな。
(続く)

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『陸王』こはぜ屋のために知財コンサルティングをする(その4:第3話)

■幕間■
 『陸王』第2話では
 特許樹脂「シルクレイ」をソール素材に最適と考える宮沢社長(役所広司)が、
 行方不明になっていた特許権者の飯村氏(寺尾聰)を探し出し、
 説得に説得を重ねて、飯村氏からライセンスを受けることに成功しました。

 その間に、西島弁理士は「シルクレイ」を使用する前段階の試作品について、
 特許出願をします(特許の無名塾版『陸王』第2話)。
 
 『陸王』第3話では、
 銀行の融資担当の大橋(馬場徹)が、新規スポーツシューズのための融資を渋り、
 宮沢社長の息子の大地(山崎賢人)の就活がうまくゆかず、
 飯村氏と大地が取り組む「シルクレイ」の改良は進まず、
 宮沢社長が届けた『陸王』試作品を茂木選手(竹内涼真)は履いてくれず、
 『陸王』の実用化に向けた開発が停滞してしまうエピソードが進みます。

 詳細はこちらが参考になります↓
http://drama-night.com/tbs/rikuou-1wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-1wa2/2
http://drama-night.com/tbs/rikuou-2wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-3wa

 こういうときに、西島弁理士(西島秀俊)は宮沢社長をどうサポートするかを
 挿入してみました。

■第3話■
●西島特許事務所●
 秘書(石田ゆり子)が電話を取る。
〔秘書〕西島先生、宮沢社長からお電話です。
〔西島〕宮沢社長、何か進展がありましたか?
〔宮沢〕西島先生、飯村氏と交渉することに成功しました。
    飯村氏は最初渋ってましたが、何とか説得した結果、
    「シルクレイ」特許をこはぜ屋にライセンスしてくれることになりました!
〔西島〕宮沢社長、それはおめでとうございます。
    それでは、私の方から、ライセンス契約書と秘密保持契約書を送りますから、
    飯村氏と契約を交わして下さい。  

●こはぜ屋の事務所●
 西島弁理士が、宮沢社長から「シルクレイ」の進捗状況を聞いている。
〔宮沢〕西島先生、飯村氏がこはぜ屋の技術顧問になってくれて、
    就活が上手くいかずブラブラしている大地を助手につけて、あれから毎日、
    2人でシルクレイ製造装置で柔らかいシルクレイの製造条件を検討してますが
    なかなかうまくいきません。
〔西島〕宮沢社長、大丈夫ですよ。
    佃社長(三上博史/阿部寛)のおかげで、
    ソール素材の柔らかさの目標値はわかっています。
    目標値がわかっていれば、樹脂製造技術者は製造条件を必ずみつけますよ。

●西島特許事務所●
 秘書(石田ゆり子)が電話を取る。
〔秘書〕西島先生、宮沢社長からお電話です。
〔西島〕宮沢社長、何か進展がありましたか?
〔宮沢〕西島先生、飯村氏と大地が、ついに柔らかいシルクレイの製造に成功しました!
    いやー、ここまでくるのに半年かかりました。
〔西島〕宮沢社長、ここで気を抜いてはだめですよ。
    「シルクレイ」に関する特許出願を検討しましょう。
〔宮沢〕え〜!、西島先生、「シルクレイ」はもう特許になっているのに、
    これ以上、特許出願できるんですか?
〔西島〕勿論ですし、当然しなければいけません。
    電話では長くなるので、こはぜ屋さんに行って説明します。

●こはぜ屋の事務所●
 西島弁理士が、宮沢社長と富島専務(志賀廣太郎)に、
 今後の特許出願の可能性を説明している。

《基礎出願》
 シルクレイ樹脂ではない既存の樹脂を使用した、
 基本コンセプトを満たしますが、耐久性が不足する試作品については、
 先日出願しました。

《基礎出願に基づく国内優先権主張出願》(特許出願1)
 そこで、先日した基礎出願の内容に、シルクレイ樹脂を使用した、
 基本コンセプトと耐久性の両方を満たすスポーツシューズを加えて、
 国内優先権主張出願をして、これを改めて基本特許出願とします。
 基礎出願から1年以内ですから、このような特許出願ができます。

《低弾性シルクレイ樹脂、その製造方法及びその製造装置》(特許出願2)
 従来は硬いとばかり思われていたシルクレイ樹脂に対して、
 飯村氏と大地君が半年間試行錯誤しして、ある特定の範囲の加工温度にすると、
 誰も予想しなかった柔らかい低弾性シルクレイ樹脂を得たのです。

 従って、低弾性シルクレイ樹脂は、
 飯村氏の特許には開示されていなかったことになり、
 飯村氏のシルクレイ樹脂・製造方法・製造装置に関する特許があっても
 選択発明として新規性と進歩性を有する発明といえます。そして、
 加工温度を特定の範囲にするシルクレイ樹脂の製造方法も特許性がありますし、
 低弾性シルクレイ樹脂の製造装置も特許性があります。

 こはぜ屋さんがこれらについて特許権を取得すれば、
 低弾性シルクレイ樹脂は、こはぜ屋さんのライセンスを受けなければ、
 飯村氏といえども製造できず、他人にライセンスできません。

《低弾性シルクレイ樹脂を使用した靴用樹脂、靴底及び靴》(特許出願3)
 靴用途に限定した低弾性シルクレイ樹脂の発明です。
 こはぜ屋さんが特許権を取得すれば、
 誰もシルクレイ樹脂を靴用途に使用できなくなります。

〔宮沢〕私も冨島も頭が混乱して、
    西島先生のご説明にほとんどついていけなくなってますが、
    すいません、結局、特許出願1〜3をすると、
    こはぜ屋にどんなメリットがあるのでしょうか。
〔西島〕すみません。『陸王』が素晴らしい発明なので、
    目一杯の可能性を考えてしまいましたが、ややこしくなりました。
    要するに、貴社には以下のメリットがあると考えて下さい。

    @こはぜ屋さんが、これらの特許出願をして特許権を取得できれば、
     低弾性シルクレイ樹脂については、
     アトランティス社を始め、他社は手も足も出すことができなくなり、
     飯村氏も、どこにもライセンスできなくなります。

    A飯村氏のシルクレイ樹脂に関係する基本特許はあと6年で切れるので、
     こはぜ屋さんが、飯村氏から独占的なライセンス契約を結んでも、
     シルクレイ樹脂を独占使用できるのは、『陸王』販売からせいぜい5年です。
     ここで、低弾性シルクレイについて、こはぜ屋さんが特許権を取得すれば、
     飯村氏のシルクレイ樹脂に関係する基本特許を実質的に15年延命できる
     ことになり、こはぜ屋さんにとって、
     他社を排除した独占市場の中で、十分な投資回収期間を確保できます。
〔冨島〕西島先生、特許出願のメリットはよくわかりましたが、
    特許出願費用は最初の30万円どころか、100万円を超えてしまいますね。
    社長、どうするんですか。本当に発明貧乏にならないのでしょうね。
〔西島〕富島専務、そこは私も考えたところですが、
    埼玉県でも、中小企業の開発支援事業をしていて、
    特許出願費用も支援してくれます。ダメもとで申請してみませんか。
    『陸王』は特許性のある技術の塊ですから申請が通る可能性はあると思います。
〔宮沢〕そうですね。我々も今ある様々な支援制度を利用しない手はありませんよね。
    私の方でも、せっかくのシルクレイ樹脂を応用できないか考えてみます。
〔西島〕それと、今回の特許出願を準備するときに、
    こはぜ屋さんが『陸王』を製造販売したときに侵害してしまう他社特許の存否も
    突っ込んで調査してみます。
    先日、基礎出願をする際に、念のため、先行技術は調べていて、
    他社は、シルクレイ樹脂並に強靭で、
    シルクレイでも困難だった低弾性を有する樹脂などあるはずがない
    という先入観があるのかもしれませんが、
    低弾性の樹脂をソール素材とする特許出願はなかったので、
    おそらく、『陸王』に影響する他社特許はないと思いますけどね。
〔宮沢〕西島先生だけが頼りですので、よろしくお願いします。    
(続く)
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『陸王』こはぜ屋のために知財コンサルティングをする(その3:第2話)

 『陸王』第1話では、
 老舗の足袋製造メーカーのこはぜ屋の4代目社長である宮沢(役所広司)が、
 こはぜ屋の将来のために、
 こはぜ屋の縫製技術を導入した新規スポーツシューズの開発に着手し、 
 足袋縫製技術者の正岡あけみ(阿川佐和子)をリーダーに据え、
 新規スポーツシューズの試作に、社員の残業を全て投入するのですが、
 基本コンセプト(ミッドフット走法に適したフィット感と軽さ)を達成するも、
 ソール(靴底)素材の耐久性が不足するという壁に突き当たりました。

 詳細はこちらが参考になります↓
http://drama-night.com/tbs/rikuou-1wa
http://drama-night.com/tbs/rikuou-1wa2/2
http://drama-night.com/tbs/rikuou-2wa

 ここまでは、ドラマ通りなのですが、特許の無名塾版『陸王』第1話(後編)では、
 ここで、弁理士を登場させて、ドラマにはない展開をさせてみました。
 
 宮沢社長は、銀行の融資担当の坂本(風間俊介)に、
 特許出願を検討すべきと言われ、西島弁理士(西島秀俊)を紹介されます。

 宮沢社長は、壁に突き当たった状況で特許出願など夢のまた夢と思いつつ、
 西島弁理士に会いに行きました。

 ところが、西島弁理士は、宮沢社長から、壁に突き当たった状況を聞きながら、
 新規スポーツシューズの発明は既に完成しているので、
 特許出願作業を開始しましょうと言いだします。

 宮沢社長が、この人は何で話を聞いただけで、
 特許出願できることがわかるのかと半信半疑のまま、
 西島弁理士に特許出願を託したところで第1話は終わりました。

 第1話の後、第2話までは、だいたいドラマの通り進展します。
 右向き三角1銀行は、こはぜ屋の無謀な新規事業を止めなかったとして坂本を左遷し、
  坂本の上司だった後任の大橋課長(馬場徹)が、宮沢社長に、
  こはぜ屋のリストラを提言し、宮沢社長は抵抗します。
 右向き三角1新規スポーツシューズの試作品を学校の採択コンペにエントリーするも、
  書類審査で、競合のアトランティス社に敗れます
  (西島弁理士は、コンペでの試作品の説明も新規性喪失にならないように、
   何らかのアドバイスをしたはずです)。
 右向き三角1左遷された坂本が、宮沢社長に、
 ソール素材として特許樹脂「シルクレイ」を紹介します。

 この流れの中で、弁理士がどう考えるかを挿入してみます。

■第2話■

●こはぜ屋の事務所●
 宮沢社長が社員全員を集めて、新規スポーツシューズの進捗を説明している。
〔宮沢〕新規スポーツシューズの特許出願を、西島先生に頼んだので、
    皆は、特許出願の作業が終わるまで、
    会社で行っている新規開発の中身は絶対に口外しないでくれ。

    西島先生には、こはぜ屋の知財顧問になってもらった。
    富島専務(志賀廣太郎)には、
    有村店長(光石研)との秘密保持契約の作業をしてもらっている。

    大地(山崎賢人)、西島先生が佃製作所にお願いしてくれた、
    失敗品の20足分のソール樹脂の弾性測定試験の結果がいつ届くか、
    佃社長(三上博史/阿部寛)に聞いてくれたか?(大地が頷く)

    西島先生が特許出願するまでの間、私の方は、
    坂本さんから紹介された特許樹脂「シルクレイ」を当たってみる。

    それと、新規スポーツシューズの名称は『陸王』にした。
    西島先生は既に『陸王』の商標登録の出願をしてくれている。

    先代の思いが籠もった名前だが、我々の手で『陸王』を完成させたい。
    これからも、皆、よろしく頼む。

■幕間■
 坂本が紹介した特許樹脂「シルクレイ」は誰からも注目されず、
 特許権者の飯村氏(寺尾聰)も行方不明で、宮沢社長も探し回ります。

 『陸王』の第2話のドラマの山場は、宮沢社長が、
 ようやく飯村氏をみつけたものの、なかなかライセンス契約に応じてくれず、
 宮沢社長の『陸王』にかける情熱を伝え説得した結果、
 飯村氏が心を動かされて特許樹脂「シルクレイ」をこはぜ屋にライセンスする
 という場面です。

 『陸王』についてコメントする知財関係の方々は、
 このエピソードを「死蔵特許問題」のように取り扱っていましたが、
 西島弁理士は以下のような処理を提案します。 

●西島特許事務所●
 宮沢社長と西島弁理士がミーティングテーブルを挟んで対面しているところに、
 秘書(石田ゆり子)が、アマンドの高級ケーキを置いて、
 にこっと笑みを浮かべて退室する。
〔宮沢〕西島先生、というわけで、坂本さんに
    ソール素材として「シルクレイ」を紹介してもらったのはいいのですが、
    「シルクレイ」の特許権者の飯村氏が、
    彼の会社が倒産して以来行方不明なっていて困っているんです。
〔西島〕こういう場合、いっそ飯村さんが見つからない方がよいともいえます。
    「シルクレイ」特許は、あと7年の有効期間がありますが、
    特許料は来年までしか支払われておらず、
    飯村氏が財政的に困窮しているのであれば、
    特許料をこれ以上支払わないこともありえます。
    特許権が消滅してしまえば、誰もが「シルクレイ」を自由使用できます。
    
    特許樹脂「シルクレイ」が3年間実施されない場合、
    特許権者の飯村氏とライセンスの協議ができなければ、
    こはぜ屋さんが特許庁長官に裁定請求をすることができます。

    この裁定請求が認められれば、ライセンス料を供託して、
    裁定によるライセンスを受けることができます。

    「シルクレイ」特許は製造方法も全て開示されているので、
    樹脂・繊維加工技術を有する企業であれば「シルクレイ」を製造できるはずです。
    我国の樹脂・繊維加工技術は今だに世界有数ですからね、
    その企業にも裁定によるライセンスを受けてもらい、
    こはぜ屋さんと「シルクレイ」を共同開発してもよいのではありませんか。
    佃製作所に余力があれば、共同開発を支援くれるかもしれません。

    「シルクレイ」特許が特許料未払いであと1年で消滅するなら、
    裁定のライセンスは1年だけで、あとは自由使用できますから、
    飯村氏の特許権の縛りはないに等しいですよ。    
〔宮沢〕なるほど、そんな仕組があるとは、特許制度は奥が深いんですね。
    しかし、西島先生、これは私の流儀というか、
    やはり、「シルクレイ」に思い入れがあるはずの飯村氏を探し出して、
    ライセンス交渉をやるだけやってみようと思います。
〔西島〕勿論、宮沢社長がやりたいように進めてよいと思います。
    もし、飯村氏とライセンス交渉できるようであれば、
    残りの6年分の特許料はこはぜ屋が持つということを、
    ライセンスの見返りにしてよいかもしれません。
〔宮沢〕西島先生、良い案を提案いただきながら、
    私の我儘を聞いていただきありがとうございます。
〔西島〕今準備している特許出願では、
    ソール素材は具体的な樹脂組成ではなく、
    柔らかさを示す樹脂の弾性で規定していますから、
    これがそのまま特許になれば、
    仮に、飯村氏が「シルクレイ」を他社にライセンスしても、その他社は、
    スポーツシューズ用の低弾性のソール素材としては使用できません。
    ですから、飯村氏には、
    せめて、スポーツシューズのソール素材の部分だけでも、
    ライセンスできないかお願いしてみて下さい。
    特許出願は今週中にしておきます。
〔宮沢〕何としても飯村さんを探し出して食いつこうと思っています。
    それと、特許出願後に、茂木選手に試作品を届けてもよいでしょうか?
〔西島〕茂木選手に認めてもらえるか否かは営業上重要ですから、
    やむを得ないでしょう。しかし、
    茂木選手とは必ず秘密保持契約を結び、
    誰も見ていないところで履いてもらうようにお願いして下さい。

■幕間■
 この段階で、西島弁理士は秘密保持契約に拘りますが、
 茂木選手と秘密保持契約を結べるかはなかなか微妙です。
 常識的には、面識もない宮沢社長に秘密保持契約を突き付けられて、
 契約通り、こっそりと試作品を履くスポーツ選手はいないでしょう。
 脚本上は工夫を要するところです。
(続く)
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2019年06月16日

『陸王』こはぜ屋のために知財コンサルティングをする(その2)

 今回は、特許の無名塾版『陸王』です。

 第1話(前編)では、
 老舗の足袋製造メーカーのこはぜ屋の4代目社長である宮沢(役所広司)が、
 こはぜ屋の縫製技術を導入した新規スポーツシューズの開発に着手し、 
 足袋縫製技術者のあけみ(阿川佐和子)をリーダーに据え、
 200足を超える失敗試作品の山を築いた末に、
 基本コンセプト(ミッドフット走法に適したフィット感と軽さ)は出たものの、
 ソール(靴底)素材の耐久性が不足しており、
 このままでは本格的なスポーツシューズとしては使えない、
 という壁に突き当たったところまでお話ししました。

 ここで、宮沢社長の新規スポーツシューズの開発を後押しする
 融資担当の銀行員である坂本(風間俊介)が、
 苦戦する宮沢社長を陣中見舞に訪れます。
 
■第1話■(後編)

●こはぜ屋の事務所●

〔坂本〕社長、苦戦されているようですね。
〔宮沢〕坂本さん、ちょっと壁にぶつかってしまって。
〔坂本〕しかし、みたところ、
    新規スポーツシューズの足袋型形状はできているようですし、
    ここで、頭の整理をする意味でも、特許出願を検討されてはいかがですか?
〔宮沢〕でも、しがない足袋屋にとっては、特許なんて別の世界の話で、
    どうしていいかもわかりません。
〔坂本〕以前、佃製作所の佃社長(三上博史/阿部寛)の顧問弁護士をしている
    神谷先生(寺島しのぶ/恵俊彰)から、
    腕のいい弁理士として西島先生(西島秀俊)を紹介してもらったことがあります。
    その弁理士でよければ、新宿の曙橋ですが、一度訪問されてはいかがですか。

●西島特許事務所の前●
〔あけみ〕社長、かわいらしいビルだけど、ここみたいですよ。
西島特許事務所ビルと表札.jpg
●西島特許事務所の中●
 ミーティングテーブルを挟んで、
 西島弁理士と、宮沢社長とあけみが腰かけている。
西島特許事務所の室内.jpg

〔あけみ〕西島先生、おしゃれな事務所ですね。
〔西島〕(にこにこしながら頷く)

 秘書(石田ゆり子)が、軽く会釈をしながら、
 レモンティーを注いだ白磁のティーカップを並べて置く。
 宮沢は、秘書の白魚のような美しい指に見とれる。
 秘書は、にこっと微笑んで退室する。

〔あけみ〕
特許事務所の秘書さんて、とてもお美しいんですね。
     いやだ、社長、何をぼんやりしてるんですか!
〔西島〕坂本さんから、概要は伺いました。
    早速ですが、開発中の新規スポーツシューズについて詳細をお話し下さい。
〔宮沢〕・・・というわけで、壁にぶつかっているところで、
    こんな状態で特許どころではないように思うのですが・・・。
〔西島〕何をおっしゃっているんですか!
    今のお話では、もう特許出願はできたも同然で、
    今後、試作品を関係者に試用してもらう計画のようですから、
    一刻も早く特許出願をしてしまいましょう。

******

 西島弁理士は、ピンときていない宮沢社長に、以下の説明をする。

《発明者について》
 発明者は、
 新規スポーツシューズの基本コンセプトを提示して、
 試作品の製造を指揮し、試作品を試着して評価してきた宮沢社長と、
 宮沢社長の基本コンセプトを受けて、
 具体的に図面を作成し材料を選んで縫製した正岡あけみ様になります。

《特許を受ける権利》
 就業規則を見ると、職務発明制度を取り入れていらっしゃるので、
 宮沢社長と正岡様の特許を受ける権利は全てこはぜ屋さんに移転しています。
 従って、出願人と将来の特許権者はこはぜ屋さんということになります。
 この就業規則を作成された社労士の先生は抜かりないですね。

《秘密保持》
 試作品を不特定多数の方の前に提示する作業は、特許出願してからにして下さい。
 特許出願するまでに1月ほどかかると思いますので、
 できれば、その間に、ソール素材を探されたら良いと思います。

 但し、アドバイスを受けるために試作品を他の方に見せる場合、
 その方とは必ず秘密保持契約を結んでください。

 お話を伺った限りでは、
 スポーツ用品店の有村店長(光石研)とまずは結ぶべきと思いますし、
 ご家族、社員の方には、特許出願が終わるまで、
 開発内容を口外しないようくれぐれも注意すべきことをお伝え下さい。

******

〔宮沢〕しかし、失敗作しかないのに、何故、特許出願できるのでしょうか?
〔西島〕失敗作といっても、それは、実用上、耐久性が不足しているだけで、
    宮沢社長が当初構想された基本コンセプトである、
    ミッドフット走法に適したフィット感と軽さは達成していて、
    「裸足感覚」のスポーツシューズになっているじゃないですか。

    基本コンセプトを達成するのに、
    ミッドフット走法に適した靴底の形態と足袋型形態という基本構造を創作され、
    基本構造の形成手段として足袋の縫製形態を導入し、さらに、
    その縫製形態は、足袋では使用しないような微妙なアレンジがされています。

    特許性のあるバリバリの発明です。
    ただ、50mは走れても、100m走ると壊れてしまうだけですから、    
    ないのは耐久性だけです。
    ですから、新たな素材がみつかって耐久性が確保できたら、
    また特許出願すればいいですよ。
〔宮沢〕確かに、言われてみれば、
    有り合わせの材料を組合わせていつもの作業をして試作したつもりでしたが、
    我々は苦労していろいろな工夫をしたということですね。
〔西島〕その通りです。工夫をした部分に特許は宿るんです。
    ところで、200足の失敗作ですが、
    一度、貴社工場で見せていただいてよろしいですか?
〔宮沢〕え〜、あんなものを見てどうするんですか?

●こはぜ屋の縫製工場●
 西島弁理士が入ってくるのを見て、
 女性社員は、瞳に☆が瞬き、心が「♡♡♡♡♡♡」になっている。

〔宮沢〕西島先生、これが失敗作の全てです。
    最後の20足は耐久性を向上させるためのソール素材を選択したものですが。
〔西島〕(手にとって見ながら)なるほど。
    200足のうち、最後の50足は実施例に使えるな・・・・・・。

●こはぜ屋の事務所●
 西島弁理士、宮沢社長、番頭専務(志賀廣太郎)が打合せをしている。

〔専務〕社長、失敗作しかないのに、30万円もかけて特許を出願するなんて、
    いったい、何を考えているんですか?
    特許を出せば売れるというのならともかく、
    きちんと、使えるものになって、売れるようになってからでいいではないですか。
〔西島〕専務が仰るのもごもっともな部分があります。
    特許は先行投資で、特許を出せば商品が売れるわけではなく、
    売れるか売れないかは、貴社の営業努力によりますから。

    但し、考えてみて下さい。
    特許が威力を発揮するのは、貴社の営業努力が実を結んで成功してからです。
    貴社が成功した途端、他社は模倣品を貴社が切り開いた市場に投入します。
    特にアトランティス社のような開発力のある大企業であれば、
    あっという間に模倣品を投入して、安売りを仕掛けてくるでしょう。

    貴社が特許をもってなければ、貴社の成功は短命に終わりますが、
    貴社が特許をもっていれば、貴社の市場には当面誰も参入できませんから、
    貴社の成功は先行投資を回収するのに十分な長期間継続することになります。

    特許出願30万円前後と、さらに権利取得までに必要な40万円前後の
    計70万円前後を回収できない事業であれば、
    やらない方がマシと考えてもよいのではありませんか。
〔専務〕ウー・・・、それも一理ありますな。
    社長、それでは、今回の特許出願費用は予算計上しますから、
    きちんと、使えるものにして、売って下さいね。
〔西島〕それでは、宮沢社長、本件特許出願の手続を明日から開始します。
    それと、新規スポーツシューズの名称は商標登録をすべきと思いますので、
    決まったら必ずお知らせ下さい。
〔宮沢〕西島先生、是非とも、よろしくお願いします。
(続く) 
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『陸王』こはぜ屋のために知財コンサルティングをする(その1)

 ここのところ、オリンピック関連商標の話ばかりで、
 なかなか映画・TVドラマの記事を書くことができませんでした。

 相変わらず、TUTAYAでDVDを借りて、
 2年遅れでTVドラマを見る日々ですが、
 ようやく話題になった『陸王』を見終わりました。

 『陸王』は、足袋製造の老舗メーカー「こはぜ屋」が、
 新規スポーツシューズの開発を始めたことで展開する人間模様を描いた、
 『下町ロケット』(三上博史版/阿部寛版)『七つの会議』(TVドラマ版/映画版)でお馴染みの池井戸潤原作の連続ドラマです。

 役所広司が、こはぜ屋の4代目社長を演じており、さすがにうまく、
 斜陽の中小企業の社長の悲哀感をこれでもかというほど滲み出しています。

 志賀廣太郎が、こはぜ屋の資金繰りで銀行と折衝するもコテンパに叩かれ、
 夢だけ追っているようにみえる4代目社長がこはぜ屋を潰すのではと、
 体を張って新規開発を止めようとするも、
 4代目社長の思いに押し切られて今日も銀行に頭を下げに行くという
 なくてはならない役どころを、これまた悲哀感たっぷりに演じています。

 ドラマ放映時に、以外とクールな役どころだったと評価されていましたが、
 やはり出てきただけで暑苦しさ全開の松岡修造も、
 企業買収だけで成功してきた得体のしれない社長を怪しく演じています
 (他の役者より頭一つ背が高くかっこいい)。

 これらの芸達者や安定したビジュアルは安心してみていられるのですが、
 役所広司の息子やマラソン選手を演じる若手が下手くそで、
 もっとさわやかで美しい女優はいないのか、というほど、
 魅力的な女性キャラクターがいない(これは池井戸潤原作の特徴ですが)
 など、いつもの池井戸潤原作ドラマだと思えば、
 そこそこ見ていることができました。

******

 『陸王』は新規技術を取り入れた開発商品を巡る群像劇といえますが、
 新規技術を語るドラマとしては決定的に欠けている要素があり、
 我国の企業の開発現場を知る者には、リアリティが欠如しています。

 新規技術を取り入れた商品開発においては、
 技術と商品を守るための知財戦略が事業の成否を決定づけますが、
 『陸王』には、こはぜ屋と知財戦略との関係がほぼ絶無であるため、
 池井戸潤原作を特徴付ける知的財産権を巡る知的バトルの面白さがなく、
 登場人物の思いばかりが前面にでてしまう結果、
 暑苦しい感動の押し付けに堕してしまっています。

 それでは、『陸王』に、
 『下町ロケット』に登場した知的財産専門の神谷弁護士を出演させれば
 知的バトルの面白さがでたかというと、そうはなりません。

 『下町ロケット』では、神谷弁護士が、
 佃製作所が既に取得した特許権を上手く活用して敵の大企業を撃退するのですが、
 『陸王』では、4代目社長が、
 特許樹脂「シルクレイ」と特許織物「ダブルラッセル」を活用しようとしますが、
 彼は特許制度に疎く(それは必ずしも非難されることではありませんが)、
 仮に神谷弁護士が付いても、こはぜ屋が特許権を有していないため、
 特許樹脂と特許織物の特許権者の意向によって、こはぜ屋にとって、
 これらの素材の供給が非常に不安定になる状況は食い止めようがないと思います。

 特許弁護士は、既にある特許権は活用できても、
 新たに創作されつつある発明の特許権を取得することは得意ではありません。

 そうなると、『陸王』に知的財産権を巡る知的バトルの面白さを与えるには、
 特許権活用に強い特許弁護士ではなく、
 特許権取得の専門家たる弁理士を出さざるをえないことになります。

 このように、『陸王』は、特許制度を考える上で、
 絶好の反面教師的題材であると思いますので、
 こはぜ屋が適切な知財コンサルティングを受けていれば、
 より面白いドラマになったであろうと、
 特許の無名塾版『陸王』を考えてみました。

■第1話■(前編)

 埼玉県に所在する足袋製造メーカー「こはぜ屋」は、
 創立百年を超える老舗で、
 全盛時は社員100名を超える業界大手であったが、
 足袋市場が長期的に縮小し、同業者が相次いで廃業する中、
 優れた縫製技術による履き心地の良い足袋を提供し続けた信用で、
 何とか生き残ってきた今や社員20名足らずとなった中小企業である。

 足袋関連産業は、銀行からは化石産業のように見られ、
 将来的に安定した資金繰りを続ける保証もなくなってきた。

 肝心の、縫製技術を裏付ける特製ミシンも、
 既にそれを製造しメンテナンスできるミシンメーカーがなく、
 廃業した同業者から譲り受けた中古ミシンの部品を使い回して、
 目先の事業運営を凌いでおり、
 銀行ならずとも、明るい将来像など描きようがない状況だった。

 こはぜ屋の4代目社長の宮沢(役所広司)は、
 何か新しいことをしなければ、こはぜ屋もじり貧だと、
 わかってはいたが、よい考えなど簡単には浮かばなかった。

 ******

 こはぜ屋の宮沢社長(役所広司)と就活中の息子の大地(山崎賢人)は、
 ある日、市役所前がスタート・ゴールとなるマラソン大会を観戦した。

 マラソン大会には、
 優勝候補である茂木選手(竹内涼真)が出場するが、
 大地は彼の熱烈なファンであった。

 しかし、茂木選手は、トップで市役所前に入るも、
 宮沢社長と大地の見ている前で、
 足を痛めてゴールすることができず退場するという結果となった。
 
 宮沢社長の知人であるスポーツ用品店長の有村(光石研))は、
 宮沢社長に茂木選手の状況を以下のように説明した。

(1) マラソンランナーの走法の主流である、
  踵から着地するヒールストライク(踵着地)走法は、
  業界最大手のアトランティス社が専用シューズを製造販売しているが、
  茂木選手はヒールストライク走法に対応できずにいて、
  足の故障に繋がる負荷がかかったのだろう。

(2) 茂木選手は、本来的に走りの理に適う、
  足裏中央部で着地する「ミッドフット走法」に切り替えるべきだが、
  「ミッドフット走法」に適した良いスポーツシューズがない。

 ******

 有村店長の説明を聞いた宮沢社長は、 
 「こはぜ屋にとっての新規事業はこれだ!」と閃き、
 こはぜ屋の縫製技術を適用して
 走りの理に適う「ミッドフット走法」に適した、
 ランナーの足に負担がかからない「裸足感覚」のスポーツシューズを開発し、
 茂木選手にも履いてもらおう、と決意した。

 こはぜ屋の融資担当の銀行員である坂本(風間俊介)が、
 宮沢社長の新規事業に臨む心意気を評価して後押ししたこともあり、
 経理担当の番頭専務(志賀廣太郎)の
 「社長の思い付きで「こはぜ屋」を潰す気か!」の猛反対を押し切り、
 宮沢社長は、新規スポーツシューズの開発に乗り出した。

 ******

 宮沢社長は、
 職場のムードメーカーで、足袋の構造・縫製に熟知する
 正岡あけみ(阿川佐和子)を開発リーダーに据え、
 残業時間を全て新規スポーツシューズの試作に充てた。

 来る日も来る日も、作っては履き、作っては履きを繰り返し、
 こはぜ屋縫製技術を導入した足袋型形状の試作品の
 200足を超える失敗作の山を築きながら、
 宮沢社長は試作品を履いて近所を走り回った結果、
 ミッドフット走法に適したフィット感と軽さは出たものの、
 ソール(靴底)素材の耐久性が不足しており、
 このままでは本格的なスポーツシューズとしては使えない、
 という壁に突き当たった。
(続く)

■幕間■


 ここまでは、ほとんどドラマに沿った内容ですが、
 ここまでで、宮沢社長とあけみは、
 彼らの目指したスポーツシューズの発明、
 それも十分に特許性のある発明を完成させています。

 従って、この段階で、宮沢社長は弁理士を探す必要があります。

 私の感覚では、弁理士役は、年齢・知性・見栄えを考慮すると、
 ちょっとカッコよすぎるかもしれませんが、
 西島秀俊君に演じてもらいたいと思います。

 次回は、西島弁理士がこはぜ屋に知財コンサルティングする
 という設定で話が進みます。
posted by Dausuke SHIBA at 13:18| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ

2017年11月05日

『天の方舟』不競法改正の裏で奏でられた大人のドラマ

 毎日が月曜日状態が続いていますが、
 毎週末にTUTAYAでDVDの旧作をまとめて借りて、
 晩酌しながらドラマを見るのが至福のときになっています。

 2000年代に入ってからの我国のTVドラマは面白いものが多いですが、
 WOWOWの一連のドラマ群の質が高く最近はよく見ています。

 中でも三上博史版『下町ロケット』(2011)は、
 特許騒動がテーマのど真ん中であるだけでなく、
 三上博史の佃社長が思索的で渋く、
 原作では男性の神谷弁護士を寺島しのぶに演じさせるなど、
 ドラマのアレンジとしては、私は、WOWOWの三上博史版の方を、
 剛速球なるも色気の乏しいTBSの阿部寛版よりも買っています。

 最近も地熱発電をテーマにした『マグマ』(2012)が面白く、
 主人公のハゲタカファンドの敏腕マネージャーである尾野真千子が、
 生涯を地熱発電に賭ける熱血の研究所長である長塚京三と仕事を共にするうちに、、
 研究の夢絶たれ若くして亡くなった自分の父親に重ねて見るようになり、
 その長塚京三の夢を継いで地熱発電の実現に渾身傾けるという、
 何とも、長塚京三がかっこよすぎて自分に重ねてみてしまい
 心地よくなってしまうという内容でした。

******

 今回の『天の方舟』(2012)は、予備知識が全くなく、
 WOWOWのドラマという理由だけで借りたのですが、

 なかなか見ごたえのある大人のドラマというだけでなく、
 何と不正競争防止法(不競法)の改正の裏を知ることができたという意味で、
 弁理士が見ると倍楽しめるものでありました。

《ストーリー》

 黒谷七波(水野美紀)は新潟の個人農家の娘として育つが、
 父親が地震の被害で農業経営に行き詰って自殺するという暗い過去をもつ。

 しかし、七波は頭がよく東京大学に進み、
 開発途上国の政府開発援助(ODA)に興味を持ち、
 ODAが開発途上国の役人と日本の商社・ゼネコンとの間で
 賄賂だけで動いてく汚職まみれの裏の仕組を知るようになり、
 貧しさから抜け出すために、自らその汚職の世界に飛び込んでいく。

 七波は、最初は学費を稼ぐために夜の商売でホステスをしていたのだが、
 ある日、ODAに群がるある建設会社の腕利きの重役である宮里一樹(伊原剛志)
 と互いに惹かれあい、抜き差しならぬ関係になると共に、
 宮里の手引きにより、その建設会社と開発途上国を結び付けるための
 コンサルティング会社に就職する。

 七波と宮里は、男と女の関係を続けながら、
 ODAを介して利用しあう会社の中心人物として裏の世界に突き進むが・・・。

 東南アジアに大ロケーションを敢行しています。

《伊原剛志》


 二人のドロドロの関係と裏稼業はやがて破滅に突き進むわけですが、
 伊原剛志がかっこいいです。

 伊原剛志は、夏八木勲を引き継ぐ、日本では数少ない硬派のアクションスターで、
 時代劇から現代劇のアクション映画を始め、
 シリアスからコミカルまで硬軟自在の役をこなせる演技派でもあります。

 そういう伊原剛志が、今回は、裏の世界で有能なるも影があり、
 その影に女が引きずり込まれるのも仕方ない、
 という宮里一樹にドンズバリ嵌っていて、かっこよすぎます。

 夏八木勲は、かつては映画の時代劇でニヒルな浪人役などピッタリで、
 アクションスターとして時代劇での雄姿をもっと観たかったのですが、
 時代劇が斜陽になると共に、誰も演じさせなかったのが、
 本当に勿体なくも残念でした。

 伊原剛志はまだまだ若いのですから、
 例えば、役所広司の体がまだ動くうちに、
 二人の対決をクライマックスにした時代劇を誰かつくらんか!
 (伊原剛志=拝一刀(子連れ狼)、役所広司=柳生烈堂)

 なお、水野美紀は、おかっぱ頭の眼鏡をかけた田舎娘東大生が
 夜になって、眼鏡をとってメークをきめて、ドレスアップすると
 とんでもない美女になるという美味しい役にも拘わらず、
 ちょっと地味な顔立ちで損をしています。

 伊原剛志が相手役だから、
 『黒革の手帳』でならした米倉涼子クラスでもよかったのではないかと思います。

《不競法改正との関係》


 このドラマの時代設定は、
 私が弁理士の受検勉強をしていた2003年(平成15年)頃であるはずです。

 当時、私が不競法を勉強するのに読んでいた
 「逐条解説 不正競争防止法(平成15年改正版)」がまだ手元にあり、
 この機会に、ほぼ10年ぶりに見返してみました。

 そうしたら、平成13年改正の説明として
 「外国公務員等に対する不正の利益供与等の禁止を処罰の対象とした
  平成10年改正後、OECD(経済協力開発機構)による
  日本の条約実施法の審査や加盟各国の同実施法の制定の進展等を踏まえ、
  犯罪構成要件の国際的調和を図り、条約のより効果的な実施を図る観点から、
  外国公務員等に対する不正の利益供与等の禁止規定に関する一部改正を
  行った。」
 と書かれています。

 ドラマでは、
 従来の不競法の規定がザルで、ODAでの賄賂まみれの日本の業者が、
 米国企業を押しのけて契約を取りに来るのに業を煮やした米国が、
 不競法の改正を我国に迫り圧力をかけてきた中で、
 七波と黒崎が以前のようにうまく立ち回れずに追い詰められていく、
 ということになっていました。

 私が、不競法を勉強していた当時は、
 「外国公務員等」のイメージが全く湧いておらず、
 『007』シリーズや『スパイ大作戦』にでてくる
 共産圏の某国の黒ずくめの高級官僚を思い描いていていたのですが、
 実際はODA絡みの東南アジアの開発途上国の公務員が対象だったことが
 このドラマを見てようやくわかった次第です。

 平成28年度の最新の不競法では第18条が関連します。

 弁理士試験には出題されそうにない条文内容ですが、
 知財法がドラマの内容に直結していて生きた法律が学べるという観点で、
 弁理士受験生は見ておいてもよく、
 弁理士をされている方々も、知財絡みの大人のドラマでもたまには見て、
 世界を広くしておくというのも良いと思います。

******

 しかし、弁理士がこのドラマにでてくる会社のコンサル顧問などをして、
 不競法18条関係を考慮して契約書を作成する業務などに深入りする場合は、
 いつか南シナ海に浮かぶことにもなりかねないことは
 覚悟する必要がありそうです。
posted by Dausuke SHIBA at 17:41| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ

2017年07月16日

TVドラマベスト10(第7位)

第7位 『白い巨塔』(1967)

第7位.jpg

 当時子供であった小生は田宮二郎の映画版は見ておらず、
 このモノクロフィルムのTVドラマ版『白い巨塔』のイメージが
 刻み込まれてしまいました。

 もともと悪役が多かった演技派の佐藤慶の財前五郎は、
 医学部の教授になるために患者をも踏台とする脂ぎった権力の信奉者で、、
 根上淳が演じる正義の里見先生と対象的で、
 悪の匂いが充満した迫力があり、子供ながらに怖かったものです。

 財前五郎を疎ましく思う上司の東教授を山形勲、
 その妻を小暮美千代、その娘を村松英子(とても美しい)、
 財前五郎の教授昇進を阻止するため色々と画策し、
 それはそれで財前五郎に引けをとらぬ俗物医師たちである、
 鵜飼教授を河津清三郎、菊川教授を南原宏治、
 財前五郎の義父の産婦人科院長を小池朝雄と、

 今みればそうそうたる役者陣ですが、
 当時の映画界では悪役専門の脇役ばかりの二線級キャスト、
 それも片岡千恵蔵、市川歌右衛門、大川橋蔵に叩斬られる、
 時代劇の悪代官と悪女ばかりであったと思います。

 しかし、さすがに映画俳優、
 TVのフレームでは俗悪が思い切りはみ出しておりました。

******

 この『白い巨塔』は、財前五郎が医療裁判に勝つまでが描かれており、
 悪が勝ち、正義が負けるという不条理を知り,
 何とも暗い気分になりましたが、社会勉強になりました。

 阪大医学部がモデルといわれており、
 教授を頂点とする絶対的なヒエラルキーの大学医局制度の中で、
 権力闘争に明け暮れ、これでよく普段の診療ができると思いましたが、
 大人の世界の異様な毒々しいエネルギーに圧倒されたものです。

 その後観た田宮二郎の映画版『白い巨塔』(1966)も素晴らしく
 (山本薩夫監督なので当然ですが)、小生にとっては、
 財前五郎は佐藤慶と田宮二郎の迫力が印象に残りすぎてしまい、
 村上弘明君と唐沢寿明君の財前五郎では、
 なぜか笑いがこみ上げてしまい、食指が動きませんでした。

 『白い巨塔』は、山崎豊子の原作小説と、
 佐藤慶・田宮二郎版のTV・映画の完成度が高く、
 四半世紀以上経た時代にリメイクしようとしても、そのまま描くしかなく、
 そうなると時代錯誤と役者の軽量ばかり目立つ、ということになると思います。

 黒澤・三船・仲代の『天国と地獄』(1963)をリメイクした
 鶴橋・佐藤・杏の『天国と地獄』(2007)も無惨でした(杏がでてたんですね)。

 その医局制度が崩壊した現代医療の世界に颯爽と現れたのが、
 『ドクターX』でした。

 『ドクターX』のオープニング・ナレーションは、
 『白い巨頭』の正当な後継者であることを自負しているようです。

******

 今回、この記事を書くにあたり、監督を調べたところ、
 何とも不思議な縁を見出してしまいました。

 監督の関川秀夫は、ウィキペディアによると、
 東宝の前身会社PCLで黒澤明と同期の助監督になって以降、
 東宝、東映、独立プロ、松竹を渡り歩いた一匹オオカミの筋金入りで、
 節操があるのかないのか、社会派・ドキュメンタリーを基軸として、
 『少年探偵団シリーズ』(1950年代)等の娯楽映画も多く、
 TVドラマ『あゝ同期の桜』『白い巨頭』の後に、
 エロ・グロ耽美系の映画『いれずみ無惨』を経て、、
 映画『超高層のあけぼの』(1969)を撮っています。

 この『超高層のあけぼの』は、
 日本で最初の超高層ビルである霞が関ビルの完成における、
 関係者の苦闘を描いた、
 今でいえばスカイツリーの建造物語のようなドラマでした。

 関係者を、
 池部良、木村功、丹波哲郎、平幹二朗、佐久間良子、新珠三千代、
 田村正和、佐野周二、中村伸郎、根上淳・・・
 って、おいおいおい、今では考えられないであろう
 豪華キャストが演じていました。
 
 上記の俳優のファンであった父に連れていかれ、しぶしぶ見たのですが、
 これが『下町ロケット』のような、
 地震国である日本で超高層建造物を最先端技術を駆使して作り上げようという
 技術者たちの知恵と努力を真っ直ぐに描いたドラマで、
 すっかり感動してしまいました。

 なにしろ、パソコンもインターネットもなく、
 国産の超大型コンピュータで、パンチカードと紙テープで情報の入出力をしていたのが
 最先端技術の象徴であった時代ですが、
 それを縦横に駆使して妥協を許さない技術者と、
 難しい決断を迫られる経営者との葛藤に、
 手に汗を握り、霞が関ビルの完成を共に祝うことができたのでした。

 築43年で東北大震災を受けた後、築50年を迎える霞が関ビルは
 まるで最近建造されたばかりのような美しい姿ですよね。

 我が国の技術力の高さは素晴らしいと率直に思います。

 というわけで、小生は、関川秀夫監督の『超高層のあけぼの』を観たおかげで、
 理科系の道を歩み、建築とは全く畑違いですが、
 化学分野で研究開発をし、少し道を踏み外して弁理士となりました。

 関川秀夫監督とはとても不思議な縁で結ばれていたということになります。
posted by Dausuke SHIBA at 09:40| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ

2017年07月01日

TVドラマベスト10(第10〜8位)

 前回、野際陽子さんの訃報に接して、追悼の意を込めて
 第5位を報告したのですが、今回はオーソドックスに、
 第10〜8位を紹介します。

 現代劇たるTVドラマは、
 テレビ時代劇に比べて、近年著しく短命化し、圧倒的に本数が多く、
 とても全貌など追うことなどできるはずがなく、
 暇だけはあった1970年代までの記憶が強く残っています。

 1980年代以降は、テレビ自体をあまり見なくなったのですが、
 たまに偶然みた作品が良かった、というよりは、時間がない中、
 好みのものに対する嗅覚だけは残っていたということができます。

 ただ、歳と共に朝型に移行したため、
 ここ何年か、週末にTUTAYAでDVDを借りて、
 晩酌しながら過去のTVドラマを楽しんで頭を空っぽにしていますが、
 2000年代に入ってからのTVドラマは質が高く、
 当時は、たまに見ても面白いものに当たる確率は高かったともいえます。
 
******

第10位 『七人の刑事』(1961〜1964)

第10位.jpg

 早々にTVを購入していたお隣によく見せにもらいに行ったものですが、
 小生の家もTVを購入して家族で見始めてから、
 小生の記憶に残る最初の本格的TVドラマとなりました。

 それまでのフィルム制作の子供向けドラマと米国製ドラマしか知らなかった小生には、
 VTRのシャープな質感と、
 芦田伸介を始めとする渋いおじさん達の生真面目さが新鮮でした
 (あのおじさん達、当時30〜40代、今の小生より遥かに若かったとは・・・)。

 当時、日本は高度経済成長期にあり、
 TVを始め3種の神器が普及しだして明日への希望に満たされていたのですが、
 TVドラマの世界では、
 『七人の刑事』だけでなく『特別機動捜査隊』等の刑事物ドラマでは、
 何とも暗い世相が描かれており、
 七人の刑事たちの無力感だけが印象に残っています。

 冒頭のタイトルバックのこれまた渋さを絵に描いたような低音のハミング
 (日本人の歌手ではなかったのですね)は、
 5年以上聴いていれば耳にこびりつくのも無理はありません。

第9位 『八日目の蝉』(2010)

第9位.jpg

 小生が、リアルタイムで観た最後のTVドラマだったように思います。

 その日の新聞のTV番組欄をみていたら、タイトルがきれいだったのと、
 『武士の一分』以来ファンになっていた
 檀れい主演という理由だけで観てしまったのですが、
 子供の誘拐事件から始まり、ミステリーとロードムービーの要素も絡み、
 面白く見ていたのですが、
 最終回のあまりに重い結末に心から感動してしまいました。

 女性版の『砂の器』といってよいと思います。

 歳をとったせいか、あまり重い内容のドラマは敬遠してしまうのですが、
 『八日目の蝉』はうっかり観てしまったのが運の尽きだったようです。


第8位 『わたしたちの教科書』(2007)

第8位.jpg

 当時面白く観ていた『富豪刑事』が終わった後に、惰性で見始めたのですが、
 予想外に面白く、また最終回は感動してしまいました。

 いじめを主題にした本格ミステリー(転落死は事故か殺人か?)で、
 リアルな学園ものが続くのかと思いきや、
 登場人物の関係が二転三転して、最後は法廷劇に移行するという、
 凝りに凝ったドラマ作りで、最後まで楽しめました。

 剽軽な名前ながら暗い過去をもつ弁護士の積木珠子(つみきたまこ)(菅野美穂)、
 転落死した生徒(志田未来)の真面目な担任(伊藤淳史)、そして、
 権威主義の悪役である副校長(風吹ジュン)の演技合戦が見事でした。

 佐藤二郎と大倉孝二が、職員室の陰湿なムードを思い切り感じ悪く醸成しています。

 オリジナル脚本のようですが、
 秀逸な本格ミステリーとしてTVドラマ史に残るのではないでしょうか。
posted by Dausuke SHIBA at 09:19| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ

2017年06月18日

TVドラマベスト10(第5位)

 2011年7月24日にアナログ放送が途絶えたときに、デジタル放送に切り替えず、
 TVを自宅では全く見なくなりました。

 しかし、それまでに出会った数々の素晴らしいTV番組は、
 私の人格形成に少なからぬ影響を与えており、ここに感謝の意味を込めて、
 2011年までの半世紀のTV鑑賞報告をさせていただきたいと思います。

 といことで、本体ブログの「Essay」に、
 「TVドラマベスト10」と「TV時代劇ベスト10」を連載したのですが、
 こちらのミニブログでの映画の短評記事が蓄積したので、
 誤記を修正し、ベスト10表を見易くし、リンクも飛び易くして、
 こちらに再度載せてみることにしました。

 既に「TV時代劇ベスト10」は報告しましたが、
 今回から「TVドラマベスト10」を報告します。

 と思い、第10位から順に報告しようとしたのですが、
 野際陽子さんが亡くなるという何とも寂しいニュースが入り、
 追悼の意味で、
 野際陽子さんの本当に初期の頃の準主役の当たり役となった
 第5位から始めたいと思います。
        §§§
 今でこそTVドラマには、当然に、
 トレンディな(時代の先端をいく)才色兼備の女優が主役・準主役を張りますが、
 野際陽子さんがその走りであったことは間違いありません。

 当時はドラマの女優といえば専ら映画畑から供給されていたのですが
 (それはそれで当時の女優の美しさは今風のタレントの比ではありませんでしたが)、
 TVアナウンサーであった野際陽子さんは現代を生きる女性としてのリアリティがあり、
 その凛とした美しさと現代的な知性は、齢を重ねてますます際だったと思います
 (私にとってはズーッとあこがれのお姉様でした)。

 野際陽子さんのすごいところは、年齢による衰えが最もでてしまうTVの世界で、
 半世紀にわたり、その年齢に応じてトレンディかつ美しくあり続けたことです
 (その代わり、TVドラマの映画化以外の映画や舞台での印象は希薄ですが、
  それは野際陽子さんにとっては勲章といってよいでしょう)。

 例えば、新垣結衣さんや米倉涼子さんらがTVの世界で80過ぎまで、
 存在感のある美人スターであり続けられるか、を考えると、
 野際陽子さんは、八千草薫さんと並び奇跡の存在であったといえます。

 また、野際陽子さんは、我が国の戦前・戦後の記憶がほとんどなくなった、
 世界でも稀有な平和な時代の開始をを象徴していたといってもよく、
 このタイミングで亡くなったことは、
 その平和な時代を大いに享受した我々の世代にとって、
 何かの終わりのようにも思います(こんなに早く終わりがくるとは)。
        §§§
 私は、当時会社での仕事が忙しく、冬彦さんの母親役はたぶん見ておらず、
 久々に野際陽子さんを意識したのはDVDで観た
 『トリック』での仲間由紀恵さんの母親役ですが、
 このあたりのことは、またの機会にお話ししようと思います。

 なお、当時の本体ブログでの連載は、かなり適当に書いており、
 あまりに昔のドラマについては記憶違いも相当にあり、
 その記憶違いもそれなりに面白いかと思いますので、修正しないままにしておきます。

 なお、当時の連載の中で、後日に記憶違いに気が付いて入れた《お詫びと訂正》を、
 本報告の最後に移動しておきました。

******

第5位 『ローンウルフ一匹狼』(1967〜1968)
     『非常のライセンス』(1973〜1980)


第5位.jpg

 前回までの第10位から第6位までは、1960年代3本、2005年以降が2本と、
 TV草創期から最近までの間40年程が抜け落ちていますが、
 第5位から第1位では、その間が少しだけ補充されます。

 『ローンウルフ一匹狼』は、
 天地茂演じる刑事が、美貌の妻「冴子」(野際陽子が本当に美しい)の失踪を機に、
 刑事を辞めざるをえなくなり、
 妻の行方を捜しつつ事件に巻き込まれて孤独な闘いを続ける
 『逃亡者』(1963)の流れもくむハードボイルド系の名作ドラマです。

 『非常のライセンス』は、
 警察機構内に視点を定め、天地茂演じる会田刑事が、
 掟破りの捜査によって巨悪と孤独な対決をする、
 今考えると『ダーティハリー』(1971)の流れをくむ
 「警察ハードボイルドアクション」の走りであり、
 『新宿鮫』(小説1990)の原型の1つといってよいと思います。

 山村聰の上司や渡辺文雄の東大卒キャリアとの葛藤など、
 渋い役者が濃い演技をしておりました
 (今思うと『必殺仕掛人』(1972-1973)テイストも濃厚か)。

 回想の場面の会田刑事の亡き妻の上村香子が美しかった。

 『ローンウルフ一匹狼』はTVオリジナルで、原案が都築道夫、深沢欣二であり、
 『非常のライセンス』は、
 原作が生島治郎で、脚本に橋本忍、赤川次郎も参加していたとなれば、
 傑作ができるのも当然かと思います。

 『非常のライセンス』は、てっきり1960年代のドラマかと思っていましたが、
 今回駄文を書くにあたり、
 1970年代前半から始まり1980年まで続いていたのを知り驚きました。

 野際陽子は、『ローンウルフ一匹狼』での印象が強烈だったのと、
 『非常のライセンス』ではテーマソング(名曲!)を歌っていたこともあり、
 『非常のライセンス』でも天地茂とコンビを組んでいたかと勘違いしており、
 私の中で、2つのドラマが完全に融合しておりました。

 天地茂は、
 当塾生のMs.M.K.の永遠の憧れの人である成田三樹夫の少し先輩にあたり、
 初期の映画やTVドラマでは、あの三白眼を活かした悪役専門であったのが、
 『座頭市物語』(1962)の平手造酒役の
 労咳病みの素浪人を悲哀たっぷりに演じて以降、本当にいい役者であり続けました。

 亡くなった母が天地茂が好きで、
 『ローンウルフ一匹狼』〜『非常のライセンス』を欠かさず観ており、
 Ms.M.K.もそうですが、大人の女性というのは、
 必ずしも二枚目でなくても心がときめくものなのだ、
 ということを教えてくれた人生教訓ドラマでもありました。

 また「美貌の妻」は、それだけで、
 こういう渋い男が探し求める強い動機付けになるということも新鮮でありました
 (野際陽子だから当然か)。

《お詫びと訂正》

 今回作成した表を、最初に作成してから書き出せばよかったのですが、
 記憶だけで書き流していたため、
 TVドラマベスト10(第5位)で、とんでもない勘違いをしておりました。

 『非常のライセンス』の主題歌は、天地茂が歌う「昭和ブルース」でした。

 天地茂の真っ暗な雰囲気が、当時、耳にこびりついていたことを思い出しました。

 野際陽子の歌う「非情のライセンス」は『キイハンター』の主題歌でした。

 『ローンウルフ一匹狼』の天地茂−野際陽子コンビの印象が強烈で、
 『非常のライセンス』の記憶がごちゃごちゃになっているようです。

 ここに謹んでお詫びしますと共に、訂正させていただきます。

 なお、『非常のライセンス』のオープニング曲を提供した渡辺岳夫は、
 栗塚旭初期三部作『新撰組血風録』『俺は用心棒』『燃えよ剣
 の主題歌の作曲の方で有名ですね。

posted by Dausuke SHIBA at 10:27| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ

2017年03月20日

TV時代劇ベスト10(第1位)

 いよいよ、今回は、第1位を報告します。

第1位 『素浪人 月影兵庫』(1965〜1968)

01.jpg

 
〔月影兵庫と花山大吉〕

 『素浪人 月影兵庫』は、
 戦後最高の剣豪スターである近衛十四郎の晩年を飾る代表作であり、
 二枚目時代劇俳優である品川隆二の名を後世に残すであろう、
 TV時代劇を超えてTVドラマ史上に「伝説」として輝く傑作です。

 ここであえて「伝説」というのには理由があります。

 『素浪人 月影兵庫』(1965〜1968年)が放映され、その最終回の次の週に、
 主演・スタッフ・ストーリーがほぼ瓜二つの
 『素浪人 花山大吉』(1969〜1970年)が放映され、
 ネット上で、ある年齢層の多くのファンが、この2つのドラマに熱く言及しています。

 しかし、実際は、カラーの『素浪人 花山大吉』をリアルタイムで見た方が多く、
 その前にもよく似たモノクロの『素浪人 月影兵庫』が放映されていたらしいが、
 残念ながら記憶がない、と『素浪人 月影兵庫』を伝説的に語る方が多いのです
 (本体ブログの投稿者であるMr. RollinとMs. Cendrillonもその世代)。

 君たち、ほんの少し遅く生まれた不幸を呪いたまえ。

 ここに大きな優越感をもって言わせていただきますが、
 ネット上で皆様が懐かしく褒めちぎっているように
 『素浪人 花山大吉』は稀代の傑作TV時代劇と思いますが、
 『素浪人 月影兵庫』をリアルタイムで見た私にとっては、
 『素浪人 月影兵庫』の方がもっと面白かった!

 衛星放送やケーブルTVで何度も放送され、
 そのたびに新たなファンが生まれるのも当然と思います。

〔近衛十四郎と品川隆二〕


 時代劇は、我が国における映画の発祥以来、
 日本映画の一大潮流として今に至っているのですが、
 映画産業が凋落する1960年代までは、
 歌舞伎界に何らかの由来をもつスターが幅をきかせており、
 歌舞伎界とは縁もゆかりもない近衛十四郎は、
 戦前戦後を通じて不遇をかこつ時代が長く続きました。

 一方で、近衛の殺陣捌きは、
 戦前からの時代劇の大スターを凌駕し他の追随を許さず、
 三船敏郎と並ぶ戦後最高の剣豪スターとして高く評価されていました。

 近衛は、その群を抜く殺陣捌きが評価されたにもかかわらず、
 格下の映画会社のモノクロ時代劇でしか主演ができず、
 ついに時代劇の象徴たる東映時代劇において主役を張ることができませんでした。

 しかし、近衛が演じた 『柳生武芸帳シリーズ』、 中でも、
 大友柳太郎と死闘を演じた『十兵衛暗殺剣』を代表とする多くのモノクロ時代劇は、
 アクション映画として極めて質が高く、今見ても全く古さを感じません。

 近衛自身、脇役に回った場合ですら、
 あの座頭市の勝新よりも強くみえた『座頭市血煙り街道』のように
 ドラマ全体を引き締めることができた稀有の存在でした。

 近衛十四郎については、永田哲明の名著『殺陣 チャンバラ映画史』(現代教養文庫)
 に詳しいので、私に騙されたと思って死ぬまでに是非一読することをお奨めします。

 そして、品川隆二も、映画界では近衛とほぼ同時期に、
 やはり格下映画会社の若手の二枚目時代劇スターとして、
 多くのモノクロ時代劇で近衛と共演していたのでした。

 ******

 TVドラマの黎明期には、近衛十四郎や品川隆二のような、
 二線級といわれた多くの時代劇俳優、監督、脚本家が、
 斜陽の映画界に見切りをつけ、新天地であるTV時代劇に活躍の場を移しました。

 近衛十四郎は50歳にしてTV版『柳生武芸帳』の主演を、
 品川隆二は30歳過ぎでTV版『忍びの者』の主演をして後、
 1965年、TV時代劇『素浪人 月影兵庫』において、
 近衛十四郎演じる「月影兵庫」と、品川隆二演じる「焼津の半次」として、
 私は運命的な出会いをするのでした。

〔ドラマの面白さ〕


 『素浪人 月影兵庫』を最初に見たときの印象は、
 なんと真面目で面白くないチャンバラ映画なのだ、というもので、
 当然に真剣に見てはいませんでした。

 子供向け(といっても大人の視聴にも耐えた)『隠密剣士』に熱中した後なので
 なおさらでした。

 第1シリーズは、平日の夜8時から放映されており、いつ終了したかも定かではなく、
 第2シリーズが、土曜日(まだ、休日ではなく半ドン日でしたが)の夜8時から
 放映されたのも気が付かなかったほどでした。

 それが、土曜日の夜10時30分から始まった
 『スパイ大作戦』第1シリーズを見るまでの時間潰しに、
 夜8時からの『素浪人月影兵庫』でも見てみるかと思ってたまたま見たら、
 何と、あのくそ真面目な本格時代劇が、
 底が抜けたようなおバカ珍道中ものに様変わりしていたのでした。

 ******

 私が見たのは、おそらく第2シリーズが始まって数か月たってからですが、
 何の目的で旅をしているかもわからない素浪人で、
 酒を呑むことだけが楽しみの月影の旦那と、何故かその月影の旦那が好きで、
 博打で稼いだ金を月影の旦那の酒代に貢ぎ続ける焼津の半次との珍道中設定
 が既に固まっておりました。

 二人は、立ち寄った宿場で必ず事件に巻き込まれ、その事件も、
 いたいけな町娘か、わけありの年増美女が、
 その土地のやくざか代官に絡まれるというワンパターン。

 ヒョンなことから事件に関わった二人が、やくざを全て成敗した後、
 月影の旦那がやくざの用心棒(天津敏とか戸上城太郎とか、ど迫力満点)
 を一騎打ちの末に倒して一件落着、
 また次の旅にでるというマンネリも極まれるストーリーでした。

 この時間帯の遥か後の後継番組が、
 大マンネリ時代劇『暴れん坊将軍』であることを思えば、
 この時にマンネリ時代劇の伝統はしっかり築かれていたことになります。

 なお、『素浪人 月影兵庫』『素浪人 花山大吉』を通じて、
 各話のサブタイトルが『〇〇が△△していた』のスタイルで統一されていたのも
 毎度のお楽しみで、おバカぶりが徹底されていたともいえます。

 このサブタイトルは、『素浪人 花山大吉』になってからますます冴えわたり、
 私が一番好きでサブタイトルだけでお腹がよじれたのは「渦まで左に巻いていた」
 でありました。

 ******

 『素浪人 月影兵庫』が、おバカ珍道中ものだけで100話以上制作され、
 最終回にいたるまでワンパターンを貫いたにも関わらず面白かったのは、
 いろいろと理由があります。

 最大の要素は、月影の旦那と焼津の半次の、
 おそらく映画・テレビのコメディ・バラエティ史上空前絶後の底抜け罵り合いの場面
 にあります。

 月影の旦那の酒の呑み方は決して上品ではなく、
 呑めば呑むほど意地汚く下品になり、
 それも半次の懐を鼻からあてにしてのことなので、
 半次も絶えず堪忍袋の緒を切らして、月影の旦那を罵ります。

 半次も、女に見境がなく、事件のからくりなどはサッパリなので、
 月影の旦那に『この馬鹿たれが!』と常に罵られており、
 あれだけ罵られれば切れるのが当然で、「この旦那野郎が、言わせておけば!」と
 月影の旦那が毛嫌いする猫をなすりつけて逆襲するのですが、
 多くの場合、半次の毛嫌いする蜘蛛が目の前に現れて気絶しそうになり、
 蜘蛛を手づかみする月影の旦那からさらに「ちっ、しょうがねえ奴だなあ」と、
 軽蔑丸出しに諌められる、というやりとりを延々と繰り返します。

 酷いときには、この罵り合いが、
 ドラマが始まってから30分以上続いたりするのですが、
 月影の旦那は正義漢溢れる剣の使い手で、
 最後は一瞬にして正気に戻って敵を一刀両断、
 半次も曲がったことが大嫌いで反りのない真っ直ぐ刀を抜いて、
 結構やくざよりも強かったりします。

 このような空前絶後の底抜けおバカシチュエーションと、
 迫力満点の正統チャンバラシーンの落差の大きさが、
 何ともいえないカタルシスになっていたのだと思います。

 このようなカタルシスに結びつく大きな落差は、
 時代劇俳優として高度な技術に裏打ちされた演技力と、
 それを全て破壊するほどの飛び切ったコメディセンスに裏打ちされた
 演技力が兼ね備わっていることが必要不可欠ですが、
 二人が共にそれを持っていたというのは奇跡的なことです。

 ******

 『素浪人 月影兵庫』では、映画時代の正当な剣豪スターと、
 正当な二枚目時代劇スターの雰囲気が色濃く残っており、
 その二人がいったい、どうしたらこうなるの!?という落差の大きい面白さがあります。

 当初から底抜けおバカシチュエーションが組み込まれていた
 『素浪人 花山大吉』では、
 その落差が希薄になってしまっていた、ということになります。

 『素浪人 月影兵庫』では、確か、
 月影兵庫は焼津の半次を「半次!」と気安く呼び、
 半次は月影兵庫を「月影の旦那」又は切れたときでも「この旦那野郎が!」
 と若干の敬意をもって呼んでおり、二人の愛ある親密ぶりが伝わったのですが、

 『素浪人 花山大吉』では、一応、月影兵庫とは別人物という設定であったため、
 花山大吉が焼津の半次を「焼津の!」とやや敬意をもって呼び、
 半次の方が花山大吉を「このおから野郎!」と言い捨てる場合が多く、
 若干の距離を置いた間柄であったことも、
 ちょっとだけ水臭いようで一抹の寂しさを感じたものです。

 なお、一応説明しておきますが、
 月影兵庫が酒に意地汚かったのに対して、
 花山大吉は「おから」無しでは酒が飲めないほど「おから」好きで、
 その食べ方がこれ以上なく下品なので、
 あきれた焼津の半次が「このおから野郎!」と罵るのが常であったのでした。

 『素浪人 月影兵庫』の最終回は、
 月影兵庫が実は家老の息子で、国に帰らなければならないことが
 何故か番組が終わる直前に知らされ、突然に訪れた月影の旦那との永久の別れに、
 半次が悲しみのあまり河原で号泣するという切ない場面で終わっています。

 私も思わずもらい泣きしてしまいました
 (次週から『素浪人 花山大吉』が始まることは勿論承知していたのですが)。

〔時代背景〕

 『素浪人 月影兵庫』の始まった1960年代後半、
 我が国は、映画産業は斜陽でしたが、TV業界が、
 TV時代劇の黎明期から全盛時代への移行期にあたったばかりでなく、
 『鉄腕アトム』に始まる質の高いSFアニメが次々と制作され、
 ビートルズに始まる欧米ポップスと、
 いしだあゆみ、森進一、ブルーコメッツ等に始まる歌謡曲・グループサウンズとが
 黄金時代に移行する時期でもありました。

 ベトナム戦争、公害、大学紛争・・・と問題は多かったのですが、
 我が国は、それでも、高度経済成長の波に乗り、東京オリンピック〜大阪万博と続く、
 明日は今日よりも良くなるはずであることを素直に信じられる、
 世界史をみても稀有な時代を迎えていたと思います。

 1967年のある土曜日の我が家の夜のテレビの時間割は以下の通りでした:

  7:00  『悟空の大冒険』(4年続いた『鉄腕アトム』の後継アニメ)
  7:30  『グーチョキパー』(和製ホームコメディ)
  8:00  『素浪人 月影兵庫』(第2シリーズ)
  9:00  『かわいい魔女ジニー』(米国製ホームコメディ)
  9:30  『土曜劇場』(良質なホームドラマ、後に『キイ・ハンター』に乗り換え))
 10:30  『スパイ大作戦』(第1シリーズ)

 当時、日本はまだまだ高度経済成長時代の真只中にあり、
 私の父もエコノミックアニマルといわれた世代でしたが、
 夜8時には茶の間にいて、家族とTVを囲んでチャンネル争いをしていたものです。

 北島三郎が、『函館の女』もまだ耳に新しい、あの高らかな澄んだ声で、
 
 ♪ は〜な追い風が吹いていた、し〜ろい雲が呼んでいた、
 ♪ うわさ訪ねて来た町は、真っ赤な渦が巻いていた、
 ♪ ま〜え触れなしにく〜る男、ろ〜にん一人、旅をゆ〜く

 と歌い上げる主題歌『浪人独り旅』を背景に、
 オープニングの月影兵庫の殺陣が始まると、気持ちが引き締まったものですが、
 その後に続く下品極まるおバカやりとりに、家族揃って笑い転げ、

 我が家は、世にもおめでたい時間を過ごしたのでした。

 その後に『スパイ大作戦』、明日は『ウルトラマン』が控えており、
 お楽しみはこれからであったTVドラマ黄金時代の開幕です。

 ******

 今、ネットで『素浪人 月影兵庫』と『素浪人 花山大吉』を語る方々が、
 その楽しさを懐かしむことはあっても、
 「いくらなんでもあれは下らなすぎてどうしようもない番組だった」
 などとネガティブに評価するのを読んだことがありません。

 おそらく、当時、日本中の多くの家庭で、
 あのおめでたくも幸せな時間を共有していたのだと思います。

 また、月影兵庫の酒の呑み方や、花山大吉のおからの食べ方がいくら下品で、
 二人の罵り合いが、今では放送できないであろう言葉でなされていても、
 愛すべき俗物ぶりを楽しめることはあっても、あのおバカシチュエーションに、
 生理的嫌悪感を催したり、毒々しい差別感情を感じたりするようなことは
 なかったと思います。

 二人の主演俳優の叩き上げらしい誠実さと、
 本来は『新撰組血風録』『俺は用心棒』等のシリアスなドラマで知られる
 結束信二の脚本が、ドラマの品格を担保していたといえるでしょう。

〔素浪人シリーズは再現できるか〕

 『素浪人 月影兵庫』『素浪人 花山大吉』は、戦後の日本の社会状況の中で、
 様々な日本人の才能が奇跡のような出会いをして初めて生み出しえた、
 あまりにもTV的なドラマであり、TV時代劇ベスト10の2位以下のドラマが、
 オーソドックスな文学・映画の文脈の中でいかに優れていても、
 到達することができない時代の産物であったように思います。

 ましてや、現代の俳優とスタッフで制作することは絶望的なように思います。

 一方、従来は、
 品川隆二以外に「焼津の半次」を演じることができる俳優はありえない、
 といわれたものですが、
 私は、今であれば、片岡愛之助に可能性があるように思います。

 その代わりに、あれだけ多かった時代劇俳優がいなくなってしまい、
 今度は「月影兵庫」を演じることができる俳優が思いつきません。

 貫禄ある中年のおっさんで、酒を呑むと果てしなくだらしなくなるが、
 いざとなると剣の達人って、誰をイメージすればいいのでしょうか?

 北大路欣也がもう少し若かったら・・・。

 歌舞伎の坂東三津五郎さんであれば、と思いましたが、亡くなってしまったし・・・。

 今の中堅の時代劇・アクション俳優はかっこよすぎて、
 中年のおっさん要件をなかなか満たせないように思います。

 例えば、真田広之や渡辺謙あたりが、
 年齢と殺陣の実力の観点ではピッタリなのですが、
 いかんせん、かっこよすぎます。

 強いて挙げれば、2017年現在で、
 NHK金曜時代劇『はんなり菊太郎』で好演した内藤剛志はどうでしょうか。

 内藤剛志は風格があり(183cm)、殺陣はまずまず、豪放磊落で、
 年齢(61)も片岡愛之助(44)と合うように思います。

 片岡愛之助版「焼津の半次」は、若干おねえがかるので、
 内藤剛志版「月影兵庫」に惚れていながら、
 いい男がいるとそちらにすぐ浮気するような設定かな?
 と暇に任せていろいろと妄想しています。

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 実は、最近、DVDで若村麻由美主演『夜桜お染』(2003)を見る機会があり、
 若村麻由美の美しさにボーっとなって見ていたのですが、
 ここで、何と、内藤剛志と片岡愛之助が共演しているのです。

 やはりイメージ通りというか、まだ真面目時代劇であった頃の、
 月影兵庫と焼津の半次を彷彿とする組合せであることが嬉しかったです。

 『夜桜お染』は、愛すべき埋もれた時代劇の傑作で、
 また稿を改めて報告したいと思います。

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 何はともあれ、焼き直しではありましたが、
 無事『TV時代劇ベスト10』が完結しましたので、最後に、
 ベスト10一覧表を付して、幕締めとします。

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posted by Dausuke SHIBA at 21:40| Comment(0) | TrackBack(0) | TVドラマ