2019年11月17日

N国党系YouTuberの著作権問答を考えてみた(その3)

■問答T:
 文化庁の問合せ窓口の職員との著作権問答■
 
 Youtubeで、話題のYouTuberが、
 結構真面目に著作権の話をしている配信番組がとても面白かったので、
 著作権制度の観点から、2本のブログ記事を挙げさせていただきました。

 『N国党系YouTuberの著作権問答を考えてみた(その1)』
 http://patent-japan-article.sblo.jp/article/186733696.html
 『N国党系YouTuberの著作権問答を考えてみた(その2)』
 http://patent-japan-article.sblo.jp/article/186763143.html
 対象としたのは以下の配信番組です:
 ●ユーザー名:平塚正幸さゆふらっとまうんど;
 ●配信番組名:
  『文化庁に「時事の報道」に著作権を主張できるのか聞いてみた』;
 ●URLhttps://www.youtube.com/watch?v=j1EDABP8Ix0

《YouTuber氏が直面したトラブル》
 YouTuber氏は、
 ご自身の過去のtwitter記事(以下「テロップ画像利用記事」)で、
 某TV会社の報道番組の文字テロップが映し出されている一場面
 (以下「テロップ画像」)をスクリーンショット(画像のまま複製)
 して、テロップ画像利用記事で、テロップ画像を表示して説明したところ、
 TV会社がTwitter社に、
 テロップ画像利用記事中のテロップ画像を表示して説明した部分は、
 著作権侵害であると訴え、
 YouTuber氏はテロップ画像利用記事を削除せざるをえなくなった。

 なお、テロップ画像利用記事が、
 Twitter社によって強制的に削除されたのか、
 YouTuber氏によって自発的に削除されたのかはわからないのですが、
 YouTuber氏としては不本意な削除であったようです。
 ============
 YouTuber氏と文化庁職員とは真面目に著作権問答をしていますが、
 文化庁職員は正確に回答しているものの、
 YouTuber氏は、著作権制度の不勉強もあり、理解の混乱が生じていて、
 なかなか話が噛み合いません。

《結論》
 私の方からは、この著作権問答について、
 著作権制度に基づいて考えると、以下のようになると説明しました。

 YouTuber氏は、著作権法32条(引用)に基づいて、
 スクリーンショットしたテロップ画像を、
 テロップ画像利用記事で表示した際に、
 「TV会社の報道番組からスクリーンショットした
  テロップ画像を引用して説明します」
 の一言を添えておくべきでした。

 引用して創作したYouTuber氏のテロップ画像利用記事(論評)
 に対して、著作権侵害を訴えられても、
 「引用でないこと」の立証責任は訴えた側にあるので、
 YouTuber氏、まずは、
 引用であることを理由に問題ないと突っぱねて、
 著作権侵害を申立てた側にボールを投げ返して、
 相手側に「引用でないこと」を立証させることが
 基本でしょう。

《YouTuber氏の理解の混乱を示す主張》
 報道番組中の時事問題を内容とするテロップ画像
 を利用した他人に対して 
 著作権者たるTV会社が、著作権を行使することを認めて、
 TV会社の許諾がなければ、
 誰も時事問題を内容とするテロップ画像が利用できないとなると、
 社会活動家を自称するYouTuber氏が行うような論評活動が
 実質的にできなくなり、一般需要者の公益を棄損する
 (従って、TV会社に著作権の行使を認めるべきではない)。
 ============
 YouTuber氏の上記主張に対して、私は以下の説明をしました。

 時事問題を内容とするテロップ画像は、
 他人の論評活動で自由利用できるようにすべきだ、
 とういうYouTuber氏の主張の趣旨はその通りですが、
 著作権法は、この趣旨を、YouTuber氏のように、
 TV会社に著作権の行使を認めないという規制でなく、
 TV会社に著作権の行使を認めた上で、
 論評活動者がテロップ画像の引用利用する限り、
 TV会社の著作権は当該引用利用には及ばない、
 という仕組みで保証しているということです。

 ここを理解していないと、
 YouTuber氏が引用の範囲を超えた利用をした場合、
 その途端、TV会社の著作権は当該利用に及び、
 YouTuber氏は、
 TV会社の著作権侵害が問われることになります。

■問答U:
 N国党第1公設秘書との著作権問答■

 前回のブログで、
 YouTuber氏と文化庁担当者との間の問答を一段落させて、
 今回のブログで、
 YouTuber氏とNHK職員との間の放送法問答について
 考えてみようと思っていました。

 しかし、YouTuber氏が、最近、新たな著作権トラブルに直面し、
 今度は、Youtube社からアカウントを抹消され、
 配信番組全体が削除されるかもしれないとの
 危機的状況にあるということで、そうなると、
 問答T・放送法問答の配信番組も消滅してしまいますので、
 その前に、
 この新たな著作権トラブルについて考えてみることにしました。

 対象としたのは以下の配信番組です:
 ●ユーザー名:平塚正幸さゆふらっとまうんど;
 ●配信番組名:
 『政策秘書・田中けんによって動画が削除されました。』;
 ●URL:https://www.youtube.com/watch?v=ZxOnhupBJbA
 
 《YouTuber氏が直面した新たなトラブル》
 YouTuber氏は以下のトラブルに直面しました。

 N国党国会議員政策担当秘書(以下「政策秘書」)氏が、Youtubeで、
 YouTuber氏にとって敵対的な内容の配信番組Xを公開したところ、
 (おそらくは)YouTuber氏との種々関係を考慮して、
 自ら配信番組Xを削除した。

 その後、YouTuber氏は、既にダウンロードしていた配信番組Xを、
 政策秘書氏に無許諾で、
 自身のYoutubeアカウントでアップロードして公開したため、
 政策秘書氏は、Youtube社に
 YouTuber氏がアップロードした配信番組Xの公開は、
 著作権侵害になるため、
 YouTuber氏がアップロードした配信番組Xを削除することを
 訴えた。

 Youtub社は、政策秘書氏の訴えを認め、
 YouTuber氏が公開した配信番組TはYoutub社によって削除された。

 *私は、配信番組Xを削除される前にたまたま見ていましたが、
  配信番組Xは、配信番組Yの中で、
  YouTuber氏の論評なしに丸ごと公開された印象を持ちました。

  以下では、
  @配信番組Xは政策秘書氏を著作者とする著作物であり、
  A配信番組Xは、配信番組Yの中で、
    YouTuber氏の論評なしに丸ごと公開されていた
  ことを前提に説明します。

《YouTuber氏の理解の混乱を示す主張》
 YouTuber氏は、
 N国党という公的政党の政策秘書氏の配信番組Xは、
 公益性を有するので、誰もが自由利用できるものであるから
 (米国著作権法に言うフェアユースを念頭に入れているのかもしれません)
 政策秘書氏の著作権行使を認めるべきでないと主張しています。

《著作権の保護対象の観点からの考察》
 著作権法は、著作物を創作した著作者に著作権を発生させて、
 他人の一定の利用を制限することで(著作権法18〜28条)、
 著作権者及び著作物を保護します。

 ここで、政策秘書氏の配信番組Xをアップロードして利用した
 YouTuber氏のアカウント上の配信番組Yは、
 そもそもYouTuber氏の著作物として保護される対象であるのか、
 という問題があります。

 配信番組Yは、他人(政策秘書氏)の配信番組Xを、
 丸ごとそのまま公開しているだけで、
 YouTuber氏の創作要素は実質的に0です。

 そうであれば、原則、著作権法によって
 配信番組Xは、政策秘書氏の著作物として保護され、
 配信番組Yは、YuoTuber氏の著作物ではなく、
 実質的には、政策秘書氏の著作物である配信番組Xとして、
 保護されることになります。

 従って、配信番組Xの著作権者である政策秘書氏は、
 Yuotuber氏による配信番組Yに対して
 差止請求できることになります(著作権法112条1項)。

《引用の範囲を超えた利用の観点からの考察》
 著作権法32条1項(引用)によれば、
 「公表された著作物は、引用して利用することができる。
  この場合において、
  その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、
  報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で
  行なわれるものでなければならない。


 ここで、引用は、
 「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で
  行なわれ
」なければなりませんが、
 上記したように、YouTuber氏の配信番組Yは、
 YouTuber氏自身による報道、批評、研究等の創作の要素が0であり、
 単に他人の著作物である配信番組Xを、YouTuber氏が、無許諾で、
 ダウンロード→アップロードして公開しただけなので、
 YouTuver氏の創作中にあるべき「引用の目的」がなく、
 「引用の目的上正当な範囲」がそもそも0であり、
 引用の目的上正当な範囲の外であるということになります。
 
 そうであれば、配信番組Xを、
 著作権者に無許諾でダウンロード→アップロードする行為は
 複製権(著作権法21条)及び公衆送信権(著作権法23条)の侵害
 ということになるでしょう。

《フェアユースの主張について》
 米国の著作権法のフェアユースの考え方は、
 我が国の著作権法には明示規定がなく、
 我が国の裁判所はYouTuber氏のフェアユースの主張を、
 そうそうたやすくは認めてくれません。

 また、米国の著作権法でも引用に近い概念が入っており、
 今回のような配信番組Xを丸ごと利用しただけの配信番組Y
 に対して、公益性だけを理由に、米国の著作権法であっても、
 フェアユースが認められるかは微妙です。
 
《知的財産権侵害の恐ろしさ》
 特許権・商標権・著作権等の知的財産権の侵害は、
 民事的には、差止請求や莫大な損害賠請求をされ
 (例えば、著作権法112条1項、民法709条)、
 刑事的には、懲役・罰金の対象となりますので
 (例えば、著作権法119条1項)、
 対応を1歩間違えれば、企業であっても倒産のリスクがあり、
 個人事業者であれば、
 破産や信用棄損による事業継続ができない状況に陥るリスクがあります。

 上記のYouTuber氏は今のところ、Youtube社とのやり取りの中で、
 配信番組Yが削除され、最悪でも、
 アカウントの抹消くらいで済むという言い方もできます。

 しかし、著作権者はYoutube社とは関係なく、
 著作権法等に基づき、
 YouTuber氏に直接に配信番組の差止請求(削除要求)ができ、
 YouTuber氏を司直に告発することも可能ですから、
 YouTuber氏は、
 上記の民事的・刑事的責任を追及されるリスクがあります。

 幸いなことに、政策秘書氏は、今のところ、
 Youtube社を通しての
 動画削除・アカウント抹消狙い以上の行動はしていませんし、
 仮に、YouTuber氏が刑事責任を追及されても、
 司直に悪質ではないと判断されれば、
 何事もないということもあり得るでしょう。

 しかし、YouTuber氏が、著作権法を無理解のまま、
 政策秘書氏に対して配信番組Xの丸ごと利用のような行動を繰り返せば、
 著作権法112条2項に基づき、YouTuber氏のYoutube活動は、
 政策秘書氏に対する著作権侵害のおそれがあるとして、
 YouTuber氏のYoutube活動全体の差止請求に至るリスクがあり得、
 行動が悪質と判断されて、
 刑事責任を司直に追及されるリスクもあり得るでしょう。

 そして、何と言っても、政策秘書氏は公的政党の公人ですから、
 政策秘書氏がYouTuber氏の刑事責任を追及しようとすれば、
 司直も全く無視することはできないでしょう。

 YouTuber氏の配信番組は、どうみても論評ですから、
 他人の動画等を「引用」して論評すれば、
 YouTuber氏の目的は十分に達成できると思われます。

 YouTuber氏は、著作権制度を勉強し、
 大きなリスクと背中合わせの無駄な活動は極力回避し、
 本来志している政治の道を歩まれることを願わずにいられません。
posted by Dausuke SHIBA at 20:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 著作権

2019年11月03日

N国党系YouTuberの著作権問答を考えてみた(その2)

 著作権関係の記事を検索していたら、たまたま、
 話題のN国党系YouTuber氏が、文化庁の問合せ窓口の職員と、
 結構真面目に、著作権の話をしている、
 以下の配信番組がヒットして、とても面白く見ることができました。

 ●ユーザー名:平塚正幸さゆふらっとまうんど;
 ●配信番組名:
 『文化庁に「時事の報道」に著作権を主張できるのか聞いてみた』;
 ●URL:https://www.youtube.com/watch?v=j1EDABP8Ix0

■YouTuber氏の直面したトラブルの概要■
 この配信番組だけでは、
 YouTuber氏の直面したトラブルの内容の詳細はわかりませんが、
 以下が概要と思われます。

 YouTuber氏は、
 ご自身の過去のtwitter記事(以下「テロップ画像利用記事」)で、
 某TV会社の報道番組の文字テロップが映し出されている一場面
 (以下「テロップ画像」)をスクリーンショット(画像のまま複製)
 して、テロップ画像利用記事で、テロップ画像を表示して説明したところ、
 当該TV会社がTwitter社に、
 テロップ画像利用記事中のテロップ画像を表示して説明した部分は、
 著作権侵害であると訴え、
 YouTuber氏はテロップ画像利用記事を削除せざるをえなくなった。

 なお、テロップ画像利用記事が、
 Twitter社管理運営部門側によって強制的に削除されたのか、
 YouTuber氏によって自発的に削除されたのかはわからないのですが、
 YouTuber氏としては不本意な削除であったようです。

 ******

 YouTuber氏の文化庁職員への無手勝流の突撃問答ですが、
 YouTuber氏が真面目に正面から著作権制度を理解しようとしている
 ことがよく伝わる一方、
 ここまで怖いもの知らずに勉強しないで著作権法に挑めば、
 YouTuber氏のような理解の混乱が生じるのも無理はないと思います。

 この著作権問答について、
 著作権制度に基づきどう考えたらよいかを説明します。

 前回は、まず結論として、
 YouTuber氏は、著作権法32条(引用)に基づいて、
 スクリーンショットしたテロップ画像を、
 テロップ画像利用記事で表示した際に、
 「TV会社の報道番組からスクリーンショットした
  テロップ画像を引用して説明します

 の一言を添えて説明をすればよかった、ということを説明しました。
http://patent-japan-article.sblo.jp/article/186733696.html

 このことは、特段、著作権法を正面から勉強しなくても、
 多少なりとも報道、批評、研究に関する
 新聞・TV・論文・書籍を読んだり聞いたりして、
 これらの中でなされる引用の態様を経験的に理解するだけでも、
 YouTuber氏自身の他人の著作物の利用が、
 引用といえる常識的な利用態様なのか、
 引用といえない非常識な利用態様なのかは判断できる筈です。

 実際、まったく同じ問題に直面した他のYouTberであるI氏の、
 配信番組中での、某新聞社サイトのサイトキャプチャーの利用
 に対してなされた著作権侵害の申し立てについて、
 I氏が、配信番組は著作物を引用しているだけなので、
 問題ないと突っぱねて解決したようです。
 https://note.mu/ihayato/n/n8e3a24412da4

 I氏の主張が法的に万全か否かはここでは議論しませんが、
 I氏のように、まずは、
 引用であることを理由に問題ないと突っぱねて、
 著作権侵害を申立てた側にボールを投げ返して、
 相手側に「引用でないこと」を立証させることが
 基本であろうと思います。

 ******

 今回は、本題のYouTuber氏の理解の混乱について、
 著作権制度の趣旨に遡って説明してみます。

■著作権法32条(引用)■
 YouTuber氏は、以下のように主張します:
報道番組中の時事問題を内容とするテロップ画像
 を利用した他人に対して 
 著作権者たるTV会社が、著作権を行使することを認めて、
 TV会社の許諾がなければ、
 誰も時事問題を内容とするテロップ画像が利用できないとなると、
 社会活動家を自称するYouTuber氏が行うような論評活動が
 実質的にできなくなり、一般需要者の公益を棄損する。


 YouTuber氏の主張は全くその通りですが、
 YouTuber氏には、これまで、多くの人々が、
 時事問題を内容とする著作物を利用して論評活動をしているのに、
 問題になることが滅多にないことにも考え及んで欲しいところです。

 著作権法32条(引用)は、YouTuber氏の主張のような、
 論評活動において、他人の著作物
 (本件では時事問題を内容とするテロップ画像)を利用することを
 著作物の著作権者の著作権行使によって、
 妨げられることがないようにした規定である
 と理解した方が考え易いと思います。

 引用という利用行為が保護される理由は、
 YouTuber氏の主張する通り、著作権制度よりも古くから、
 公益・公正・表現の自由等の観点から、
 他人の著作物の利用についてのルールが確立されていた論評活動が、
 ルールに則っていれば著作権によって不当に制限を受けるべきでない
 という理念を担保するためです。

 ******

 人が生まれることで人権が発生するという基本原則と同様に、
 著作権制度は、
 著作物が創作されたと同時に、著作物の著作者に著作権が発生する
 (著作権法17条1及び2項)という、極めて原理・原則的な制度です。

 従って、TVの報道番組の背景に、
 番組のセット・タイトル・ロゴ・アナウンサーなどの
 TV局が構成したレイアウトが映り込んだテロップ画像は、
 著作物であり、そこに著作権が発生し、
 著作権者たるTV会社は著作権の正当な行使権原を有することは、
 現状の著作権法では認めざるを得ません。

 上記のレイアウトには、
 TV視聴者にインパクトのあるセットとアナウンサーの組合せ、
 アナウンサーとセットに合わせたタイトル・ロゴの大きさ・配置、
 アナウンサーとしてどのような顔の人を選ぶか、
 そのアナウンサーにどのような服を着せるのか、
 そのアナウンサーにどのような表情させるのか、
 全体の色彩配置等の、
 他の番組に対して特徴をだすための創作が伴うので、
 その画像は著作物といえますから、
 そこにテロップが被っても画像全体にTV会社の著作権は発生します。

 しかし、著作権法上は、そのテロップ画像の引用に対しては、
 TV会社の著作権は及ばないようになっているのです。

 仮に、TV会社が「報道番組の無断利用を禁じる」と
 どこかに注意書きを置いていても、引用する場合は、
 無断で利用して構いませんし、前回もお話ししたように、
 下手に引用させて欲しい、などと言わない方が良いということです。

 なお、繰り返しての注意になりますが、
 他人の著作物を引用していると言ってしまうと、
 後で、裁判等で、それが引用でないとされてしまった場合は、
 著作権侵害を自認したようなものですから、
 著作権者は情け容赦なく著作権を行使して、
 テロップ画像の利用に対して差止や損害賠償を請求しえます。

 従って、これも前回お話ししたように、
 ご自身の引用の行為が、正当な引用なのか否かについては、
 しっかり意識しておいた方が間違いがないということになります。

******

 YouTuber氏は、本来は、
 時事の問題を内容とする著作物はどのような場合にも
 著作権を行使することができないようにすべきではないか、
 と主張されているように聞こえるのですが、
 現状の著作権制度は、引用でない利用に対しては、
 原則、そのようになっていないということです。

 YouTuber氏は、政治家を志しているように見受けられますので、
 ご自身の主張は政治の場で議論し、
 著作権法を改正することで実現することが本道かと思います。

 ******

 著作権制度は、
 大体は常識的な範囲で考えれば対応できるのですが、
 あまりに原理・原則的なので、科学・技術の最前線では、
 ●猿が描いた図形に著作権が発生するのか?
 ●AIが書いた小説に著作権が発生するか?
 のような常識の範囲を超えた状況も考えなければなりません
 (それはそれで面白いのですが)。

 しかし、Youtubeがアップする配信番組のレベルでは、
 概ね常識的な範囲で考えれば対応できると思いますので、
 著作物の塊を駆使して活動するYouTuberの皆様には、
 Youtube上で視聴している方が恥ずかしくなるような次元の話で、
 無駄にエネルギーを浪費されないよう、
 著作権制度についての最低限の事項を
 (我々のような専門家に相談することも含めて)
 勉強しておいていただく方がよいと思います。

■著作権法41条
 (時事の事件報道のための利用)■

 YouTuber氏は、著作権法41条の規定:
 「時事の事件を報道する場合には、
  当該事件を構成し、又は
  当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物は、
  報道の目的上正当な範囲内において、
  複製し、当該報道に伴って利用することができる。

 に基づいて、テロップ画像の利用は、
 著作権を行使されることなく利用できる、と主張しています。

 著作権法41条をサラッと読むと、
 YouTuber氏のように感じるのは無理はないかとも思います。

 しかし、YouTuber氏の理解は的が外れていることを、
 以下に説明します。

 ******

 YouTuber氏は、「時事の事件を報道する場合」の「報道」に、
 自身のTwitterの記事が該当すると考えています。

 ここでは、これは正しいということにしましょう。

 しかし、YouTuber氏のTwitterによる報道対象は「時事の事件」
 だったのかということが問題と思います。

 例えば、報道番組を放映中に、
 アナウンサーがニュースを読み上げていたら、
 隣のアシスタントに痴情のもつれで殺害されてしまい、
 その一部始終がすべて放映されたとしましょう。


 YouTuber氏が、この殺人事件たる「時事の事件」を、
 Twitterで報道するために、
 アシスタントがアナウンサーにナイフを突き刺した時の
 テロップ画像をTwitterで挙げたとします。。

 これは引用ではなく報道そのものですから、
 著作権法41条が適用されるでしょう。

 この場合、テロップ画像に映っている、
 アナウンサーとアシスタントは事件を構成し、併せて、
 スタジオ内のセット、タイトル、ロゴ等が映っている画像は、
 TV会社の著作物といえます。

 即ち、YouTuber氏は、「時事の事件」を、
 テロップ画像を使用してTwitterで報道する場合に、
 当該事件を構成し、又は、当該事件の過程において見られた
 著作物である「画像」を利用したことになりますが、
 テロップ画像を挙げてTwitterで報道することは、
 この「時事の事件」の報道目的上正当な範囲である、
 といえるでしょうから、YouTuber氏は、著作権法41条に基づき、
 テロップ画像を利用できると言いえると思います。

 ******

 しかし、YouTuber氏は、実際には、
 報道番組そのものを「時事の事件」としたわけではなく、
 YouTuber氏が説明したかった別の時事の事件を報道した報道番組
 の内容の一部であるテロップ画像を、
 YouTuber氏の説明の補強をするために、
 証拠としてスクリーンショットして引用して利用したということです。

 即ち、YouTuber氏は、YouTuber氏が説明したかった別の時事の事件を
 人の褌(テロップ画像)を借用(引用)して説明したとことになり、
 このような利用は引用であっても、
 著作権法41条の利用には該当しないということになります。

 念のため、申し添えますが、引用であれば、
 人の褌を借用(引用)して合法的に相撲を取れます。

 ******

 このように、著作権法41条は、
 時事の事件をTVカメラで映し出した中に、
 例えばインタビューした人の背景に、
 現代美術がはめ込まれた額縁がどうしても映り込んでしまう
 ようなやむを得ない(報道目的上正当な)場合は、
 その現代美術の著作権はその映り込みの行為(複製)には及ばない
 ということをイメージした規定であると理解すればよいと思います。

■著作権法10条2項(著作物の例示)■
 YouTuber氏は、著作権法10条2項:
 「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、
  前項第一号に掲げる著作物に該当しない。

 を根拠に、TV会社の報道番組等の、
 時事の報道には著作権が発生しない、と主張しています。

 しかし、YouTuber氏は、
 著作権法10条2項の「事実の伝達にすぎない」を読み落としています。

 「事実の伝達にすぎない時事の報道」とは、
 例えば、新幹線の車内入り口の上部にテロップ表示される、
 「●●新聞ニュース」が典型です。

 このテロップ表示は、どの新聞のニュースも、
 5W1Hだけを30字程度で定型的にまとめた文章で、
 「●●新聞ニュース」が付されてないと、
 どの新聞社のテロップ表示なのかがわかりません。

 即ち、新幹線内で見ることができるテロップ表示のニュースは、
 創作性が全くない文章ですから、
 そもそも著作物とはいえず著作権の対象にならないということになります。

 それに対して、前述したように、YouTuber氏が利用したテロップ画像は、
 映っていた説明テロップの文章が著作物といえなくとも、
 その説明テロップと共に映り込んでいる創作性のある要素と共に
 テロップ画像を構成するので、全体としては著作物に該当する
 (「事実の伝達にすぎない時事の報道」ではない)というわけです。

******

 次回は、おまけですが、このYouTuber氏が、
 NHKの女性職員と放送法問答をしていて、
 NHKの女性職員のからめ手の変則回答によって、
 若干たじたじになっていた配信動画がありましたので、
 これについて考えてみようと思います。
posted by Dausuke SHIBA at 16:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 著作権

2019年10月27日

N国党系YouTuberによる著作権問答を考えてみた(その1)

 著作権関係の記事を検索していたら、たまたま、
 話題のN国党系YouTuber氏が、文化庁の問合せ窓口の職員と、
 結構真面目に、著作権の話をしている配信番組がヒットして、
 とても面白く見ることができました。

 YouTuber氏の文化庁職員への無手勝流の突撃問答ですが、
 YouTuber氏が真面目に正面から著作権制度を理解しようとしている
 ことがよく伝わる一方、、
 ここまで怖いもの知らずに勉強しないで著作権法に挑めば、
 YouTuber氏のような理解の混乱が生じるのも無理はないと思います。

 ちなみに、文化庁職員は、忍耐強く、
 丁寧で間違いのない対応をされていました。

 今回は、この著作権問答について、
 著作権制度に基づいて考えるとどうなるかを説明ししてみます。

 なお、このYouTuber氏の配信番組は、以下の通りです:

 ●ユーザー名:平塚正幸さゆふらっとまうんど
 ●配信番組名:
 『文化庁に「時事の報道」に著作権を主張できるのか聞いてみた』
 ●URL:https://www.youtube.com/watch?v=j1EDABP8Ix0

■YouTuber氏の直面したトラブルの概要■
 私は、上記配信番組の中での、
 YouTuber氏の文化庁職員との問答の内容しか見ていないので、
 YouTuber氏の直面したトラブルの内容の詳細はわかりませんが、
 以下が概要と思われます。

 YouTuber氏は、
 ご自身の過去のtwitter記事(以下「テロップ画像利用記事」)で、
 某TV会社の報道番組の文字テロップが映し出されている一場面
 (以下「テロップ画像」)をスクリーンショット(画像のまま複製)
 して、テロップ画像利用記事で、テロップ画像を表示して説明したところ、
 当該TV会社がTwitter社に、
 テロップ画像利用記事中のテロップ画像を表示して説明した部分は、
 著作権侵害であると訴え、
 YouTuber氏はテロップ画像利用記事を削除せざるをえなくなった。

 なお、テロップ画像利用記事が、
 Twitter社管理運営部門側によって強制的に削除されたのか、
 YouTuber氏によって自発的に削除されたのかはわからないのですが、
 YouTuber氏としては不本意な削除であったようです。

■著作権法32条(引用)■

《結論》
 まず、結論から説明します。

 YouTuber氏は、スクリーンショットしたテロップ画像を、
 テロップ画像利用記事で表示した際に、
 「TV会社の報道番組からスクリーンショットした
  テロップ画像を引用して説明します」
 の一言を添えて説明をすればよかったのだと思います。

 著作権法32条1項は以下の通りです:
 「公表された著作物は、引用して利用することができる。
  この場合において、
  その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、
  報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で
  行なわれるものでなければならない。


 TV番組及びYouTuber氏の配信番組のような、
 創作的に撮影され編集されて放映・配信された音声を含む映像と、
 映像を構成する各静止画像は著作物であると概ね考えられています。

 TV会社の報道番組(及び構成画像)が公表されていること
 は明らかといってよいのでしょう。

 従って、YouTuber氏が、公表された著作物であるテロップ画像を、
 引用して利用することができることは、
 著作権法で保証されているということです。
 
 この場合の「利用」とは、
 著作権者の権利としての支分権に基づく全ての行為ですから、
 スクリーンショットによる複製や、
 ネット配信等のネット上の公衆送信も全て含みます。

 YouTuber氏は、他人の著作物を利用するときは、
 以下に留意して、引用であることを断って利用すれば、
 それ以上、著作権法の面倒な規定に思い悩んで、
 今回の突撃問答のような、
 エネルギーの無駄と思えるようなことをする必要がない
 ともいえます。

《留意事項》
●YouTuber氏が、他人の著作物を利用するときは、
 当該他人に、
 引用してもよいかどうかの確認を求める必要はありません。

 著作権法32条1項では、引用は当然にできるのであって、
 確認を求めなければならないことは
 何ら規定されていないからです。

 むしろ、下手に確認を求めめると、当該他人に、
 著作物の利用の許諾(ライセンス)を求めているとみなされ、
 引用していることにならないことになりかねません。

●引用であることを断ってテロップ画像を表示した説明に対して、
 TV会社は、それは引用でなく著作権の侵害である、
 と主張することは可能ですが、
 それが引用でないことは、TV会社が立証しなければなりません。

 従って、YouTuber氏は、Twitter社に、
 テロップ画像を表示した説明は著作権法に規定される引用なので、
 著作権の侵害には当たらない、と主張すれば足りるはずです。

 Twitter社は、TV会社側に、
 YouTuber氏は「引用なので問題ない」と主張しているが、
 「引用でないことを立証できるか」と問い合わせ、
 TV会社が立証できなければ、
 YouTuber氏の動画は削除する必要がないと判断すればよいのです。

《引用とは》
●引用の範囲(引用であるか否か)は、
 最高裁の基準と著作権法32条1項の基準が独立して存在します。

〔最高裁による引用の基準〕
 (昭和51(オ)923号「パロディモンタージュ」事件
  最高裁判所 第三小法廷昭和55年3月28日判決)
  
引用にあたるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、
 引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを
 明瞭に区別して認識することができ、かつ、
 両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる
 場合でなければならない。


〔著作権法32条1項の基準〕
 著作権法32条1項の後段が引用の基準です。
 「引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、
  報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれる
  ものでなければならない。

 
●これらの基準による引用の範囲を超えて他人の著作物を利用すると、
 当該他人の著作権を侵害するリスクに晒されることになるので、
 他人の著作物を利用することが引用に該当するか否かは、
 引用する側もしっかり考えておくべきです。
 (著作権者側が引用でないことを主張してきた場合に、
  反論できるようにしておかなければなりませんので)。

●最高裁の基準と著作権法32条1項の基準は抽象的ですが、
 個別の多くの事件で、裁判所の具体的な判断が蓄積され、
 著作権法の参考書でも整理されているので、
 本来は、他人の著作物を利用する者(本件ではYouTuber氏)が、
 裁判所の判断の蓄積と参考書の整理を勉強して頭に叩き込むべきです。

 しかし、引用は、おそらく著作権制度が形成される前から、
 報道、批評、研究の分野においてなされてきており、
 当該分野では、引用の基準(ルール)は既に確立されていた、
 ともいえます。

 YouTuber氏も、多少なりとも報道、批評、研究に関する
 新聞・TV・論文・書籍を読んでいるのでしょうから、
 これらの中でなされる引用の態様を経験的に理解するだけでも、
 YouTuber氏自身の他人の著作物の利用が、
 引用といえる常識的な利用態様なのか、
 引用といえない非常識な利用態様なのかは判断できる筈です。

《YouTuber氏のテロップ画像の利用は引用といえるか?》
 YouTuber氏は、
 twitterで政治トピックに関する論評をした際に、
 当該トピックの事実としての裏付けを
 テロップ画像を表示して説明したということですから、
 引用といえる常識的な態様でテロップ画像を利用しており、
 著作権法32条1項の後段が規定する引用の範囲に入る可能性は
 高いように思われます。

 但し、twitterが一行文章で、
 twitterの文面のほとんどがテロップ画像で占められている場合は、
 最高裁判例の
 「両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる
 ことを満たしていない場合がありえ、この場合は、
 YouTuber氏は、実質的に論評しておらず、
 テロップ画像を見せるためだけにtwitter記事を上げただけとされ、
 引用とはいえず、
 TV会社の著作権を侵害するとされることもありえますので、
 注意を要します。

******

 今回は、YouTuber氏は著作権法上の「引用」をよく理解した上で、
 論評活動をされるとよい、ということを説明しましたが、
 以下の私のブログ記事と
http://patent-japan.sblo.jp/article/178900676.html
 引用か否かが争われた小林よしのり氏が当事者となった有名な判決
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/161/013161_hanrei.pdf
 も参考になるかと思います。

 次回は、YouTuber氏の理解の混乱について説明してみます。
posted by Dausuke SHIBA at 20:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 著作権

2017年02月25日

『著作権実務者養成講座(上級)』受講報告

 たまには、本業のことでも書こうと思い立ち、
 2017年1月21日から1週間おきに、 
 3回にわたり、土曜日の午後の3時間半を費やした、
 著作権の研修について受講報告をまとめてみました。

 なお、私がちゃんと受講した証拠を以下に掲げます。
受講終了証(修正).jpg

 本研修は、今年度から新たに始まった、
 弁理士会関東支部主催の『著作権実務者養成講座(上級)』です。

 もともと、『著作権実務者養成講座』(ここでは「初級講座」といっておきます)
 は、5年以上前から、年2回行われていたのですが、
 著作権に興味をもつ弁理士がほぼ受講し尽くしたようで、
 受講者数が減って来たので、初級講座は年1回にして、
 他の1回を、上級講座に衣替えしたとのことだそうです。

******

 弁理士は、資格試験の1次試験に著作権法が課せられており、
 60問のマークシート方式の設問のうち、著作権法に
 5問以上充てられていて、結構難しいため、鼻から捨ててしまい、
 特許・商標・意匠の主要科目だけで点を稼いで合格する弁理士も
 結構多いという状況がありました
 (昨年度くらいから、足切り点が科目毎に設定され、
 著作権法が半分解けないと不合格になったようですが)。

 私は、著作権法は結構面白く勉強したのですが、
 試験は難しく半分くらいしか解けなかったと記憶しています。

 弁理士にとっては、
 主戦場が特許・意匠・商標の特許庁への出願・権利化業務で、
 私も特許弁理士として事務所務めをしていた間は、
 著作権絡みの仕事はしたことがありません。

 しかし、一昨年(2015年)に事務所を開設した最初の仕事の1つが、
 商標に著作権が絡む事案で、このとき、
 しみじみと初級講座を受けておいてよかったと思ったものです。

******

 著作権法は、知財法の中では条文数が多く、さらに、
 判例法的に裁判での判断が蓄積しつつ、次々に新しい条項が加わるので、
 特許法等の産業財産法とはまた別の意味で学ぶべき情報量は膨大です。

 初級講座は、この膨大な著作権法の内容を、時間をかけて、
 基本的な事項を満遍なく提供してくれるので、
 2か月近く土曜日が潰れますが、弁理士は受講しておくことをお奨めします。

 ただ、だからといって、研修内容が手放しで賞賛できるかといえば、
 必ずしもそうではありません。

 研修担当者には、このブログ記事は受講者による愛の鞭と受け取ってもらい、
 今後も、研修内容の充実に励んで欲しいと思います。

******

 私は5年程前に初級講座を受けており、
 確か、土曜日に半日ほどかけて、5回受けた記憶があります。

 初級講座を受けたときは、
 講師陣が個々の判例・判決例の内容をマニュアル的に扱い、
 あまり根を詰めて考えているようには思えませんでした
 (それはそれで研修としては構わないのですが)。

 そのときに違和感があったのが、
 講師が『雪月花事件』判決を当然の結論のように話していたことで、
 質疑応答でも紋切り回答であったので、
 私の本体ブログの最初の頃の投稿記事で考察したものです。

 今回の上級講座も、良い点、悪い点ありますので、
 ブログで報告しておくのもよいかと思った次第です。

●第1回(著作物性)●講師:中川弁理士 

 著作権制度は、産業財産権制度と異なり、
 著作権法で保護される対象の要件について、
 特許庁のように審査をしてくれる行政官庁がありません。

 発明が、本当に特許法が規定する発明であるか、
 意匠が、本当に意匠法が規定する意匠であるか、
 商標が、本当に商標法が規定する商標であるかは、
 これらを出願すれば、特許庁が判断してくれますが、

 著作物が、本当に著作権法が規定する著作物であるかは、
 弁理士が自分で考えなければなりません。

 その場合の拠り所は、著作権法と過去の最高裁の判例と下級審の判決例です。

 第1回は、おそらくは著作権法の専門家として活動されているであろう、
 中川裕幸弁理士(中川国際特許事務所)が講師をされました。

 私も、著作権絡みの判決を丹念に追いかけているわけではないので、
 著作物性に関する夥しい数の判例等の中川弁理士のまとめは、
 大変に重宝するものでした。

 全般的に講義の内容が悪くはなかったことを前提に、
 以下の点だけ報告したいと思います。

(1)キャラクターと著作物の関係が曖昧。

 キャラクターと著作物の関係は、裁判実務は非常に曖昧な取扱いをしてきており、
 実はきちんと区別しなければならない重要事項ですが、
 ワークショップの設例で用語を区別して使用していなかったため、
 受講者の間で若干混乱があったようです。

 これは3回目の講師の下田弁護士も同様でした。

 1回目のワークショップのファシリテータ(2回目では講師)であられた
 峯先生がさすがにきちんと整理されており、
 最近の判決の流れではキャラクターと著作物はどう把握されているのか、
 という私の愚問に対して、『キャンディ・キャンディ事件』最高裁判例を挙げながら、
 適切に回答いただいたのには感謝感激でした。

(2)特許明細書の著作物性について見解が提示されなかった。

 特許弁理士としては非常に興味があったところですが、
 中川弁理士から、話題として提供されたにも関わらず、
 持論を提示しないのは、専門家の講義としてはお粗末と言われても仕方ありません。

 明細書の著作物性についてほとんど情報がないことは、
 初級講座を経ている弁理士であれば百も承知であり、
 そのような中で、
 専門家として見解を言いたくないという極めて消極的な姿勢は、
 少々情けないのではないでしょうか。

 技術系論文は、あのSTAP細胞論文ですら、
 当然に著作物性が認められていることを考慮すれば、
 形式上、技術系論文とほとんど同じ構成である特許明細書に対して、
 著作物性が認められない理由が考え難いと思われ、
 その上で、著作権制度上どう取り扱うべきかを考えることは、
 特に弁理士に課せられることであろうと思われるので、
 中川弁理士の今後の研究を期待したいと思います。

(3)意匠の著作物への接近に対する中川弁理士の思いが面白かった。

 中川弁理士が感傷にふけった面持ちで、
 講義の最後に唐突にされた意味不明の解説が面白かったです。

 意匠にも著作物性を認めた「TRIPP TRAPP」知財高裁判決
 の解説が終わった後でしたが、
 中川弁理士は、ホワイトボードに、著作権制度の歴史を書きながら、
 意匠権は、著作権とは長い間交わることはなく、
 互いに独自の立ち位置があったのに、ここにきて、
 意匠権が著作権ににじり寄ってきており嘆かわしい、と呟かれた
 (と私には思えた)のでした。

 中川弁理士は文系ご出身の弁理士であるようなので、
 おそらく著作権制度への思い入れが強く、
 このように嘆かれたのも理解できたように思いました。

 私は、理系出身の特許弁理士なので、
 著作権法が、人格権と財産権からなりたっていて、
 人格権の手厚い保護は、特許法・意匠法等の発明者・創作者の比ではなく、
 財産権としての保護期間も、そもそもは親子3代の期間を想定してており、
 本来は、16世紀以降の芸術・文化をを守るための制度である点が
 産業財産権と全く異なり、とても面白いと思ったものです。

 従って、中川弁理士の抱かれる感傷はよく理解できるのです。

 しかし、おそらく、実際は、中川弁理士の見方とは逆であり、
 近年の著作権の財産権としての在り方が、産業財産権的なものに変貌したことで、
 著作権が意匠権ににじり寄ってしまったために、裁判実務で、
 意匠の著作物性を認めるのに抵抗がなくなってきたのではないかと、
 私には思えるのです。

 このような文系と理系の感性の違いを考えると、中川弁理士の感傷は、
 弁理士が著作権法をしみじみ考えるのに有用と思った次第です。

●第2回(著作権)●講師:峯弁理士 

 峯唯夫先生(特許業務法人レガート知財事務所)は意匠法の大家でもあられ、
 今回の講座で講師を務められるとは思っておらず、
 第1回でファシリテータをされた折には、ご尊顔を存じておらず、
 私の全くの不躾質問に丁寧なサポートをしていただいたのには恐縮いたしました。

 そして、今回の事例を活用したワークショップ形式の演習は、
 ポイントが明確に抑えられており、解り易く、
 あ〜、わかっておられる先生の解説というのは、なんとすんなりと心に収まるのか、
 と思ったものです。

 特に、私の不躾質問でしたが、
 「パロディモンタージュ事件」最高裁判例と著作権法32条(引用)との関係について、
 最高裁判例は旧法に基づくもので、新法に基づく最高裁判例はまだなされていない、
 との解説をいただき「そうか〜」と思いました。

 即ち、現行法の著作権法32条の引用の要件と、最高裁判例の引用の要件とは、
 相互の包括関係がなく、並列して考える必要があるということがよく理解できました。

 ******

 峯先生の講義は超一級でしたが、ワークショップに参加した受講者は、
 本当に初級講座を受けているのか、と思わざるを得ない方も結構多く、
 弁理士が著作権法絡みの業務をやる際には、
 よくよく自覚された方がよいと思いました。

 弁理士試験で徹底的に叩きこまれるのは、知財法を、
 具体的事例に当てはめる際に考えるべき要件は何か、ということです。
 それは著作権法でも変わることはなく、
 例えば、引用として成立するための要件は、
 最高裁判例と著作権法32条に基づいて考える必要があります。

 さすがに、私も、著作権法の場合は、
 特許法のように見なくても要件が頭に浮かぶというわけにいかず、
 いちいち最高裁判例と著作権法を見ながら整理するわけですが、
 この基本的作業を全くスルーされる方が結構いて、
 うろ覚えの勘違い要件を堂々と開陳されるなど、
 耳を覆いたくなる瞬間もありました。

 著作権絡みの実務で、産業財産権の特許庁手続程度の料金が見込めるのは、
 事件絡みの場合が多く、結構胃が痛くなるのですが、
 研修ですら基本的作業が全く身についていないようでは、
 著作権絡みの業務には深入りしない方がよいようにも思います。

 上級講座は、このあたりも考慮した
 弁理士にとっての心構えに関する内容も必要ではないか、と思う次第です。

●第3回(著作権契約)●講師:下田弁護士

 実務で契約書の作成をして思うのは、弁理士と弁護士の立場の違いです。

 弁理士は、契約書の内容を立案したり、作成できたりするのですが、
 契約を巡って揉めた場合に、民事訴訟の代理人を、
 産業財産権に関する特定侵害訴訟であっても単独ではできず、
 それ以外の民事訴訟では代理人をそもそもすることができません。

 従って、私は、契約書の内容は、契約書の教科書の説明を額面通り受けて、
 後で揉め事がおきたときに、できるだけ解釈が割れることがないように、
 特許クレームの如く、明確にすることを心がけます。

 ところが、弁護士は、最後は裁判で決着する、という戦略がとれるため、
 契約書の条項が、解釈が割れそうな内容であっても、案外平気です。

 そのことが、今回の下田憲雅弁護士(せいしん特許法律事務所)の
 仮想事例に基づく契約書案文の作成演習でも、実感できたように思います。

 ある仮想事例の契約書案文が課題でしたが、
 著作物の対象を特定する契約書第1条の模範案文が以下のようでした。

 第1条(対象、著作物)
  「本件著作物」とは、次に掲げるものをいう。
 一 別紙「デザインマニュアル」に示すキャラクターの図柄に係る著作物
 二 別紙「・・・」に示すキャラクターの本質的特徴を直接感得できる著作物。
   (以下略)

 私が驚いたのは、第1条二号です。

 特許クレームの感覚では、
 「キャラクターの本質的特徴を直接感得できる」という特定は、
 後でいくら揉めても構わないと考えているのでなければ、
 まず行うことはありえないと思われます。

 裁判所が裁判で判示する際に使用する上位概念的な言い回しであり、
 「本質的特徴」「直接感得できる」などという裁判用語の解釈が
 契約当事者にはまずできない(意味がわからない)であろうし、
 裁判で争わない限り解釈の妥当性を決めようがないからです。

 下田弁護士は、これは模範案文ではなく、個人的見解であると言われていましたが、
 研修というのは、その分野に精通している専門家が、
 ある程度最大公約数的な内容を提供するという趣旨も当然にあるのですから、
 できれば模範案文を、模範案文でない場合は、その例示案文の立ち位置、例えば、

 ・市販の契約書マニュアルにもよくでてくるものなのか、
 ・最近使われ出した最先端のものであるのか、
 ・他では使われないその人の完全な個人的スタイルなのか、

 などは、講義で断るのが望ましい姿勢であるし、
 特に、完全な個人的スタイルであるならば、留意すべき点を、
 受講者に説明すべきだろうと思うのです。

 調べてみると、契約書で、第1条二号のような特定の仕方をする例示は、
 パテント誌に弁理士が提唱しており、この場合も、
 「別紙の著作物には限られず,
  将来的な著作物を含むことを暗示できるのではなかろうか」
 などと意味不明の解説がなされています。

 契約書では、最重要の定義規定を「暗示できる」程度にしか記載しないのでしょうか?

 契約自由の原則で、契約書で、何をどう規定してもよいとはいうものの、
 キャラクター関係の著作権契約ではこのような規定ぶりが蔓延しているのでしょうか?

 下田弁護士の講義は、あまりに弁護士の実務感覚であり、
 研修の担当者は、弁理士が著作権契約書に立ち向かう場合について、
 弁護士とは異なる弁理士の実務感覚に配慮した内容で、
 上級の講義を提供することを、今後さらに検討されるべきだろうと思うのです。

******

 ということで、弁理士会関東支部におかれましては、
 来年度以降の上級講座も頑張られることを期待します。
posted by Dausuke SHIBA at 17:43| Comment(1) | TrackBack(0) | 著作権